ネットワーク疑似体験 電子取引
--- 体験的なネットワーク感覚をつかむ ---
中学校第3学年・技術・家庭科
山梨大学教育人間科学部附属中学校 鈴木 昇

インターネット利用の意図 
 インターネットの活用方法には様々な様式がある。現代社会では今や一つの市場としても成立するようになってきた。そこで,インターネットでの交流やデータの取り扱いなどをLAN 上で疑似体験し,ネットワークコンピュータの体験的な理解を進め,積極的な活用とともに,その問題点も考えていく。イントラネット的な要素を十分に包含しているので,この学習方法は,様々なネットワーク利用の学習の基礎的な要素を持っているので,様々に応用できる可能性を持っている。

 
1 ネットワーク疑似体験 電子取引
 
(1) ねらい
 新しい学習指導要領の「情報基礎」の学習内容は,「高度情報通信社会」という社会状況の視点からみた,情報活用能力の育成をうたっている。しかし,具体的にどのような題材を用意して指導すべきかは,まだ試行的な実践が多くその有効性は明らかではない。例えば,インターネット上のWWW を活用して情報収集をさせるような実験授業が多く発表表されているが,LAN の基本的な有用性などが体験できる授業は少ないと思われる。
 現代社会で会社同士の交流は主に電子メールであり,宣伝や告知などに一方的な発信の手段としてWWW がといった使い分けがされている。頻繁に利用されているのは,イントラネットと呼ばれる社内情報のやりとりであり,会社内での限られたネットワーク利用の方が現実的である。
 そこで,ネットワークを限られたコンピュータの範囲に限定し,基本的なネットワーク操作を吟味して,その有用性が体験できる題材を設定することに主眼を置くことにした。
 基本的なネットワーク操作として,ファイル転送の操作と通信操作の基本を柱として,いくつかのゲームを体験していくなかで習得させたい。
 
(2) 学習領域の目標
・コンピュータの基本操作に慣れ,文書作成及び保存などの日本語処理が適切に利用できる。
・ネットワーク上での情報の転送や処理の方法をソフトウェアを使って体験し,基本的なネットワーク操作を習得する。
・電子取引などのゲームを通して,情報化社会のなかで,注意すべき問題点を発見し,コンピュータを利用する上での心構えをまとめることができる。
 本校では,第1学年で,コンピュータリテラシーの時間を年間10時間確保し,担任とコンピュータ部会担当者のチームティーチングで指導している。機器などの基本操作と文書作成,電子メールの取り扱いとネチケットについて指導している。このため,技術・家庭科の情報基礎領域で指導する内容は,そのリテラシーの時間の内容を系統的に発展させた内容として位置づけている。そして,今後の情報教育のありかたを考察していく中で,LAN とインターネットでのコンピュータ通信およびコミュニケーションを総合的にとらえた学習計画として立案してみた。
 
(3) 学習の方法について
 情報教育のなかで生徒に理解させるべき内容は多様であり,また機器の操作などについても含めた総合的な能力が必要であったりと,指導の難しさを感じる。この実践では,一貫して体験的に感じとる,という視点で学習内容を工夫したつもりである。電子取引というゲーム感覚によって,ルール遵守の感覚,コンピュータの向こうに人間の心があるという認識,仮の金銭が動くことで犯罪やいたずらという意識との葛藤や仲間の批判の発生など,高度情報通信社会が抱える問題点のいくつかを内包した学習場面を設定した。その問題が発生したポイントを教師が適切にとらえて,ネットワーク社会についてのきまりや適切な態度,処理について指導を入れるという学習形態をとっている。
 インターネット活用の資質をはぐくむための基盤づくりとしてのLAN 内コミュニケーション学習であり,生徒たちが主体的に正しくインターネット活用をするための学習というねらいがある。
 
2 指導計画
 
(1時間目から6時間目は基本的な操作学習のため省略)


タイトル
学習活動



教師の意図


7













WWW InternetのWWWを体験し,ネットワーク上の情報に触れ,マルチメディアソフトウェアの基本操作ができる。 技術室の6台のコンピュータを班ごとに利用し,マウス操作の基本を元に,WWWブラウザソフトの利用方法を体得する。   コンピュータの無効にある情報が膨大であることに気づく  
8 メッセージ 各コンピュータへのメッセージソフトを利用し,コンピュータ同士の情報交換について体験し,マナー良く活用できる。 電子メール以外に,特定のコンピュータにメッセージを送信する機能を知り,LAN内の交流の仕方を体験し,実際に話をしてみる。     とじたLANの中での交流方法を体験する。    
9 ファイル転送中身の点検,削除 画像ファイルなどを他のコンピュータに正しく転送することができる 色合わせのファイル転送ゲームを通してフォルダやファイルの扱い,マウス操作の練習をする。または,音声ファイルをランダムに班に配布し,ひとつずついらないと思うファイルをリレー転送して,完成を競うゲームをしてもよい。     マウスの正確な操作,フォルダという枠の概念    
10














国の情報
収集
目的の国の特色を調べ,適切な画像情報をWWWから取り出すことができる。 英語圏の国を班ごとに選び,その国の特色などのデータをあらかじめ調べたキーワードによって検索し,必要な画像データや文書データなどを取り出す。成果をお互いに評価し合い,検索技術について自己評価する。     実際に公開されている情報の偏り,不適切さの体験  
11 通信販売
遊び1
あらかじめ用意した各班の商品と資金を活用し,メッセージや取引をしながら,品物とお金の交換をすることを通して,不正を防ぎ信頼を高めるためにはどうすれば良いかまとめることができる。 あらかじめ金券ファイルと品物ファイルを均等に配布し,今までのメッセージ機能などを駆使して他の班と交渉し,売り買いをしながらその富を競うゲームをする。その後,電子取引などで問題になることを考え,その防止策について意見交換を行う。   取引という形で交流の場を設定。目的のはっきりした活用方法の体験    
12
13 通信販売
遊び
2
<本時>
2時間目
通信する言語を英語にして,各班は担当する英語圏の国になったつもりで,同様な通信商売を行う。これを通して,用具としての言語とコンピュータについての体験を深める。 国際交流として,国対抗の商品取引に挑戦する。意思伝達の手段として英語を使うことで,あいまいな取引によるトラブルなども体験する。 英語という用具とコンピュータという用具の併用
14
15



情報社会
と生活
情報社会での光と影を知り,どのような心構えが必要かまとめることができる。 今後発展するネットワーク上のトラブルについていくつかの事件を知り,将来ネットワークを利用する上で大切なことをまとめる。     本物を見抜く力の大切さ,情報の曖昧さと暴力  
 
                       図1 指導計画
 
3 利用場面
 
(1) 目標
 今までの学習で得たファイル操作をもとに電子取引を行い,正しく取引ができる。英語を共通語として利用し班で協力しながら効率よく営業できるよう努力する。操作ミスや不正,信頼性の問題を感じ取り実際の利用時の心構えをまとめられる。
 
(2) 展開
 
学習の流れ
留意点
5
←交渉と送金と物品の転送操作の確認
←課題提示,地球をまたぐ遠距離取引共通語を使い,相手の意図を読み取る
各班ごとに交渉相手,商品と価格,売り込み方の話し合う。(社長・専務)

あらかじめ準備した英語メッセージを利用しながら,相手に送信する。(営業部長)

交渉が成立し,安全に物品・送金が完了したら,営業記録をとる。(会計)

情報端末や英語表現のトラブルは先生に質問して解決する(技術サポート)

業績と他の班の反応などから,自分の班の活動方針を修正し,営業を続け

←前回より効率よくした操作の工夫や改善点の記述。英語での取引についての感想と重要度の自己判定,役割相互評価
←情報や物の交流の国際化と簡便化
語学力・機器操作能力の重要性
低い安全性,信頼性,情報の流出,他
具体的な事例の提示
共有場所の危険性について再度確認する。
6 辞書や資料の確認
30 支援のタイミングは,要求された時,重大な操作ミスやマシントラブルが起きた時など。

ネットワーク上の中間搾取や約束違反などについては,会計に記録させる。
全体に規則が必要になった時は,活動を止めて,解説する。
5 情報の再利用の視点
確実で極端な表現
5  事実に基づく説明
 
図2 授業展開
 
(3) 学習環境について
場 所 :技術教室 6つのグループ机6人〜7人構成の生活班
機 器 :Windows95マシン(中古部品などから組み立てた6台)
     10BASE-Tにより,TCP/IPでLAN接続
ソフトウェア:Windows95の共有フォルダ機能
   メッセージ送信 IP Messenger for win32 ver1.32 Rel-3
   アイコン作成  F-BASIC for windows アイコン編集 v1.1
環境構築手順:
 1. 生徒用コンピュータに共有設定ファイルの設定 (共有フォルダなど)
 2. 金庫,倉庫(教師のみアクセス設定),ポスト(フルアクセス)の設定
 3. 教師用コンピュータに各班のフォルダへのネットワークドライブを設定
 4. 教師用コンピュータにデータの配信,削除を実行するバッチファイル設定
 5. アイコン作成ソフトにより,通貨や商品の作成
 6. 通貨アイコンなどの複製と班ごとの振り分け
 7. メッセージソフトのテスト
 8. 各班のコンピュータの画面設定の大まかな共通化
 生徒の分担:
 社長 商品取引の相手の指示,金額設定,会社の経営の責任者
 専務 どんな相手にどんな商品をどれくらいで売るか,買うかの戦略を考える
 営業 実際にコンピュータを操作して,商品と金のやりとり操作をする。
 会計 どんな商品をいくらで,どこに売ったか,買ったか,記録する。
 通訳 英語や,訳の分からない日本語をわかるように翻訳する。
 技術 困ったときに,先生に聞きに行き,トラブルを解決する。
 
4 実践を終えて
 
 Windows95の基本的な機能を利用しただけなので,特別に必要なソフトはない。そのために特殊な操作や,ソフトウェア固有の操作性などを考えなくてよい。生徒の一連の操作は,ネットワークコンピュータを利用するときに頻繁に利用する部分を反復しているので,基本的な操作能力の育成の場があると考えている。
 生徒は,終始楽しい雰囲気の中で,商売ゲームを班単位で楽しんでいるという感覚であった。売り込みのメッセージを送った反応が他の班から返ってくる度に新しいコミュニケーションの方法を感じ取っているようで,営業担当になった生徒は,はじめは他のコンピュータのフォルダと自分のコンピュータのフォルダの区別などでとまどっていたが,後半意識することなくアイコンの転送やメッセージの交流操作を習得し,感覚的体験的にネットワーク概念が意識されながら利用ができるようになっていた。そんな中で,他の班の金銭アイコンを横領する海賊班が現れ,社長会議によって5分間の営業停止処分を決定したりする場面も現れた。2時間ぐらいで,ねらいとしたネットワーク社会の問題点も発生し,教師の指導や説明の機会が生まれた。
 授業観察していただいた先生の感想に次のような内容がかかれていた。 非常に多くの要素を持っている授業だと思う。
・総合学習などの受け皿としての性格
・さまざまな教科と関連させた学習の可能性
・情報教育の基礎的な要素
・モラル,ネットワークのエチケットの要素
・情報化社会での光と影の部分
・国際理解的な要素
・協力,役割分担,など共同作業の要素
 
ワンポイント・アドバイス
 インターネットを活用する前に,その指導者が留意しなければならないのは,「必要があるから接続する」という態度だと思われる。インターネットが世界中に広がったのは,企業や国のトップダウンでできたものではなく,必要を感じた人たちの努力によってここまで進展してきた歴史があるからである。しかし,インターネットという言葉が変質し始めているように思う。誰かが経営している電脳遊園地のような感覚で接している。インターネットは単なる遊び場ではなく,仮想現実でもなく,新しく生まれた世界であり,秩序がある。これからの未来の現実的な生活の場のひとつとして適切に活用していく態度をはぐくむべきであると思う。
 
参考文献
 使えるWindows95ネットワーク編(ソフトバンク)
 
利用したURLなど
 マイクロソフト検索ページ(http://www.jp.msn.com/access/allinone.asp)