世界が友達
─ 海外との共同プロジェクトが生徒に与えたもの ─

中学校全学年・国際理解,情報,英語
岐阜県不破郡垂井町不破中学校 柳瀬 元


インターネット利用の意図
 「日本の学校は今のままではいけない!」 初めて海外の学校との交流を行い,初めて海外のコンピュータ教育の先進校と活動を始めた時に強く感じ,今でも心に強烈な印象として残っていることである。
 地球は英語を中心に回っている。日本を除いたところでどんどん英語で交流が進み,新しい技術が,新しい取り組みが交流され,国際人が生み出されている。生徒が社会で活躍する時代…10年後には人や物の移動,そして情報の地球上での移動が,現在の国内と同じように行われることだろう。そんな時代に主体的に生きる生徒を,今育てておかねばならない義務がわれわれにはあるように思う。
 現在ではインターネットの普及により,海外の学校とのテレビ会議,チャット,電子メール交換,共同web作成などの交流が,数年前では考えられなかったほど簡単に,しかも低料金で行うことができるようになった。
 一方,変化の激しいこれからの社会で主体的に活躍できる人材となるためには,さまざまな情報機器を活用し,広く海外に活動の場を求め,さまざまな仲間と共通の目的意識を持ちながら活動していく力が不可欠である。
 インターネットが普及した今,世界中の友達と知恵を絞り合って,さまざまな活動を進めていく環境が整い,しかもその重要性が増してきたと考える。

1 研究主題

   国際感覚を身につけた生徒の育成をめざして
  ― バーチャルクラスルーム(海外の学校との共同web作成)への取り組みを通して
2 主題設定の理由
 昨年12月に告示された新指導要領では総合的な学習の時間の中身が示され,いよいよ国際理解教育や情報教育などへの取り組みを本格的に実践していく時代に入ったと考える。
今回の実践は部活動でのものであるが,そのまま総合的な学習で扱うことのできるものであると考える。それらのこともふまえ,以下の4点をめあてとして主題に迫ることにした。
 @他国の人々と一緒に企画・創造・展開していく楽しさを感じ,更により深く活動していこうとする意欲がもてる。
 A世界の人々との交流を通して,お互いの文化や生活・考え方の違いに気づき,よさを分かり合うなど相互理解を深めることができる。
 B海外の学校とのメールやチャット,テレビ会議をしたり,共同でwebを作成することにより,英語を使ったコミュニケーション能力を高めることができる。
 Cコンピュータをはじめ,さまざまな情報機器を利用したコミュニケーションの能力を身につける。また,それらの情報を加工したりデータベース化したりするなど,情報活用能力を身につける。
3 生徒や環境の実態
(1) 昨年度の実践の成果と課題
 昨年度はイタリアとアメリカの2校と活動したが,使用していた生徒用のコンピュータはFM-Townsであり,直接Windowsで使えるファイルとならなかった。苦労して生徒の作った画像やテキストを変換しながらの交流で,なかなかスムーズな交流にならなかった。制作中のwebページをそのまま印刷して掲示したり,手書きの文章を教師が入力しなおして交流したりと苦労は多かったが,生徒にとっては海外の友達が自分たちと同じように生活し,考え,生きているのだという実感を持つことができた。これまで遠くのことと感じていた海外の学校での生活が,非常に身近に感じられ,興味関心を持って活動していこうとする態度が身についた。イタリアへは私自身も昨年度の冬訪問して、カルロ先生や生徒たちと2日間をともに過ごすことができた。その交流は現在も続き,クリスマスのメールなど、生徒とともに交換し合っている。
 今年度はWindows環境が生徒側に整ったことで,より本格的な交流ができると考える。HTMLの編集の仕方や各種ソフトウェアを自由に使えるようにしてリテラシーの向上を図るとともに,直接海外の生徒とメールやchatなどで交流することでコミュニケーション能力をつけ,国際理解につなげていきたい。
(2) 生徒の実態
 交流の環境は整ったものの,4月の段階では,ほとんど生徒にとってWindows機は初めての出会いである。新しい機器やソフトへの関心意欲は高いが,基本的な使い方から学んでいく必要がある。
(3) 利用環境
 @使用機種  富士通 FMV 1台   ISDN 64K 回線に接続
        富士通 FMV-Towns 41
        富士通 サーバ 1台    画像転送用コンピュータ 1
 A周辺機器  スキャナ デジタルカメラ ビデオカメラ 教材提示装置 プロジェクター ビデオデッキ MOドライブ 画像転送装置 など
 B利用ソフト ブラウザ 統合ソフト CU-SeeME ホームページ作成支援ソフト 翻アニメーション作成ソフト 音楽作成ソフト Java-studio   ビデオ編集ソフト Real-Video,Encoder QuickTime 翻訳ソフト など (オンラインソフト含む)
4 実践内容
 以下の表中の網掛けの部分は教師側の実践をあらわすものとする。また,表中にはないが,7月以降は教師の,9月からは生徒も含めてchatTV会議を頻繁に行っている。
      実      践
4 ・年間活動の見通しを持つ
・Windows基本操作を習得する
(起動・終了・スタート・コピー・切り取り・ペースト・削除等)
5 ・統合ソフト(cube for windows) の使用の仕方をかいた掲示物の作成
・表計算ソフト、ワープロソフト、図形作成ソフトの使い方を習得する
・GIFアニメーションの仕組みと作成の仕方,webページへの組み込み方を習得する
・各種タグの編集がメモ帳やエディタを使ってできるようになる
・wavファイルのwebページへの組み込み方を習得する
・タグの編集の仕方支援画面(サーバーに各タグの使い方のヘルプ画面をHTMLで
 作っておいて,生徒が必要なときに見に行けるようにした)の作成
6 ・数名のグループでのテーマ別webページ作成(海外の学校との共同webページ 作成の練習として)活動計画の作成
・教室内LANでのメールのやりとり(同じチームの生徒同士で,作品の構成や分担,出来具合や制作を進めていく段階での問題点などを打ち合わせるのに使った),ネチケット(メールのやりとりにかかわって)について知る
・日本各地,海外の学校や動物園などの施設とメールを交換して情報収集する
・図書室の資料や地域の素材(祭や文化遺産など),役場の資料やパンフレットなどからの資料収集
・手紙をやりとりしたり,写真を送ってもらったりしながらwebページをより豊かなものにする。     ・ドイツ,イタリア,カナダの生徒とのメールによる交流
7 ・サーバからの各種データの 取り込みと利用
・背景画面の作り方(グラフィックソフトを利用して,明度やコントラストなどを調節して,背景として適した画像にする)や入れ方を知り,工夫してページを作る。
・MIDIファイルの作成の仕方 を知る
・マップエディタの使い方を知り,webに組み込むことができるようにする
・グループ作品交流会

 写真1 みんなで作品を認め合う
8 ・3年生評価カード記入,下級生へのメッセージ作成 ・アメリカ(パーシージュリアン中学校),オーストラリア(マーリストカレッジ)
 との交流開始
・メールやチャットを使って,教師同士の自己紹介,学校や生徒についての交流,
 今後の活動計画の打ち合わせ
・教師や生徒が使えるソフト,技能の交流
・3校の教師で生徒につけさせたい力,めあての確認と共通理解
9 ・生徒の活動計画作成 ・生徒自己紹介の作成(英文)
・参考例,よく使う言葉の提示など
10   ・共同で作成するwebのアイデア討論
 
 
 
  写真1,2 オーストラリアの生徒がサイトマップを考えているところ
 
・テレビ会議による自己紹介
・プレゼント交換 (旗,色紙,ポスター,硬貨,ビデオテープなど)
・生徒とともに教室掲示(プレゼントや海外の生徒の自己紹介など)
 
  
 
 写真3 日本からの送った色紙を見る   写真4 コンピュータ室への掲示
          アメリカの生徒
 
・5つのサブテーマ(恐竜の時代,国の始まり,政治の始まり,災害を乗り越えて生きていく人々,私たちの未来)の決定と各校の生徒のグループ分け(学校間を横切る役割分担の決定)
11 ・キャラクターや部品,アニメーション,音楽の創作開始 ・制作したキャラクターなどについての意見交流と改良(キャラクターの数,キャラクターのそれぞれの性格付け,ストーリーの再確認なども含む)
・サイトマップについての意見交流と改良,それにしたがってwebの制作
・制作したwebページの流れ(オーストラリアの数人の生徒がJAVAを使ったページ移動を作成)についての意見交流,改良
・テーマ音楽の決定
 
 
     
   写真1 友達と相談しながら修正したキャラクターを確認する
 
・テーマ(グループ)ごとの資料収集とwebページ作成開始
・テーマごとのフォーラムでメール交換しながら,ページについて共通理解を図っていく
12 ・クリスマスプレゼント及びメールの交換
・web作成のためのデータ収集とweb作成(お互いの文化比較もしながら)
・テレビ会議による海外の学校との交流

  
 写真2 アメリカやオーストラリアの学校での本校とのテレビ会議の様子
 

1 ・ビデオ編集ソフト,ストリーミングビデオについて,アニメーションソフト,3Dソフトの使い方の学習(冬季休業日)
・webページの各テーマ毎の内容作成
webページのコンセプトの再検討,ページ制作上の問題点と改善
2 <以降予定> webページ仕上げ,まとめ
3 ・海外の生徒との,共同活動にかかわる評価と反省(海外の学校とともに) ・年間の活動の評価と反省,次年度へ向けて計画づくり

 
5 現在までの成果と課題
(1) 成果
・海外の学校との交流では,生徒は知的関心を持って活動していくことができた。海外の友達のアイデアや提案を受けていろいろと考えたり,テレビ会議やメールなどで自分をアピールしたりする姿がみられた。教室内に活気があふれ,海外の仲間と一緒にどんどん活動していこうとする雰囲気がでてきた。
・生徒と共に教室環境を工夫し作り上げていくことで,海外の友達をより身近に感じたり活動への雰囲気を盛り上げていくことができた。メールやインターネットを通じての交流だけでなく,実際の手紙やプレゼントを贈り合うことで友情が一層深まった。
・オーストラリアとアメリカの生徒,それぞれの考え方(思考傾向)を,生徒と共に知ることができた。また,それを生かして交流していくことができるようになった。また,オーストラリアとアメリカの生徒のテレビ会議から,同じ英語圏でもイントネーションが違ったり表現が違ったりと思いがけない発見があって楽しく活動できた。
・海外の生徒の優れた技能にふれたり,逆に本校の力を他校に出していくことで,お互いに生徒同士が磨き合い,高まり合っていく姿もでてきた。日本の生徒が描いた絵にオーストラリアの友達が3Dの色を付け,それを今度はアメリカの生徒がアニメーションにするなど,お互いの持てる力を利用しながら共同で作品を作っていく力がついた。
・日本から送ったアニメーションが文化の違いで理解されにくかったり,逆に他校からのメールに質問を出したりなど,交流の中で大きく理解を深めていくことができた。
・教室内に手紙のコーナーやメールのコーナー,海外の友達のコーナー,困ったときに見に行くコーナーなどを作ることで,目的を持って教室環境を利用するようになった。
・教室内のサーバーにオンラインヘルプを作ることで,webページ作成で困ったときに友達と協力して,あるいは自分で解決していこうとする姿になった。更に,さまざまなソフトを利用し,海外の友達や友人が活動していたようなことを目指していこうとする姿が見られ,自己教育力の高まりを感じる。

(2)課題

・生徒にとって海外との交流の壁になるのはやはり英語である。絵や写真,テレビ会議などを頻繁に行いながら進めたが,いかに英語の壁を乗り越えながら活動を進めていくかが大きな課題といえる。
・今回の活動では,放課後はもちろん昼休みや朝,休日などもフルに使いながら行った。総合的な学習などでの位置付けがはっきりすれば解決されるだろうが,現時点では時間
の確保が難しい。

ワンポイントアドバイス
 活動していく中で,3年生の生徒の中には自分の今後の進路を変えていく姿もあった。また,他の学校生活では内気な生徒でも,目を輝かせて活動している姿があった。生徒にとって非常に大きな影響力を持つ活動であるといえる。
 海外の学校の生徒との活動を成功させるには,とてつもなく膨大な時間と労力が必要になるが,活動の中で得るものはその比ではない。国際感覚を身につけた生徒たちにとって,きっと将来,今回の活動を土台にして社会で活躍する日が来ると思う。

利用したURLなど
AT&T Virtual Classroom Contest (http://www.vc.attjens.co.jp/)