インターネットを利用した火星探査プロジェクト
高等学校第3学年・工業
東京工業大学工学部附属工業高等学校 機械科 門田和雄

インターネット利用の意図
 インターネットは,最新の情報をリアルタイムで収集することのできるメディアであり,文字情報だけでなく動画を含んだ画像情報を得られるというメリットもある。
 「火星探査」をテーマとした今回の実践では,インターネットを活用した情報収集とプレゼンテーションによる新しい形態の授業を試みた。

 
1 火星探査プロジェクト

(1) ねらい
  今回の授業科目「原動機」は「エネルギー変換やエネルギーの有効利用等を学ぶ」という目標で熱機関や流体機械を扱う工業高校機械科における主要科目の一つである。そして,熱機関では自動車のエンジンやジェットエンジン,ロケットエンジンを,流体機械では水車や風車,ポンプなどを扱っている。しかし,これらの学習では実際に実物を見ることのできる場面が少なく,教科書の図や写真だけではなかなか理解しにくい面もあるため,インターネットを活用した画像情報などを授業に生かすことを検討中であった。
  1997年7月,米航空宇宙局(NASA)の火星探査衛星マーズパスファインダーが火星に着陸し,探査車マーズグローバルサーベイヤーが地球に膨大な画像データを送り続けるという大ニュースが入った。工業高校で将来エンジニアになりたいという夢を描いている生徒たちにとって,「宇宙開発」は彼らの興味をひく大きなテーマである。
 そこで,今回「原動機」の授業を発展させた学習として「火星探査」というテーマを掲げ,インターネットを活用した新しい形態の授業を試みることにした。
 
(2) 指導目標
 第3学年の後半に行われる本授業では,これまでに科目「原動機」で学んできたことを総合し「2003年までに人類を火星に送るためにはどのようにすればよいか。」というテーマをいかに現実的に達成させることができるかを調査研究し,発表することを目標とした。また,評価にあたっては生徒同士による自己評価を実施するなど,従来の授業形態とは異なる試みも取り入れた。
 
(3) 利用場面
 火星探査全般の情報収集についてのインターネット利用はもちろん,授業実践の直前に火星へ着陸したマーズパスファインダーから送られてきた情報をNASAのホームページから収集することを必修調査項目とした。図1がNASAの火星探査に関するトップページ,図2が宇宙開発事業団のトップページである。
図1
図2

(4) 利用環境
 @使用環境 富士通FMV−5133D5(40台)
 A周辺機器 プリンタ LBP730
       液晶プロジェクタ EIKI LC−4300D
       ネットワークインターフェイス LA2/T−ISA
 B稼動環境 
  東京工業大学からの専用回線(Titanet)により,LAN及びインターネットに接続されている。
 C利用ソフト
  Netscape Communicator, Microsoft PowerPoint, 一太郎Ver.8
 
2 指導計画
指導計画(12時間) 留 意 点
@宇宙開発と火星探査の概要 ・国際宇宙ステーション建設と火星探査のビデオを見せる。(これまでに「原動機」の授業で学習した,自動車や航空機のエンジンなどとの関連づけを行う)。
★インターネットによる情報を見せる。
A火星探査プロジェクト'97 について ・火星探査の意義を説明する。
・必修,選択調査項目,提案項目を紹介する。
Bグループ分けとグループ内での役割分担 ・7〜8人のグループをつくり,「2003年までに人類を火星に送るためにはどうすればよいか」を提案する。
「エンジン班」…火星までの宇宙飛行システムについてエンジンの種類や打ち上げ軌道などの調査を行う。
「ロボット班」…火星での探査システムについて,センサやメカニズムなどの調査を行う。
「サイエンス班」…酸素や水,鉱物の採集など,さまざまな側面から火星環境の調査を行う。
C〜I 調査研究
    発表準備
    レポートのまとめ
★図書,ビデオ,インターネット等を利用して情報を収集し,レポートをまとめる。
・検索エンジンを利用して必要な情報を集める。
・得られたデータをプリンタから出力する。
・ワープロソフト等を利用して発表原稿を作成する。
J〜K 発表会 ・調査研究した内容をまとめ,発表会(発表15分+質問5分)を行う。
・発表要旨集を作成する。
・生徒同士の討議を行う。
・生徒同士の自己評価を行う。
 
3 利用場面

 インターネットで情報収集をする際には,まず最初に何を調べたいのかをはっきりとさせておく必要がある。今回は代表的な検索エンジンである「NTT DIRECTORY」「Yahoo! JAPAN」「goo」などを生徒たちに紹介した。いずれもただ「火星」というキーワードを入力すれば,何らかの情報を取り出すことができる。しかし,短時間に必要な情報を得るためには,キーワードの絞り込みなどを適切に行う必要がある。また,検索の途中で本題とは関係のないページを開いたりすると,思わぬ所で時間がかかってしまうことがよくあるので注意をしなければならない。
 収集した情報のうち,文字情報はプリンタから出力してから熟読するという方法をとった。今回の調査では英文の情報が多く(特にNASA関連のもの),辞書を片手に英訳を行う場面も見られた。また,動画情報や音声情報はその場で理解し,必要なことをメモするという方法をとった。立ち上がりに時間がかかる動画もあったが,教科書の図や写真では理解できないことが明らかになることも多かった。
 
4 実践を終えて

 「宇宙開発」のように日々進歩している分野の情報は,数年前に出版された図書によるものでは古いことが多い。今回は,NASAから毎日発信される火星探査に関する情報など,新しい情報が必要なことが多かった。そのため,リアルタイムで最新情報が得られるというインターネットのメリットを十分に活用することができた。
 授業の場面においてインターネットを活用するときにはテーマ設定が重要となる。テーマの幅を広げすぎて「何でもいいから自分に興味のあるテーマを調べなさい。」とすれば,情報収集の方法を身につけることが学習の目標となる。また,テーマを絞りすぎると,同じような結果にたどりついてしまい,テーマに興味を持てなかった生徒の意欲を高めることが難しくなる。今回は,火星探査という目標でグループを作り,その中でエンジン,ロボット,サイエンスに分担して情報収集を行った。そのため,ある程度生徒の意欲を高めた上で授業に取り組むことができたと考えている。
 これまでの学習とは異なる形態の授業に戸惑いを見せていた生徒たちも,発表会ではグループ独自の調査研究成果を報告し,質疑応答においても白熱した議論が交わされるなど,積極的な授業を展開することができた。また,生徒たちには発表後,自分たちのグループと他のグループの評価をさせ,お互いの自己評価を集計してまとめた。両者の評価は概ね一致しており,このような形態の授業の評価方法としては教師の参考になるものである。
 今後の課題としては,マルチメディアを活用した発表会におけるプレゼンテーション能力を高めることや,ホームページ等を利用した情報発信を積極的に進めていくことなどがあげられる。
 
ワンポイント・アドバイス
 工業高校機械科では「何らかのエネルギーの供給を受けて,決められた動きをする,丈夫で壊れにくいモノ」を創りだすための学習を行っています。そのため,インターネットを活用して得られた情報は,それを加工して情報発信するだけでなく,何らかのモノ作りに役立てることができて完結するものです。コンピュータはコンセプトしだいでいろいろな使い方ができますが,工業高校における技術教育という面からの活用法を深めた実践を広げてほしいと思います。
 「技術のおもしろ教材集」では,多数の実践が紹介されています。
 http://hp.vector.co.jp/authors/VA003189/
また,技術教育全般に関するメーリングリストとして次のものがあります。
 http://hp.vector.co.jp/authors/VA003189/ml/index.htm
 
参考文献
・宇宙開発事業団資料
・NASAの見学資料
・アーサー・クラークの火星探検 オリンポスの雪 徳間書店
・火星人の方法 アイザック・アシモフ 早川文庫
利用したURLなど
検索エンジン
・NTT DIRECTORY (http://navi.ntt.co.jp/)
・Yahoo! JAPAN (http://www.yahoo.co.jp/)
・goo (http://www.goo.ne.jp/)
 
・NASA (http://www.nasa.gov/)
・宇宙開発事業団 (http://www.nasda.go.jp/)
 
東京工業大学附属工業高校のホームページ
(http://www.ths.titech.ac.jp/)
 
門田和雄 「機械」技術教育の理論と実践のホームページ
(http://www.ths.titech.ac.jp/honka/kikai/kadota/kadota/html)
 
火星探査プロジェクト'97の調査項目と提案項目
 
1.どのように火星へ行くのか(エンジン班)
必修調査項目
・これまでの宇宙輸送機の開発の概要(特にエンジンについて)
・地球から火星までの最適な打ち上げ軌道(日数)について
選択調査項目
・宇宙輸送機に用いられる新素材について
・宇宙食について
・長時間の飛行が人体に与える影響について
提案項目
・火星までの宇宙飛行システムのエンジンのしくみとその燃料について
・地球帰還用の推進燃料をどのようにして火星上で製造するのかについて
・地球からの打ち上げ方法と火星からの帰還方法について
→最適な推進システムの提案
2.どのようにして火星を探査するのか(ロボット班)
必修調査項目
・「マーズ・パスファインダー」の探査の概要
選択調査項目
・知覚認識のために必要なセンサーについて  ・火星での生命維持装置について
・火星での位置を知るための衛星システムについて
提案項目
・有人か無人かについて           ・ロボットアームの機構について 
・足回り〜タイヤかキャタピラか歩行型か   ・探査機の動力源について 
→最適な探査システムの提案
3.どのように火星の環境を知るのか(サイエンス班)
必修調査項目
・どのようにして火星で酸素と水を手に入れるのか
・火星の冶金学〜鉄,アルミニウム,シリコン採集の可能性について
選択調査項目
・火星の地形,気象,火山,生命について
提案項目
・火星に生命は存在するか ・火星を人類が住める場所にするためにすべきことは何か
→火星環境調査のまとめ
⇒全体のまとめ「我がチームが提案する火星探査プロジェクト」