5.42 「調べてみよう日本の冬」

山梨大学教育学部附属小学校 石川等

 
5.42.1 概要
 
 本実践は、4年生社会科「各地の人々のくらし」の学習の中で,子どもたちに電子メールを利用させ,それぞれの地方に住む方々との交流を図りながら,教科書や資料集などといった印刷媒体にある情報についての理解を深めたり,新たな知識を獲得させることをねらった。
 
5.42.2 今回の実践を支えるシステム
 
 (1) 本校の情報教育における本実践の位置づけ
 
 山梨大学教育学部附属小学校では,1994年4月のインターネット接続以降,電子メールの利用を主体とした情報教育の実践を重ねてきている。ただ、これまでの実践の多くは情報視聴覚教育担当グループの教官を中心とした先行事例的実践という色合いが強く,グループに所属しない教官は担当者にリードされながら実践に参加するということが多かった。しかし,1996年より教育課程に「パソコンタイム」を位置づけたことにより,情報教育の機会が広がった。このことを受け,「パソコンタイム」実施2年目の今年,情報教育担当グループ以外の教官による電子メールを利用した実践を試み,その一般化を図ることとした。
 本実践の内容は,1995年1月「情報教育小公開」において公開された実践「各地の人々のくらし」をもとに,例年この時期に4年生社会科で実施可能な規模にすることを意識して焼き直したものとなっている。
 
 (2) 子どもたちが利用した電子メールのシステム
 
i 本校の電子メールアカウント供給状況
 本校では、3年生以上のすべての子どもに電子メールのアカウントを供給し,その数は500近くに及んでいる。今回の実践の対象となった4年生は,1997年4月に電子メールを使い始めた子どもたちである。
 
ii 子どもたちの電子メール利用環境
 子どもたちは,情報教室に集中配置された20台のマシンと各教室に分散 配置されたマシンで電子メールを利用することとなった。
 
iii メーリングリスト
 今回の実践においては,子ども一人一人がアカウントを取得していること から,グループは形成しながらも個人を基本としたメール交流に主眼をおい た。しかし,他の子どもたちのメール交流の様子をお互いに知りたいという 声があがることも考え,メーリングリストを作成し,そこに投稿することで 支援者には質問・相談を,友達には学習の状況を伝えることができるように した。この他,メーリングリストの利点としては,子どもたちが支援者に宛 てて送信するメールが,子どもたちを直接指導している担任にも自動配信さ れるため交流の様子を確実に把握できるといったことがある。このことは校 外の方々との交流を行う際には大変重要なことであり,セキュリティの面か らも欠くことのできない点であると言える。さらに,子どもたちが「fuy u」とタイプするだけでメールが支援者に送信される点も,学習効率を上げ るために効果があると言える。
 メーリングリストを使用させるにあたり工夫した点としては、過去の実践 における経験を生かし、メールの題目部分にメールの内容・自分の名前を明 記させることを行った点がある。これにより,支援者にはどの地方について の質問・相談かということが把握しやすくなり,また,メールを出した子ど もにとっても,自分宛の返事を見つけやすくなるという効果があった。
 
iv メーリングリストへの参加者
 今回の実践では平素の学習活動へのメール利用の一般化を図ることをねらったため,大きな規模でのメール交流は敢えて行わず,過去において本校の 実践にご協力いただけた方や本校教官とメールでの交流があった方々にメー ルの交信相手をお願いした。また,どの地方の方にお願いするかということ については,子どもたちの学習の進度とグルーピングを見ながら決定したた め,支援者決定が実践直前までかかった。
 今回の実践に協力してくださった方々は、柳さん(札幌在住)・石附さん (新潟県在住)・内田さん(福井県在住)・渡辺さん(佐賀県在住)・長嶺さ ん(沖縄県在住)他,山梨大学教育学部附属教育実践研究指導センター成田 雅博助教授・本校情報視聴覚教育担当者・第4学年担任の17名であり、こ の17名で支援者グループを形成した。
 作成したメーリングリストは2つ。「fuyu」は,学習主体となる4年 3組の子どもたちと学習支援者の方々を登録し,参加者は56名を数える。 また,「winter」については,学習支援者の方々(17名)を登録し, 実践に関わる連絡を行うために利用した。

 

5.42.3 実践の具体的内容 (指導教官 4年3組担任 茅野紫)

 

 (1)「各地の人々のくらし」における子どもたちの学習活動について

 

子どもたちはこれまでの社会科の学習において,自分が興味や関心を抱いた事柄を調査し,それを思い思いの方法でまとめたり発表したりすることにとても意欲的に取り組んできている。しかし,「調べ学習」については次のような   実態も見られ,指導上の課題としてとらえてきていたところであった。

・参考書や資料集を丸写しすることを「調べること」ととらえがちである。

・写真や資料を集めたりノートに貼ったりしたことで「わかった」つもりになっていることが多い。

・調べ学習の過程において疑問を抱いても,それを持続させることができなかったり,そこから新たな追究活動を展開することができなかったりする。

 以上の実態から、子どもたちが,いくつかの事実を関連させながら自分なりの考えを持ったり,一つの疑問を深く追究したりすることを自分だけの力で進められるようになるまでには,かなりの学習経験を要することが予想される。
 このような実態を踏まえ,本単元において子どもたちに体験させたいこととして以下の3点を掲げた。@情報を友達と共有して,新たな疑問や発見を確認しあいながら学習を進めること。A教科書・その他の資料から得た情報ときちんと向き合い,そこから出てくる疑問や感想を大切にしながら学習を進めること。B調べたことを友達や学習支援者の方々と交流させあうことにより,各地の人々のくらしについての理解を深めていくこと。

 (2)実践のための準備・指導経過

i 実践のための準備

 平成 9年 7月:今回の実践のデザイン検討。

   9月:メーリングリスト「fuyu・winter」の設定。

   10年 1月:学習支援者の依頼。

 

ii 指導経過

 第一次:12月〜1月中旬

 第二次:1月中旬〜2月下旬

※ 本原稿執筆時点において,この学習活動は継続中である。この後の展開としては,今回の学習を通じて自分が獲得したものを友達と交流させあう学習発表会的な活動が計画されている。

 (3)電子メールによる交流(実際にやりとりされたメールより抜粋)

i 日本海側地方について調べた子どもと支援者のメール

  送信1:初めまして。ぼくは、附属小の4ー3の**です。
社会科で日本海側の家の様子と温度を調べています。 本で調べたら家の壁が厚く、屋根は角度がきゅうで、二重まどがあるとかいてありました。今でもそういう家がたくさんありますか?それと今年の最高気温と最低気温を教えてください。よろしくおねがいします。          

  返信1:石附さんから
新潟県加茂市では屋根は太平洋側に比べて急です。屋根に積もった雪の重みに耐えるように急になっています。−中略−最高気温は33度くらい。最低 気温はマイナス3度くらいでした。

  返信2:内田さんから
初めまして。福井では,屋根の角度はそれほど急ではありません。−中略− 私の家では,新築したところだけ,二重(まど)です。また,雨戸の付いているところが多いですよ。福井市の最高気温は,8月11日の36.4度。
最低気温は1月22日の−5.2度でした。楽しい学習を続けてくださいね。

 

ii 九州地方について調べた子どもと支援者のメール

  送信1:初めまして。ぼくは、附属小学校4年3組の**です。
社会科で佐賀県 に住む人々の家の作りや、農産物のことを調べています。家の作りで、しぎ、 しぎさき、みんのす、竹のくし、かめがわらとありましたが、かめがらわと は、なにですか。ぼくの予想「1 やねをおさえつけるもの? 2 屋根の魔除けかもしれない」と思います。どうぞ、よろしくおねがいします。

  返信1:渡辺さんから
初めて聞く言葉ばかりでちょっと戸惑っています。かめがわらは、「瓶瓦」 と書くはずです。−中略−
遠くから見ると普通のかわらとは色がちがいます。 光沢のある感じです。なぜそれを使うのかはよくわかりません。

  送信2:忙しい中、質問に答えてくれてありがとうございました。−中略−
1. 温かい地方でも、水がこおることがありますか。 2.ゆか下の高さが、北 の地方より低いですか。 3.さくらがさくのは、山梨県より早いですか。 (山梨県は、4月の上旬です。)よろしくおねがいします。

  返信2:渡辺さんから
佐賀県には有名な家の作りにくど作りというのがあります。くどとはかまど のことです。これを調べてみるとおもしろいかもしれないですよ。
 > 1.温かい地方でも、水がこおることがありますか。
よく凍りますよ。雪だってふりますから。 −以下略−

 

iii 北海道地方について調べた子どもと支援者のメール

  送信1:はじめまして。ぼくは、社会科で北海道地方のことを調べていて疑問に 思ったことがあります。根室地方では流氷がきて、海が氷で閉ざされると書 いてありました。流氷がきている間は、漁業の仕事をしている人たちはなに をしているんですか。よろしくお願いします。

  返信1: 柳さんから
私も**君と同様に疑問を持ちましたので、北海道漁業協同組合連合会のホームページにメールを出してみました。お答えをいただきました。

-------------以下、転送文です。---------------------

メールをありがとうございました。私ども北海道ぎょれんの根室支店勤務経 験者に回答してもらいました。

[お答え] 地元に残っている漁業者(漁師)は、傷ついた網や漁具の修理 を行ないながら、秋までの漁で疲れ切った体を休め、流氷が去った後の春の 漁に備えます。  −以下略−

 

 (4)学習者の感想

i 電子メールを利用している子ども

 ◎自分が思っていることが正しいかどうかがわかってよかった。

 ◎本で調べた情報とは違う本当の情報がわかった。

 ◎本では,今年の雪の量はのっていなかったけど,メールで教えてもらってよかった。

 ◎本ではだいたいのことしか載っていないけど,メールでは例えば雪の降 ったあとのことなども教えてもらえた。

 ◎いろいろなホームページを紹介してもらえた。

 △字を速く打つことができない。

 △自分が送ったことと同じことを友達も書いていたことがあった。

ii 電子メールを利用していないが交信されているメールを読んだ子ども

 ◎自分が調べていることのヒントが載っていたり,こんなふうだったんだとか思ったりした。

 ◎紹介してもらったホームページを見て,新しいことを知ることができた。

 子どもたちはメールによって送られてくる情報と教科書や資料集などの印刷物に掲載されているそれとの間に即時性という点で違いがあることを感じとっている。また,交流を通じて自分の中にあった疑問点や整理しきれなかったことが解消されたことに喜びを感じていることも読みとることができる。反面、文字入力への慣れが十分でなくメールをうまく送信できずに困っている子どももいるが,これは,伝える相手がいて伝えることがあるからこそ感じることであろう。これを契機に文字入力への関心・意欲が高まることを願いたい。

5.42.4 効果と課題

 (1)効果

 今回の実践には,先にも述べたような電子メールを学習指導に利用することの一般化を図るという意味があった。インターネットの教育利用の先行事例として実践を行っていた時期とは違い,現段階では情報視聴覚教育担当者グループによるサポート体制が整い、コンピュータに詳しくない教官でも電子メールを利用した学習指導が可能となっている。今回の実践を通じてこのことを確認することができたのは大きな成果であったと言える。具体的には,直接子どもたちの指導に当たる教官は,指導内容の検討と子どもたちへの働きかけを担当し,サポートに当たる情報視聴覚教育担当グループは,ハード・ソフト両面にわたるシステムの構築といったことを担当する。こうした形をとることにより,学習指導を行う教官のコンピュータ操作に関わる不安感を軽減させることができ,電子メールを利用した学習を実現しやすくなるということが確認された。

 (2)課題

 今後の課題としては,学習支援者の継続的な確保といったことが挙げられよう。電子メールを利用した学習活動が一般化していくためには,子どもたちの交信相手を引き受けてくださる,それも継続的に交信が可能な方々の確保といったことが重要な鍵となってくる。今回の実践においては,過去にメールの交信相手をしてくださった方や本校の教官と面識のある方々が協力要請に快く応えてくださったことが,子どもたちの学習活動の幅を広げることにつながってきている。
 ネットワークの教育利用においてコンピュータ・ネットワークとヒューマン・ネットワークとを同時に実現させていくことの重要性を今回の実践で再認識することができた。