科学センターと連携した「しし座流星群」の通信授業
中学校第3学年・理科
倉敷市立南中学校 佐々木 弘記

インターネット利用の意図
 大学や社会教育施設,文化施設などの専門家を講師として招いて行う理科の授業は,教科書の内容から一歩踏み込んだ理科の世界に触れることができ,生徒にとって魅力的なことだと考えられる。しかし,それらの専門家を学校に招くことは,講師や担当教師に負担となり,容易には実現できない。そこで,インターネットを初めとする情報通信ネットワークを活用すれば,空間的に離れた専門施設と教室とを結んだ通信授業が実現できると考えた。

1 しし座流星群
 
(1) ねらい
 平成10年11月18日の早朝に「しし座流星群」が大出現するという予想が報道されたこともあり,筆者の学校でも多くの生徒が早朝から流星を観察していた。実際には,予想されたほど多くの流星は見られなかったが,生徒の天文に関する興味,関心が高いことがうかがえた。そこで,生涯学習施設であるライフパーク倉敷に併設されている倉敷科学センターの天文技師に「しし座流星群」に関する専門的な講義をしてもらおうと考えた。しかし,科学センターにも日常の業務があり,授業日に来校してもらうことは困難である。そこで,PHSやインターネットなどの情報通信ネットワークを活用し,空間的に離れた科学センターと理科室とを結んで授業を行うことにした。生徒に教科書の内容から一歩踏み込んだ専門的な天文の内容に触れさせることをねらいとしている。
 今回の「しし座流星群」の授業は筆者が担当している第3学年の生徒を対象に実践した。
 
(2) 指導目標
 倉敷科学センターのホームページに掲載されている「しし座流星群」の内容をコンピュータで閲覧しながら天文技師の説明を聞くことを通し,「しし座流星群」に関する知識を豊かにし,流星などの天体現象に興味・関心を持つようにさせる。
 さらに,理科室に用意したすい星のモデルや軌道図などを用いて,「しし座流星群」が出現するしくみを理解させ,天体現象についての見方や考え方を養う。
 また,天文技師とのコミュニケーションを通し,科学センターなど身近な生涯学習施設へ目を向けさせることも目標としている。
 
(3) 利用場面
 この授業では,次のような学習場面でコンピュータを活用する。
@ ホームページを閲覧しながら,講師の話を聞く場面
 講演会では,スライドやOHPなどを用い,写真や図を示しながら話を進めることが多いが,この授業では,その代わりにホームページを用いる。本校には,LAN型でインターネットに接続する設備が設置されていないので,スタンドアロンの生徒用コンピュータに,科学センターが制作したホームページの中の「しし座流星群」に関するファイルを事前に保存しておく。生徒は,閲覧するホームページに掲載されている写真や図を見ながら,講師の話を聞く。
 
図1 図2
 
A科学センターの天文技師と生徒との間でコミュニケーションを行う場面
 空間的に離れた科学センターと理科室との間でコミュニケーションを行うために,インターネットのテレビ会議システム(CU-SeeMe)で映像を,PHS電話機で音声を送受信する。生徒が「しし座流星群」が出現するしくみを考え,発表する時に,カメラの前で天体モデルを使いながらそのしくみを説明する。科学センターの講師は,生徒が行う発表をモニターしながら適宜助言を与える。
(4) 利用環境
@使用機種 
・ノートパソコン1台(シャープメビウスMN-6550D/Windows95/モデム28,800bps/ビデオ入出力端子付き)……インターネット接続用
・デスクトップパソコン4台(FM-TOWNSUFMSX53/Windows3.1)……ホームページ閲覧用
 
A周辺機器
・液晶プロジェクター(エイキLC3600)
・PHS電話機(サンヨー PHS-P15)
・スクリーン
 
B使用ソフト
・テレビ会議システム(ルコラCU-SeeMe Ver.3.0)
・ブラウザ(マイクロソフト・インターネットエクスプローラーVer.3.0 for Windows3.1)
 
C稼働環境
 職員室から電話線を理科室まで約100m延長し,ノートパソコンにつないでインターネットに接続した。ノートパソコンのビデオ出力を液晶プロジェクターに接続し,テレビ会議システムの映像をスクリーン上に拡大投影した。また,音声については,PHS電話機にマイクを接続し,ラジカセにつないで理科室の生徒全員に聞こえるようにした。スタンドアロンのFM-TOWNSには,あらかじめ科学センターのホームページの一部を保存しておき,生徒はブラウザでそのページを閲覧した。
2 指導計画
 
指導計画(2/2)
留 意 点
しし座流星群の観察のしかた (観測前)
 
・科学センターや天文関係のホームページから得た観測情報をもとにして,流星群を観察しやすい時刻,方向,場所などを伝える。
・流星の写真撮影やカウントの方法などを伝える。
しし座流星群出現のしくみ
★インターネットの利用 (観測後)
 
・流星が出現するしくみを天体モデルを使って考えさせる。
・PHS電話機やインターネットを使って科学センターの天文技師に講義をしてもらう。
 
 
3 利用場面
 
(1) 目標
・流星などの天体現象に興味・関心をもち,天体を観察しようとする意欲を高めることができる。
・天体モデルや軌道図を用いて,「しし座流星群」が出現するしくみを説明できる。
 
(2) 展開
科学センター
生徒の活動
教師の支援
備考
  1 本時の学習目標を知る。 ・本時は,しし座流星群の出現するしくみを学習することを告げる。
・講師の紹介をする。
PHS電話機
CU-SeeMe
液晶プロジェクター
しし座流星群のホームページ
ブラウザ
すい星,地球のモデル
教材提示装置
軌道図  
・ホームページ上の図や写真を用いながら,しし座流星群について紹介する。 2 講師の話を聴く。 ・机間指導し,ブラウザを適切に使っているか確認する。
・流星群が出現する理由を考えさせる。
・発表に対してコメントする。
3 流星群が出現するのはなぜか考える。
 ・各班での考えをカメラと電話を通して発表する。
・すい星と地球のモデルを用いて,各班ごとに考えさせる。
・カメラと電話を通して,考えが講師に伝わるように工夫させながら発表させる。
・しし座流星群が33年おきに出現する理由を考えさせる。
・発表に対してコメントする。
4 しし座流星群が33年おきに出現するのはなぜか考える。
 ・各班での考えを電話を通して発表する。
・すい星と地球の軌道図に書き込ませる。
・98年の流星群の観測結果ついて紹介する。
・99年の流星群の観察のポイントを説明する。
5 講師の話を聴く。 ・机間指導し,ブラウザを適切に使っているか確認する。
  6 天文に関連した内容について講師に質問する。 ・本時の講義に関連した内容や日頃抱いている天文に関する疑問などを質問させる。
  7 本時の授業についての評価をする。   ・アンケートを行い,本時の授業の評価をさせる。  
 
4 実践を終えて
 
 授業後にアンケートを実施した。「ふだんの授業と比べてどう思うか。」という質問項目に対しては,全ての生徒が,「非常によい」あるいは「よい」と回答していた。また,感想として,「インターネットを通して科学センターの講師の先生の話が聞けてとてもおもしろかった。」「インターネットの映像は,ビデオとはまた違った感じがしてよかった。」「科学センターに行ってみたくなった。」など多くの生徒が積極的な評価をしていた。更に,「私は,今回しし座流星群を見なかったけれど,次回はぜひ観察したしてみたいと思います。」といったように,次回にはぜひ「しし座流星群」を観察してみたいという感想が多かった。従って,この授業は,生徒に天体現象に対して興味・関心を持たせ,天体観察の意欲を高めるという当初の目的は達成することができたと言える。反面,「スクリーンに映した映像が見えにくかった。」「画像が乱れたり,音声が途切れたりしたのが残念だった。」など,機器の性能が満足いくものでなかったことや,インターネットのテレビ会議システムの不安定さなどを指摘するものがあった。また,少数ではあるが,「自分たちの手でインターネットにふれたかった。」という感想もあった。機器の性能やソフトの安定性の向上と共に,生徒一人ひとりがインターネットに接続して利用できる環境の実現が望まれる。
 以上のことから,理科室にいながら外部の専門家の話を聞くという非日常的な授業は,生徒達の理科に対する興味・関心を高めることができたと言える。
 科学センターの講師は,「業務の合間の時間を使って,授業のお手伝いができてよかった。直接,生徒の反応が伝わってこないので,やりにくい面もあったが,今回の授業が,多くの生徒の天文に関する興味・関心を喚起したことがうれしい。ぜひ,次は科学センターに来て欲しい。」と,感想を述べていた。
 今回実践した「しし座流星群」の通信授業は,筆者が所属する倉敷市中学校理科の会で研究実践してきた「専門施設と連携した通信授業」の一環として行ったものである。倉敷市中学校理科の会とは,倉敷市内の中学校理科教師の有志から成る研究グループのことで,定期的に会合を持ち教材研究や情報交換などを行っている。これまでに,理科の会では,科学センターと連携した「部分日食の観察」,岡山大学教育学部動物研究室と連携した「アマガエルの体色変化」,林原自然科学博物館準備室と連携した「モンゴルでの恐竜化石の発掘」などの通信授業を試行実践している。
 
ワンポイント・アドバイス

・通信授業の実践のためには,学校の教育活動に理解を示してくれる専門施設の協力が不可欠である。日頃から,それらの施設が開催する会にたびたび参加したり,手伝いをしたりするなど,関係を密にしておく必要がある。
・専門施設との事前の打ち合わせや教材の準備にかなりの時間や労力を要し,講師や授業者に負担となる。そこで,授業の中のいくつかの場面だけに限定して講師に登場してもらい,打ち合わせの時間短縮を図る。また,授業で用いる教材を新たに準備したりせず,専門施設にあるものを借りたりして,教材準備の負担を軽減する。
・通信授業を行うには,インターネットなどのネットワークのシステム調整や視聴覚機器の設置などの技能が必要となる。通信授業の実践を広げていくために,倉敷市中学校理科の会では,定例会などで技術研修会を行ったり,適宜,インターネット上で通信授業に使えそうなソフトの試用評価を行ったりして,会員の技能向上を図っている。

利用したURLなど
・ライフパーク倉敷科学センター (http://www.city.kurashiki.okayama.jp/lifepark/ksc/index.htm)
・国立天文台 (http://www.nao.ac.jp/index_J.html)
・日本流星研究会 (http://www2u.biglobe.ne.jp/~nms/nmsleo0.html)
・しし座流星群/全国高校生同時観測計画 (http://www.leonids.net)