バーチャルマーケットによる商取引の研究
 
高等学校3年生・商業
和歌山県立和歌山高等学校 浜口 美千夫

インターネット利用の意図
 「総合実践」で実施している単一学校内の授業単位での取引実習の形態としては,同時同業法による授業展開が限界であり,現実に即した実際的な取引実習は困難であった。そこで,「100校プロジェクト」を元に整備されたインターネット利用環境を活用して,効果的な実習ができるように考えた。
 そのため,教室内に模擬市場を作り複数の会社間で商品売買を行うという従来の方法を発展させて,2つの学校間でインターネット上に,架空の会社を設立する。そこで,それぞれの地域特産品の販売・仕入を行うことにより,実際的な取引の流れを主体的に学習でき,緊張感を持ち授業に取り組めるようにする。また,情報機器やネットワーク環境を活用して,情報活用能力を高め,従来からの「総合実践」と比べてもより高度な学習目標が達成できるようにする。

 
1 流通経済活動に関する実践
 
(1) ねらい
  商業科の専門科目中に「総合実践」があり,本校総合学科では流通管理系列科目のなかの選択科目として授業を行っている。この科目は,それまでの商業に関する専門科目の学習をもとに,知識と技術を総合的に習得して経営活動を実践を通して学んでいくも のである。この科目の内容としては,「流通経済活動に関する実践」「国際経済活動に関する実践」「会計活動に関する実践」「情報処理に関する実践」「経営管理的活動に関する実践」の5つの内容があるが,ここでは「流通経済活動に関する実践」の中で,実習制約を超えた現実により近い商業活動の学習を可能とするために,インターネット上に仮想市場を設定して模擬会社を設立して,発注から決済までの過程をインターネットを利用して行うこととした。
 
(2) 指導目標
 一連の商品売買の業務を実践的に行い,商業活動に必要な基礎的,基本的な知識・技術を総合的に身につけるとともに,現実に行われている取引により近い形で模擬取引を行うことによって,基礎的,基本的な知識・技術の習得にとどまらず,実社会での商業活動に対応できる能力を養う。
 また,「みずから考え,実行し,みずからの力で解決する」という自主的な活動を行い,商業経営に必要な業務を合理的,能率的に処理する能力と態度を養う。
 情報機器としてのコンピュータを活用して文書や帳票を作成し,大量のデータを迅速かつ,正確に処理する能力を養うとともに,インターネットの基礎的な知識・技術を学ぶことによって,生活をより豊かにするための手段として積極的にインターネットを活用していく能力を養う。
 さらに,他校との幅広い交流によって,より高いコミュニケーション能力を養う。
 
(3) 利用場面
  ここでは,次のような学習場面でインターネット活用していく。
 @商品宣伝
 商品宣伝は,通常は印刷媒体でのカタログが主となるが,作成に費やす時間も手間も膨大である。ましてや架空の市場となるとコスト面からも作成は困難である。そのため,Web上にハイパーテキストとして作成することによって効果的・効率的な提示が可能となり,作成技法の習得を含めて教育効果を高めることができる。
 A書類(帳票,添え状)の作成・送信
 書類は通常印刷媒体としてドキュメントファイルに保存しておくが,フォーマットを含めてデジタルデータとして保存しておくと,書類を作成するときは各営業課へ配布したフロッピーから必要な書類を呼び出して必要事項を入力することによって効率的に運用できる。また,相手商品部に送付する際にも,電子メールを使用してワープロソフトで作成した帳票や添え状を電子メールの添付ファイルとして送信すると,双方にとって効率性を増すことになる。メールアドレスは,営業課員の個々のものを使用する。これによって,責任の所在を明確にし,職務の重要性を認識させることができる。
 B書類(帳票,添え状)の受信
 ここでは,各営業課宛の書類は,その課のメーリングリストに送付されてくるため,各営業課の課員全員のメールアドレスに送付されることになる。このことにより,情報の共有が可能となり,情報の円滑な伝達ができるようになる。
 
(4) 利用環境
 @ネットワーク環境
 本校からは,DA64k専用線で和歌山県庁に接続しており,和歌山県庁から先は,OCNスタンダード(1.5M)でインターネットに接続している。
 Aインターネットサーバ
 「100校プロジェクト」で貸与されている,IBM PC750-P90(BSD/OS 2.0)をサーバとして使用している。
 Bインターネット接続PC
 校内のPCのうちインターネットに接続しているのは,通信実習室21台,工業準備室 5台,総合実践室2台である。
 C使用機種
 FUJITSU FMV-SVI267 2台
 D使用ソフト
 電子メールソフトとしてフリーウェアのWinbiff Ver.1.25a(オレンジソフト)を使用している。また,ワープロソフトとして一太郎8(ジャストシステム)を使用して帳票や添え状等を作成した。
 
2 指導計画
 年間の指導計画は,次のとおりである。

 期間

    指 導 計 画

       留 意 点


 4月
  〜
 6月
 

基礎的・基本的な知識や技術の学習を中心に行う。


 

同時同業法(生徒一人一人が店主となり全員が帳票や添え状の作成などの同一の業務を行う)により,広く商品流通のしくみや商業活動についての知識や理解を
深める。


 7月
 

模擬取引の準備
★Webページの作成
 

各営業課内に必要な帳簿等を作成し,電子メールの実習とWebページ上に商品の宣伝広告を作成する。


 9月
  ・
 10月
 

取引会社(笠田高校)に模擬取引として地域特産物の販売を行
う。
★インターネットの利用
 

模擬取引演習[Aタイプ](本校が販売し,笠田高校が仕入れる)の中で,市場内独自取引(相手から書類を受け取るまでの待ち時間に行う本校内の取引)の実習を行う。


 11月
  ・
 12月
 

取引会社(笠田高校)から模擬取引として地域特産物の購入を行う。
★インターネットの利用
 

模擬取引演習[Bタイプ](笠田高校が販売し,本校が仕入れる)の中で,市場内独自取引(相手から書類を受け取るまでの待ち時間に行う本校内の取引)の実習を行う。

 1月
まとめ

模擬取引の決算処理・学習の反省とまとめ
 
 和歌山高等学校の設立会社名は「和歌山商事株式会社」で,取扱商品(地域特産品)は,
 [かまぼこ・大根漬け物・たわし・作業手袋・ロープ・紀州漆器お盆・清酒]である。
 
 笠田高等学校の設立会社名は「睦ヶ丘物産株式会社」で,取扱商品(地域特産品)は,
 [串柿・クルミ餅・鮎の甘露煮・胡麻豆腐・ぬいぐるみ・竹製釣り竿・地ビール]である。
 
3 利用場面
(1) 目標
 @見積依頼状送付の意義を理解し,適切な見積依頼状をワープロソフトを使用して作成できる。
 A作成した見積依頼状を相手会社へ電子メールに添付して送付することができる。
 B諸経費支払いの取引を適切に記帳することができる。
 C小切手を正確に作成することができる。
 
(2) 展開

学  習  活  動

指導上の留意点

演習1・2の内容を復習し,商品を仕入れるにあたりまず見積依頼状を送付することを理解する。
自分の課が仕入れる数量を会社の取引規模から各課で決定し発表する。
取引条件等を確認する。    
経費の内容に合った勘定科目を考え,支払方法について決定する。
小切手の作成方法を確認する。   

各課の取引する商品をもう一度確認させておく。
当社の取引規模から,今回の仕入数量は\2,000,000前後と指示し,数量を発表させ板書する。  
諸経費の支払いは既学習項目であるのであまりかく説明をせずに各自に考えさせる。
 

   課  長

   営  業



諸経費支払いについては勘定科目を誤りやすいので机間巡視により確認し,助言を与える。
机間巡視を行い,質問のある生徒に対応し,助言を与える。
作業中に必要に応じて補足の説明を加える。
完成した各課の書類を点検し,検印を押す。
完成した課には次回の取引準備を指示する。


 
 

諸経費の支払い内訳から,仕訳伝票を作成する。
仕訳伝票から総勘定元帳に転記し,同時に補助簿に記入する。
小切手払いでしなければならない経費支払いの為に小切手を作成する。
書類完成後,検印を受け,支払いを行う。


 

各課のパソコンでワープロソフトを使用して見積依頼状のフォーム
を読み込み,取引条件等を入力して完成させる。
完成後フロッピーに上書保存する
教室中央のパソコンを使い印刷し,検印を受ける。
検印後,メールソフトを使用し,相手会社へE-mailに添付して送信する。

各課で本日の取引の進行状況を確認する。


 

完成しなかった課があれば,休憩時間等を利用して完成するよう指示する。
 
 
4 実践を終えて
 今回の実践において,当初のねらいである商業活動に関する実践能力の向上や問題解決能力の育成及び情報活用能力の涵養については,ほぼ達成できたものと考える。
 生徒の感想にもあるように,かなりハードな実習であったと思われるが生徒は意欲的に実習に取り組んでいた。来年度はインターネットを1学期の当初から導入して,より効果的な学習を可能としたいと考えている。また,複数校での取り組みを企画して行くことでより充実した「総合実践」になるものと思われる。
 また,ネットワーク環境の制約によって,TV会議システムが十分機能しなかったが,来年度は条件を整備して活用し,教育効果をより一層高める必要がある。
 近い将来,インターネット上にある実際に運営しているバーチャルショップのホームページを研究して,会社設立の概要から商品の宣伝広告までを掲載した十分に魅力ある充実したWebページを作って行けるようにすれば,生徒の関心もより深くなり教育効果があがるものと思われる。
 また,帳票の記入や帳簿の作成などのような基礎的・基本的な学習を重視ながら,これから飛躍的に発展すると思われるオンラインショッピングでの取引形態(例えば,電子マネーによる決済等)の研究も進めていきたいと考えている。
 さらに,今後ますます進むであろう国際化の中で,海外との模擬取引を実現させる方向で検討していきたいと考える。これが実現すれば語学の学習はもとより,海外の商習慣,外国為替の学習等の広範で高度な学習が可能になると思われる。
 次のものは,生徒の感想の抜粋である。

 僕は,総合実践の取引をしていて,取引の厳しさを知りました。例えば,ゼロを一つ多くしただけで,とんでもない金額になってしまうから恐ろしいと思いました。その他は,字を間違えたら,相手の所にメールが届かないとか,消費税が入っていないとか,笠田高校からの,指摘が多々あったんだけど,これがもし本当の取引先だと取引をしてもらえないだろうと思うと,とてもシビアな世界だと僕は思った。会社の事務では,いつもこのような仕事が行われ,毎日,取引をしているんだと思うと考えただけでストレスが溜まってきた。メールとかの送り方がわかり,今度自分の家のインターネットを使ってメールの友達を作ろうかと思った。でも,課長の仕訳とかはむちゃくちゃ難しそうだったのでやりたくはない。他には,笠田高校のホームページが見れておもしろかったし,和歌山高校のホームページが見れ,その中のそれぞれの商品部の商品のアピールがおもしろかった。

ワンポイント・アドバイス 
 今回は7つの営業課ごとのメーリングリストを作成して,取引会社からの書類を各営業課員全員に送付するようにしたが,これは当該の生徒が欠席の場合でも業務を円滑に遂行する上で効果的であった。メーリングリストを作らずに課代表メールアドレスを設定して,それを共有するという方法もあるが,その場合は,パスワードの管理などいくつかの困難な問題が発生する。そのため今回の方法は適切な処置であったと考える。また,実習を伴う授業は個々の対応が困難な場合が考えられるが,今回はティームティーチングによる方法を十分に生かして行うことができた。
 このような生徒の活動内容が多様な科目については,できるだけ多くの教員による指導体制が効果的である。できれば,各営業課ごとに1名の教員がアドバイザーとして付くことができれば理想的である。
 
利用したURLなど
 和歌山高校  (http://www.wakayama-hs.wakayama.wakayama.jp/)
 笠田高校   (http://www.naxnet.ne.jp/~kasedahs/)