東京都立大田ろう学校 Page1/2


新100校プロジェクト 平成10年度実施報告 

○インターネット利用状況

 今年度は5月31日をもってインターネットの接続ができなくなってしまった。本校で
も管理職を通して教育委員会に対してインターネットの接続の継続をお願いしてきたが、
財政上の理由などもあるようで教育委員会からは「接続を認める」という返事はもらえな
かった。しかし都教委は年度末になって、「来年度、盲ろう養護学校10校程度をモデル
校とする」とし、モデル校の募集を開始した。本校でも今までの経緯を説明し、「是非イ
ンターネットの利用を継続したい」とモデル校に応募した。認められたならば、またイン
ターネットの利用を再開し、授業等で活用できるようになる。

○ろう学校でのインターネット活用について

 ろう学校での、インターネット活用の可能性を考えてみたい。

1 日本語を使ったコミュニケーションの実践の場として

 聴覚障害は情報収集の障害である。特に出生時から聴覚に障害があったり、早い時期に
聴覚障害者になったケースでは、日本語の習得が難しい。健聴者であれば日常生活の中で
自然に習得する日本語も、聴覚障害児の場合は学習によって獲得していく必要がある。そ
のために、どうしても聴覚障害児は日本語によるコミュニケーションがスムーズには行わ
れなくなる。
 一般にろう学校は児童・生徒数も少なく、帰宅後は家で過ごすことも多いので、コミュ
ニケーションの絶対量も少ない。幼児、つまり日本語獲得の早い時期から、積極的に日本
語を使用したコミュニケーションに慣れさせるために、自宅でインターネットを活用する
方法があるかもしれない。ただし、現在の普通のインターネットの利用では日本語の獲得
に役に立たないだろうから、特別な「聴覚障害教育用サイト」を使って行う必要があるだ
ろう。本校は高等部単独校であり、修学前の幼児教育は行っていない。そこで、修学前の
教育を行っているところでこのようなサイトを作ってもらい、全国のろう学校の早期教育
でインターネットを活用されることを期待したい。
 また、小学部低学年でも日本語の獲得に重点が行われている。学校で勉強した「単語」
や「勉強の内容」は家庭で復習しないとすぐに忘れてしまうから、家庭での復習が重要で
ある。現在は連絡帳を活用したり、児童を保護者に引き渡すときに口頭で連絡したりして
学習した「単語」や「勉強の内容」を伝えているが、限られた時間内に十分に伝えきるこ
とは不可能である。インターネットの利用で授業内容をより多く家庭に伝えることができ
れば、家庭での復習もやりやすくなる。
 児童・生徒同士の連絡にも従来のFAXだけでなく、インターネットを活用できるよう
になるだろう。聴覚障害児が日本語でのコミュニケーションを拡大させることは、彼らの
日本語獲得にとってとても重要であり、その手段としてインターネットは重要なメディア
となる。

2 個別教育の手段として

 小学校高学年以降では、児童・生徒の学力差がでてきて一斉授業が難しくなってくる。
このことは普通校でも同じだと思うが、聴覚障害児の場合は特に言語の獲得が遅れている
ケースなどでは、個別対応をとる必要性が強い。ろう学校は1クラスの児童・生徒数が少
ないが、それでも、全体授業の中では一人一人に十分な対応をすることはできない。個別
対応の手段として「インターネットを利用した教育」が考えられる。聴覚障害児が取り組
みやすい教材をインターネット上に用意しておき、自分で自習できるような環境を作って
あげたい。

3 手話を使ったコミュニケーションの場として  聴覚障害者の言語としては手話がある。離れている人との手話を使ったコミュニケーシ ョンではテレビ電話などが必要であるが、インターネットのを利用すれば、高価なテレビ 電話を使わなくとも、画面にお互いの姿を映し出して連絡ができる。手話を使う聴覚障害 者にとってインターネットは今後重要なコミュニケーション手段になるだろう。 4 聴覚障害者の既存のメディアと連携  昨年あたりから聴覚障害者の間に携帯電話が普及してきた。音声による電話ではなく、 文字によるメールを送る方法で携帯電話を使用している。本校の生徒もほとんど全員が携 帯電話を携帯しており、「授業中にメールの交換をしていて授業に集中しない」というよ うな問題もでてきている。携帯電話のメールはインターネットのメールとしても利用でき るそうである。生徒の携帯電話のメールにインターネットからメールを出すことで、生徒 への連絡などにも利用できる。 5 進路指導での企業情報の収集や企業との連絡用  高等部では、就職に向けての準備が重要である。聴覚障害児はどうしても社会経験が少 なくなるから、就職に向けて必要な「勤労意欲の育成」が困難なケースも多くなる。「勤 労意欲」を十分に持たずに就労しても、「すぐに辞めてしまう」等の問題を引き起こすこ とになる。本校でも実際に企業で活躍している卒業生を呼んで「卒業生を囲む会」を行っ たり、企業側の代表に来てもらい「進路講演会」を行っているが、十分な指導ができてい ない。卒業生の中にもインターネットにホームページを作成している人もいるので、その ような卒業生にも関わってもらい、インターネットを使用して就職に関する相談などをし ていきいたい。  また、求人票を出している企業もほとんどはインターネットを活用している。企業の紹 介をしているだけでなく、募集をインターネットで行うところもあるという。中には連絡 用のメールアドレスを聞いてくる企業もあるので、進路指導にはインターネットは不可欠 である。 6 聴覚障害教育研究の場として  聴覚障害教育では現在は普通校の教科書をそのまま利用している。このことは大きな問 題ではないのかもしれないし、普通校と同じ教育内容を保証することが重要なのかもしれ ない。しかし、聴覚障害児にはその障害から、例えば「概念の形成が困難である」などの 特性もある。このような聴覚障害児固有の特性に配慮した教材を用意できれば、今以上に 教育の成果が上がるだろう。聴覚障害児に適した教材を作成するためには、実践の積み重 ねが必要である。実践交流の手段としては現在は各種の「研究会」があるが、「インター ネットを利用した聴覚障害教育の研究」により、一層研究が発展する。また、そのような 研究の上で作成された教材は「インターネット上」に置き、自由に活用できるようにした い。  今年度は不本意にも実践を伴わない「報告」になってしまい、残念である。インターネ ットは一般に広く普及していて、今ではインターネットの利用は当たり前となっている。 しかし、学校では電話線一本さえ学校の判断では引くことができないと言う現実がある。 学校としては自主財源化したくても、この財政難で予算が次々と削られる中で、なかなか 思い通りにならないのである。このあたりの問題はいつ解決するのやら…。今度の発展に 期待したい。


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