ネットワークで結ぶ地域との交流学習
小学校第5,6学年・社会科
甲奴町立宇賀小学校 湯浅 康司

インターネット利用の意図
 コンピュータやインターネットの情報手段を活用することにより,指導者の一方的な説明ではなく,子どもたちが主体的に情報収集をおこなうため,生き生きとした興味や関心をひきだすことができる。インターネットはコンピュータのデータベース機能を簡単に活用することができるため,課題研究の道具として活用すれば思考力や判断力の育成が可能である。

 
1 日本の農業の特色
(1) ねらい
 現在,日本のおもな農産物と飼料は,米,野菜,卵以外は,かなりの部分を輸入にたよっている。そのためバナナやオレンジなどたくさんの種類の果物が輸入され,安い値段で手に入るようになってきている。しかし,輸入が増え,日本産が少なくなれば,日本の農業は困るだろうし,農薬の使用による安全性などいろいろな問題がある。自分たちが毎日食べている食料品の問題であるので,課題解決のための強い動機づけとなる教材である。また,町内の農協女性部の人たちが集まって,自分たちの作った野菜で農産物の加工,販売をしている「旬の店」の学習と関連づけて考えることにより,身近で親近感があり,そこで働いている人々の生き方にまで触れることができる。
 そこで,地域教材「旬の店」の学習と日本の農業の特色とを関連して考え,インターネットで情報の収集をすることにより,日本の食料品がいかに輸入に依存しているか確認し,追及の動機づけとしたい。また,輸入量の増加にともなうさまざまな問題についても,地域の人からの聞き取り学習を通して,自分たちの身近な課題として,関心,意欲を持たせ主体的に学習できるようにしたい。
(2)指導目標
〔社会事象への関心.意欲.態度〕
・農産物の生産地の特色や,自然環境との関わりに関心を持って,まとめようとする。
〔社会的な思考・判断〕
・農産物ごとに生産地の特色を取り出すことができる。
・自然環境と農業生産とのつながりを考えることができる。
・主な農産物ごとに自給率の減るわけを考えることができる。
・消費者として考えなければいけないことについてまとめることができる。
・国民生活を支える食糧生産の意味について考えることができる。
〔観察・資料活用・表現〕
・インターネットを使い,農産物自給率の変化のグラフから,輸入農産物の増加ととも に,国内生産減少の傾向を読み取ることができる。
〔知識・理解〕
・農産物の種類によって,自給率にちがいがあるわけが分かる。
・農業に従事している人々が生活を高める工夫をしていることを理解する。
・具体的事例の中から農業に従事している人々の工夫や努力に気付く。
(3)利用場面
 この単元では,次のような学習場面でインターネットを活用する。
@ふえる輸入農産物についての学習場面
 増える輸入農産物の学習では,農産物自給率の変化のグラフから,輸入農産物の増加とともに,国内生産減少の傾向を読み取ったり,主な農産物ごとに自給率の減るわけについても考える。しかし,これまでの課題解決学習では,資料集などすでに必要な資料が用意されており,資料収集能力の育成ができにくい。そこで,インターネット上にあるたくさんの資料の中から必要なものを選び出し活用することにより,資料活用能力の育成をする。
A家庭での情報収集
 インターネット上にある情報の検索をする場合,とても時間がかかり,授業時間のみでは必要な資料を収集することができにくい。そこで,携帯に便利なノートパソコンを持ち帰り,家庭からもインターネットを使い学習をする。
(4)利用環境
@使用機種 Frontia PentiumU300(ISDN64 + Modem 56,000bpm 2台)1台,Fujitsu FMV 1台,      NEC PC-9821Ce2 4台,Sony VAIO505R(Modem 56,ooobpm) 2台
A周辺機器 液晶プロジェクタ,スクリーン,TA,HUB

B稼働環境

図1 宇賀小学校の稼働環境

  インターネットより,サーバ機(Frontia PentiumU300)に必要な資料をダウンロード
 する。また,地域の農業に関する資料もサーバ機に入れておく。児童はクライアント
 マシン(PC-9821Ce2)から,このサーバ機内の資料を活用し学習する。必要に応じ
 ダイヤルアップでインターネットに接続し情報の収集もする。これらの資料を液晶
 プロジェクタで掲示し発表に活用する。図1に示す。
C利用環境の構築
 広島県北部の小学校におけるインターネットの環境は厳しく,インターネット接続環境がある小学校は本校を入れてわずか2校である。そのため,学校間でのネットワークを構築することは無理である。また,ここ甲奴地域では,専用線の接続ポイントが近くになく,専用線を引くには費用が高額になるため,ダイヤルアップ接続しかできず,専用線のように多くのサービスを提供することはできない。
 そこで,甲奴地域では,インターネットを使った地域のネットワークづくりをしている「KPUG(Konu Personal User Group)」に協力を呼びかけ,ダイヤルアップ接続でありながら,できるだけ専用線に近いサービスが提供できるシステムを考えることにした。また,甲奴地域におけるネットワークのあり方についても考察していくことにし,次のような取り組みをした。
ア メーリングリスト
 ソフトE-MailClubを使ったメーリングリストを開設し,メンバーどうしの連絡や意見交流,技術交流をおこなった。
イ 学習会&ミーティング
・9月5日(土) 17:00~22:00 3名参加
・10月13日(火) 2名の参加
・10月15日(木) 2名の参加
・10月19日(日) 10:00~23:00 5名参加
・10月21日(水)・22日(木)・24日(土) 3名参加
・10月26日(月) 7名参加
 
2 指導計画(全18時間)
   単 元           目 標

 
「旬の店」の聞き取り
 
 「旬の店」の聞き取り学習を通して,日本の農業を調べる視点を考える。

 
食生活の変化と米
 
 日々の食事調べから,年齢別・時代別の違いに気づき,日本人は米を主食にしていることがわかる。



 
米作りのさかんな
    秋田県仙台町

 
 秋田県仙北町の農家を例に,仕事のようす,農薬・化学肥料・機械化から始まり,田の改良・共同作業と積極的に取り組んでいる姿にふれるとともに,転作や後継者不足,米の自由化などの課題にも関心を持つ。

 
野菜作りのさかんな
    高知県春野町
 野菜作りをする農家を例に,農家の人々が,流通や労働の問題を克服していることを知る。


 
日本の農業の特色
★インターネットの
   利用
(本時 3/4)
 日本の農業は,自然とうまく結びつき,栄えてきているが,最近,環境の変化や農産物の自由化からくる問題を抱えだしてきたことがわかる。
 
3 利用場面
(1) 目標
 インターネット上にあるさまざまな情報を収集し,日本の農産物の輸入がだんだん増えてきていることをとらえるとともに,そこにはいろいろな問題があることに気づく。
(2) 学習展開
 学習活動    支 援     評 価 教育機器活用の視点
1 前時の学習を振り返り,本時の学習課題をつかむ。

 
・模造紙にまとめたものを提示する。
 
・本時の学習課題を意識し,自ら考えて調べ学習をすることができる。
・主な農産物ごとに自給率の減るわけを考えようとする。
・前時の学習に利用したホームページを表示する。
 
農産物の輸入が増えているわけを考えよう。
2 輸入量が増加しているわけにつ
いて調べる。




3 調べた結果を発表する。
4 輸入について問題になっていることを考える。
5 次時の予告
・輸入農産物と国産農産物の値段の違いや,農産物の自由化の資料などを参考に輸入量の増加してきたわけを探るよう支援する。



・生産者や消費者の立場から問題点を見つけていくよう助言する。

 
・食糧需給の表から,輸入農産物の増加とともに国内生産減少の傾向を読み取る。

・必要な情報をインターネットで検索することができる。



・日本の食糧自給率が減少していることを知り,そこにはいろいろな問題があることに気づく。
 
・WWWで農林水産省や農協のページを見て必要な情報を収集する。また,甲奴地域の資料と比較しながら考える。
      (図2)
・使用した資料をスクリーンに映し発表する。
 

 

図2 必要な情報を集める
図3 家庭でもインターネットで学習する
          
 
4 実践を終えて
 インターネットのデータベース機能を活用した課題解決学習では,日本の食料品がいかに輸入に依存しているかを確認した。輸入量の増加にともなうさまざまな問題についても,地域の人からの聞き取り学習を通して,関心,意欲を持って主体的に学習することができた。また,家庭でもインターネットの活用に興味や関心を示すようになった。(図3)
 インターネット上には,たくさんの情報があるが,児童向けの情報は少ない。今後,児童に読みやすく授業に役立つデータベースの構築が必要である。
 地域のボランティアによるネットワークの構築は,児童の各家庭からもインターネットが利用できるようになり,課題解決学習に役立った。また,メンバ−には教員だけでなく,農業関係者もいたため,資料の作成まで協力いただき幅の広い学習をすることができた。

 児童からは,「いろんな表やグラフを見ることができたのでよくわかった。」「習っていない漢字などがあり読むのが難しかったが,教科書や資料集にも載っていないことがあったのでよかった。」「輸入食品の問題では、遺伝子組み替えの問題など調べたいことがすぐに調べられたのがすごいと思った。」などの感想が聞かれた。

ワンポイント・アドバイス

 農林水産省のホームページに食料の自給表があった。数量が大変良く整理され,子どもにも理解しやすいと思ったので,この表を活用するためにURLをブックマークに入れていた。しかし,授業1週間前に農林水産省のホームページが更新されたようで表がでてこなくなった。ブックマークに入れるだけでなく,ダウンロードしておく必要がある。
 利用環境の構築にあたり,自分自身インターネットやコンピュータに関する知識がほとんどなかったにもかかわらず,地域の方にボランティアで協力していただき、FreeBSDでdialup serverを構築することができた。インターネットは簡単に遠くの人と交流ができるため関心が遠方にいきやすいが,地元にも目を向け,教育,行政,住民が一体となった情報ネットワークをつくり,地域の活動への積極的な参加をしていく必要がある。  
 
参考文献
 FreeBSD徹底入門(翔泳社)
 FreeBSD徹底活用1 ネットワーク編(翔泳社)
 FreeBSD入門&活用ガイド(技術評論社)
 
利用したURLなど
 農林水産省ホームページ(http://www.maff.go.jp/)
 我が国の食・農業・農村をめぐる情勢(http://www.maff.go.jp/soshiki/kambou/kikaku/jousei3.html)
 JA全中ファクトブック'97(http://www.rim.or.jp/ci/ja/fact/fact_97/index.htm)
 甲奴町立宇賀小学校(http://www.fuchu.or.jp/~uga/)
 こねっとgoo サーチエンジン(http://www.goo.wnn.or.jp/)
 KPUG(http://fuchu.or.jp/~tkrh/kpug/)