5.34 E3I Project

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス 慶應義塾大学総合政策学部4年 澁川修一

5.34.1 本プロジェクトの概要

E3I Projectは、大学という場においてボランタリー・ベースの国際交流支援プラットフォームを構築することを目指し、1996年から準備を進め、今年度から新100校プロジェクト自主支援企画として運営されている慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(以下SFCと略記)の学生による自主プロジェクトである。

本プロジェクトの目的は、日本の小・中・高校がより簡単に国際交流の試みを行えるように各種の支援を行うことにより、教育分野でのインターネットの有益な活用に資するというものである。

本プロジェクトは、1995年に湘南藤沢キャンパスで行われたSEICHO1という全世界の高校生による環境問題に関するオンライン会議を実施支援していく過程で我々が感じた、未来を担う子どもたちにインターネットを用いた国際交流を体験させることの楽しさを感じたこと、そして同時に痛感した、日本の小・中・高等学校ではインターネットを用いた国際交流がまだ盛んでないという現状など、米国などに比してまだ発展途上にあるインターネットの教育分野での活用に対して、恵まれたコンピュータ環境を持つSFCという場を用いることによって何か手助けすることは出来ないのかという問題意識に端を発し、学生有志約15名ほどで活動を始めた。

プロジェクト名称のE3Iは「イー・キューブド・アイ」と発音し、”Education”,“Expression”,“Exchange”, and “Internet”を組み合わせた造語である。これは、本プロジェクトの「教育分野への貢献」、「自己表現」、「国際交流の輪」、「インターネットの活用」という特色を表したものである。

1 トニー・ラズロ氏主宰のNPO「ISSHO企画」が主催した企画で、オンライン会議の会場として本キャンパスが選ばれ、本プロジェクト参加学生の多くが開催にあたりこれを支援した。詳しくはISSHO企画ホームページ http://www.iac.co.jp/~issho/seicho-insert.html参照のこと。

5.34.1.1 活動内容

本プロジェクトの活動内容は、各学校間の中継点の役割を果たし、各種の交流支援活動や企画運営を行うことである。(自転車のハブ・スポークの関係を想起されたい)

交流支援活動の核を構成するのはメーリング・リスト(以下MLと略記)である。MLは、生徒個人もしくは、学校・クラス単位でメンバー登録を行い、電子メールを利用した交流活動を行うものである。大まかなテーマ別に議題を設定し交流を行うが、それぞれのMLは外部からの参加を認めないクローズド方式で、E3I所属のSFC学生が務めるモデレータがアジェンダセッティングや、議論のコントロールを行う。

一方、WWWを用いた交流活動も、MLと並ぶ本プロジェクトのもう一方の柱として重要なものである。ここでは、MLで行われた議論のサマリーをアーカイブとして保存することに加え、数々の企画をWWW上で運営するプラットフォームとして利用する。また一般社会に本プロジェクトの成果を随時紹介する機能も果たすことになる。

その他にも、参加校が制作するWWWページの英訳支援や技術面でのアドバイスなど、幅広い支援活動を行うことで、インターネットを活用する環境の向上にも貢献していく。

図5.34−1 E3I Project概念図

以上のような国際交流活動を行う際に重要な問題としては、言語障壁の問題がある。つまり英語をどのように扱うかという問題は国際交流の場合避けて通れないが、我々は単一の交流テーマについて英語版、日本語版のML、WWWページをそれぞれ設けることにした。そのコンテンツの翻訳業務を、交流活動のハブ部分に位置する本プロジェクトが支援活動の一環として行うことで、国際交流を行う際の最大の問題である言語の問題は、ある程度のタイムラグが生じるとはいえ、ほぼ解決される。基本的に日本側参加校は、日本語MLに登録するが、英語学習の一環として利用する学校などは、英語版MLへの参加が必要になる場合もあるので、どの形態で参加するかの選択は、各参加校の自主性に任せることにした。

我々のこのプロジェクトを通じての最大の目標は、このような交流活動を通じて国際的なK-12諸学校のネットワークを広げることにあり、故に多くの学校の参加が重要だと考えている。このような「国際交流プラットフォーム」の機能を提供することで、様々なアイデアが実行可能な素地が形成されることが期待され、各参加校から企画の提案が出てきたり、共同学習の実施や、SFCで行われている研究活動の適用などへの展開が可能になってくるのである。

このような機能を、大学という場で提供することは、かなりチャレンジングな試みであるが、英語に適応している学生が多く、コンピュータ環境も恵まれているSFCにおいてこの試みを実施するのは意味深いものがあると考えている。

5.34.2 実施状況

実際に運営を始めるに当たり、我々はメーリングリスト(以下MLと略記)や、WWWなどのコミュニケーション・ツールを用意する必要があった。しかし学生によるボランタリーな企画であり、お金をかけない方針をとったことから本プロジェクト専用の機器などの取得は難しく、当初からSFC学生が自分たちの持つ計算機資源(ファイルスペースは一人1GB)の一部を出し合って運営する計画となっていた。

そこで、当該企画を構成するファイルが分散している状況下での運用を可能にするために、自作のMLソフトウェアを中央大学総合政策学部の南晃氏の協力を得て試作した。これは、ある特定のサブジェクトを指定して管理人宛に電子メールを送付すると、そのサブジェクト下で管理されているメンバー宛に電子メールが転送されるというもので、ログの取り寄せやメンバー管理等、基本的なMLの機能を備えている。また、WWW上でのチャットなどの導入に向けての試験も行った。その結果、MLソフトはSFCのメイルサーバのリプレースなどの関係で故障が相次ぎ改良に時間を要したが、正常に動作させることができ、運営のハード面では準備が整った。

また、プロジェクト内部では、現在行われている数々の国際交流事業を参考にしながら、交流を行うに当たってのルール作りを行い、またWWWを使った企画の検討などを行った。この企画検討に際して参加に興味を示して頂いた学校には、機器の接続状況などを調査するアンケートに協力をお願いし、プロジェクトの運営に当たっての貴重な基礎資料を収集した。

5.34.3 効果と課題

前節で述べたように、実施に向けての準備は完了しているのだが、実際の交流活動は正直なところあまり出来ていない。この責任はひとえに代表者のリーダーシップ不足にあり、快く協力を申し出て頂いた先生方には大変なご迷惑をかけてしまった。 深く反省する次第である。多くの先生方からの期待も十分感じていることもあり、1998年度からようやくだが、E3I Projectは実際の運用を開始することにしている。既にMLやWWWなどのハード面での準備は完了しており、あとはどれだけ質の高い支援活動を我々が展開できるかにかかっている。また、肝心のソフト面でも、SFCで行われている様々なプロジェクトの教育分野への還元を、主にエデュテイメントなどの供給という方向で実現できないかという観点から、各方面と調整を続けているところである。

概念ばかりで、実際の内容が非常に浅い報告になってしまったが、筆者もこのプロジェクトが一定の成果を残し、継続的な土台を築けるまで徹底的に付き合う覚悟で大学に残留し、あと1年、本プロジェクトに専念することにした。大学を拠点とした国際交流のプラットフォームという、日本のK-12諸学校の国際交流に貢献できる大きな可能性を秘めている企画だけに、4月からは積極的な活動を行い、是非来年の成果発表会では、堂々とこの試みの成果を発表するくらいのプロジェクトに発展させて、皆様のご期待に添えていきたいと考えている。

この企画は、一つでも多くの学校の参加が活力をもたらすので、是非興味を持たれた各学校からの積極的なご参加を頂ければと考えている。いずれにせよ、本プロジェクトはまだ始まったばかりの試みであり、今後とも暖かいご支援を頂ければ、身に余る幸甚である。