コンピュータを使って宇宙を知る
 
大学1,2年次・共通基礎科目
十文字学園女子大学 北原 俊一

インターネット利用の意図
 太陽系惑星はどんな素顔をしているのか,星雲や銀河にはどのようなものがあるのか,宇宙を学ぶには,まず天体を知ることが第一歩であると思われる。天体を学生に提示する場合,OHPやスライドを用いるよりコンピュータを用いたほうが簡便である。というのも,NASA(アメリカ航空宇宙局)では膨大な天体のデジタルデータを公開しており,インターネット経由で参照することはたやすいことだからである。

 
1 宇宙を知る
 
(1) ねらい
 宇宙を知る場合,どのような天体があるのかを知ることは大切であろう。インターネット上では膨大な天体の画像データが公開されており,これを整理して効率よく,手早く提示するため,コンピュータを用いている。
 
(2) 指導目標
 なるべく多くの天体画像(動画含む)を学生に提示して,天体をよく知ってもらう。その上で,なぜそのような天体ができたのか考えてもらう。多くの場合物理的な理由があるからであり,そのような科学的思考も身につけて欲しいからである。
 
(3) 利用場面
 講義の内容が“月”であればそれに関する画像データをインターネット上で検索する(主にNASAを利用)。講義で使用する画像はあらかじめ大学のサーバーにダウンロードしておく。さらにそれらを講義で効率よく提示できるよう,HTMLを使って簡潔にまとめておく(図1,2)。教室ではノートパソコンを端末とし,サーバーに接続し,HTMLを表示させる。ノートパソコンからはビデオエンコーダーを介し,ビデオプロジェクターよりスクリーンに投影する。講義を進める上で必要があれば図表・グラフを作成(またはスキャナで読み込み)し,HTMLで表示できるようにしておく。
 
(4) 利用環境
@使用機種 東芝 Libretto 50 1台
A周辺機器 Victor Video projector RM-C1000, Video cassette recorder HR-V4, COMPAL Video encoder V-Mate Pro Super PVE-800
B稼働環境 サーバーにダウンロードした天体画像を,ネットスケープナビゲーターで読み,ビデオエンコーダーを介して,大型スクリーンに提示する。
Cその他の利用ソフト
  1) ネットスケープナビゲーター用プラグイン InterVU(mpegファイル 再生)
  2) 同プラグイン TEC Player(Quick Time ムービー再生)
  3) ペイント(作画)
  4) GNUPlot(グラフ作成)
  5) Graphic Workshop(画像フォーマット変換)
  6) Skymap(プラネタリウムソフト)
 
図1 トップページ 図2 土星
図1 トップページ
図2 土星
 
2 指導計画
 
指導計画(年間) 留意点
太陽と地球。
★インターネットの利用


 
・太陽は地面のないガス体であることに注意する。
・太陽は核融合によって光り輝いており,地球はそのエネルギーを受け取っていることを伝える。
・太陽表面の画像(黒点,粒状斑),プロミネンス,コロナ等の画像を準備しておく。
月にはなぜ人が住めないのか,地球との対比で考える。
★インターネットの利用

 
・月は地球のそばにあるのに,なぜ人が住めないのか考える。アポロ11号に関連した多くの画像がNASAで公開されており,それを提示する。草木のない真っ暗な世界を実感してもらう。
・月はなぜ満ち欠けをするのか,また日食・月食についても触れる。
内惑星について学習する。
★インターネットの利用



 
・水星は大気がないため,昼熱く,夜は地球より寒くなることに注意する。探査機マリナーによる画像データを利用する。
・金星はなぜ水星より熱いのか(太陽からは金星の方が遠いにもかかわらず)考える。金星には大気があることがわかる画像を用意しておく。探査機ベネラによる地表面の画像,探査機マゼランによる地形図も用意しておく。
第2の地球候補,火星のようすを知る。
★インターネットの利用


 
・ハッブル宇宙望遠鏡による火星の全体像とマーズパスファインダーによる地表の画像を多数準備しておく。
・空は明るく,地表面は地球の砂漠地帯に似ていることに留意する。
・かつては火星に水が存在したと考えられていることにも触れる。水流跡と考えられている地形等,関連画像を用意しておく。
木星型惑星は巨大なガス惑星であることを伝える。
インターネットの利用

 
・木星・土星・天王星・海王星は大きいガスの天体であることを,ボイジャー探査機による豊富な画像で紹介する。
・木星の縞模様と大赤斑,土星はよく見ると上下につぶれていること,天王星と海王星の美しい青緑色などに触れる。
・これらの惑星はすべてリングを持っていることも示す。
彗星と流星群の関係を学ぶ。
★インターネットの利用




 
・近年接近したヘール-ボップ彗星およびハレー彗星の画像を主に用いる。
・彗星は汚れた雪だるまのようなものであり,核が脱落したり,核が分裂して木星に衝突した事例にも着目する(百武彗星・シューメーカー-レビー彗星)。
・しし座流星群などの流星群は,彗星と深い関係があることに注意する。
星と星座。
★インターネットの利用
☆プラネタリウムソフト

 
・太陽はありふれた星であり,他にもたくさんの光り輝く星があることを示す。
・Skymap(星図を表示するソフトウェア)を用いて星座を紹介しつつ,主要な星を覚えてもらう。
・HR図もここで示しておく。
の死と星雲の関係を理解してもらう。
★インターネットの利用



 
・カニ星雲の画像を使い,重い星の最後(超新星爆発)の様子を示す。ここで,爆発後に残る天体であるパルサーやブラックホールについても触れておく。
・らせん星雲を例にとって,太陽のような軽い星の最期はどのようであるかを示す。あとに残される白色わい星についても触れる。
・ほかの超新星残骸や惑星状星雲の画像も多数用意しておく。きれいな画像が多いため,興味を引きやすい。
星が誕生している星雲を紹介する。
★インターネットの利用

 
・ハッブル宇宙望遠鏡は,星が誕生する瞬間を捉えていることを,わし星雲中心部の画像を使用して示す。
・オリオン星雲の,惑星円盤をもつ若い星の画像も使用する。太陽系が誕生するときと対比させる。
・他の多くの散光星雲,暗黒星雲も紹介する。
星団と天の川銀河について考える。
★インターネットの利用
 
・球状星団と散開星団の存在する場所と,その年齢に注目し,天の川銀河の過去の姿を推察する。
・M5などの球状星団と,プレアデス星団等の散開星団の画像を準備しておく
銀河は数多くあることを示す。
★インターネットの利用
 
・メシエカタログに載っている銀河を提示する。
・銀河は衝突したり,合体したりすることを車輪銀河,アンテナ銀河とM51銀河を例にして示す。
 
3 利用場面
 
(1) 目標
ある天体について学ぶとき,コンピュータによって画像を効率よく提示し,視覚的に印象に残るように心がける。また,その天体について考察する。
 
(2) 展開
学習活動 活動への働きかけ 備考
1.講義の概略を説明する



 
・すぐ後に天体画像を見ることを意識し,その理解に最低必要と考えられることを板書,または口頭で伝える。
・動機づけのため,簡単な問題演習(作業)を行うこともある。




 
2.天体画像を提示する。




 
・天体画像1枚1枚に対して,詳しい説明を加える。このとき教室の照明は落としてあるため,口頭にて行う。
・このとき,その天体の成因などを考察する。
・もし必要があれば図表やグラフも提示する(HR図等)。
・ コンピュータ
・ 大型スクリーン
・ 天体画像(インターネット)

 
3.本時のまとめをする。 ・本時のポイントを黒板に整理する。画像の説明は口頭で行っているため,おろそかにはできない。  
4.ビデオの利用。 ・より理解を深めるため,関連ビデオをここで用いることがある。 ・ 大型スクリーン
・ ビデオ
 
4 実践を終えて
 
 カラーで天体画像を表示することができるようになり,白黒のコピーを使用していたころとは比較にならないほど内容が豊富になった。また,量的にも多くの天体を示すことができ,講義に幅を持たせることができるようになった。学生の方も天体のイメージがしやすくなったことと思う。
 ところが,学生からは目が疲れるといった声が聞かれたこともある。スクリーンを用いて表示しているため,画像を見せるときには照明を落とし,板書するときは照明を明るくすることを繰り返さなくてはならない。そのことも目を疲れさせる原因になっていると思われる。
 天体画像を多く見ることにより,天体のことがわかったような気になり易いと思われるが,その反面,考える時間が少なくなったように感じる。それは講義の進め方にもかなり依っていると思われる。今後は科学的に考えるさせる工夫をしていきたいと考えている。
数多くの画像を含むHTMLファイルを作成するときには,大変な時間が必要である。ところが一度作ってしまえば,変更・新しい画像の追加は容易である。また,講義で使用しているHTMLファイルに簡単な解説を加えたもの(図3,4)を学内のホームページに公開し,いつでも予習,復習ができるようにしている。そのページの利用頻度,教育効果の調査についてはこれからの課題である。
図3 自習用ホームページ(トップ) 図4 自習用ホームページ(土星)
図3 自習用ホームページ(トップ)
図4 自習用ホームページ(土星)
 
ワンポイント・アドバイス
 NASAのホームページはあまりにも膨大で,どのページにどのような画像があるのかを把握する
のが大変である。また Captionがすべて英語であるため,慣れるのに時間がかかった。ここで役に立つのが,NASAの画像をそのまま紹介した本(ハッブル望遠鏡が見た宇宙(岩波新書)等)である。
 これには画像と共に詳しい解説が載っており,Captionを読む手間が軽減された。
 300枚以上に及ぶ画像をHTMLにて効率よく提示するために,簡潔なハイパーテキストを書く必要がある。ところがあまりに簡潔にしすぎると,どのリンクがどの画像データであるのか,講義の最中にわからなくなることがあり,工夫が必要である。
 
参考文献
 ハッブル望遠鏡が見た宇宙(岩波新書)
 HSTハッブル宇宙望遠鏡がとらえた宇宙(誠文堂新光社)
 HTMLハンドブック(ナツメ社)
 
利用したURLなど
 アメリカ航空宇宙局(NASA) (http://www.nasa.gov)
 太陽系惑星 (http://pds.jpl.nasa.gov/planets)
 ハッブル宇宙望遠鏡による画像 (http://oposite.stsci.edu/pubinfo/Subject.html)
 メシエカタログ (http://www.seds.org/messier)
 ヘール・ボップ彗星 (http://www.jpl.nasa.gov/comet/index.html)
 マーズ・パスファインダー (http://mars.tksc.nasda.go.jp/JPL/ops/other.html)
 スペースシャトル (http://shuttle.nasa.gov)
 画像データの検索 (http://nix.nasa.gov)