5.45 普通教科におけるインターネットの活用

          石川県立小松工業高等学校  安津謙二  三浦 泉

 
5.45.1 概要
 
 本校は、工業高校であり、コンピューターの活用は工業科が先行している。しかし、その活用は、工業科のみならず、普通教科においても有効である。特に、インターネットの持つ豊富な情報は、教科書の枠を越え、生徒たちに大きな興味と関心を引き起こす可能性を持っている。こうしたインターネットの特性を普通教科に活用することをめざし、本年度は、理科、特に環境教育と美術の授業で取り組んだ。
 環境破壊は、二酸化炭素による地球温暖化、フロンによるオゾン層の破壊、酸性雨、森林破壊、海洋汚染、ゴミとその焼却によるダイオキシン汚染など多岐にわたっている。しかも、ここ数年その影響は、急速に深刻化している。そのため、多くの人が環境問題に関心を持ち、インターネット上で情報を発信している。本校でも、理科同好会が100校プロジェクトの酸性雨プロジェクトに参加し、降雨のpHを測定し、インターネットで報告している。
 授業では、酸性雨プロジェクトの測定データを中心に、インターネット上にある環境問題について検索し、その深刻さの実体を知るとともに、環境保全の必要性について考える。
 美術では、鑑賞の時間の充実が大切な要素となっているが、従来行ってきた作品鑑賞の他にインターネットの活用による鑑賞は、鑑賞教育の窓口を大きく広げる役割を担うものとして、注目される。その理由はいくつか挙げられるが、一つにコンピュータという素材に対して、生徒の興味の大なることからその操作に興じながら作品の鑑賞にたどり着いていく点である。これは美術に関心の薄い生徒も含め、その単元のある程度の効果を得ることにつながる。もうひとつに、鑑賞の授業は生徒に感想文などを書かせるというような考えると作業も当然おこなうが、鑑賞そのものは受動的な作業となり、単元の展開の仕方が決まった形になりやすい。その点、インターネット活用は生徒の主体性が活かされ、個々の興味に応じた作品を多面的に鑑賞でき、その後の作品作りにもつながっていく画期的なものと考えられる。
 
5.45.2 実施
 
 理科での取り組み
  科目、及び単元、対象学年は、以下の通りである。 
   科目     化学TA
   単元     環境の保全
   対象学年   1年
 
  具体的な展開
A 各校データから平均pHワースト5とステップpHワースト5を選ぶ。

B 測定地域の環境を、「プロフィール」をクリックして調べる。

C 各自が調べた地域ごとのワースト5平均pHを発表し、日本地図に記入する。

D 記入した数値を見て、酸性雨の広がりについて考える。

E その他の環境問題について、温暖化、フロン、ダイオキシンなどのキーワードから検索し、調べる。

F 環境破壊を防ぐには、どのようにしたらよいか考える。

 美術での取り組み

  科目、及び単元、対象学年は以下の通り。

   科目     美術T

   単元     九谷焼(上絵着)の制作方法と九谷焼の歴史

          ルーブル美術館、オルセー美術館収蔵の作品を見よう

   対象学年   1年

 具体的な展開

 

5.45.3 効果と課題

 

 理科では 

 生徒の感想

 「県や地域によってpHが全然違うことがわかった。その中でも、自分たちが 住んでいる石川県もpHがかなり深刻なので、もっと真剣に環境問題を考えたほうがいいと思った。今度は、もっと広く世界のpHを調べたいと思う。」

 「近くに工場や交通量の多い道路があるとpHが低い。排気ガスや煤煙が原因と考えられる。pH=4というのがどのくらいのものかは、あまりピンとこないが、かなり酸性だということがわかる。このままpHが下がっていくと、自分が大人になっているころはどうなっているんだろう。ノストラダムスの予言も怖いが、目の前の危険を何とかしたい。」

 「インターネットは、いろんなところからいろんな情報を勉強できるのですごいと思った。どんどん雨が酸性になっているし、オゾン層が破壊されている。このまま進めば、私たちが大人になっている頃は大変だと思う。でも、自分たちの出したガスによってこういうことになっているので、もっと環境問題に気を付けようと思った。」

 

  生徒たちは、インターネットを利用し、どんなに遠いところからも、手軽に素早く、情報が入手できることに驚いている。その上、操作は、簡単にマスターできる。情報の量も多く、教科書からは得られないものを得ている。教科書、黒板、プリントというスタイルにマンネリ化を感じている生徒にとっては、インターネットから 即座に取り出す情報は、新鮮に映り、興味と関心を十分に引き起こしたようである。

 反面、膨大な情報から、今、本当に必要としている情報を引き当てるには、時間がかかる。普通教科で、1つの単元にインターネットを利用できる時間は、1〜2 時間に過ぎない。時間を有効に活用するためには、教師があらかじめリンク集を作り、その中から引き出させる工夫が必要である。

  また、本校の場合、インターネットが可能なパソコンは、工業実習を目的としており、のべ台数は多いが、1教室では20台程度である。普通教科では、40人が同時に利用できることが必要である。工業高校へのパソコン導入の規制を緩和し、普通教科でも十分に利用できる環境づくりが必要である。

 

 美術では

  生徒の感想

  「インターネットをしていると、時間があっという間にすぎてしまう。九谷焼の作業でも、わからないところを繰り返し見て確認できる。」

  「自分の見たい作品を、鑑賞できる。パリからこの情報が送られてくると思うと、やっぱり感動です。」

  「日本の美術作品もゆっくり見たい。仏像彫刻なども複数の方向から鑑賞できるようになるとよい。」

 

  生徒たちはインターネットに予想以上の関心を抱き、すぐにその操作を理解して自分の関心のある情報を呼び出していた。今はまだ小さな1単元の展開という視点からインターネット活用を見ているが、今後は美術教育全体という観点から、この活用を生かしていく方法を考えていきたい。