理科課題研究のホームページ作成による情報発信能力の育成

高等学校 理科

茨城県立岩井高等学校 齊藤 達也


インターネット利用の意図
 現行の高等学校学習指導要領では,「自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に適応できる能力の育成」,「個性を生かす教育の充実」を唱っている。理科の課題研究では課題研究のテーマを生徒が考え,研究計画を自ら立て,さらに課題研究の成果をまとめ,発表することを通してそのような趣旨にあった展開が可能である。テーマの設定をするときの情報源としてインターネットを利用し,また課題研究の成果をホームページにまとめることによって,情報活用能力,情報発信能力も併せて育成できるのではないかと考えている。
 インターネットは,教育のツールとして活用の可能性を持っていると考えている。

 
1 はじめに
 岩井高校は,1学年8クラスの全日制普通科の学校で,1年次は全クラス同じ教育課程であるが,2年次より就職・専門学校進学希望者を対象としたT類型4クラスと大学・短大・医療係専門学校・専門学校進学希望者を対象としたU類型4クラスに分かれる。理科については,1年次は化学TB(4単位)を全員履修し,T類型では,2年次は物理TBと地学TBのいずれか(4単位)の選択,3年次は生物TB(4単位)を履修する。一方U類型では,2年次は物理TBと生物TBのいずれか(4単位)の選択,3年次は他教科との選択もあるので,物理U,化学U,生物U(各4単位)のうちから2年次の履修と関連させて,1科目か2科目を選択している。今年度の物理Uは59人,化学Uは50人,生物Uは38人の生徒が選択している。
 岩井高校では100校プロジェクトによって平成7年度にインターネットに接続してから,クライアントを徐々に増やし,平成7年度末にCAI教室にある45台のパソコン全てでインターネットが利用できるようになった。今回課題研究に取り組んだ生徒たちは,平成8年度入学なのでそのような環境の中で入学し,高校生活を過ごしてきた。しかし,入学当初に簡単なパソコンとインターネット利用に関するガイダンスを行った後のインターネットの利用経験は,生徒によってかなり差がある。インターネットに興味を持ち,自発的に放課後CAI教室に残って,インターネットを国際交流などに利用してきた生徒以外は,授業を担当した教師がインターネットを授業に利用したかによってかなりインターネット利用の経験には幅がある。生徒の中には,自分でホームページを作成している生徒もいるが,入学直後のガイダンス以降パソコンに触れていない生徒もわずかだがいる。
 昨年度は,土田教諭が担当した物理Uの課題研究において,課題研究のまとめにホームページの作成を行った。今年度は,筆者の担当している化学Uで課題研究のまとめにホームページ作成を計画した。化学Uは標準単位が2単位であるところ,4単位なので時間的な余裕はあるように思えたが,1年次の化学TBでやり残した部分があり,また復習も必要なので,課題研究にさける時間は,それほど多くなかった。理科の課題研究におけるホームページの作成を行った実践を報告し,その有効性について考えたい。
 
2 課題研究の実施
 課題研究は12月の2学期期末試験終了後から始めるられるように,教科書内容に関する授業をそれまでに終了するように予定した。また,器具や薬品の準備に日数を要する可能性があるので,課題研究のためのグループ編成及び研究テーマの決定を9月に行うこととした。課題研究の計画は次ページの表1のように考えた。しかし,実際には計画通りには進まなかった。
(1) 課題研究の予告
  1学期の終了前に課題研究の実施計画について説明し,夏期休業中に課題研究で行う内容について考えてくるように指示した。
(2) 課題研究テーマの設定
  課題研究のテーマで必要とされる器具や薬品の準備のために時間が必要なので,課題 研究のテーマの設定は9月に行うこととした。
 @グループ編成
  化学Uを選択していた5・6組の26人,7・8組の24人をグループ分けした。
  全員が必ず活動に参加するようにグループの人数を3人以内とし,生徒たちにグループ編成を任せることとした。
 A研究テーマの決定
  課題研究のテーマは,化学に関連した内容であれば,何でも良いということで,生徒たちの興味や自主性を尊重することとした。テーマの選定に関して,図書室や筆者が準備した書籍やインターネットの情報検索を利用することとした。
  生徒たちが選んだテーマは,表2のように楽しい実験が中心であったが,授業で扱った内容を発展させたものも若干あった。テーマについてはあまり干渉せずに,研究対象へのアプローチの仕方や進め方でアドバイスしていくこととした。
 B必要な器具・薬品のリストアップ
  課題研究に必要な器具や薬品のリストも含めて,研究計画書を作成させた。
(3) 器具・薬品の準備
  必要な器具・薬品については,生徒が準備するものと学校で準備するものに分け,学校で準備するものについては業者に発注した。
(4) 研究準備・予備実験
  計画では11月中に教科書内容の授業を終わらせ,2学期末試験終了後から課題研究を始める計画であったが,実際には終わらなかったため,課題研究の始まりは1週間ほど遅れてしまった。実験に必要な器具や薬品をグループ毎に割り当てた箱に準備させた。
 また,準備ができたグループは予備実験を行った。
(5) 研究の実施
  一部のグループを除いて,研究に本格的に取り組み始めたのは1月の3学期が始まってからになってしまった。選択授業のため,時間割変更が難しく,50分の授業時間の中で研究を進めていかなければならないので,時間のかかるテーマではなかなか進展しないグループもあった。大学受験を控えた生徒もいて,放課後残ってまで研究を続けるグループはなかった。
(6) 研究成果のまとめ
  研究が一応終了したグループから報告書とホームページの作成に取りかからせた。ホームページ作成はCAI教室で行ったが,CAI教室を他教科の授業で使用していたこともあり,いつでも自由に使える状態ではなかった。そのようなときは,図書室で書籍やWWWの検索によって,各グループの研究内容と関連する情報を検索し,研究成果のまとめに反映させるように指示した。この時期は,化学室で実験を続けるグループの指導もあったので,ホームページ作成の指導は十分に行えなかった。課題研究が順調に進み, ホームページの作成にも慣れている生徒たちが,他のグループのホームページ作成の支援を行った。



計画内容(使用時数)

インターネット

利用の場面


授業の計画
 

生徒の活動

教師の活動

・グループの編成
・研究テーマの検討
 と決定(2時間)
・研究に必要な器具と薬品のリストアップ(1時間)
・課題研究計画書の 作成・提出
(1時間)

・課題研究の概要説明・課題研究計画書用紙の準備・配布
・ホームページ作成方法の概要説明


・器具・薬品の発注
 

・理科教育関係のリンク集を活用した情報収集

・ホームページ作成方法の理解
 









 
10       2学期中間試験
11       教科書内容の授業終了
12






・研究の準備,予備実験など(2時間)
   ↑
 課題研究(6時間)
   ↓
・報告書の作成
・ホームページ作成
(3時間)
・課題研究の開始




・ホームページ作成方法の指導
・課題研究の評価





・ホームページの作成
 
2学期末試験

冬期休業




卒業試験

 
 
 
         表2 課題研究のテーマ

    5・6組     7・8組
グループ テーマ 人数 グループ テーマ 人数
56-1 石鹸を作ってみよう 78-1 食品添加物の検出
56-2 マヨネーズから真珠? 78-2 シャボン玉の実験
56-3 テルミット反応 78-3 ヨウ化窒素の爆発
56-4 じょうぶなシャボン玉 78-4 燃料電池の原理を探る
56-5 パソコンによる計測 78-5 ダイヤモンドの合成
56-6 巨大結晶 78-6 化学兵器とは?
56-7 寒剤の威力 78-7 アセチレンの燃焼
56-8 化学反応と噴水 78-8 身近な消火
56-9 きれいなろうそく 78-9 バケツ電池の起電力
56-10 炎色反応 78-10 花火を作ってみよう
56-11 鏡を作ってみよう        

 
3 ホームページの作成
(1) 作成環境
 @使用機種 NEC PC-9801 BA3(i486DX2 66MHz, RAM:35MB, HDD:1.2GB),(Windows95)
 A周辺機器 イメージスキャナ,ビデオキャプチャーボード,アナログビデオカメラ
 Bネットワーク環境 OCNエコノミーによる常時接続
  10BASE-2をバックボーンとしたハブとクライアント間は10BASE-Tによる接続。
 Cソフトウェア
  WWWブラウザ(Netscape Navigator Gold 3.01),テキストエディタ(秀丸エディタ),
  FTPクライアント(WS_FTP Limited Edition Version4.04),グラフィック(PaintShopPro)
(2) ホームページ作成の指導
 本校では,生徒用にいくつかのマニュアルを用意している。パソコンの基本操作のための「Windows95入門」,WWWの使用法については「Netscape Navigatorの使い方」,電子メールの使用方法については「AL-Mailによる電子メール入門」,ホームページ作成については「Webページを作ろう」という冊子を用意し,それらを綴じたファイルをCAI教室のパソコンの各テーブルに常設している。また,100校プロジェクト副担当の入江教諭が作成したホームページの作成支援のためのページやツールを学校のホームページ上で提供している。
 作成手順については,9月の課題研究の準備段階の時にCAI教室で前年の物理Uで行った課題研究のホームページや他校の課題研究のページを紹介したときに簡単に説明を行った。その時,放課後などを利用して,個人のホームページ作成にチャレンジするように促した。ホームページ作成については,課題研究の報告をまとめる時期に,もう一度指導する予定であったが,課題研究の指導に時間を要し,実現できなかった。
(3) 作成手順
 @テキストエディタを用いて,課題研究の報告内容を打ち込み,テキストファイルとして自分のフロッピーディスクに保存する。
 Aイメージスキャナを使用したり,ビデオ画像からキャプチャーして,必要な画像をパソコンに取り込み,画像処理ソフトで修正などを行い,JPEGファイルとして保存する。
 BテキストエディタとWWWブラウザの両方のウィンドウを開いておく。
 Cテキストエディタで,@のテキストファイルにHTMLタグを記述していき,HTMLファイルとして保存する。
 DWWWブラウザでCのHTMLファイルを読み込み,表示させ,テストを行う。
 Eテストの結果,問題があればHTMLファイルを修正し,上書き保存する。WWWブラウザでリロードして,テストを行う。これを繰り返し,ホームページを完成させる。
 F完成したHTMLファイル及び画像ファイルなどをFTPクライアントソフトを利用して,サーバーの自分のディレクトリのPublic_htmlディレクトリに送る。
 G岩井高校のホームページからリンクを張る。
(4) ホームページの評価
  現在,まだグループによっては実験などが終わっていない。また,ホームページの作成に取りかかったグループもまだ完成していない。最終的に2月初旬まで成績を提出しなければならないので,残り少ない授業時間では足りない場合は放課後の時間を使って,
 報告書とホームページを完成することになる。評価はこれからとなるが,課題研究の中でのホームページ評価の観点としては次の様に考えている。
 @課題研究の内容を十分に他者に伝え得るか。
 Aグループ内での協力が十分行われたか。
 
4 課題
(1) 実施学年・実施時期
  本年度は昨年の反省をもとに,課題研究の準備を9月に始め余裕を持って実施できるように計画したつもりであったが,実際には時間が足りなかった。この1つの原因は,実施した化学Uの授業は選択なので,授業交換が難しく,数時間にわたって連続した時間がとれないため,研究が進展しなかったこともある。また,実施した3年生のこの時期は大学受験の生徒にとっては,大変な時期で放課後などを使ってまで課題研究に取り組む余裕がないことも重なった。
  今後,今回の反省を生かして週1時間程度で4月当初から年間継続した課題研究について検討してみたい。また,他教科の協力も必要だが,時間割編成時に2時間連続の選択授業の時間帯の設定が可能かも検討してみたい。
(2) 研究テーマ
  研究テーマは化学に関連すれば何でもよいということで,生徒たちの自主性に任せ,その中で彼らなりにテーマを掘り下げていってくれればと考えていた。しかし,実際に体験したという意義はあったものの,多くは参考図書などの内容の域を出ることもなく,独自性を発揮した研究は僅かであった。
  今後は,課題研究のテーマの設定においてより独自性を求めること,また,そのためにより詳細な研究計画書の作成の指導が必要であると考えている。
(3) 情報発信能力の育成
  課題研究の成果をホームページにまとめることを通して,情報発信能力を育成するということを目指したが,実際には時間が足りず不十分な結果となった。課題研究でのホームページ作成は今後も継続していくが,プレゼンテーションなども含めた情報発信能力の育成はいろいろな教科のいろいろな場面を通して行うべきだと考えている。
  そのためには,現在本校において入学当初に行っているパソコンとインターネット利用に関するガイダンスをもっと発展させて,1年生の前半で1単位でも行えればと考えている。新教育課程で導入される情報に関する教科に期待したい。その教科で身につけた能力を,高校での学習活動全般に活用していければと考える。
 
5 まとめ
 今年度は,化学Uの授業で課題研究を行い,その成果をホームページのまとめるという実践を試みた。不満足な結果となってしまったが,今後も改善しながら実践を継続していくつもりである。今回の,課題研究の実践で一番の収穫は普段の一斉授業ではなかなか見られない,生徒たちの生き生きした姿や自主的に取り組む姿勢である。指導方法などを改善することによって,生徒たちの持つ可能性をもっと引き出すことができると確信した。

 

ワンポイント・アドバイス

 ホームページの作成は,テキストエディタでHTMLファイルを作成していく方法で行ったが,WWWブラウザ付属のHTMLエディタやワープロソフトを利用するなど,ホームページ作成をもっと生徒が手軽にできるようにしたほうがよいかもしれない。
 画像のほとんどは1台のビデオカメラで撮影したものを,ビデオキャプチャーカードで取り込んだが,グループ独自の活動を保証するためには,グループごとに使えるデジタルカメラなどがあるとよい。

利用したURL及び参考文献
・インターネット版【理科の部屋】(http://www.katsurao-jhs.katsurao.fukushima.jp/RIKA/index_ja.html)
・理科教育メーリングリスト(http://rika.ed.ynu.ac.jp/)
・大門高校の学習活動 (http://www.daimon-hs.daimon.toyama.jp/study/study-j.html)
・HTMLタグ一覧 (http://www.iwai-hs.iwai.ibaraki.jp/~irie/html-tag.html)
・HTML Editor & Viewer (http://www.iwai-hs.iwai.ibaraki.jp/~irie/javascript/html-edit/)
・盛口襄・高田博志著 「いきいき化学アイデア実験」新生出版,1990
・科学の実験編集部編 「化学実験」共立出版」,1977