自己実現に向けてホームページを作ろう
高等部・養護・訓練
千葉県立仁戸名養護学校 木津 輝明

インターネット利用の意図
 本校の児童生徒は隣接の病院に入院し,そこから通ってくるため,外部の人との交流がほとんど取れないという環境に置かれている。そのため,社会性が育ちにくかったり,自分の殻に閉じこもりがちな生徒が多い。そこで,外に出なくとも外部の人との交流を持つことのできるインターネットを活用する授業を行った。

 
1 ホームページの作成
 
(1) ねらい
  本校の生徒にとって,人との関わりを広げ,何事にも前向きな態度で望んでいくという気持ちを育成する方法として,コンピュータやインターネットの活用が効果的であると考えた。その理由として,
 @自分のコンピュータを持ち,メールで特定の人とやりとりを始めているたり,将来コンピュータでゲームソフトの開発をしたいという夢を持っている生徒などがおり,コンピュータに関する興味関心が非常に高い。
 A自分の興味あるものを意欲的に調べて,ホームページを作成することを通して自己表現でき,開放感が図れる。
 Bコンピュータを媒介として,自分自身でいろいろな情報を引き出すのみならず,自分から発信して他の人々の意見を聞くことができ,コミュニケーションを広げることができる。
 Cインターネットは,直接人と会わなくてもコンピュータの画面を通して見ず知らずの人と接することができ,人との関わりを苦手としていて,これから他人とコミュニケーション活動を広げていこうとする今の実態の生徒たちには,きわめて有効であると考えられる。
  以上の点から,インターネットを活用し「人との関わり」の広がりにつなげたいと考え授業を実践した。
 
(2) 指導目標
 @ホームページ作りを通して,自分の興味関心のあるものを自由に表現し,開放感を得る。
 Aホームページ作りを通して,趣味の拡充とその活動への成就感と自信を持つ。
 Bインターネットの活用や,ホームページ作り,他者に学ぶ,発表,意見・感想の交換という一連の活動を通して,自己と人との関わりを見つめ,前向きに生きていこうという気持ちを持つ。
 
(3) 利用場面
 この単元では,次のような学習活動の中でインターネットを使用する。
 @インターネット上にどのようなホームページがあるのか,ネットサーフィンをして情報を得る。
 A自分が作成するホームページの参考となるようなページを閲覧したり,ホームページを作成するための部品をさがす。
 B自分のホームページを見てくれた人とのメールのやりとりを行う。
 
2 指導計画(9時間扱い)
 
項  目
 
学 習 の ね ら い
学 習 活 動
インターネットやホームページ作りの意義を知る。
★ホームページを見ることによって,ホームページ作りへの関心や意欲を持つ。
・インターネットを通して人との関わりが持てることを知る。
・単元の学習を確認し,生徒の興味関心のある項目について検索をし,ホームページを見て感想を発表する。
ホームページの内容や構成を考える。
・自分が作るホームページの内容や構成を考えることを通して,自己表現できる。 ・自分のホームページを作るにあたって,興味関心がある事柄を深める。
・人に伝えたいことを明確にし相手を意識した内容や構成を自分なりに工夫する。
ホームページ作りをする。
 
・ホームページの構想をソフトを使って実際に作成することで成就感を得る。
・作成中のホームページに学校外の方からアドバイスをいただくことを通して,人との関わりの重要性に気づく。
・コンピュータのホームページ作成ソフトを用いて作成する。
・作成途中のホームページを学校外の方に見せ,アドバイスをいただきホームページづくりを完成させる。
★メールで返事を送る。
お互いホームページを見合う。
 
・ホームページの発表・意見・感想の交換等の一連の活動を通して成就感と自信をもつ。
・ホームページ作りを通して知り合った人たちとの関わりを再認識する。
・人との関わりに,今後インターネットを自ら積極的に利用しようとする気持ちを養う。
・ホームページ作りを通して
 の工夫点や苦労を発表し,お互いのホームページを見合う。
・ホームページ作成途中で学校外の方に見てもらった感想を発表する。
・この単元の活動を振り返り自分たちの学んだことや,今後の生活の中に生かしていくこと等を発表し合う。
 
3 利用場面
 
(1) 目標
 ・ホームページの完成・発表を通して,成就感を味わい,自信を持つ。
 ・インターネットやメールの交換を通して,人との関わりを体験し,今後の生活に生かしていきたいという意欲を持つ。
 ・ホームページ作りの取り組みを通して,自己を見つめ,前向きに生きていこうと言う気持ちを持つ。
 
(2) 展開
学習内容と主な発問
予想される生徒の活動
指導上の留意点及び評価
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 5  
○本時の学習内容を確認する。

・それぞれのホームページは,教師の指導のもと,完成させておく。



・教師が説明の仕方の要領を適宜助言したり,自信を持って発表できるように声かけする。



・生徒個々に応じて,着眼点を具体的に導き出せるような質問や助言をする。



・素直に感想が言えるよう,リラックスした雰囲気づくりをこころがける。




・教師が生徒にに見やすいようセッテングを行ない,コンピュータを操作する。
・これまでの取り組みで生まれた人間関係について振り返ることができるような助言を心がける。
・時間内にお礼のメールができなくても構わない旨を指示し,気持ちを表現する姿勢を大切にさせる。

・感想を発表しにくい様子が見られたら,具体的な質問に換え,生徒の感想を引き出すようにする。
・技術面のみの感想にならずに,目標の達成が把握できるような生徒の気持ちを導くように心がける。
お互いのホームページを見合おう
○自分のホームページの発表と説明をする
・このタイトルを選んだ理由や,自分の思い,工夫した点,苦労した点など説明を加えながら発表しよう。
    図1,図2



・お互いのホームページについて感想を述べよう。
(生徒同士)


○メールの講評を知りお礼のメールを送る。


・感想を述べよう。
・素直な気持ちをメールで送ろう。








○ホームページ作りを通してのまとめをする。
・9時間の授業を振り返ってみてどうだったか。
・構成,タイトルの付け方,メニューの設定の工夫,それぞれの苦労した点等を発表する。


・お互いのホームページと説明を通して,相手の興味関心のある事柄や思いを理解する。

(予想される感想)
・タイトルがユニークで興味深い内容だった。
・動画や写真が入っていてわかりやすかった。

・今までのメールでのアドバイスを思い出しながら講評を把握する。

(予想される感想)
・見知らぬ人が自分のために時間と手間をかけてメールをくれたことが嬉しい。
・自分では気がつかない面を知った。




(予想される発表)
・内容と構成を考えるのが少し大変だったが,ホームページ作りは楽しかった。
・メールも送れて良い経験ができた。
・これからも続けていきたいと思った。
 
図1 生徒が作成したホームページ図2 生徒が作成したホームページ
図1,2 生徒が作成したホームページ
 
4 実践を終えて
 
 実際に生徒がホームページを作っていく課程の中で,著作権の問題が非常に大きく立ちはだかって四苦八苦させられた。しかし,その中で生徒たちは著作権という問題についての理解を深めてくれた。また,本校ではインターネットができるコンピュータが1台だけという環境的にかなり苦しい制約があったが,大画面のテレビを用いて全員に見せたりすることで対応した。
 生徒は自分のホームページを作成するということに関して,はじめはとても難しいという意識を持っていた。確かにコンピュータをいままでほとんど触ったことのない生徒にとっては,キーボードのアルファベットの配列から覚えなければならないという事実があった。しかし,作り始め,ある程度教師の支援がなくても一人で作れるようになると昼休みなどのちょっとした時間を用いて,教師が指示しなくとも自分で積極的に作ったり,自分の病室に自宅からノート型パソコンを持ち込んでこちらの意図しているものよりもかなり高度なホームページを作成する事ができた生徒もいた。また,実際に自分の作ったホームページを他人に見てもらい,その評価をメールを通じてしてもらうことを通して,全く面識のない人とごく簡単にしかも時間を気にせずコンタクトを取ることができる,ということに生徒はとても興味・関心を持ったようである。
 本校の生徒のように,調べたいと思うことがあっても図書館に行けなかったり,友達と自由に遊んだりできなかったり,病気のため外に出ていくことができない生徒にとってインターネットという道具は,使い方次第でとても大きな意味を持つということが実践できたと思う。
 
ワンポイント・アドバイス
 インターネットやコンピュータを用いた授業の実践集は一般的にコンピュータの知識がある程度ないと書いてある内容がわからない。さらに専門用語が多くて無味乾燥な内容に感じてしまうものが多い。私自身が2〜3年前,コンピュータをいじりはじめた頃はこのように感じていたし,現在でもコンピュータの専門用語はあまり知らない素人である。そこで,ここでは,専門用語等を知らない方でもインターネットにはこんな使い方もあるというようなことが知ってもらえるような内容にしたつもりである。事例では,インターネットは使い方によって,こんなに人間的なものなんだということが実践できる一つの道具として取り上げてみた。
 先日,本校に在籍している高校1年生6人にインターネットを用いた授業を行う前に,これまでにインターネットをやったことがあるか聞いたところ,1人もやったことがないということであった。しかし,1時間の授業の中で生徒たちは簡単に使い方をマスターし,さらに,自分の興味・関心のあるものを積極的に調べようとする意欲も見られた。インターネットに限らずとにかくコンピュータは道具としてかなり有効な教育機器だと思う。
 
利用したURLなど
 YAHOO!JAPAN サーチエンジン  (http://www.yahoo.co.jp/) 
 窓の杜                  (http://www.forest.impress.co.jp/)
 日本教育工学振興会            (http://www.japet.or.jp/)