46 インターネットを利用した国際交流の推進

愛媛県立新居浜工業高等学校 宇佐美 東男

46.1 はじめに

 世界的に国際化・情報化が進展している。特に、インターネットに象徴されるネットワーク通信の発展が、国際化を進める上での大きな推進役として機能している。
 インターネットの世界では、政治・経済・教育・文化とあらゆる分野で、国際交流が行われている。 手段としてネットワーク通信を通してではあるが、確実にしかも急速にクローバル化が進み、様々な分野に変革の兆しが見られる。これまでにあり得なかった国境のボーダレス化といったことさえ起こり始めている。国境のボーダレス化は国家や民族や・種族を越え、人類全体の在り方について問題意識を持つなど、世界共通の価値観を求める潮流が生まれようとしている。
 教育の世界でも、ネットワーク通信の利用は、国際理解教育を進める上で、大変有効なツールとなっている。
 これまで、多くの国々とペンパルならぬキーパルや、お互いのホームページ利用による文化交流を行ってきたが、更なる発展を求めて、これまでとは違った角度から、国際交流に取り組むいくつかの企画を立てた。

46.2 新しい国際交流を進めるための企画

 新しい企画として、三つの分野を企画した。一つは産業の国際分業化に伴う「産業人としての国際理解」を目標とした国際交流、もう一つは万国共通の科学技術をテーマにした「Web国際ロボットコンテスト」の推進、他の一つは、地球環境保護意識を育成することを目標とした「酸性雨計測国際プロジェクト」である。
 この三つの企画は、現在進行中であり、まだ結論をうるところまでは進捗していなが、以下にそれぞれについて概要を紹介する。

(1)「産業人としての国際理解」の推進

 最近、我が校の出身者から、ビザ申請のための英文証明書の請求が増えている。
 これは海外での長期の仕事に着くためである。長期の海外出張から帰国した人たちから、こぞって海外の生活の不便さを聞く。その原因の多くは、外国での生活習慣に馴染めず、日本人同志が集団化し、固まって生活しているケースが多いという。
 海外で仕事に着く場合、日常の生活習慣はもとより、勤労観に関しても、現地の人々との間には、かなりの差異があるのではないかと考えられる。これが海外の生活に馴染めない主要な原因の一つではないかと思う。
 この企画では、特に、海外進出日本企業の所在する現地の高校生たちと交流を深め、技術や勤労観を通した国際交流を行い、将来に備えることを考えて取り組んできた。
 わが国は、為替レートの問題等があり、近年産業の空洞化が急速に進んできている。
 産業の空洞化は、国際分業を促し、企業の海外進出に伴って、日本人労働者も全般的に海外で仕事に着く機会が多くなった。我が校の出身者もその対象者である。
 そこで、日本企業が進出している海外の地域(特に生産工場がある地域)に設置されているテクニカル・ハイスクールかカレッジとの交流を計画したが、交流相手校を見つけることが容易ではなかった。
 海外に工場を持つ日本企業に、現地のハイスクール紹介してもらったり、Web66などを糸口に、生徒たちが苦心して調査を行ったが、なかなか見つからなかった。
 普通のハイスクールであれば、ペンパルのような方法で簡単に交流することはできたが、テクニカル・ハイスクールは少なく、工場の近郊に設置はされているが、インターネットを使えないといった障害があり、なかなか実現できなかった。
 アメリカでは自動車産業に関連した地域を選び、ハイスクールと交流することはできたが、いわゆる普通の文化交流の域を脱することはできなかった。
 中国に関しては、パソコン関係の部品製造企業が進出している沿岸地域に対して交流を試みた。この際、我が校の所在する新居浜市に、親善使節として長期に来日している中国の方に技術系高校を紹介していただいたが、インターネットを利用できる環境が無く、手紙による簡単な交流しか実現できなかった。
 現在はオーストラリア、シンガポールや台湾を対象に準備をしているが、年度変わりを期に、これから本格的な取り組みを計画している。
 特に、平成10年度には、夏休み中に地元高校生グループによるオーストラリア、ニュージランド訪問計画があり、インターネットを利用した事前交流を行う予定である。この場合は、実際にフェース・ツー・フェースで交流することができるので、更なる発展を期待している。

(2)「Web国際ロボットコンテスト」について

ホームページ上で国際ロボットコンテストを行い、技術に関心の高い高校生同志の国際交流を深めようという企画である。
  今日の専門高校(従来の工業高校)では、産業社会の複合化技術の進展に伴い、メカトロニクスの代表でもある、ロボット製作等をカリキュラムに組み込むことが盛んである。
  これは、先進工業国であれば同じ傾向ではないだろうか。
  本校でも、科目「課題研究」、「工業基礎」、生徒自由研究のテーマとしてロボット製作に取り組んでいる。このロボット製作は、年間2〜3回の対外発表会(試合)と校内発表会が行われているが、高校生の研究活動としては、大変ユニークである。国内の発表会だけに留まらず、国際化する方法を考えてみた。
  Web国際ロボットコンテストの方法は、各国の高校生が自分たちで製作したロボットに関するホームページを開発し、情報発信を行う。このホームページを対象に、互いにリンクを張ることで、分散形のコンテスト用ホームページを構成して行う。または、参加校のサーバか、この企画に賛同を得られる研究機関のサーバに、国際ロボット・コンテイスト用ホームページを置き、参加校からコンテンツをftpにより、ファイル転送することで実現する。このロボット・コンテスト用ホームページは、各国にミラーサーバを置くことで、リスポンスと国際間のトラフィックの改善に役立てるとよい。
  コンテスト用ホームページ上で使われる言語は、英語を基本言語とし、母国語が選択できる機能を持たせる。
  また、コンテストの評価基準は、製作されたロボットの独創性・技術レベル(ロボットとしてふさわしい計測項目を設け、その数値等で評価)・デザイン等を対象とする。
  評価は、参加高校生や一般の高校生、指導に当たった教師、技術的専門家、デザイナー等によって構成された評価機関がインターネット上で投票によって行う。
  投票の結果はホームページ上で発表され、表彰も行うとよい。
  この国際ロボット・コンテストは、ロボット製作に関して、ロボット製作やその他幅広い研究分野等で国際共同研究へ発展させることも可能と考えている。
  現在、我が校では、高校生ロボット・ホームページを製作中であり、これが高校生国際ロボット・コンテストへ発展することを願っている。

(3)「酸性雨計測国際プロジェクト」の推進

100校・新100校プロジェクトで企画・運営されている「酸性雨計測プロジェクト」に本校も参加してきたが、このプロジェクトの国際化を企画した。
 この一年間、環日本海の国々(日本、ロシア、韓国、中国、台湾、フィリピン等)のハイスクールを対象に、酸性雨計測プロジェクトの企画案を打診してきたが、スムーズには進んでいない。
 原因はいくつかあることが分かった。第一は環日本海の国々では、ハイスクール・レベルにインターネットが導入されているところは極希である。唯一韓国では、100校プロジェクトに相当する事業が始まっており、インターネットが導入されつつあるが、まだ国際共同研究に取り組むまでには至っていないようである。
 第二の理由は、インターネットで交流する際、酸性雨計測共同研究の話になると自然と交流が途絶える場合があった。これには各国の方針が、なんらかの形で影響しているのかも知れない。
 更に、酸性雨計測用具が備わっていないというケースもあった。
 このようなことから、現在は、ハイスクール・レベルでの国際共同研究は困難であることが分かった。ただ個人レベルでは、地球環境と酸性雨との関係に強い関心を持っている人は多いことが分かった。
 現在、日中円卓会議で酸性雨問題が議題となっており、わが国からは石炭の燃焼方法等について技術供与が提案されているようである。中国はこれを受け入れ、本格的に酸性雨問題に取り組むようである。わが国は公害防止技術のビジネスが可能である。この提携は、ハイスクール・レベルでの酸性雨計測国際プロジェクトを成功させる鍵となるかも知れない。
 このように、今後は、各国の地球環境問題への意識変化や教育への啓蒙・普及も進ことから、共同研究は可能と考えられる。また、インターネット利用環境の整備も急速に進むと思われる。
 時期は少し遅れるが、この企画を新たに推進したいと考えている。
 10年度には、ハイスクール・レベルには拘らず、カレッジやニユバーシティ、研究機関等との交流も進めて行く計画である。

46.3 おわりに

 この企画は、技術を学習する専門高校として、特徴ある教育活動として位置づけることができると思い取り組んできた。
 研究の進捗状況はいまひとつであるが、これからの学校教育は社会の国際化に伴って、国際理解教育を積極的に推進して行く必要がある。そのための具体的なプログラムとして、三つの企画を推進してきた。
 その活動の中で、生徒たちが海外のサイトにアクセスし、相手校を見つけるための努力を一心に行ってきた。その過程で、他の国々の事情を考えたことや海外の学校・人を知ることもできた。これは大変貴重な経験であった。
 生徒たちが海外の学校や研究機関を喜々として調べている様を見て、インターネットが教育の場に、効果的な新たなシチェーションを提供する強力な教材であることを認識することができた。
 今後は、この経験を基に、インターネットを利用した新しいアプローチで、文化・科学技術・地球環境問題をテーマにした教育活動を展開して行きたいと考えている。