47 「ネットワーク通信を活用した地域社会との交流」

愛媛県立新居浜工業高等学校 宇佐美東男

47.1 はじめに

 我が国も、いよいよ教育改革が始まろうとしている。教育の情報化や国際化の分野において、初等・中等教育に変革が訪れようとしている。これに関連する科目の新設や、選択科目から必修科目への変更、コミュニケーション能力の育成を低学年化するなど、教育内容に具体的な改革が盛り込まれるようである。また、この教育改革は、先頃の文部省アナウンスのように、ネットワーク通信をすべての教育現場へ導入するなど、具体的なアクション・プログラムも含まれている。これは教育の情報化に弾みをつけ、教育現場と地域社会との新たな関係を創造するものでもある。また、この教育改革の中身には、学校教育と地域社会との新たな関係にも言い及んでいるようである。インターネット教育利用を中心とした、100校・新100校プロジェクトも、より普遍的な教育活動の一部として進化を辿っている。現在は、様々な分野での教育実証を試みようとしている。本校でも、教科指導、地域交流、国際理解教育、新しい教育システムの研究開発などを企画し、新しい時代にふさわしい教育のあり方について、多角的な視野から取り組みを行っている。ここではその一環である、インターネットを通した地域社会との交流、これからの取り組み等について紹介する。

47.2 地域社会と共に歩む学校教育

 地域社会と学校教育の関係は、直接的には、生徒たちの将来の進路や地域社会の中での日常生活、家庭との協力、地域と連携した教育活動などがある。また、今日の生涯教育の推進といった視野から、地域社会と学校教育の役割分担など、広範囲な関係を持っている。しかも、それらはすべて補完関係にあり、共に歩み、共に発展することが教育目標の大切なひとつでもある。このようなことを踏まえて、地域社会を対象としたインターネット研修会の開催や様々な研究会への参加、創設に取り組み、地域社会との交流を積極的に進めてきた。研修会・研究会の成果は、当然、インターネットが学校と地域社会とのコミュニケーション・チャンネルとして機能し、様々な教育活動において、地域とのコラボレーションも日常的になるなど、大きな成果を生みだそうとしている。

(1)インターネット研修会・研究会の実施
(ア)地域社会市民対象インターネット研修会
★名称:平成9年度 高等学校開放講座「インターネット研修」
★対象:地域社会の方々(2市2町村)
★受講者数:30人
★開催期日:平成9年5月13日(土)〜8月2日(土) 
      毎回3時間合計10回30時間
★カリキュラム:高度情報化社会やインターネットサービスの利用について実施


テ ー マ

研  修  概  要

開講式

高度情報化社会について

情報通信ネットワークの発展と将来

・地方局教育事務所・校長挨拶、講師紹介 

・社会と情報通信、21世紀の社会と情報通信産業文化とコミュニケーシヨン、世界の情報通信事情、インターットサービスと利用方法、パソコンの基本知識・操作

インターネットの仕組み

インターネットとパソコン通信の関係、歴史、機能、インターネット・ビジネスと問題点、情報モラル 、インターネットと教育改革、 Windows95とインターネット ネットワークの構築と利用、情報の経路について

ネットワーク・コンピューティング

・ネットワークの構築と利用、情報の経路について

・Windows95とネットワークキング、 WindowsNT 、Netware、LANシステム、セキュリティについて

電子メールとネットニュースの利用法

・電子メールの利用、ユーティリティの利用方法

・NetNewsの購読と投稿

・暗号化問題について(公開鍵方式)

WWW (ホームページ)の利用法

・WWW(world wide web)と情報収集の方法

・ブラウザの利用方法

・リソースの検索方法(サーチエンジンの利用方法)

ファイル転送の利用法

ファイルの種類と処理

・ftp(file transfer protocol)の利用方法

・ファイル処理(解凍と圧縮) 仮想プロバイダーの利用

ホームページの作成(1)

テキスト・画像の扱い方

HTML(Hyper-Text Markup Languade)の書き方音声・映像の扱い方

ホームページの作成(2)

Javascriptの利用

・ホームページにバリエーションを付ける方法

・アニメGIFの利用

ホームページの作成(3)

・Java言語の利用(コンパイル、アプレットの貼り付け、 CGI(Common Gateway Interface)、SSIについて

・CADによる図面作成とftpの利用

10

ホームページ作品発表会

・グループ別に作成したホームページの発表会

・ホームページは一定期間、学校のサーバに登録公開

・メーリングリストについて(学校と地域社会連携)

 

修了式

修了証書授与、地方局教育事務所・校長・講師挨拶

★受講者の感想
  • インターネットのフルコースを学習できて素晴らしかった。
  • 地域の高等学校を利用できることは、とてもいいことだ。メーリング・リストが楽しみだ。
  • 子供たちが日頃勉強していることを、初めて知った。
  • ワープロしか使えない自分にとっても、インターネットは以外と簡単であった。
  • 仕事で利用できそうだ。
  • カタカナ言葉多すぎて、理解するのに苦労した。
  • もっと時間が欲しい。
★反省点
  • 回線速度(3.4KHZ)がボトル・ネックとなり、一斉のCGI利用(サーチ・エンジン等)には支障があった。
  • サーバーへのキャッシュの内容が、受講者全員の要望を満たすことが困難であった。
  • プロキシー・サーバが度々ダウンした。(フリーウェアを利用したことが原因か。)
  • 落雷による回線トラブルがあり、ネットワークの脆弱性を知る。

(イ)平成9年度全国情報化月間講演
★テーマ:「インターネットと社会」インターネット同時中継(リアルビデオ)実施
★開催日:1997年全国情報月間5月31日新居浜市

(ウ)愛媛県下高等学校教員インターネット教育利用研修会
★名称:平成9年度産業実技講習「インターネット教育利用研修」
★対象:高等学校産業教育担当教員
★受講者数:30人
  • 開催期日:平成9年7月30日〜8月1日 1日6時間 合計3日間18時間
  • カリキュラム:高度情報化社会、インターネット教育利用等について実施



 

テ ー マ

研  修  概  要

7月30日

開  講  式    県教育委員会・校長挨拶、講師紹介、研修スケジュール説明

 

高度情報化社会について
(10:50〜12:00)




インターネットのサービスと利用
(13:00〜15:00)




情報通信ネットワークの発展と教育
(15:00〜16:00)

  • 社会とコミュニケーション、21世紀の社会と情報通信産業
  • 世界のコミュニケーション事情と国際理解教育
  • 文化・教育と情報通信、高度情報社会の特徴

  • インターネットの歴史、機能、今後の展望
  • インターネット・ビジネスと問題点、LAN構築
  • イントラネットと教育の情報化

  • インターネットの学校教育への導入方法
  • インターネットの発展と教育改革の関係
  • 情報モラルの育成について (光と影の問題)

7月31日

 

電子メールとネットニュースの利用法
(9:00〜10:00)




WWW (ホームページ)の利用法
(10:00〜12:00)



ファイル転送とリモート・ログインについて
(13:00〜15:00)




ホームページの作成(1)
(15:00〜16:30)

  • 電子メールの利用、暗号化技術(公開鍵方式)
  • 添付ファイルと画像データの取扱い
  • NetNewsの購読・投稿・ジャンルについて

  • WWW(world wide web)と情報収集・情報発信
  • ブラウザの利用方法
  • リソースの検索方法(サーーチエンジンと教育リンク集

  • ftp(file trasfer plotocol)の利用
  • Telnetの利用
  • ファイル処理(解凍と圧縮)、データ圧縮技術の動向

  • HTML(Hyper-Text Markup Language)の書き方
  • テキスト・画像の扱い方
  • 音声・映像の扱い方、各校のホームページ作成

8月1日

 

ホームページの作成(2)
(9:00〜12:00)




ホームページの作成(3)
(13:00〜14:00)





ホームページ作品発表会
(14:00〜15:00)

  • Javascriptの利用(学習ソフトに応用)
  • アニメGIFの利用
  • CGI、SSIについて

  • インターネットとJava言語の利用
  • 簡単なプログラミング(アプレット作成と貼り付け)
  • CGIとメールによるアンケート収集
  • インターネット利用教育カリキュラムの紹介
  • グループ別に作成したホームページの発表会

  • 各校ホームページのメンテナンスについて
  • 受講者メーリングリストの開設について

   閉 講 式        校長挨拶、講評、受講者謝辞

★受講者の感想
  • インターネット教育利用のノウハウがよく分かった。
  • 短時間にインターネットのフルコースが研修できてよかった。
  • もっと時間がほしかった。
  • 教育利用に関して、問題点をどう解決すればよいか早急に研究する必要がある。
  • 県下のすべての学校教育に早期に導入すべきだ。
  • インターネットは教材として大変大きな価値がある。
★反省点
  • 回線速度がボトル・ネックとなり、レスポンスが悪く、利用者に焦燥感を与えた。
  • OS、ブラウザ以外のインターネット関連アプリケーションは、フリーウェアを利用したため、受講者はいささか使い勝手に不便を感じた。
  • 短時間に多くの内容をこなしたため、受講者によっては多少無理があった。
  • 受講者のレディネスや年齢差を個別指導で対応せざるをえなかった。
(エ)近隣高校生インターネット研修会(学校間交流学習)
★テーマ:各校ホームページ作成学習会
★開催日:一昨年〜9年8月(数回開催)
(オ)新居浜市市制60周年記念イベント参加
★テーマ:ホームページ・コンテスト
★開催日:11月3・4・5日に審査委員として参加
(カ)環境問題討論会:Cu−SeeMe利用(テレビ会議)
★テーマ「学校から焼却炉が消える・・・ゴミをどしたらよいのか。」
★開催日:11月10日〜17日
(キ)インターネット家庭クラブ研修会(市内5高校家庭クラブ員&指導員40名)合計3時間
★テーマ:家庭でのインターネット利用
★開催日:11月1日
(ク)西条市「こどもインターネット教室」の開催
★テーマ:インターネット体験
★開催日:小学生は通年(毎週土曜日・日曜日)、中学生は夏休み中(5日間)
(ケ)環境問題コラボレーションの計画
★テーマ:過剰包装を考える。CU-SeeMeを利用して学校、地域社会との意見交換を行う。
★開催日:1998年春休みか1学期中に実施予定
(コ)「愛媛県工業教育研究会教育ソフト研究委員会
★テーマ:インターネット導入ガイドラインと利用規則の策定
     地域社会とのコミュニケーションのあり方等について研究協議を行う。
★開催日:11月20日
(サ)愛媛県東予地域新入社員研修講演
★テーマ:「インターネットと企業活動」
★開催期日:1998年4月3日「東予産業創造センター」予定
(シ)情報ボランティア構想の実現
子供たちや高齢者、学校等のインターネット利用に対して、講習会やコンサルティングを行うボランティア団体を設立する方向で準備中である。生徒や教師、一般社会人がメンデーである。
(ス)「新居浜インターネット研究会」を組織。定期的に地域対象研修会・研究会を実施(1996年〜)



(2)学校情報の提供

 ホームページを通して、生徒たちの日常的な学校生活を、地域社会に紹介している。

 この情報発信は、生徒たち自らが取り組んでいるものと、教職員が行っているもの、また双方の合作によるものもある。今後は情報公開等にも活用できないか研究に取り組む


(3)地域社会と学校のコミュニケーション

本校の場合、卒業予定者の内、就職希望の多くの者が地元就職を希望している。幸い地元にはかなり多くの産業があり、企業数も多い。このような環境で求人活動や求職活動が行われているが、この際、インターネットやパソコン通信を利用して、企業との情報交換が行われている。最近では、生徒達は企業や大学・専門学校のホームページから就職・進学情報を収集したり、メールによる情報交換を行っている。教師も学校のホームページを通して、またメール等を利用して企業情報の収集や情報交換を行っている。これらはネットワーク通信が利用できる環境にあって実現したものであり、新しい学校教育の一つの方向性を示したものとして捉えることができないだろうか。 


(4) 地域産業の情報化に関する研究会

  ・ 地場産業(工業・農業・漁業等)の情報化問題研究会を準備中

 

47.3 これからの取り組み

 ネットワーク社会は速いテンポで発展している。教育における利用形態も設備も、そ こに携わる 者のリテラシーも、社会の実態に即し、対応できるものでなくてはならない。

 (1)地域防災システム等地域ネットワークとの連携を研究する。

 (2)ネットワーク通信利用形態の進化に対応する。(モバイルコンピューティング等)

 (3)設備の高度化を進める。(マルチメディアへの対応)

 (4)現職教育のシステム化(国・自治体等主催の段階的公的研修の実現)を期待する。

 

47.4 おわりに

 現在、インターネットは、社会インフラとして完全に認知されるようになってきたが、教育を取り巻く環境は充分整っているとはいえない。これまで海外の先進国と比較し、少し遅れ気味ではないかと感じていたが、最近、文部省から、すべての小・中・高等学校・養護学校にインターネット利用環境を整備することが、アナウンスされた。これは大きな前進である。しかし、現実には多くの問題が残されている。例えば、すべての教育現場にインターネット教育利用に関するノウハウを持った人材の配置(養成)、教育利用におけるガイドラインや利用規則の策定、教育現場にとっての有害情報排除対策、ネットワークの維持・管理に必要とする技術や経費の問題などが山積している。今後は、教育行政も学校サイドとしても、社会的ニーズとして、これらをクリアして行く努力が求められる。

 また、これからの情報社会では、教育利用、ビジネス・個人利用等を問わず、ネットワーク利用全般に渡って、そこに流されている、あるいは流す情報の質の問題をどうするかが社会的課題となってくる。現状では、情報発信に制約をかけることは、米国の通信品位法の例からも、かなりの困難を伴うと想像される。インターネットを健全に発展させるためには、学校教育や社会教育においても、情報モラルに関する教育に取り組むことが、より効果的かつ現実的と思われる。その上で法的対策が期待される。