異年齢集団で行う科学遊びの交流体験学習 
総合的学習<科学的行事による交流体験学習> 
小学校全校活動・総合的な学習 
福井大学教育学部付属小学校 宇野 秀夫・浦井 寿尚 
インターネット利用の意図 
 インターネットの普及に伴って,電子メールを使ったり,TV会議を利用したり,様々な学習が行われるようになった。遠隔地の子供達と共同で学習すること,国際交流の可能性がより身近に実践できるようになったことなど,インターネットを利用した素晴らしい成果もみられるようになってきた。しかし,その一方で,インターネットを使うことが目的化し遠隔地の相手を実感した交流ができていない,異年齢集団を生かし,ネットワークリテラシーを十分に使いこなせるような校内体制や環境整備ができていない,子供がコミュニケーションの道具として主体的に活用できていないなど,改善されるべき事柄も明らかになった。そこで,総合学習の時間に,科学遊びをテーマとした体験学習を行い,異年齢集団,遠隔地の子供達が,インターネットを活用しながら交流し学びを深めていくような展開を試みることとした。
 
1 科学で遊ぼう
(1) ねらい
  2002年の新教育課程の編成に向け,総合的な学習の時間が年間105時間以上創設されることとなった。例えば,国際,環境,福祉,情報,健康教育などをテーマとし,各学校で創意工夫をしながら独自の取り組みを行うようになった。本校では,子供と教師で1年間を通して学びを創り上げていく学級・学年総合学習,特別活動を総合的にとらえて実践するトピック総合学習の2つの総合学習を実践している。総合学習の時間に,下記をねらいとしたインターネットを活用した交流体験学習を実践することとした。
  
     
      | ○総合学習の時間の中にネットワークを活用した学習活動を位置づける。 ○異年齢集団の交流を通して,ネットワークリテラシーを身につけるようにする。
 ○遠隔地の友達や異年齢集団の子供達で行う科学遊びを通して,共同・共有体験の素晴らしさを実感させるとともに,学びを深めていく。
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○総合学習の時間の中にネットワークを活用した学習活動を位置づける。
 これからも絶えず変化していくことが考えられる情報教育の中でネットワークを活用するには,より柔軟なカリキュラムが必要とされる。それに際し,総合的な時間は有効な手段を担うと考えられる。
   本校では,子供達は,清掃活動や運動会などのトピック総合学習を通して,学年の壁を越えた異年齢集団で交流してきている。3学期には,縦割り班の子供達が協力しながら,自分達が選択し計画してきた科学の遊びの体験コーナーづくりをし,全校の子供達が科学の面白さを体験する科学で遊ぼう集会を行っている。しかし,子供達の興味・関心は,一度の集会ではとどまらない。「科学で遊ぼう集会」で紹介した遊びをもう一度お互いの仲間で体験したり,インターネットで出会った遠くの学校の友達に紹介したりしたいと思っている。そこで,科学で遊ぼう集会の事後活動として,更に遊びの素晴らしさや楽しさを実感し,深めることができるように共同で学習を展開することとした。
  ○異学年集団の交流を通して,ネットワークリテラシーを身につけるようにする。
   ネットワーク利用に際し,3年生と1年生が異学年としてペアを組み学習する。3年生は,学級総合学習で地域を調査したことや自分達の学級の様子をホームページに立ち上げている。また,春江小学校の子供達と電子メールのやりとりやTV会議などを行い,子供達同士の交流を深めてきている。このように,3年生は積極的に情報教育に関わることで十分なネットワークリテラシーを得ている。一方,1年生は,学年総合学習で体験してきたことを,お絵かきソフトで描いている。また,インターネットに触れる機会を得てきており,交流に対する興味はもっている。しかし,キーボード操作などのリテラシー上の問題から,実際の交流までには至っていない。そこで,日頃から縦割り班としての関わりだけでなく,学級総合の発表会を行ったり,クリスマスパーティーを開いたりして兄弟学級として交流を深めている3年生と1年生がペアを組むことにした。実際に電子メールやTV会議を利用して交流している3年生に,リトルティーチャーとして教わることで,今後の学習への展開を図ることとした。
  ○遠隔地の友達や異年齢集団の子供達で行う科学遊びを通して,共同・共有体験の素晴らしさを実感させるとともに,学びを深めていく。
     ネットワークの整備が進むとともに,遠隔地の子供達と電子メールやCu-SeeMeなどを活用した交流学習を進めてきた。学校の様子,地域の特色などを見つけ,自分達の学習に役立てていくことができた。それに伴い,様々な発見をすることができた。しかし,その一方で,共同で学習し共有で体験できる喜びを実感することができなかった。そこで,従来の交流学習から一歩進め,共同で学習を進め,共有体験ができるような交流体験学習を行うこととした。
     現在本校には,TV会議ができるシステムとしてphoenixが設置されている。音声だけの通信ではなく画像を伴い,しかもリアルタイムでの交信は,情報を,一方的に受け取るだけの受け身的な活用に終始するのではなく,子供自身が発信していったり,意見をもらったりという交流を通して,相互の学び合いを深めることができる。 
 
(2) 指導目標
 全校の子供達,遠隔地の子供達と,科学遊びをすることを通して,つくる楽しさ,遊ぶ楽しさ,学ぶ楽しさを実感し,一人一人の良さを認め合い,思いやりの心を育てる。また,遠くの学校の子供達とインターネットを活用した電子メールでの交流やTV会議を通したリアルタイムでの交流体験学習をすることで,お互いの学びを深める。
 
(3) 利用場面
 
  @Webや電子メールを活用しながら,同じテーマで交流する学校をみつける場面 本校では,あぶりだし,空気砲などの科学遊びを全校の子供達が体験する科学で遊ぼう集会を行っている。また,3年生は,総合学習の時間に,ネットワークを活用する時間を位置づける学習を実践している。Yahooなどの検索エンジンを利用したり,自由にWebを探すなどしたりして,同じようにものづくり,科学遊びなどをしている学級や学校を探した。春江小学校の3年生,香港日本人学校大埔校の子供達が取り組んでいることを発見した。そこで,子供達が科学遊びの共同学習の申し込む電子メールのやりとりをして,交流学習が始まった。TV会議によるリアルタイムでの学級紹介の交流につながっていった。 
  
   A異年齢集団でのネットワークリテラシーの学び合いの場面  3年生は交流学習などを通して,ネットワークを活用する十分なリテラシーを得ている。一方,1年生はお絵描き以外でコンピュータを使ってみたいと考えているが,キーボード操作やインターネットの活用の仕方が十分にできない。そこで,3年生のお兄ちゃん,お姉ちゃんをリトルティーチャーとして,科学で遊ぼう集会の取り組みをホームページにする方法や電子メールのやり方を教わる異年齢集団での学び合いの場面を設定することとした。
   B科学で遊ぼう集会の様子をインターネット中継している場面  交流校に科学で遊ぼう集会の様子や科学遊びの内容を紹介するために,ホームページでActiviewを活用して,インターネット中継を行った。どんな遊びが楽しそうか,交流校の子供達が感じとっていった。
   Cリアルタイムでの遠隔地の子供達と共同・共有の体験学習  ホームページをみていた春江小学校や香港日本人学校大埔校の子供達から科学の遊びを紹介してほしいという返信の電子メールが届いた。学級での話し合いをしたり,電子メールのやりとりをした結果,本校の1年生が学校のみんなに紹介したあぶりだしと春江小学校の3年生が理科の学習で行ったことがある音遊びなどで,TV会議をしようということになった。遠隔地の子供達,異年齢集団の子供達による共同で共有の体験学習が始まった。 
     TV会議の画面を通して,汁のとり方,あぶり方,諸注意などを説明し,ものを使って遊ぶ楽しさを共有することができた。リアルタイムで遠くの学校の友達と交流を深めることができた。科学遊びを通して,学ぶ楽しさを共有することができた。 
  
 
  
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    | 図1 テレビ会議の様子 |  図2 汁遊び  | 
 
(4) 利用環境
@使用機種  PC-98NX     1台   FM-Towns SI  20台
A周周辺機器  ビデオスキャンコンバーター  液晶プロジェクター
B稼働環境  インターネット専用線接続及び校内LAN  ISDN
Cその他の利用ソフト  Actiview v1.0 Internet Explorer V3.01 phoenix v1.5 AL-Mail 
 
2 指導計画 
指導計画
| 指 導 計 画 | 留 意 点
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    | @どんな集会をしたい! 自分達で企画・運営したい集会を決める。
 | ・これまでの学校生活を振り返り,どんな集会活動をすると,全校の子供達が価値ある体験学習をすることができるか考える。 | 
    | A科学遊びを募集します。 科学の仕組みを使った遊びを探す。
 | ・WWWブラウザを活用して,科学のしくみを使ったホームページを探してみよう。 ・お友達や大人に聞いたり,資料を調べたりして,科学の遊びを探してみる。
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    | BTV会議で交流しよう TV会議を通して,お互いの学校や学級を紹介する。
 ★インターネットの利用
 | ・Webを探しながら,ものづくりに取り組んでいるような学級や学校を探してみる。 ・電子メールにより,お互い学校や学級の紹介を行う。
 ・TV会議により相手を意識しながら,交流をする。
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    | C科学で遊ぼう集会 全校の子供達が科学遊びを体験する。
 | ・一人一人が調べてきた科学遊びをリトルティーチャーになって教え,全校の縦割班で体験コーナーを開催する。 ・全校の縦割り班が,体験コーナーを開催するグループと体験するグループに分かれて,科学遊びを体験する。
 ・Activiewにより,科学で遊ぼう集会の様子をホームページで中継する。
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    | Dホームページで紹介しよう 異学年ペアでホームページを立ち上げる。
 ★インターネットの利用
 | ・3年生がリトルティーチャーとして,1年生にホームページビルダーの使い方や電子メールの打ち方を教えるようにする。 | 
    | E科学遊びでTV会議 遠くの友達とTV会議をする。
 ★インターネットの利用
 | ・ホームページに立ち上がった科学遊びをみながら,電子メールによる交流をする。 ・TV会議をしながら,科学遊びをテーマとした共同で共有の体験学習を行う。
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    | F交流校へいこう 顔を合わせた交流をする。
 | ・電子メールなどのやりとりを通して,交流会の計画を立てる。 ・ゲーム,スポーツ,遊びなどをしながら,交流を深める。
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3 利用場面 
 
(1) 目標
 遠くの学校の子供達や異年齢集団の子供達と科学遊びによる交流体験学習を行うことで,お互いを思いやる心を育てるとともに,つくり,学び,交流する楽しさを実感する。
 
(2) 展開                                
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| 子 供 の 活 動 | 子 供 の 思 い | 支援(・)と評価(※) |  
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| 1.1年生と3年生でお互いのめあてを確認する。 ・3年リトルティーチャーになって交流学習を楽しもう。
 ・1年交流のやり方を教えてもらおう。
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 |  | ・教師は一人が主に授業の進行を,一人がシステムの設定や補助にまわりながら,T.Tで行うようにする。 |  
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| 2.インターネットに接続し交流校のホームページをみる。 
 3.遠くの友達からのメールを紹介する。
 |  | ・インターネットの利用の仕方を1年生が分かるために3年生がリトルティーチャーとなって教える。 ・海外の学校のものは,翻訳ソフトを使って,あらかじめ日本語に訳しておく。
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| 4.TV会議システムを使って,遠くの小学校の子供達と交流する。 | 
              
                | TV会議システムを使って,春江小学校の友達を紹介するよ。 |  | ・相手をみて,自分の言葉で話すようにする。 |  
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| 5.科学で遊ぼう集会で開いた体験コーナーでの遊びを説明しながら,一緒に遊びを体験する。 |  | ・相手の子供達の体験したい遊びを画面を見るだけで,相手側の子供も体験できるように遊びを決めておく。 ・1年生は遊びをやってみせる事で,進んで関わるようにする。
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| 6.交流の感想を発表する。
・感想の交流をする
・次の交流の計画を話し合う。 |  | ※共同で遊びを楽しむことができたか。 ・感想を発表して,交流することの素晴らしさを実感する。
 ※更なる意欲付けができたか。
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4 実践を振り返って 
  本実践を通して,第1に成果としてあげられるのは,異学年ペアでホームページの立ち上げ方,キーボードの打ち方などを体験することで,効果的にネットワークリテラシーを高めることができたという点である。
   上の学年の子供達がリトルティーチャーとして,下の学年の子供達に関わるように,異学年ペアで共同でホームページを立ち上がらせるようにした。下の学年の子供達にとっては必要なネットワークリテラシーを得ることができ,上の学年の子供達にとっては上級生としての自覚を高めることができた。また,指導者にとってもよりつまづいているグループに対して指導の重点を移すといった,メリットを得ることができた。
   第2点としてあげられるのは,相手のことを知ったり,交流する喜びから,共同で共有する体験へと学習を高めることができたという点である。  学校・学級などの紹介,地域への調査活動など,交流学習を行ってきた。ネットワークを活用する意義や喜び,相手や相手の持っている情報を得る楽しさにつながっていったが,共同で学習する喜び,共有体験できる喜びを十分に体得できるという所まではできていなかった。そこで,子供達に対して共同でものづくりをする,科学遊びをするという子供達の学びの意識に合わせて,TV会議などを活用したリアルタイムの交流を設定した。 
    
     次に,改善が必要と思われる点である。科学遊びをテーマにした交流体験学習では,大きく2つの体験に分けられる。TV会議による相手との交流と科学遊びそのものをする体験である。科学遊びによる交流体験学習をやりだすと,子供達の注意はそちらの方にいってしまう。そのため,TV会議のやりとりがスムーズに行われなくなってしまう。そういった面もみられた。 
  
 
ワンポイント・アドバイス
  
    | リアルタイムでの交流学習として,これまではCu-SeeMe,Net 
      Meetingなどによる交流を行ってきたが,本実践ではphoenixによるTV会議を行った。音声と映像がはっきりし,安定したやりとりができ,交流体験学習は効果的に行うことができた。 低学年の子供達にとっても,交流を行う際にはわかりやすい交流をすることができた。しかし,科学遊びに熱中し,交流学習がスムーズに行かないこともあった。シナリオを作成するなどしておくと良いとよい。
 電子メールソフトとして,AL-MAILなどを利用した。異学年ペアでリトルティーチャーとして教えることで,意欲的に活動することができた。しかし,機能も多く,子供達にとってはもっと簡便なメーラーなどもある。子供用に適したメーラー,ブラウザなどの使用を考えていくようにしたい。
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利用したURLなど
Yahoo Japan      (http://www.yahoo.co.jp/)
NTT  DIRECTORY   (http://www.navi.ntt.co.jp/)
春江小学校ホームページ   (http://www3.miyako.co.jp/)
香港日本人学校大埔校ホームページ   (http://www.jis.edu.hk/jis/)