高知集中豪雨から学ぶ
―目的に応じた資料を収集することを学習活動の中心に据えて―
小学校6学年 総合的な学習
高知市立横内小学校 若林章・槙山美也子・小林豊
インターネットの活用の意図
情報を得るには,書物,写真,テレビ(ビデオ),新聞,インターネットなど,いろいろな手段があり,それらは,それぞれに独自の特性を持っている。
今回の学習では,これらの全てのメディアを個人の課題解決のために,情報収集を中心に自分にあったメディアを選択して行うことにした。
特にインターネットを利用するにあたっては,たくさんある学習手段の中のひとつと考えて活用することにした。そして,インターネットの豊富な情報量と手軽さを体験し,これからのインターネットを学習に位置付けるための一助にしたいと思う。
1 高知集中豪雨から学ぶ
- ねらい
この度,9月24日から25日にかけての集中豪雨により,高知市東部は大きな被害を受けた。本校は,同じ高知市に住んでいながら,幸いなことに,被害に遭っていない。ただ,友達や親戚,知人の中に,被害に遭った人々がいることを考えると被害に遭わなかったからよかったと喜んではいられない。
高知集中豪雨を取り上げることは,修学旅行(阪神大震災の学習)で体験し,学んだことを生かし,人々の願いや思いをより身近にとらえることができると考える。そこで、どうすればもっと被害が少なくなっていたか,今後の防災についてどうすればよいのかを考えさせることは,地域の暮らしをよりよくしていくことや行政のしくみについて考えさせるきっかけにもなるのではないかと考えた。
この単元では,高知市集中豪雨を調べることを課題にして,自らの「課題」を持ちその「課題」を解決するための方法を考え,自分の目的に応じた資料を収集することを学習活動の中心に据えて取り組むことにした。
- 指導目標
@自分の課題を持って,自分にあったメディアを使って調べることができる。
A自分の調べたことをまとめ,発表することができる。
B自分にできることがわかり,行動しようとする態度を育てる。
- 利用場面
この単元では,各種資料(新聞・写真集・インターネット)を使って効果的に調べ学習をすすめる。そのために,自分にあったメディアを選ぶことや自分の課題を解決するための,一手段としてインターネットを活用する。
- 利用環境
@使用機器 FM-TOWNS (11台)
A周辺機器 プリンター(EPSON) ISDNターミナルアダプタ
B稼動環境 コンピュータ室には,11台のパソコンがあり,それらが簡易LANで接続されている。そのうち教師用1台がインターネットに接続されている。ルーターがないので,11台同時にインターネットに接続はできないが、あらかじめダウンロードしたページを共有ファイルにしておき、利用している。
2 指導計画(総合的な学習として)
- 大単元
本校は今年4月に開校し,新しい仲間が集まってきた。6年生は,今年1年という短い間で卒業してしまう。そこで,せっかく出会った友達を知らずに卒業するのは寂しいと考え,できるだけ「人とふれあう」をテーマにし,取り組むことにした。
1学期は,下学年にもわかるように自分たちの新しい学校の施設を調べ,遊び方について考えさせた。その後,校区に目を向けさせ,自分のすんでいる地域を友達に紹介しようという単元を組んだ。また,修学旅行では,震災学習を盛り込み,事前学習としてインターネットを含む,いろいろなメディアを活用して,震災の恐ろしさや被害に遭った人々の苦労や復興の様子,努力などを調べた。そして実際に震災に出会った人からその時の様子や復旧に向けて努力していく人々の話などを現地で聞き学習してきた。
ところが,本年9月に高知市において記録的な大雨が降り,やがて歴史に残るほどの被害をもたらした。修学旅行で震災学習を行ったばかりでなので,総合学習の中に位置づけ災害についての学習を深めさせたいと考えた。そして,下記のような単元計画で課題別グループあるいは個の学習の場として,主に学年TTを組み,総合的な学習に取り組んだ。
<単元と活動内容>
1 学 期
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5
時
間
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地域紹介「横内小学校の校区を知る」
(国語・社会・図工・特活)
@自分たちの住んでいる地域について調べ,資料作成を行う。
A作成資料をもとに各グループごとに発表し,意見を交換する。
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5
時
間
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震災学習「阪神大震災から学ぶ」
(国語・社会・理科・図工・道徳・特活)
@阪神大震災について調べる。
・資料を集めて調べ学習を進める。
★インターネットの活用
・被害に遭った現地の小学校の校長先生の話を聞く。
A阪神大震災から学んだことをまとめる。
・全員がまとめの作文を書き,1冊の冊子を作る。
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2
学
期
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9
時
間
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顔「〜のときの〜のような顔」(図工)
@材料を選んで自分の表現したい顔を作成する。
・木工
・粘土
・紙(☆コンピュータ)
A作品の鑑賞会を開き,友達のよさを見つける。
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10
時
間
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高知集中豪雨「高知集中豪雨から学ぶ」
(国語・社会・理科・図工・道徳・特活)
@自分の調べたい課題を出し合い,グループ化する。
A課題解決のために資料を収集し,発表会資料を作成する。
★インターネットの活用
Bオープンスペースを活用し,発表会をする。
C発表内容の反省をし,問題意識を深める。
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3
学
期
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4
時
間
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地域と交流「自分たちの調べたことを伝える」
(国語・社会・図工・特活)
@一年間を通して学習してきたことを,伝える方法を考える。
A学校内だけでなく,地域の方々にも伝える活動を進める。
B意見や感想をまとめ,学習の仕上げをする。
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(2) 本単元の指導計画
@オリエンテーション(課題把握とグループ化) ・・・・・・・・・1時間
A課題解決(資料の収集と調べ学習)
・・・・・・・・・・・・・・・・5時間
B発表する(調べたことを発表する)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・1時間
Cまとめる(自分にできることを考え,行動化)・・・・・・・・・・ 3時間
3 利用場面(2/10〜6/10時間)
(1) 目標
・自分の課題にあったメディアを選択して,高知集中豪雨について資料を収集することができる。
・ 追求した課題の発表資料を作成することができる。
(2) 展開
学 習 活 動 |
教師の支援・評価 |
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1,課題を確認し,本時の学習内容を知る。 |
・各グループごとに今日の学習計画を立てさせる。 |
学習グループと学習課題例
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・ボランティアについて
・被害状況
・交通機関へのダメージ
・被害が起こったときのようす
・被害総額
・気象状況
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・集中豪雨の原因
・復旧(現在)のようす
・被害を受けた土地のようす
・被害者の気持ち
・大津の対策と町づくり
・家や人の被害(等)
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○調べる方法と場所の確認を
・インターネット資料 コンピュータ室
・個人資料 各教室
・新聞,雑誌等oオープンスペース
2,個々の学習課題を追求する。
○グループの中で話し合いながら自分の課題追求を進める。
○必要な資料を集めて,発表会資料を作る。
○グループごとに発表会の練習を工夫する。
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・自分の課題を確認し,解決するメディアを選ばせる。
・T1はコンピュータ室で,T2、T3はそれぞれオープンや教室のグループの支援をする。
・同じ課題を持ったグループで行動させる。
・グループの中で協力しながら,課題追求がスムーズにできるように支援する
・調べていく過程で,新たに見つけた課題も追求していこうとする態度を大切にする。
・いろいろな発表の仕方があることを知らせ工夫させる。
・聞き手によくわかるような方法を考えさせ る。
・質問の予想をさせ,答えを考えさせる。
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4 実践を終えて
児童の中には,豪雨関係の新聞をとっておいたり,写真集「豪雨パニック」(高知新聞社)を購入していたりと今回の集中豪雨については,やはり関心度がとても高かったことがわかった。
調べ学習を進める中で,市役所に直接電話をして質問をする児童や、実際に現地へ出かけて写真を撮って持ってくる児童も見られた。またインターネットについては,前回(震災学習)に続いて2回目になる。今回初めてインターネットを操作する児童もいる中で,すでに自宅のパソコンから情報を引き出して持ってくる児童も何人かいた。
コンピュータ室には,はじめから当時の気象情報を調べたいと集まってきたグループがあったり,まずホームページから自分たちの知りたい情報を探そうと集まったりするグループとさまざまであった。また、調べるうちに,インターネットでさらに詳しい情報を得たいと集まってきたグループもあった。
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図1 インターネットで情報を探す
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インターネットを,活用することは児童にとって興味深いものであり,意欲的な活動ができたと思う。ただ,この時点では,インターネットは見るだけで発信
ができなかった(市内の学校は,受信の
み許可)ので情報を受けるだけで終わっ
てしまった。児童の疑問や質問がメールを通してできたなら,一般的な情報だけでなく,もっと幅の広い情報を得ることができたかもしれない。
今回のように自分たちの住んでいる地域で起きたことは情報が手に入りやすかった。しかし、実際に神戸で起きた震災のような遠い地域の情報は,やはりインターネットが有効に活用できることがわかった。
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図2 発表会のようす
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本校の特徴であるオープンスペースについては,特に今回のような課題別学習における情報収集,話し合い,作業等の活動の場として十分価値があるとともに児童にとってより円滑で効果的な学習の場として保障されるものである。
また,インターネット(コンピュータ)は,個人の課題追求におけるひとつの道具として今後多岐にわたる自由な課題をもって進められる総合的な学習において個々の児童が主体的に活動していける道具として効果的であるといえる。
今回は,情報収集の手段としてのインターネット活用であったが,調べ学習の成果を発信し,たくさんの学校や人と交流できる機会を持つ方法を考えていきたい。また,普通教室やオープンスペースにコンピュータを置くことでインターネットを学習の道具として活用できるような環境を整えていきたい。
ワンポイント・アドバイス
全てのコンピュータが,インターネットに接続できることが望ましい。いろいろな制約があり難しい場合でも,簡易LAN(ネットワーク)で結んでおくことでルーターがなくても,複数のコンピュータが同時に使えるので授業の幅も広がる。
また,今回の課題別学習(調べ学習)では,学年TTを組むことで児童の活動の幅を広げることができる。さらに資料やメディアが多ければ多いほど児童の主体的な活動が保障できる。
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参考文献
写真集「豪雨パニック」(高知新聞社)
その他 高知市の「広報」,高知新聞など
利用したURLなど
高知新聞社(http://www.kochinews.co.jp/suigai.htm)
高知市(http://www.pref.kochi.jp/info/city/town26.htm)
高知県(http://www.pref.kochi.jp/)
高知県警(http://www.i-kochi.or.jp/hp/kenkei)
高知大学情報科学科(http://www.is.kouchi-u.ac.jp/weather/)