よりよい郷土佐賀をつくろう

中学校第3学年・選択
佐賀大学文化教育学部附属中学校 藤井 昭三


インターネット利用の意図

 21世紀は情報化や国際化がさらに進展し,先行き不透明の時代である。今後必要になるのは,自分の生活の中から課題を見つけ,考え,解決していく力である。生活の中から課題を見出だしていくには,生徒にとって身近な地域社会である郷土への関わり方が問われなければならない。郷土について学習することは,郷土の伝統や文化への理解を深め,よりよい郷土のあり方を探ろうとする意欲や郷土に積極的に関わろうとする態度を育てる。そのような意欲や態度が,生涯にわたって自ら課題を見つけ自ら学ぼうとする力を培うと思われる。そこで本校では,3年生選択学習において教科の枠をはずした地域参加型の総合学習「郷土学習科」を新設した。「郷土学習科」では,全コースの活動を支えるものとして情報教育が位置づけられている。選択学習中はパソコン室に情報教育担当教師を常時配置し,生徒が必要に応じてパソコンを活用できる体制を整えた。
 今回,「郷土学習科」の大テーマを「よりよい郷土佐賀をつくろう」と設定し,「発信」と「提言」という2つの主体的表現活動を柱として取り入れた。生徒がパソコンを情報収集のためだけでなく表現の道具としても活用していけるようにした。


1  3 年選択「郷土学習科」 よりよい郷土佐賀をつくろう
(1) ねらい
 21世紀にむけ,情報機器を駆使し,心豊かに,かつ主体的に生きる力を身につけるために,次のような生徒を育成することを考えた。
 @自ら課題を見つけ,考え,課題を解決していく力を高める生徒
 A調査・体験活動や創造的表現活動などを通して,主体的に学ぼうとする態度や学び方を身につける生徒
 B郷土についての認識を高め,郷土に愛着をもち,学習成果を地域社会に還元しようとする意欲や態度をもつ生徒
(2) 指導目標
 郷土学習科では情報機器を積極的に活用し,達成するものとして,次の6項目を目標としてあげた。
 @身近な生活の中に自ら学習課題を見つけ,解決の方法を工夫して,課題解決ができるようにする。
 A課題解決にあたっては,体験的学習や創造的表現活動,製作活動などを取り入れて,生徒の興味・関心を高め,成就感や満足感を味わわせるようにする。
 B学習の成果を発表し合うことにより,個々の視野を広げたり,思考を深めたりする。
 C 学習したことを現在の生活と結びつけてとらえさせ,自己との関わりについて気付かせ,進んで生活の向上に取り組むようにさせる。
 D 身近な郷土についての学習を通して,自己と地域との結びつきや生活の中で果たしている地域の役割についての理解を深めさせ,発信や提言を通して地域社会に自分 の学習成果を還元していこうとする態度を養う。
(3) 利用場面
 「郷土学習科」では次のような学習場面でコンピュータを活用する。
 @必要な情報を集める
 A集めた情報を整理・分析する
 B集めた情報を発信のためにまとめる
 C学習研究を発表し意見交換する

(4) 利用環境

図1 本校のネットワーク

 本校のLAN は(図1)のようになっている。ネットワークにつながっている3台のWindows95パソコンとサーバ用のMacを教官室に置き,残りのネットワークにつながったパソコンはパソコン室に設置している。3台のプリンタをネットワーク上で共有している。サーバとしてはMacを利用している。サーバとしては十分な処理能力を持っている。サーバ用のソフトはすべてフリーウェアとシェアウェアでまかなっている。現在,利用しているソフトは(表1)のものである。

 表1 利用ソフトウェア一覧

Webサーバ
MacHTTP
メールサーバ
Apple Internet Mail Server
FTPサーバ
NetPresenz J

 この3つのサーバソフトを1台のMacの上で動かしているが,非常に安定している。今後はファイルサーバの稼動も考えている。現在,全ての生徒にメールアドレス発給しており,調査活動などに活用されている。また,昨年より「パーソナルWebサーバ」を利用してWindows95パソコン上にもWeb サーバを立ち上げた。「パーソナルWebサーバ」を利用することによりCGI などをを利用したよりインタラクティブなWebページが公開できるようになった。


本校のホームページ

2  指導計画
 「郷土学習科」の事前指導ではパソコンが得意な分野を明確に例示し,生徒たちがパソコンを活用していくための指針とした。具体的には「郷土学習科」の学習過程でパソコンが利用できる可能性がある5つのステップを想定し,パソコンを利用した探究活動や「発信」「提言」の見とおしを持たせた。

ステップ 情報活用の方法 利用可能なソフト等
@学習に必要な情報を 集める 情報を収集する
情報収集・選択
電子事典辞書,新聞データベースからの検索,インターネット(WWW,電子メール,CU-SeeMe)
A集めた情報を整理・ 分析する 必要な情報を選択
情報分類
情報仮説検証
新情報の発見・創造
表計算ソフト(グラフ化など),データベース,シミュレーションソフトなど
B集めた情報を発信のためにまとめる 新情報をまとめる
レポート
ビジュアル化
プレゼンテーション
ワープロ,プレゼンテーションソフト,表計算ソフト,データベースソフト,音楽作成ソフト,CGソフトなど
C学習研究を発表し意見交換する 情報発信
情報交換
ネットワークに参加
ホームページ作成ソフト,フォームを利用したアンケート,電子メール,メーリングリスト,CU- SeeMe,ニュースグループ
D得た知識の蓄積と新たな学習課題発見 データベース化と新たな学習課題発見 データベースソフト
問題焦点化ソフトなど
最初のステップへ


 授業中生徒はいつでもパソコンを利用することができる。それを支援するために,情報教育担当の職員が常時パソコン室に待機しており,生徒への支援活動を行った。

 
3  利用場面

探究活動の手順としては,まず生徒一人一人が興味・関心に応じて郷土を題材にした個人テーマを決定する。その際,大テーマ「よりよい郷土佐賀をつくろう」を意識した内容になるように教師側も支援する。個人テーマにそった探究活動は地域社会とのネットワーキングによって体験を重視した活動となる。つまり生徒は人とのふれあいを通して多面的な見方や考え方を身につけ,自分なりの考えを「発信」や「提言」としてまとめていく。
 下の表は個人テーマと各コースとの関係を示している。郷土学習科では各コースがあらかじめ設定されていたわけではない。まず生徒が郷土学習に関する個人テーマを決定する。それらを便宜上9つの小コースに分け,担当者を配置する。次に小コースを4つの大コースにたばねて意見交換ができる場を設定し,共有化を図る。

 
小コース
大コース
佐賀のことばと文化
 文化1
 
(芸 術)
佐賀の伝統文化と芸能文化
佐賀の食文化と服飾文化
 文化2
 
(くらし)
佐賀の歴史やくらしと文化
佐賀の自然
 自 然
佐賀の環境問題
佐賀の福祉・ボランティア
 人 々
佐賀の国際化
I
佐賀の未来像


 ここで,「郷土学習科」H コースの生徒の具体的な活動例をここにあげ利用場面の紹介とする。

H コース 「佐賀の国際化」
@ Hコースの特色
 このコースは,国際理解に興味をもち,郷土佐賀のよさを世界に向けて発信することによって佐賀をもっと国際化したいという願いをもった生徒たちによって構成されている。
A 個人テーマ例

「佐賀城を復元して世界に知らせよう」
「佐賀の観光地を世界にビデオレターで紹介」
「佐賀のオリジナル特産物(不知火逸香口)をつくり,世界の人に知らせよう」
「佐賀の郷土料理とその歴史を調べ,世界に発信しよう」


B 活動の実際 <情報発信>
 「佐賀の観光名所と特産物を世界に紹介しよう」をテーマに設定した2名の生徒は,次のような手順で活動を進めた。

県庁訪問→文献調査→観光地等の決定→紹介文英語表現→イラストマップ→

ホームページ作成→情報発信


 まず,佐賀県庁観光課を訪問し,そのパンフレットを参考にして観光名所と特産物を8つ(有田焼き,吉野ケ里遺跡,温泉,小城羊羹,嬉野茶,むつごろう,ミカンバルーンフェスタ)にしぼって文献調査を行った。その際,外国人への紹介文なのでその魅力を簡潔に表すことを心がけた。上記の観光名所及び特産物の紹介文を英語で表現し,さらに手づくりのイラストマップやさし絵を制作した。それらを取り入れて"Sightseeing of Saga(観光佐賀)" を世界にアピールするホームページを作成した。作成に際しては,情報教育担当者によるホームページの基本的な作成方法のガイダンス後,自分たちで行った。その後,本校ホームページの英語版に掲載し世界へ向けての情報発信を行っている。
 
小コース別発表会では,学校教育課のALTをゲストアドバイザーとして招き,実際に佐賀のことをわかってもらえるようにホームページ紹介を行った。ゲストアドバイザーからは,「佐賀に来る前にこのホームページを見たら,もっとよく理解できたのにね。」と評価していただいた。全体発表会でも中学生らしい手づくりのホームページとして好評を博した。
 生徒からは「自分で自由に計画をたて,複数の先生方の支援を受けられるので,とても意欲的に活動できたこの取り組みを今後もぜひ続けてほしい。」という意見がでた。



4  実践を終えて
 選択教科にパソコンを利用する機会を積極的に増やした結果,確実に生徒の意欲が増し,研究内容に広がりと深まりが出てきた。学習後に行ったアンケートの中では,約90% 以上の生徒が問題解決能力や情報処理能力が身についたと答えている。また全体発表会の様子を見ても,発信・提言内容をパソコンを活用してレポートにまとめたり,ホームページを作成して情報発信を試みたりした生徒が多かった。その一部は本校のホームページに掲載している。
 生徒からは次のような感想が出てきた。

「今までは…「嫌いな佐賀県」というイメージをもっていました。しかし,自分たちで調べていくうちにだんだんと佐賀の歴史や伝統を知り,佐賀についてもっと追究したくなりました。…「大好きな佐賀県」と思えるようになれば,郷土学習科の意義がある。」
「この研究をする上で,課題を解決する力,学習成果を人に伝える力,郷土佐賀への視野が広がるなど,私がこれから生きていくための大切な力がしっかり身につきました。…私も佐賀県人の一人として何かできることを自分で見つけ身近なことから行動すべきだ…。」「郷土学習科は,教科にとらわれず,今まで疑問に思っていたことなどを自由に私たち生徒にまかせて研究させてくれることがとてもすばらしいと思った。」
 これらの声を励みに今後も研究をすすめていきたいと思っている。

ワンポイント・アドバイス

 Mac を利用すれば,UNIXなどの知識がなくても比較的に簡単にインターネットサーバを立ち上げることができる。しかも,特別にソフトを買い足す必要もない。校内にMac があればぜひ試して欲しい。最近では安価にインターネットへの常時接続できるようになった。確かに,プロバイダーなどのレンタルスペースを利用するのも簡単でいいが,やはり,自校でサーバを動かしていれば,何かと便利である。ファイルのアップロードも生徒に体験させることができるし,生徒一人一人にメールアドレスを与えることやメーリングリストを作ることも簡単にできる。


参考文献
 Cyber Barbarians編「Macintoshインターネットサーバー構築術」1995,オーム社。

利用したURLなど
 佐賀大学文化教育学部附属中学校 (http://www.fuchu.pd.saga-u.ac.jp)