ネットワークの広がりを実感させる情報基礎教育
中学校第3学年・技術・家庭科
岩手県湯田町立湯田中学校 奥 秀樹

インターネット利用の意図
 現在,子供たちを取り巻く環境は情報化が急ピッチで進み,ネットワークも複雑に広がり,既存の価値観も大きく変わろうとしている。自分の欲しい情報も簡単に手に入れられるようになってきた。その中で,ともすれば人とのコミュニケーションを必要とせず情報を得る方法のみに固執し偏った考えに陥る可能性もある。
 ここでは,インターネットや電子メール,テレビ電話システム等を利用し,生徒が経験を重ねながらネットワークも広がっていくように仕組み,ネットワークが広がれば広がるほど逆に各個人の相手に対する気持ちや態度が重要になり,相手とのコミュニケーションが大切であるということを実感させたいと考えている。

 
1 通信活用
 
(1) ねらい
  「情報基礎」領域のねらいの中にコンピュータの操作等の実践的・体験的な学習活動を通してコンピュータの社会的な役割を理解させ,情報を活用する能力を養うということがある。今日のコンピュータの進歩,ネットワークやマルチメディアなどの進展の状況,また人とコンピュータのかかわりやコンピュータを介してのコミュニケーションの必要性等も考慮し,ネットワークを段階的に活用した指導計画を立て,実践を試みた。
 
(2) 指導目標
  情報基礎領域において,ネットワークの広がりを効果的に活用し,生徒の心情を揺さぶることで,学習に対する意欲化を図り,意欲を持って学習に臨む生徒を育成する。
 
(3) 利用場面
  テレビ会議システムを活用して,遠隔の2学級を接続し,同じ指導案のもと,同時進行で交流授業を進めた。また,段階的にネットワークの範囲を広げていく中で,事前に電子メールの交換をし,交流がスムーズに流れるようにした。
 
(4) 利用環境
 @使用機種
 ・サーバ        NECPC-9821BP    (Windows3.1)  1台
 ・教師用コンピュータ  NECPC-9821V13    (Windows95 )  1台
 ・生徒用コンピュータ  NECPC-9821ce2    (Windows95 )  18台
             NECPC-9821V12    (Windows95 )  5台
             NECPC-9821V13    (Windows95 )  6台
 A周辺機器
 ・デジタルカメラ    OLYMPUSC-800L               1台
 ・教材提示装置    Victor VIDEO VIEWER AV-110        1台
 B稼働環境
  上記のコンピュータがLAN により接続されており,教師用コンピュータのみがISDNによってインターネットにダイアルアップ接続されている。サーバの関係で,生徒は直接インターネットにアクセスすることはできないが,画面転送によって疑似体験することは可能である。電子メールは,生徒がメモ帳で作成したものを教師側でまとめて送信している。プライバシーの保護の問題はあるものの,subjectに交流相手の生徒名を記入することにした。
 Cその他の利用ソフト
 ・フェニックス
 ・インターネットエクスプローラ
 ・メモ帳
 ・ハイパーキューブ
 
2 指導計画
 
 指導の段階を大きく4段階に分け,生徒は経験を重ねながら,より広いにネットワークにふれるようにする。
指導計画 指導上の留意点
@校内チャット・メール交換
 ☆BBS通信
・校内のLANと通信ソフトを使い,校内でチャットやメール交換を学習する。
・何の知識も技術も身につけていない生徒をいきなり実際の情報社会に出すには危険や問題が多すぎる。校内LANという制限のある中で生徒一人ひとりにIDとパスワードを与え,チャットとメールを体験させる。
・生徒は,与えられた「ヒント」をメールやチャットで交換し,「ヒント」を増やしながら「キーワード」を探し出す。
Aパソコン通信・電子メール
 ☆銀河コスモスネット
 
・岩手県教育センターの銀河コスモスネットに接続し,県内の中学校と電子メールの交換をする。
・校内LAN との違いも学習する。
・ネチケットについても触れ,コンピュータの向こうには必ず相手がいることを確認させる。
Bインターネット・電子メール
 ★インターネットの利用
★インターネットに接続し,本校のホームページを活用しながら,インターネットのあらましを学習する。
★テレビ会議システムを活用した交流の準備として
 交流先の中学校と,電子メールを活用してお互いの学校の様子や自己紹介等のやりとりをする。
★アメリカ在住の本校元ALTとメールの交換をする。
・校内LANやパソコン通信との違いも学習する。
Cテレビ会議システム
 ★Phoenix(フェニックス)


 
★テレビ会議システムを活用し,リアルタイムで情報の交換をしながら交流を深める。
★自分達が授業で制作した作品を活用しながらお互いの学校や生活についての情報交換をする。
・今までに学習したネットワークとの違いも確認する。
★テレビ会議システムでの交流後も電子メールで情報の交換をし,更に交流を深めていく。
 
3 利用場面 テレビ会議システムを活用した学校間交流
 
(1) 目標
 交流を深めながら,どんな良さがあるか体験しよう。
 
(2) 展開
学習活動 活動への働きかけ
1前時の学習の復習をする。

2電子メールを受信し,読む。
3学習課題の確認をする。
・パソコン通信やインターネット等の用語の確認や必要な器材を確認する。
・交流先の中学校から送られてきたメールを紹介し,意欲を高める。
4 課題 交流を深めながら,
どんな良さがあるか体験しよう
 
解決をする。






5 中間まとめをする。



6 課題を深める。

7 本時のまとめをし,次時の予告を聞く。
・交流先の中学校へ,学級や地域の様子を自分達の作品を使って紹介する。
・交流先の中学校から,学級や地域の様子を自分達の作品を使って紹介してもらう。
・お互いに質問や意見の交換,感想発表をする。
・交流を通してわかったことや気づいたことや感想を電子メールとしてまとめる。
・テレビ会議システムの良い点を発表する。
・今まで学習したネットワーク(校内LAN・パソコン通信・インターネット)との違い,長所や短所等を確認する。
・喧嘩メールやいたずらメールを見て,コミュニケーションの大切さについて学習を深める。
・コンピュータとこれからの社会との関わりについて学習することを確認する。
 
(3) 評価
 ・代表が操作や発表をしているのを積極的に観察しているか。
 ・電子メールを意欲的にコンピュータに打ち込んでいるか。
 ・テレビ会議システムの良さや他のネットワークとの違いをまとめることができたか。
 ・コミュニケーションの大切さがわかったか
 
4 実践を終えて 
 
  今回の実践は,本校にインターネットやテレビ会議システムが導入された当時に,ネットワークの広がりを重点にし,その広がりが実感できるよう試みたものである。
   第1段階では校内LAN を使い電子メールとチャットを体験した。生徒は「メール出したぞ」と話をしたり,自分がメールを出した友達のコンピュータのところまで移動し,本当に届いているかどうかをメールと同じように移動して「実感」していた。また,メールとチャットを効率良く組み合わせて使う工夫も見られた。当初,関係ないヒントを故意に送信し,後でパソコン通信の失敗例として紹介するつもりだったが,実際には入力ミスに気づかないで送信したメールがあり,それを使って「間違い」や「いたずら」のメールがあること,その情報が正しいかどうか自分で判断することも指導することができた。授業後の感想は,ぜひ校外に発信したいという声が非常に強かった。
  第2・3段階では,それぞれ,パソコン通信・インターネットの体験をした。はじめて校外のネットワークにふれたわけだが,校内での経験が生き,スムーズに操作することができた。パソコン通信(銀河コスモスネット)では,県内の中学校としかメールの交換ができなかったものの,インターネットでは,全国の中学生と交換できたこと,特に以前本校に勤務していたALTがアメリカからくれた電子メールを読むことでネットワークの広がりを「実感」できたようだ。
  最後に,ネットワーク授業のまとめとしてテレビ会議システム「フェニックス」を体験した。これは,本校と盛岡市立見前中学校とを接続し,同じ指導案のもと,同時進行で授業を進めたものである。交流の中では,自分達が授業で制作した作品を活用しながらお互いの学校や生活についての情報交換をした。生徒は最新の技術を目の当たりにし,発見や驚きの中にも意欲的に発表や発言をした。授業後の感想では,電子メールと違い相手の声や表情をリアルタイムで確認しながら交流を深めることができた点を挙げる生徒が多かった。全員をカメラの前に立たせるには時間が足りなかったものの,自分が実際やっている気持ちで画面に食い入る生徒の姿がとても印象的であった。
 ・今回の実践を通して次のような成果が得られたと考える。
  ネットワークを徐々に広げながら,常に「相手」を意識させることで,コミュニケーションの大切さを理解させることができた。
  交流の中で自分の作品や考えを広く発表することにより,互いに認め合う中で自信を持って取り組むことができた。
 ・また,上記の成果を踏まえ,今後のコンピュータの有効利用を考えると次のような課題が考えられる。
  コンピュータリテラシィやネチケットの学習を徹底させる。
  生徒が自由にインターネットに触れることができる環境を整える。
  実践できる相手校がまだまだ少ない。
 ・まとめ
   生徒は,授業の中でネットワークの広がりを感じながら「自分の考えや作品を互いに認め合う」中で,パソコン通信を活用した学習の楽しさを経験することができたと思う。学ぶことが楽しいものになるとき,学ぶ意欲がわいてくる。学びたいという気持ちを大切にしながら,課題解決を実現するための学習方法を習得し,そしてその方法を自ら活用して新しい体験や知識を習得し,自らの高まりを感じることができれば,次への意欲につながっていくことがわかった。そこには,生徒の学習に向かう主体的な姿勢そのものがあると考える。高度情報通信社会の中での生徒の「生きる力」を育成するためにも,コンピュータを活用しながら,更に活用を深めていきたい。本校では,学校規模も比較的小さく,冬季はすっかり雪に埋もれてしまう地区にある。少人数ゆえに意見や考えにあまり幅がなく,外部との交流も多くはない。そのためにも,他の学校との交流学習や電子メールでの情報の交換等,積極的な活用をしていきたいと考えている。
 
ワンポイント・アドバイス
 今回はフェニックスを使い交流を行った。これは,双方の設備が整っていないと活用できないため,相手が限られてしまうが,デジタル回線をフルに使うので画像・音声ともにたいへん良好であった。
 電子メールやテレビ会議システムを活用して授業をする場合に,交流をより深めるためには,相手のことを事前に知っておくことが大切である。今回は,事前に電子メールを交換することにした。また,交流時には生徒の作品(表や絵)を使い,興味・関心をより高めるとともに,外部からの評価を受ける機会となった。
 
利用したURLなど
 湯田町立湯田中学校  http://www.kitakami.or.jp/~yuda