総合的な学習「沖縄に学ぶ」
中学校第2学年 社会科での取り組み

山口大学教育学部付属光中学校 教諭 前原 隆志
同上 教諭 神村 信男


インターネット利用の意図
 本学習は,修学旅行の事前学習と関連して設定された総合学習である。本校では来年度4月中旬に沖縄への修学旅行を計画している。沖縄修学旅行で学習できる要素としては,亜熱帯気候という本土では見られない自然環境にあること,琉球文化という独自の歴史的文化遺産を今日まで継承していること,沖縄戦や米軍基地など平和・人権教育の今日的課題を有していること,観光開発が進み今後の日本人の価値観の行方を問いかける課題をはらんでいることなど,多様なものがあげられる。この学習では,調査,追究の過程においてインターネットや校内のネットワークシステムを利用することで,異文化理解,環境,人権などの内容に関する情報を自分の周りの人,沖縄の人々から収集し,それらを自分の中にある問題点と絡ませて多様な学習体験をする場を提供するものである。なお,この学習は,インターネットを利用して情報を取得しただけではなく,それらの情報を校内ネットワークシステム(ファーストクラスを活用した電子会議システム・・・これをもとにメディアキッズプロジェクトが全国展開されている。以下「メディアキッズ」と呼ぶ)を効率よく活用して,生徒同士や教師との情報交流も行っている。

1  インターネット,ネットワークシステムと学習とのかかわり

(1) テーマの設定
 〜メディアキッズで先輩の体験談や後輩からの質問を聞く
 修学旅行で行く沖縄で「こんなところを見てきたい」というところの情報を,新聞やパンフレットで集める。これをもとに,自分のテーマを設定する。
 設定したテーマをメディアキッズに打ち込んで,前年修学旅行に行った先輩からの意見を聞いてみる。また,次に行く1年生からもどんなところを見てきてほしいか質問を受け付ける。この反応をみて,実際にどこへ行ってなにを調査するかをテーマ化する。

(2) 調査活動
 〜インターネットの検索ソフトで沖縄関係のホームページを探す
 テーマに関わるキーワードから関連あるホームページを探す。ホームページの中から新たなキーワードを発見する。この行き来の中で,自分のテーマをいっそう絞り込んでいく。また具体的な事実に近づく。

(3) 調査内容の交流
 〜メディアキッズでテーマ別部屋を開く
 メディアキッズに,テーマ別の部屋を開設する。この部屋に自分が見つけてきた情報や発見したホームページのアドレスを打ち込んで情報を共有する。
 〜メディアキッズでテーマ別に意見を交わす
 部屋ごとに,お互いの調査に対しての意見を交換する。学級を越えて,お互いの情報や意見の連鎖が作られる。ここに教科担当の枠を越えて,教師のアドバイスも加わる。

(4) 調査のまとめ
 〜メディアキッズで調査結果をまとめる
 調査してきた結果を,メディアキッズ上にまとめる。ホームページから切り取ってきたデータや画像も添付できる。

(5) 提案づくり
 〜インターネットで全国の類似例を探す
 調査をさらに前進させるために,「沖縄は今後こうすべきだ」という「提言」を作成する。提言するためには,単にたくさんの情報を集めるだけでなく,今後を予想するために必要な情報を目的を持って集める必要に迫れる。このとき,沖縄という地域だけに限定した学習ではなく,全国ではどんな試みがなされているかという視野の広がりが生まれる。そこで検索ソフトを使い,テーマに関わるキーワードから全国の事例にアクセスして情報を集める。

(6) 提案の吟味
 〜提言者と取材記者になりメディアキッズ上に新聞記事を作る
 生徒二人がペアを組み,一人が提言者となりもう一方が新聞記者という設定で,新聞記事を作成する。提言者がコンパクトに提言をまとめ,これに対して新聞記者は提言の意図,具体的な方策,反対者の立場,実現の可能性などを問いただす。この問答の中で,提言が多面的に検討される。また沖縄の現状に対する分析が深まる。
 〜メディアキッズで一人一人が教師と対話する
 メディアキッズに送られた新聞記事に対して教師がそれぞれの立場からコメントをする。単なる調べ学習では,生徒の調べ方の深さや量が問題にされるが,「提言」に対するコメントの場合,発想の良さや実現の可能性,新しい情報の存在が問題にされる。教科の枠を越えて教師がコメントしやすい。

(7) 提案の発信先探し
 〜インターネット Eメール先を探し,提言と感想の交流を行う
 提言をふさわしい相手に送るため,発送先をインターネットで探す。インターネットで相手のEメールアドレスを確認し,メール交流を行う。
 生徒の個人情報保護の関係から教師のEメールアドレスに生徒の提言を添付して相手との交流をし,その情報についてはすべて生徒に紹介する。

(8) 授業での紹介
 〜メディアキッズでクラスの感想をまとめる
 授業で,紹介された相手からのメールを教材とし,現地の立場や今後の調査の方向を検討する。ここで学習したことをメディアキッズに感想として書き込む。

(9) 現地調査への手がかりと修学旅行での活動の予定
 〜Eメールで礼状を出す
 友達の感想をまとめ,自分自身の学習に先方からのアドバイスがどのように役だったかを記入して礼状とし,先方に返送し,修学旅行ではメールをくださった方々との交流会を設けることや,取得した情報と現地で得た情報の比較とそれらが自分の課題解決にどう関わったかを検証させる。


2  単元設定の意図

 生徒は,総合的な学習体験の場として秋吉台の自然観察,萩市の地域見学,光市の環境調査,創作紙芝居づくり,ふるさとの祭り調査などを経験してきた。こうした学習を通して,テーマ設定や事前調査,現地調査を進める体験を積み重ねてきた。また,調査内容をもとに自分の生活を振り返って新たな提案をしたり,映像やデータを組み合わせながらプレゼンテーションする体験も繰り返してきた。この結果,生徒は課題学習の手順をあらかじめ見通して学習を進めることができるようになっている。またメディアリテラシーについても,自分が得意な手法を教え合うことで相互補完的に身につけている。本単元では,個人の課題を深め,集団で検討しながら情報のネットワークを作り,沖縄を総合的に捉える学習を進める。そのために沖縄に関する情報を集めさせ,具体的な事実に注目してテーマを設定させて調査をすすめる。
 この調査活動の中で特に重要なのは「提言」を行う学習活動を設定したことである。
 研究対象の調査を進めていけば,確かに情報は増える。その結果,詳細な事実確認ができるし,博識にはなるだろう。しかしその一方で,生徒自身が情報の多さに満足して,調査活動が単なる知識のコレクションに終わるおそれがある。情報の蓄積が何のために必要なのかという目的があいまいになり,情報を自分自身がどのように受け取って,どのように活用して行こうとするのかの見通しをもっていないのである。自己変革を目指す学習では,自分自身のこれまでの知識や体験を揺さぶり,新たに手に入れた情報と既知の情報とのつながりがわかったり,またその落差が明らかになり,その結果として知識や体験が新たに再構築されなければならない。さらに,自分だけでも学習できるという見通しをもつためには「これからどうしたらよいのか」という方針を立てる必要がある。
 そこで,「これからどうしたらよいのか」を明確にすることを第一義として学習を進めるために,「提言」させる活動を仕組んだ。提言はこれからおこるべき将来のことを予測するのであるから,絶対の正解や不正解は存在しない。必要とされるのは,情報のつながりを作り上げる構成力であり,過去を踏まえて将来への未来予測である。それは,「これから何に注目して学習を継続すべきか」という学習の連続性や方向性を生み出す原動力でもある。さらに重要なのは,提言が夢物語の言いっぱなしではなく,相互批判の中で自分が今わかっていることとわかっていないことの峻別がなされることである。提言という能動的な働きかけにより,他からの批判を受け,自分自身のこれまでの学習の意味を吟味せざるを得なくなる。これは学習を能動的にし,自分自身が社会を変革していく主体であることを意識づける。また提案したり反論を受けたりするという双方向の対話を経て,共動性の中で自分自身を発見することにつながる。そこから自己変革がはじまるのである。


3  指導計画

学習内容・学習活動 コンピュータの利用
10 情報収集,テーマの決定 メディアキッズ会議室で先輩の話や後輩からの質問を聞く。
11 調査活動,友達からのアドバイス インターネットの検索ソフトで沖縄関係のホームページを探す。
12 調査・報告活動 メディアキッズでテーマ別に意見を交わす。調査結果をまとめる。
1 沖縄への提言 インターネットで全国の類似例を探す。
2 提言の吟味 提言者と取材記者になりメディアキッズ上に新聞記事を作る。インターネットで交流相手を捜す。
3 提言をポスターにする中間発表 紹介された情報をインターネットで確認する。
4 修学旅行現地調査 紹介された情報を現地で確認するデジタルカメラ等を使って記録し,報告会を行う。
5 修学旅行報告会 下級生に修学旅行の学習成果を報告する。


4  本時案

(1) 本時設定の意図
 生徒は前時までに,自分の調査内容をコンピュータ上に公開し,友だちからのアドバイスをもらっている。本時ではこのアドバイスをもとに,友だちから直接アドバイスの真意を聞いて次の調査方針を立てる。さらに,この調査やお互いのアドバイスが一般公開され沖縄県民が直接見ることができるようになることを知らせ,現地の住民から見た視点を予想し新たに設定させる。異文化としての沖縄を理解しようとしてきた立場から,逆に沖縄県民に問いかけられる形で自分自身の立場を明確にする必要に迫られることに気づかせたい。問題当事者からの視点を加えることによって,自分の立場を明確にして調査に取り組めるようになっていると考えている。

(2) 主眼
・ 異文化としての沖縄に注目し,問題当事者の視点から調査方針を立てることができる。
・ 友だちのアドバイスをもとに学習を深めようとする態度を身につけることができる。

(3) 学習課程

学習内容・教師の問いかけ 教師の対応
1 生徒作品の紹介
・友だちの「沖縄ノート」の優れた点を学ぼう。
・生徒作品の中からテーマ設定や調査方法,表現方法で特色ある作品を選び,メディアキッズ上のメールで紹介する。
・コンピュータ操作の手順を確認する。
2 友だちからのアドバイス
・自分の「沖縄ノート」に対して,友だちはどんなアドバイスをしてくれているのだろうか。
・自分のこれまでの調査が十分だったかどうか,友だちの批評をもとに考えさせる。
・新しい調査の方向が見えるようなアドバイスがないかメールの中から予想させる。
・調査に有効なホームページが見つかった場合,そのURLをメディアキッズのメールに記入して,みんなの共有の情報となるように指示しておく。
3 アドバイスに対する質問
・アドバイスしてくれた友だちに真意を聞いてみよう。
・メールを手がかりにして友だちに直接質問し,自分の今後の調査の方針を探らせる。
・よかった点や,不十分な点,新しい視点などを獲得できるよう,ワークシートを準備し応答の内容を記入させる。
4 新たな視点の獲得 
・沖縄県民の立場から見たとき,どんな視点をもつべきだろうか。沖縄県民に
 「あなた自身はどう考えているのか」
と問われたらどう答えたらよいのだろう。
・沖縄県民が新たな方向を模索していること意識させる。
・本土とは違った歴史的経緯,地理的環境,国際的立場にあることに気づかせ,異文化に接する際に個人個人が留意しなければならないことについて考えさせる。
・沖縄県民からわれわれに投げかけられる疑問を想定させて,沖縄を理解することと自分の立場を明確にすることとが表裏一体であることに触れる。
5 調査活動の方針づくり
 ・今後の調査の方針を作ってみよう。
・メディアキッズでの調査や応答に沖縄県民も直接参加できるようになることを知らせ,そのために意識しておかなければならないことを考えさせる。


5  学習を推進するためのネットワークシステム

(1) ファーストクラスシステム
 この学習で,生徒達が扱った情報について整理してみると,次のような情報がある。
・ホームページから取り入れた情報
・e-Mailで交流した情報
・授業の中で交わされた会話による情報
・交流しあった様子やその内容
・沖縄に関する画像等のデジタルデータ
 これらの情報を互いに共有し,さらにそれらを共有することから次の情報との出会いを確実なものにするためにファーストクラスというネットワークソフトウェアを活用した。
 これは,図のような電子会議室をその目的に応じて設定することができ,その中では,上記のような提供された情報に対しての意見や感想まで書き込むことが可能であり,毎日のように積極的な活用が行われている。このようなシステムを活用することで,ただ単に情報の交流が活発になるということだけではなく,これまで自分がどのような情報を収集してきてその情報が自分たちの追究しようとしている課題に対してどう有効であったかを吟味できたり,あるいは,自分たちが追究してきたスタイルを評価することができるのである。(First Class System → http://www.creates.co.jp)



ワンポイント・アドバイス
 メディア活用の環境について
 生徒たちが積極的にネットワークで得た情報を学習に生かしていくためには,それらを支援している2つの環境がある。1つは,ハードウェア(コンピュータ,ネットワーク,デジタルカメラ)が生徒たちの身近にあり常に使えるという環境にしておくことが必要である。2つめはメディアの活用を授業の中にどう取り入れたらよいか,あるいはそれらを生徒たちの学習にどう生かしたらよいかを真剣に考え,実行している教師が多数いることが大事である。教師が生徒たちの学びに対しての可能性,有効性を追求し,教官室内で研鑽できる人的環境を備えていることが大切になってくる。これらの環境が常に存在していることが生徒たちや教師が共に学び活動(共動性)する意欲を高めることになると考える。