情報を収集し,活用する能力の育成をめざして
─公害問題・環境問題を考える─

小学校第5学年・社会
常陸太田市立太田小学校 上野 悦男


インターネット利用の意図
 社会科で調べ学習を進めていくためには,たくさんの資料が必要である。しかし,子どもたちが集めることができるのは,市販の資料集や学校図書室の資料集などで限りがある。子どもたちに学習の意欲があっても,広がりのある学習を進めていくことが今まで難しかった。インターネットを活用することで,情報を入手することが容易にできるようになり,様々な情報源から必要な情報を呼び出し,調べ学習に利用することで,子どもたちが主体的に学習することができようになると考える。

 
1 これからの工業と環境
(1) ねらい
 この単元では,自動車の増加にともなう様々な社会問題を手がかりに,工業が生活や環境に与えている影響について調べ,これからの工業生産の在り方について子供なりの意見をもたせていくことをねらいとしている。特に,四日市の大気汚染,水俣の海の汚染をはじめ,各地に発生した公害の事例から,被害を受けた人々の苦しみや問題の解決に向けての努力についてとらえたり,子供たち一人一人の環境保全への意識を高めていきたい。  
(2) 指導目標
・工業の発達と公害の発生に関心をもち,公害の実態や原因,対策などを調べ,環境を守るために自分たちができることを見つけ,進んで実行しようとする。 (関心・意欲・態度)
・公害の原因や生活への影響・対策,公害から健康や生活環境を守る大切さを考えることができる。(思考・判断)
・各地の公害問題や環境問題の情報資料を集め,各地の公害やそれを防止するための取り組みを調べることができる。(観察・資料活用の技能・表現)
・工業の発達とともに,生活環境を破壊し,人々の健康や自然を脅かす公害が起き,公害を防止するためにさまざまな対策が行われていることがわかる。(知識・理解)

(3) 利用場面
@導入の場面
 大型テレビにインターネットの画像を提示し,話し合いながら学習を進めていった。提示したのは,兵庫県の環境と生活のホームページで,現在の大気の汚れ,騒音,振動,水質汚染などの状況を確認して,人々の生活や環境への影響について話し合う資料として利用した。
A調べ学習の場面
 カラープリンタを接続したコンピュータを教室に置き,図書資料やビデオ資料と併用して,効果的に調べ学習を進める。ハードディスクまたはMOに保存してあるホームページを呼び出しやすいように目次のページを作ったり,印刷してホームページごとにまとめたファイルを作ったりして活用しやすくした。
 

図1 ホームページを見て話し合い
  
図2 インターネットで調べ学習

(4) 利用環境
 @使用機種 NEC PC-9821Nb10
 A周辺機器 MO,ビデオスキャンコンバータ,29型テレビ,カラープリンタ
 B稼働環境
  コンピュータのハードディスクまたはMOに学習に活用できるホームページをダウンロードしておき,それを呼び出してテレビに提示したり,プリンタで印刷したりして必要な情報を引き出す。
 Cその他の利用ソフト
  オートパイロットソフトNetRecorderを使って必要なホームページをダウンロードし,MOにそのままの形式で保存する。保存してあるホームページがわかるように,目次のページを作成して(index.html),MOのディレクトリの最初に保存する。MOの目次のページをWWWブラウザNetscape Communicator 4.01を使って開けば,必要な情報を呼び出すことができる。
 

2 指導計画

指導計画(7/7) 留意点
@工業の発達が人の生活に及ぼす影響を考え,公害について調べる学習問題をつくる。
 ★インターネットの利用

 
・自動車が普及したことが,人々の生活や環境にどのような影響をおよぼしているかを考える。
★兵庫県の環境と生活情報のホームページを呼び出し,大気の汚れ,騒音,振動,水質汚染などの資料を授業に活用する。
ABC個々の学習問題に合わせて,調べ学習をする。
 ★インターネットの利用

・図書資料やビデオ資料とインターネットの資料を併用して,広がりのある調べ学習をする。
★四日市ぜんそくや水俣病などの情報のあるホームページを呼び出し,調べ学習に活用する。
DE調べた内容をパビリオン形式で発表する。

 
・個人またはグループで調べた内容を教室の中に掲示し,交代で説明したり話を聞いたりしながら,友達が調べた内容について理解を深める。
F人々の生活や環境にやさしい工業製品について話し合う。
・環境をそこなわずに工業を発達させるには,どのような方法があるかを考える。

 
3 利用場面
(1) 目標
 日本各地の公害について興味や関心をもち,一人一人が学習問題を設定し,図書資料,ビデオ資料,インターネット資料などを効果的に活用して,公害の原因,経過,現在について調べることができる。
 
(2) 展開(第1時〜第4時)

学 習 活 動 活動への働きかけ 備考











 

1 自動車が増えることによって,私たちの生活にどのような影響があるかを予想する。

2 ホームページの資料から大気汚染・騒音・振動などの状況を読み取る。
・テレビを見たり本で読んだりして得た知識や自分の経験から,意見を発表させる。

・インターネットで兵庫のホームページを呼び出し,環境の統計資料を提示する。




・コンピュータ
・大型テレビ




 
[共通学習課題] 工業は,人々の生活や自然環境に,どのような影響を与えてきたのでしょうか。
3 公害について自分で調べてみたいことをまとめ,個人の学習問題をつくる。 ・自分の興味や関心が高いことを学習問題にまとめさせ,自主的な調べ学習ができるようにする。



















1 自分の学習問題を確認し,調べ学習の計画を立てる。
 ・調べる方法
 ・まとめ方

2 図書資料,ビデオ資料,インターネットなどを活用して調べ学習をする。
 ・四日市ぜんそく
 ・水俣病
 ・イタイイタイ病
 ・酸性雨
 ・大気汚染
 ・水質汚染
 ・地球温暖化
 ・森林破壊など

3 調べた内容を発表できるようにまとめる。
・同じような学習問題をつくった友達同士でグループを作り,協力して学習計画を立てるようにする。


・図書室の中で,ビデオコーナー,インターネットコーナーを設けて,自由に活用できるようにする。
・調べてわかったことは,ノートに書き取り,発表資料をまとめるとき利用する。また,インターネットの情報は,必要な部分を印刷して利用する。




・授業の終わりには,各自反省をし,次の時間の計画を立てる。
 





・コンピュータ
・プリンタ
・ビデオ










※環境と生活情報のホームページ(http://www.pref.hyogo.jp/JPN/apr/index.html)
 水俣市ホームページ(http://island.qqq.or.jp/hp/minamata.city/index.html)
 熊本日日新聞水俣病百科(http://www.kumaniti.co.jp/minamata/m-menu.html)
 四日市再生「公害市民塾」(http://www.cty-net.ne.jp/~yosikazu/index.html)
 (C)GAKKEN 全国一斉こども酸性雨調査
    (http://www.mediagalaxy.co.jp/GAKKEN/kids-db/sanseiu/sanseiu.html)
 WNN-ECOLOGY(http://www.wnn.or.jp/wnn-eco/index.html)
 
4 実践を終えて
 この実践において,子どもたちは主体的に調べ学習に取り組み,調べた内容をまとめて発表することができた。授業後の子どもの感想には,「楽しく調べ学習ができた。」「インターネットの使い方がよくわかった。」「公害をなくすように努力していきたい。」など前向きなものが多かった。その理由として,次のようなことが考えられる。

○子どもたちの公害問題や環境問題に対する興味や関心が高く,自分が最も調べたいことを学習問題に設定することができた。
○たくさんの資料(図書資料,ビデオ資料,インターネット資料など)の中から自分の必要な情報を見つけることで,学習に深まりがあった。
○パビリオン学習(発表する場面)で,調べたことやお互いの意見を自由に発表することができた。 


 調べ学習において資料は必要不可欠なものである。各学校にコンピュータが導入され,インターネットに接続できるようになり,様々な情報を自由に引き出すことができるようになった。しかし,これらの情報は,発信者の考えに基づいて公開されているため,必ずしも学習で利用できるものとは限らない。一つ一つホームページをあたって,自分の目で必要な情報があるかどうかを確かめていかなければならない。この実践で利用できるホームページを見つけるため,いくつかの検索エンジンを利用した。一つの検索キーで検索されるホームページの量があまりにも多いため,ホームページの内容を確認するだけで相当な時間を必要とした。子どもたちの情報活用能力を育成することを考えれば,この時間は決して無駄なものではないが,限られた学習時間の中では逆に十分な調べ学習をすることができなくなってしまう。そこで,学習の前に教師の側で役立つホームページのリンク集などを準備しておくことも必要である。
 インターネットの情報は今後も増え続けていくと考えられる。その中から必要な情報を簡単に見つけることができるように,検索方法などが改善されていくことを期待している。

ワンポイント・アドバイス
 
 理科や社会の調べ学習で必要な情報が予想できる場合,インターネットにアクセスの時間を短縮するため,事前にホームページの内容をダウンロードして活用している場合が多い。サーバーの容量に余裕があれば,ダウンロードした内容をすべて保存しておくこともできるが,コンピュータの活用が増えてくるとなかなか難しくなってくる。そこで,ダウンロードした情報をMOなどの大容量の記憶メディアに保存し,学習内容ごとにホームページのライブラリーを作っておくと活用しやすく便利である。次に利用するときには学習する内容によってはそのままでも活用することもできるし,更新して活用する場合でも内容があまり変わってなければ短時間で行うことができる。その際に留意しなければならないことは,ホームページの情報をダウンロードして保存しておく場合に,そのホームページの管理者や作製者の許可を必ず得るようにすることである。

参考文献

 「授業における教育用ソフトウェアの活用マニュアル」日本教育工学振興会(1996)  

利用したURLなど

 環境と生活情報のホームページ(http://www.pref.hyogo.jp/JPN/apr/index.html)

 水俣市ホームページ(http://island.qqq.or.jp/hp/minamata.city/index.html)

 熊本日日新聞水俣病百科(http://www.kumaniti.co.jp/minamata/m-menu.html)

 四日市再生「公害市民塾」(http://www.cty-net.ne.jp/~yosikazu/index.html)

 (C)GAKKEN 全国一斉こども酸性雨調査

    (http://www.mediagalaxy.co.jp/GAKKEN/kids-db/sanseiu/sanseiu.html)

 WNN-ECOLOGY(http://www.wnn.or.jp/wnn-eco/index.html)