グループ研究におけるホームページの制作とプレゼンテーション

高校2年生 家庭科(生活技術)
神奈川大学附属高等学校 家庭科 小林 道夫


インターネット利用の意図
 本校は中高6カ年一貫教育を実施しており,中学1,3年の技術・家庭科の「情報基礎」領域で,コンピュータの基本操作,ワープロ,表計算,グラフィックス,インターネットの活用といった学習を行っている。高校では2年次の家庭科「生活技術」の家庭生活と情報の単元でコンピュータを使った学習を進めている。中学から始めた情報教育を進めるため,インターネットの活用を中心にホームページ検索を利用してのレポート作成,個人ホームページの制作,グループ研究によるホームページ制作といったカリキュラムを編成し,実践している。

 
1 グループ研究によるホームページ制作
(1) ねらい
  本校のコンピュータ教室は朝7時30分〜午後6時まで解放されており,すべてのパソコンはインターネットに接続され生徒は自由に使うことができる。このような環境からコンピュータ,インターネットに対する興味・関心は高く,多くの生徒がコンピュータをもっと使えるようになりたい,という願望を持っている。また,授業では,使い方の説明やインターネットに関する情報を熱心に聞くとともに,得意な生徒はすすんで他の生徒に教えたり手伝うといったことも自然にできている。このことから,生徒の学びたいという意識が大変高く,それだけ授業での課題設定が重要であることがわかる。
  今回の学習課題は,生徒自身に自分の取り組む課題を意識させ,自主的に学習を進めさせるというものである。つまり,やらされている学習から自ら課題を設定し解決していくという試みである。生徒たちは,テレビ,ゲーム,雑誌を中心としたマスコミュニケーションから情報を与えられることに慣れている。学校教育においても自分で考えて意見を述べるということよりも,教師からの情報をインプットし記憶するということが中心となっている。このことから脱却し,生徒自ら考え,テーマを決め計画をたてて活動していくことが今回の課題のねらいである。
 
(2) 指導目標
  高校2年前期までに,インターネットのしくみ,ホームページ検索,HTMLを使ってのホームページ制作を行った。ホームページで情報を検索し,レポートにまとめることや,簡単な画像処理,HTML言語を使ってのWeb制作もできるようになった。そこで,今回は10月〜3月までの約17時間を使い2〜3名のグループを編成し,グループ研究を行うこととした。研究テーマは自由とし,生徒自らがテーマを考えることによって,人から与えられたものではなく自発的に問題意識を持ち,取り組ませることとした。インターネット,書籍,現地での取材,街頭でのインタビュー,クラスでのアンケートなどの情報収集手段の中から最良な方法を見つけ,研究,調査を実践することによって,自ら解決していこうとする力を育てることができる。研究成果はホームページにまとめ,テキストをはじめ画像,アニメーション,映像,音声といったマルチメデアWeb作品の制作を行い,最後にプレゼンテーション(発表会)を行うこととした。
  研究テーマの決定,ホームページの構成,係り分担,活動計画など,グループ内で決めなくてはならないことがたくさんある中で,リーダーがいかにリーダーシップを発揮し,グループ内での協力を得ることができるかが,研究活動を進めるうえで重要 なポイントとなる。また,グループ活動をリーダーに任せることのないよう,生徒ひとりひとりに活動を意識させ,計画をたてさせた。研究テーマを自由にすることは,グループ内での活発な意見のやり取りや,活動の活性化につながると考えた。
 
(3) 情報の収集
  情報収集手段としては,ホームページ,書籍,学校内でのアンケート,百科事典CD-ROMなどが主なものであった。ホームページを活用する場合,検索する時間や正確さが問題となる。そこで,Yahoo,Infoseek,gooといったサーチエンジンの使い方を習熟させ,次の点に注意させた。
 @調べる内容,キーワードをはっきりしておくこと
 A官庁,研究所,大学など公式ホームページを検索し,正確な情報を見つける
 B必要なキーワードから,より詳しく書かれているホームページを探す
 C該当するホームページが数多くに見つかった場合,キーワードの条件を絞っていく
  グループによってテーマは異なるため,情報収集のために利用するホームページは様々である。
  例として,地球温暖化対策について研究しているグループでは,
 @現状を把握する。⇒環境庁 http://www.eic.or.jp/
 A問題点を見つけ,調べるポイントを絞る。
 B対策方法を研究している機関の情報を探す。⇒『地球温暖化・防止』総合リンク集
                        http://www.ktx.or.jp/~kenkou/link/linkco2.html
 C問題に直面している団体や個人の情報を探す。
    ⇒地球温暖化防止情報 自治体の取り組みhttp://www.pref.saitama.jp/kankyou/index.html
といった具合で作業を進めた。グループ内で分担して作業を行うので,論点がずれないよう毎時間作業の進行具合をチェックさせることとした。

(4) 情報の整理
  調べた内容をまとめたり,次回の授業で継続して調べる場合,次のよう方法がある。
 @ホームページアドレスをブラウザソフトに記憶する。
   ⇒ブックマーク,お気に入りにホームページを追加する
 A必要なページをプリントアウト(印刷)する。
 Bホームページに書かれた文書(テキスト),写真やグラフをパソコンのハードディスクかフロッピーディスクにダウンロード(保存)する。
  ここで注意しなくてはならないことは,ホームページに公開されている内容は制作者に著作権が存在するということである。自分たちの研究のためとはいえ,他人の論 文をそのまま使ったり,写真やイラストをそのまま持ってくることはできない。このことは,このような研究活動を行う上で最も重要な部分となる。そこで,生徒たちの活動で,他人のホームページを引用する場合やリンクをはる場合,以下の点に留意させた。
 @文章,写真,イラストを引用したい場合またはリンクをはる場合,ホームページ制作者にメールで,承諾を得る。承諾が得られない場合は,引用しない。
 A文章を参考にしたい場合は,最後に参考文献と同様にホームページ名,制作者名,URLを明記する。
 B書籍,雑誌にある写真,イラストも同様の扱いとし,メール,電話を使って生徒各自で責任を持って許可を申請する。
 
(5) 利用環境
 @使用機種 パソコン:Apple Macintosh LC575 (漢字Talk7.1)
 A周辺機器 プリンター:HP DeskWriter694C,デジタルカメラ:SONY Mavica
         デジタルビデオ:SONY DVCAM
 B稼動環境 ネットワーク環境 ATMネットワーク3Mbps,校内LAN敷設
 Cその他の利用ソフト Netscape Navigator 2.01
            SimpleText, Jedit, クラリスワークスVer.4
            GraphicConverter 2.7, Adobe Photoshop4.0
            RealVideo, Macromedia FLASH 3J
 
2 指導計画
 10月   グルーブ研究の説明,グループ分け(1時間)
       研究テーマの決定,計画書の提出,自己評価表の書き方(1時間)
       サーチエンジンを使ってのホームページ検索の方法(1時間)
 11月   インターネット,書籍,取材での情報収集,情報の整理(4時間)
 12月   情報の整理,ホームページの制作(1時間)
          中間発表(1時間)
 1月   ホームページの制作(3時間)
 2月   ホームページの制作(3時間)
 3月   プレゼンテーション(発表会)(2時間)
 
3 学習の展開
 すべてのグループには6ヶ月間に渡る研究活動を順調に進めるため,活動計画書を提出させた。グループメンバー,研究テーマ,作業の分担,作業日程,必要な物品など話し合いを行いながら記入させた。また,毎時間の作業を自己チェックするために自己評価表を記入させることとした。これで,グループ内と自分自身の作業のチェックと次の時間の課題設定を自分たちで行うことができる。
 研究テーマは,自然・科学,文化に関するものが多く,環境,食料,国際情勢,経済,情報産業,スポーツといったテーマを中心として考えるグループが多かった。テーマの選定は,情報の集めやすさ,関心の高さ,アピール度といった様々な観点から考え,どのグループも議論を重ね決定したようだ。情報収集としてほとんどのグループはホームページを活用した。サーチエンジンを使っての情報収集は最初は手間取っていたが,慣れてくるにつれキーワード設定のコツ,参考になりそうなWebページのみつけ方といったものが身についてきた(図1)。


    図1 グループ研究の様子

 

 また,学校内でのアンケートは多くのグループが採用していた。アンケートの設問を考え,用紙の制作,印刷,配付,回収,集計,表計算ソフトへの入力,グラフの作成,グラフをgif,JPEGファイル形式に出力し保存するといった作業をこなしていった。現地への取材も多くのグループが実施していた。生徒から申込みがあれば,ノートパソコン,デジタルビデオ,デジタルカメラを貸し出し,取材にもたせた。デジタルカメラのデータはそのままJPEGファイルにし,プリント写真はスキャナで読み込んだ。デジタルビデオの映像はRealVideoでエンコードすることによって,軽量なファイルに圧縮することができた。生きた情報を集めるという意味で取材で見聞きした内容をまとめたり,画像や映像を取り込むといった作業はどの生徒も楽しそうに実施していた。百科事典CD-ROMも早く正確な情報を集める手段として有効であった。キーワードだけでなく年表や地図から検索できることも大きな魅力である。CD-ROMの枚数が少ないため順番待ちが起きていた。

 情報,資料は,ファイルやプリントという形で集め,フロッピーディスクや紙で整理していたが,研究をまとめる段階では,ホームページを制作することになる。予算の都合でホームページエディターを購入することはできず,最新ブラウザーに付属するエディターも本校の生徒が使っているコンピュータを動かすOSが古いために動作せず,HTMLで記述する方法しかなかった。前期中に基本的なコマンド(命令語)を学習してあるので,あとはコマンドの解説用プリントを配り,解説本を貸し出すこととした。どのグループもこの部分が最も苦労していたが,生徒同士で教えあったり,質問があれば答えるという形をとった。多くのグループがテーブル,フレーム,クリッカブルマップ,CGI,JavaScriptといった技術も取り入れて制作を進めた。

 12月の冬休み前の最後の授業で,各グループ5分以内の中間発表を行った(図2)。パソコンとプロジェクターを使い,各グループ工夫しながらプレゼンテーションとなったが,中間発表ということで,研究テーマや活動内容,方針,今後の計画といったことの報告という意味あいが大きかった。自分たちの活動の進行をチェックすると同時に,他のグループの内容や進行具合を見ることによって,活動の刺激や,参考になったようだ。おもしろい作品や優秀な作品の発表では,大きな歓声が上がるほどであった(図3)。

 

図2 中間発表の様子 図3 中間発表の生徒の様子

 

 このあとは,1月,2月とホームページを制作し,3月の発表会に向けて作品を完成させる。高校2年生全体で60グループくらいが編成されているが,そのなかの6グループがThinkQuest@JAPANという学生を対象としたホームページコンテストにも申しんだ(http://www.thinkquest.gr.jp)。今回の授業で制作したものをWeb作品コンテストにも応募することとした。
  
 
4 実践を終えて
 今回の実践は3月まで続くため,生徒作品はまだ完成していないのだが,昨年も同じ課題で実践を行い作品を制作した。その代表例を紹介する。
(1) 研究作品「Sight」(図4)
  神奈川県を流れる相模川を研究テーマとし,現状,問題点,解決方法を探る作品。
  現地での取材を中心に情報を集め,水の大切さ,人間の生活のあり方を考察している。
(2) 研究作品「Medicine」(図5)
  薬害問題を中心に,問題を検証し副作用の原因,症状,解決方法を探る作品。
  製薬会社の新薬の開発や薬の正しい知識をわかりやすく説明している。
(3) 研究作品「LOVE」(図6)
  高校生へのアンケートや街での取材から,現代の若者の恋愛感を研究している。
  恋愛問題を真剣にとらえ,真面目に取り組んだ作品となっている。
 
図4 研究作品「Sight」 図5 研究作品「Medicine」 図6 研究作品「LOVE」

               

ワンポイント・アドバイス
 今回の課題目標である,「生徒自ら考えて活動して研究を行う」は,おおまか達成されたと言える。コンピュータ,インターネットといった新しい技術,手段を使って生徒たちの自主的な学習がどれだけ展開できるかは,私自身楽しみであると共に不安であった。技術,設備,予算,時間など,学校教育でこのような実践を行うにはクリアしなければならない問題が多いのだが,その反面,生徒たちが十分学習成果をあげてくれることは今回の実践で実証できたではないだろうか。今回のグループ研究のような課題をより高く設定するためには,高速なネットワーク回線環境,高速な処理速度を持つコンピュータ,ホームページエディターソフト,コンテンツ制作用ソフトなどの整備が必要となる。これからもこのような学習環境設備を整備するともに,授業でどのような課題が設定できるか,教師が十分研究する必要がある。