48 インテリジェント・スクールの研究

愛媛県立新居浜工業高等学校 宇佐美 東男

48.1 はじめに

 インターネットが導入され4年目を迎えた。学校教育にも変化が現れ始め、新しい学校教育のあり方や教育の方法について、幅広く考える機会を与えられた。
 最近は、情報通信に対する社会の受け留め方も大きく変わり、導入当初と違って、インターネット教育利用に関して、地域社会や学校内部でも理解を得やすくなり、校外との様々なコラボーレーション等も可能となってきた。
 マクロな意味では、情報革命ともいわれるインターネットを巡る世界情勢が大きく変わり、一種の社会現象化したことが要因である。
 わが国も政府自ら積極的にインターネットを利用するなど、社会的認知は進んだ。更に、社会インフラとして、情報通信関連の公共投資を大胆に実施する計画等も浮上している。このような情勢は、これから急速に情報通信に関連する環境整備が進み、教育の世界にも新たな時代が訪れることを意味する。
 インターネットは、世界の様々な文化を包含し、新しい文化を創り出すグローバル・ブレインとしての機能を発揮し始めている。
 多くの人々は、インターネットから多くの有意義な情報を得ることで、計り知れない利益を享受しはじめている。また、自ら進んで情報発信を行う人も多い。
 既にこのような身近な存在であるインターネットを利用して、これまでに存在しなかった、全く新しい教育システムを開発すべく研究に取り組んできた。まだまだ充分な成果は上がっていないが、確かな手ごたえは掴んでいる。
 この教育システムは、最新の情報通信技術を最大限に利用し、知識や経験の豊富なエキスパートによって構築される、いわばインターネット空間を利用した「インテリジェント・スクール」とも呼べる教育システムである。
 インテリジェント・スクールの構築作業は、インターネット空間に存在する情報の中から教材として利用できるものを評価し、データベース化作業を行い、必要な教材の開発も進める。また、各分野の専門家によるオンライン参加の制度を確立することが中心である。 インテリジェント・スクールは、これまでのような一つの学校をイメージするものではなく、教育のために、世界中の教育資源が有機的にネットワーク化されたイメージである。


48.2 新しい学習スタイル

 学校教育では、教室に生徒たちが集い、一斉教育を受けるケースが一般的である。最近ではCAI(Computer Assisted Instruction)システムの活用などで、個別学習の形態も少しずつ普及し始めている。しかし、現実には、学習者それぞれの個性に合った教育を実現することは、はなはだ困難が伴う。ちなみに最近の統計では、なんらかの理由で、高校教育を中途であきらめざるを得なかった者は、年間約11万人に上るといわれる。そこで、このような学校教育の現実を補完する意味で、また、生涯教育といった観点からも、インターネットを利用した新しい教育システムを構築し、少しでも教育の改善に寄与出来ないかを考えてみた。
 この教育システムが備えなければならない最も重要な機能として、学習者が主体的に学習活動に取り組むことができ、学習活動は時間や場所から開放され、各々の学習者の個性に合った学習方法を選ぶことが可能でなければならない。
 このため基本的な形を、学習者が学校内外からインターネットにアクセスすることで、自由に学習活動を展開することができ、更に、無機的な機械だけを対象にするのではなく、通常の個人レッスンのような生身の人間から直接指導を受けることが可能なシステムを構想した。
 この教育システムは、オンラインで機能するCAI教材やエキスパートシステム及び様々な専門分野毎のエキスパート(知識・経験の豊富な専門家)によって構成される。学習者はエキスパートからオンラインでリアルタイムに指導が受けられるシステムである。また、分野毎に分類されたCAIソフトを中心としたダウンロード用教材データベースと、情報ボランティアや学習者自らによって発見される学習資源のリンク集によって構成される。
 現在は、これら三つの簡単なプロトタイプの構築を進めると共に、統合化することを検討している。


(1)ウェブ・スタディ・システムの開発

 このシステムの特徴は、学習者がインターネットを利用することで、家庭や野外など学校以外の場所はもちろん、校内各所からも特定分野の学習を自由に行うことができるシステムである。更に、オンラインで指導者も学習者にリアルタイムなアドバイスを与えることができるところにある。この場合、指導者は、現役の教師、退職後の教師、企業人、一般市民の方全てが対象であり、知識・経験に優れた各分野のエキスパートが担当する。この新しい教育システムに参加するエキスパートは、ボランティア活動として取り組むことが基本となる。
  各エキスパートは登録制をとり、登録作業と学習者に対する指導時間等の調整は、登録用ホームページやスケジュール用ホームページ、電子メール等で行う。指導者は家庭や職場、その他活動可能な場所(モバイル・コンピューティングなど)に簡易形のマルチメディア・システム(CU−SeeMe等)を準備する必要がある。これを利用して学習者と指導者がリアルタイムなコミュニケーションを行うことになる。
  また、オンラインCAI教材や増殖型学習リンク集については、教材実体(データやプログラムなど)そのものは、地理的に離れた場所のサーバに格納されている方がよい。この方が回線トラフィックの集中を避けることができる。いわば分散型教材データベースとして機能させることができる。
  CAI教材やエキスパートシステムの開発は、できるだけ分散開発することで、ボランティアの開発負担は軽くなり、構築に取り組みやすいと思われる。 現在、教科学習用教材や資格検定用教材の開発に取り組んでいる。教材は、基本的にCAI機能を持ち、できるだけ自学自習が可能なものを目指している。
  プロトタイプとして、実際にCU−SeeMeを利用したレッスンを模擬的に実施したが、リフレクターが外部サイトのものであったため、思わぬ参加者によるハプニングが起こることもあった。
  現在はこのようなリスクを避けるため、校内サーバにCU−SeeMeリフレクタを立ち上げる準備をしている。
  しかし、この場合部外者参加を避けることはできるが、回線速度の関係で、校外からの参加人数は限られてしまう欠点がある。今後の環境整備に期待したい。   

(2)ウェブ・教育ソフトライブラリの構築

 世界中に分散しているインターネット上の特定のサイトから、学習者が教育ソフト(主にCAIソフト等)を手元にダウンロードして利用するシステムである。このシステムは、複数のサイトに存在する教育ソフトをリンクし、分野別に分類管理された教育ソフトライブラリであり、分散管理データベースとして構築するものである。
  現在、本校にホスト局が設置されいるパソコン通信「えひめ教育NET」によって管理・運営されている数100本の教育ソフトを、イントラネットへの移植作業中である。準備が整いしだいインターネットへ公開する予定である。また、新たに開発された教育ソフトの調査・収集にも力を注いでおり、順次公開したいと思っている。

(3)増殖形学習リンク集の構築

 現在、インターネット上には、無数といえるくらい沢山の学習ソフトが存在している。
 この学習ソフトの評価を行い、適切なものをリンクすることによってライブラリー化を行う。評価は教師や各分野のエキスパートの方々が、基本的にボランティア活動として取り組むことが理想である。そのため、NPO(非営利団体)などを組織して対応するとよい。



48.3 ウェブ・エデュケーション・ライブラリ構想

 「ウェブ・スタディ・システム」と「ウェブ・教育ソフトライブラリ」、「増殖形学習リンク集」の三つを統合化したシステムである。
 世界を対象としたウェブ上の学習空間の構築であるから、世界中の人々に協力・参加していただくことが目標である。




48.4 インテリジェント・スクールの運用場面

 インテリジェント・スクールは、インターネット空間に存在する教材データベースとオンラインによるエキスパート(専門家)のボランティアとしての参加によって構成され、現在の学校教育や社会教育を補完する教育システムである。あるいはこれまでになかった、全く新しい教育システムとして機能することも考えられる未来型教育システムである。以下に運用場面のイメージを紹介する。

(1)学校での個別学習とグループ学習の支援

学校で行われる学習活動の中で、個別・グループを問わず、学習者のレディネスに合った教材を利用して、学習活動に取り組むことができる。例えば、理科実験においてシミュレーション教材にアクセスし、マルチメディアな機能により、教材のオンライン利用を行いながら、並行して実験を進めて行くこともできる。 実験結果は専用ホームページへ登録することで、指導者に対してレポート提出もできるし、場合によっては実験結果の公開によって第三者の意見を求めることも可能である。

(2)在宅個別学習とグループ学習の支援

ウェブ・スタディ・システムやウェブ教育ソフトライブラリを学校以外の場所から、例えば、自宅にいながら、自分に合った方法で学習活動に利用することができる。 また、自宅にいながらマルチメディア機能を利用してグループ学習も可能であり、更に、学習内容によっては、専門家からオンラインで指導を受けることもできる。 不登校や長期欠席者、学力遅進者の対策としても役立つ支援システムとなる。

(3)教育相談システムとして

生徒・保護者・指導者が対面することなく、ある程度のカウンセリングを行うことができる。 しかし、基本的には対面が必要となるため、カウンセリングを補完するシステムとして利用する。 また、場合によってはカウンセリングの専門家からオンラインでアドバイスを受けることも可能である。

(4)資格検定取得システムとしての機能

これからの社会は、生涯学習が教育の大きな分野を占める。様々な職業での専門性が要求され、資格を持つことが評価の対象ともなる。 社会教育では、学校教育と違って、自学自習の場合も多く、このような教育システムは、資格取得にとって、最適の学習システムとして利用できる。 また、実務経験者から適切な指導やアドバイスを受けることもできる。

(5)学校5日制に対応した教育システムとして

ゆとりのできた時間に、自分の考えに応じた学習活動を行うことができる。 この教育システムに対する社会的認知が整えば、学校教育における単位取得制度を補完するものとして機能することも可能である。 また、ボランティア活動等への参加に関して、オンライン上で情報交換を行うことができ、生徒の主体的活動をサポートすることができる。

(6)地域社会と連携した教育活動の支援

地域社会の中の学校教育、地域社会と共に歩む学校教育を実現するための支援システムとして活用する。 インテリジェント・スクールは、基本的に学校と地域社会のコミュニケーション・チャンネルにマルチメディア機能を提供することになる。 このマルチメディア機能を利用することで、学校と地域社会が連携した教育コラボレーションも支援されることになる。



48.5 インテリジェント・スクールの開発と評価

 これまでの教育システムの概念を超えた、まったく新しい社会教育システムとして機能するが、開発には、教育機関と教育関係者、地域社会、全国及び海外の教育関連サイト、学生、ネットワーク運営機関等様々な分野の人々や機関が関係し、システムは常に発展・変化して行く。このような教育システムに対し、公平な評価がなされ、常に改善が加えられなければならない。そのための評価制度や評価機関も必要となる。
 特に評価機関については、インテリジェント・スクールの構成上、前述のNPOによる機関が望ましいと考えられる。



48.6 おわりに

 今、まさに社会は高度情報社会へと移行しつつある。教育の世界においても、社会実態に整合した教育のあり方が求められ、改革作業が急ピッチで進んでいる。
 新100校プロジェクトは、新しい時代の幕開けを告げるにふさわしい、価値ある教育イベントである。この活動の中からインテリジェント・スクールの構想も芽生えてきた。
 いま求められているものは、地域社会を含め、教育関係者の日々新たなる社会に対応した意識改革ではないだろうか。
 新100校プロジェクトへの参加は、教育を取り巻く様々な問題を意識化する機会となった。
  現在では、校内におけるインターネット利用は、生徒・教職員ともに日常化し、教育活動にとって大変素晴らしい刺激となり、来るべき教育の姿を模索する日々である。
 このプロジェクトへの参加は、校内情報インフラの整備を進め、インターネットは、校内どこからでも利用できる状態になった。
 これからは、マルチメディアに対応できる設備の高度化(T1やT2等の導入)に努力して行きたいと思っている。
 また、インターネット教育利用は、未経験なことが多かったが、確認できた教育効果も数多くあった。更に、次世代教育システムとしてのインテリジェント・スクール構想なども、実現化する日はそう遠くないと思っている。