45 「ネットワーク通信を活用した教科指導のあり方の研究」
愛媛県立新居浜工業高等学校 宇佐美 東男
45.1 はじめに
インターネット教育利用の分野として、教科指導の分野はとりわけ重要である。現行のカリキュラムの中に、インターネットを活用する場面を導入した。科目別の目的達成ツールとして、また、情報社会の利便性や脆弱性を理解させ、情報モラルを体得させる教材として利用した。更に、技術教育用教材として有効に活用することもできる。
幅広い教育利用を進めるに当たって、いくつかの条件をクリアしなくてはならない。クラス単位など多くの生徒が同時に利用できるだけの施設設備の充実、指導者の情報リテラシー獲得を目指した現職教育の推進、学内のネットワークシステムの維持・管理、学外との係わりに方等がある。これらの問題をクリアして、効果的な教育利用が可能となる。
45.2 教科指導の改善とインターネット利用
平成7年度・8年度・9年度の3年間は、教科指導の中で、技術教育としての学習や、インターネットを利用した各教科・科目の学習を正式にカリキュラムに組み込み、授業実践に取り組むことができた。インターネット教育利用は、従来の教科指導のあり方を再検討させるにふさわしいインパクトを含んでおり、教科指導の改善に大きな力を発揮した。更に、学校教育の中で重要な柱である特別活動での利用も、様々な分野で高い教育効果を上げている。以下に、インターネット教育実践事例を紹介する。
(1)教科指導
(ア)「国語」 : 主に教材収集、教授法研究に利用
例:宮沢賢治、正岡子規等のホームページ利用。授業で、直接インターネットを利用する場面、及び調べ学習に利用を検討中
(イ)「英語」 : 主に教材収集、ペンパル、教授法研究等に利用
例:web66等を利用しアメリカの学校と交流を行い異文化の相互理解を目指した学習法を研究
(ウ)「社会」 : 主に教材収集、教授法の研究に利用
例:世界中からリアルタイムな時事情報の収集、調べ学習に力を発揮している。
(エ)「数学」 : 主に遅進者対象の学習活動に利用
例:リンク集等を利用し、課外学習に利用している。
(オ)「家庭一般」 : 食物、服飾関係での教材収集に利用
例:料理レシピや育児関係の情報収集の実習に利用
(カ)「課題研究」3年生(3〜2単位) : インターネット研究班を編成し、インターネットに関する基礎から応用までを一年間かけて研究する。その間、1・2年生も参加し、学期毎に課題研究発表会を行う。研究テーマが直接インターネットに関係しなくとも、他の課題研究班が情報収集やコミュニケーションツールとして広く利用している。また、他校とインターネットを利用した共同課題研究を行っているが、近い将来、web上で課題研究発表会を実施する計画である。
例:ホームページ開発(情報収集機能の付加:CGI、java等利用)、海外交流、環境問題研究(酸性雨測定・ゴミ問題等)、情報通信技術に関する研究(データ圧縮技術・情報暗号化技術・移動体通信技術等)、プレゼンテーションの研究(各種ブラウザの活用)、情報通信産業の研究、電子取引の研究、仮想現実の研究、電子メールによる専門家との情報交換等
(キ)「実習」
<2年生3時間> 主にネットサーフィンの体験、情報モラルの体得
例:NASA、ホワイトハウス、首相官邸、オリンピック関係、電子デバイスメーカ、高校、専門学校、大学等のサーフィン、情報モラル10箇条について学習
<3年生10時間> 電子メール、ホームページ作成、LAN関係ハードウェア・ソフトウェアの学習、情報圧縮・情報暗号化技術の基礎学習
例:電子メールの送受体験、HTMLの理解とプログラミング、イメージ情報の扱い方、LAN技術7階層の理解、圧縮技術(LHA・GIF・JPEG・ZIP・MPEG等)、暗号化と復号化技術の実習
(ク)「情報技術基礎」1年生4時間 : インターネットの歴史や利用分野、ネットワーク社会の仕組み、技術的要素、情報モラルの理解、将来の展望等について、座学と実習を通して学習させている。
例:ダウンサイジングとインターネット、コンピュータ・ネットワークと分散処理、インターネットのサービスと将来、WWWと情報検索の実際、ネチケット などを学習する。
(ケ)「工業数理」2年生 : 情報社会の構成、情報通信インフラの基礎、インターネット技術の基礎、電子メールの利用、Webサーチエンジンの利用、ホームページ作成
(2)特別活動
(ア)「ホームルーム活動」: ホームルーム活動のテーマに必要と思われる情報を収集したり、意見等の情報発信も行う。
例:いじめ問題、環境問題、交通マナー等で利用
(イ)「部活動」: 主に放送部、化学部、無線部等が年間を通じ顕著な活動をしている。
例:ホームページを利用した地域研究、学校紹介、リクルート開発、酸性雨計測プロジェクト参加、同窓会活動、地域交流学習、インターネット放送局の開設、方言の研究などを行っている。
(ウ)「クラブ活動」 : インターネットサーフィン、電子メール等による国際交流
(エ)「生徒自由研究活動」 : 生徒が自発的に行う研究活動の有力な情報収集・情報発信ツールとして利用されている。
例:舞台照明・音響システム研究、自動車研究、情報処理技術研究、マスコミ研究等
(3)学校行事関係(イベント等)
(ア)「運動会」 : 地域社会や保護者、同窓生を対象にホームページを利用してテキストや映像で運動会の案内及び当日の模様を紹介している。
(イ)「文化祭」 : 放送部員、視聴覚委員等によって、文化祭をビデオカメラで取材し、短時間の動画情報に編集し、ライブ放送として情報発信を行った。この際、生徒たちはインターネットを利用することで、簡便にテレビ放送局やラジオ局を開設できることに理解を深め、インターネット・ラジオのリスニング等も試みた。また、パソコン通信やインターネット体験コーナーを設け、多くの人が生徒のレクチャーを受けた。
(ウ)「ロボットコンテスト」 : 課題研究等でロボット制作に取り組んでいるが、全国各地のロボットコンテストの結果をいち早く入手し、作戦を練るなどその対策を立ている。更にコンテストの当日の模様を動画情報としてホームページ上に公開している。
(エ)「地域交流」 : 近郊の学校とホームページ開発交流会を年間数回行っている。交流会は本校を会場に、他校の生徒・教師がインターネット関連の研修や交歓会を行っている。日常的にはパソコン通信「えひめ教育NET」を利用して、ホームページ用データのやりとりや、フォーラム、電子会議、電子メールによる情報交換などを行っている。
(4)進路指導
イントラネットとして、進路関係リンク集(就職・進学用)を校内2箇所の5台のクライアントから常時利用できる。
(ア)進学情報収集
例:大学、高専、専門学校等のホームページ閲覧とメール等によるコミュニケーション
(イ)就職情報収集
例:求人表、企業ホームページ閲覧、企業とのコミュニケーション多くの企業には本校出身者が在職しており、貴重なアドバイスをいただいている。
(5)生徒指導
いじめ問題、交通事故等、生活全般に関する情報収集にインターネットを活用しているが、最近とみにウェブ上の情報量が増加し、利用者の期待に充分応えられそうである。
(6)図書館教育(学習情報収集)および視聴覚教育
生徒が学習に必要な情報を収集「調べ学習」するために利用している。
学校図書館を情報センター・メディアセンターと位置づけ、新しい図書館教育(情報センター)のあり方を研究している。視聴覚教育では、従来の機能に加えて、インターネットやパソコン通信を、新しい視聴覚教材として自由に活用できる機能を備えている。将来的には、この機能を発展させ「情報基盤センター」の利用や世界を対象(リンク)にしたウェブ教育ソフトライブラリやウェブ・スタディー・システムの利用が可能にならないか研究している。また、各クラスから選出された視聴覚委員会メンバー(生徒会組織の部局)の年間を通じた、インターネット相互学習会等が毎月開催されている。
(7)学生新聞の発行
校内新聞に相当する情報をホームページ上で発行することも可能であり、実験的な取り組みも計画している。更に学級新聞の発行も同じ方法で扱うことができる。
(8)国際理解教育(グローバル・コミュニケーション)
ホームページや電子メールを利用して、海外高校生との交流を行っている。特に、海外進出している日本企業の所在地のハイスクールやカレッジと交流する計画を進めている。生徒たちは海外のWeb上でコミュニケーションを試みている。また、Web上での高校生国際ロボットコンテストなどを企画している。
(9)教師の研究活動
教材や教育情報の収集、自分ホームページの開発、イントラネットの開発(進路情報、図書館情報、行事関係、リポート授受、学習活動評価等)、新しい視聴覚教育として位置づけ、OHPソフトの作成、ビデオソフトの作成、プリント資料作成等に利用している。また、教師の研究発表等も活発に行われている。これらは教科指導の改善につながる。
・中国・四国地区インターネット教育実践事例発表(高知市・岡山市)
・全国インターネット教育実践事例発表(平成8・9年度:東京)
・愛媛県高等学校教育研究会視聴覚部会(松山市)
・各種研究論文発表(愛媛県科学技術奨励研究論文、校内研究紀要等)
・雑誌記事等投稿(キャリア・ガイダンス、PCひろば等)
・四国工業教育研究会(松山市)
・平成9年度全国情報化推進月刊イベント講演「インターネット社会」(新居浜市)
・平成10年度東予地域新入社員研修講師(企業活動とインターネット)
(10)ホームページの開発
ホームページの開発は情報発信の代表的な方法であるが、本校では「生徒によ生徒のためのホームページ」であることをモットーとしており、生徒の自発性・積極性を最大に尊重し、制作に取り組んできた。これまでに開発された主なホームページを紹介する。
ア 学校紹介と地域文化紹介・・・・・生徒の学校生活や街のPR
イ 生徒個人のホームページ・・・・・リクルート開発、意見収集等
ウ 近隣高校ホームページ開発・・・・他校生との交流学習を通した各校ホームページ作成
エ 愛媛県工業教育研究会ホームページ・・・・愛媛県工業教育研究会のメンバーは、県下の高校で工業科が設置されている学校と教育センター、県教育委員会などで構成されている。この会では「工業教育の活性化」が一つの研究テーマである。この会では、県下の工業高校生を対象とした研究発表会を毎年開催している。今年度は本校から、主にホームページを利用した「高校生電能システム」が発表され好評であった。また、その他のコンテンツとして加盟学校の紹介やウェブ教育ソフトライブラリ、ウェブ・スタディー・システム、教育関係リンク集などの構築を計画しいてる。
(11)休憩時間・放課後の利用
校内3箇所をオープン・スペースとして生徒に開放している。
・視聴覚室・・・21台 ・図書室・・・・・1台 ・保健室・・・・・1台
利用例:ネットサーフィン、電子メールの利用、新聞データベスやwebを利用した、調べ学習、ファイルダウン、Cu-seeMe利用、インターネット放送局視聴等
◎インターネット学習に関する生徒の意見
・学校から世界の情報が簡単に得られることは素晴らしい。
・遠くの友達と電子メールの交換ができ、楽しみだ。
・プログラムやデータを自由に手に入れることができ、素晴らしい。
・次の授業が楽しみだ。これまでで一番熱心に授業に取り組めた。
・もっとインターネットを勉強したい。
・インターネットを利用して色々なことをしたい。
・家庭でも利用したいが、費用がかかるので残念だ。
・情報モラルの大切さが分かった。
・操作を理解するのに苦労した。(ftp・telnetなど)
45.3 施設・設備の充実
授業で活用するには、施設・設備を充実する必要がある。そこで校内LANの構築と利用・管理等に関する具体的計画を立案した。LAN構築は一学期中に設計を終え、7年9月に着工すること ができ、11月には物理的に約90台のパソコンと3台のサーバがLAN接続された。更に、9年11月には120台が接続された。これらのクライアントに、インターネット用ソフトウェアをインストールすることで稼働させることができるが、これによって校内のどこからでもインターネットを利用できる体制が確立した。校内には二箇所(41台と21台)のLAN教室と視聴覚教室(22台)、図書室(1台)、各職員室(各1〜2台)、保健室、事務室、校長室等からインターネット及び校内LAN(Netware)を利用することができる状況にある。この中で、視聴覚教室と図書室及び保健室での利用を全面的に開放しているので、休憩時間や放課後には多くの生徒が競って利用している。
45.4 現職教育
現職教育として、年数回の校内研修会開催や外部研修への積極的な参加によって実施している。更に、地域社会との交流として、学校を会場に、地域市民対象の「インターネット研修会」や県内教員対象の「インターネット教育利用」に関する研修会等を実施している。これらの研修会は、受講者と講師との相互研修と位置づけ、できるだけ多くの講師陣で取り組んでいる。また、地域社会で行われる研修会への参加や、市民参加の「新居浜インターネット研究会」の発足等にも参加し、研究活動を通して、地域と共に歩む、新しい教育活動の試みも行われている。
日常的には、教材の宝庫であるインターネットを活用することで、インターネットをより深く理解することができ、いわば毎日自己研修がなされているといってもよい。(情報コンセントが設けられ、各職員室から自由にインターネットが利用できる環境になっている。)
現在のところ、インターネット教育利用に関する公的な研修機会は少なく、教育現場でなんとか対策・努力して急場を凌いでいる感があるが、今後は、国レベル、自治体レベルでの計画的な現職教育の実施が強く望まれる。
以下に本校職員がこれまでに関係したインターネット研修会・研究会等の代表的な行事を紹介する。
45.5 ネットワーク・システムの管理
(1)アカウントの発行
・生徒・・授業で必要な者、希望者に発行 ・教職員・・全員+地域学校の教師
・その他・・地域社会の方々(コラボレーション用として発行)
(2)管理体制
ネットワーク管理委員会がハード、ソフト、ユーザ管理、情報モラル等につい対応している。
インターネット導入ガイドラインに基づいて運用されている。
(3)情報発信(Webが中心)について
生徒によるホームページ作成は、原則的に自由であり、責任を持たせているが最終的(Webサーバへの登録時)には、指導教師が適切なアドバイスを行っている。情報発信カードに必要事項を記入させ、評価し、保管するシステムの採用を検討している。電子メールについては、事前指導と日常活動の中で適宜状況把握を行っている。
(4)セキュリティについて
現在、プロキシー・サーバしか対応できていないが、ファイヤウォールを設置することを計画中である。
45.6 おわりに
インターネット教育利用は日常的な教育活動になってきた。
職員の中には、朝出勤すると、まずメールをチェックする人も増えてきた。また、生徒達も休憩時間や放課後等に、競ってメールを打ったり、チェックするものも多い。更に課題解決や学習のためにホームページを利用することも日常的である。
しかし、教育現場や家庭における有害情報の排除対策や、体系化した情報モラルの育成プログラムの作成など解決しなければならない問題も山積している。
また、今後はモバイル・インターネットの利用や、マルチメディア教育システムとしてのインターネット高度利用など、新しい形での授業実践にも取り組む予定である。
そのための設備の充実等についても、具体的な検討が開始されている。