6 「地球を守り隊」世界の仲間と環境問題に取り組む
国際環境教育プロジェクト

小学校第6学年・社会科を核とした総合的な学習

札幌市立幌南小学校 藤村 裕一


インターネット利用の意図
 本校児童は,4年生の「くらしとごみ」の学習以来,自ら「地球を守り隊」を結成し,全国各地の学校,ドイツ,ミクロネシア,アメリカ,フランスなど海外の学校の児童と協力して,環境保護活動に取り組んできている。5年生の「くらしとリサイクル」の学習では,単に自分たちが「集めるリサイクル」を行うだけでは,行き詰まることを学び,より多くの人々に「使うリサイクル」への意識改革を行ってもらう必要があることに気付いた。そこで,身近な大人や子供たちに協力を呼びかけてきた。しかし,それにもかかわらず,なかなか協力してくれる人が増えず,「より多くの人に協力してもらうにはどうしたらよいか」という問題意識を強く持っている。そこで,本単元では,この問題意識をもとに,国内外のさまざまな方たちに,相談したり,協力を呼びかけたり,共同で活動したりするために,インターネットを用いることにした。

 
1 「地球を守り隊」みんなとともに
(1) ねらい
 6年生社会科には,身近な社会福祉などを通して「身近な政治」を学ぶ単元と,国際理解単元とがある。そこで,上記の児童の問題意識を生かし,より多くの人々に協力してもらうための問題解決の連続によって単元を構成した。そして,その中でリサイクルなどの「自然との共生」に協力してもらうために,インターネットなどのさまざまな手段を通じて,周囲の大人,老人,障害者,様々な国の人々などに協力を呼びかけ,それらの人々と手を携えていく「人との共生」の必要感を感じ,工夫・努力を行っていくようにしていきたい。
 また,このような学習は,社会科の「身近な政治」「国際理解」の単元の中で,個別に実施するよりも,特別活動や道徳,図工,国語など,教科の枠組みを越えた横断的・総合的な学習の中で行う方が,子供の考えた活動を保障していくことができる。そこで,この学習を実施するに当たり,現行学習指導要領下における「総合的な学習」の試みとして,新単元「地球を守り隊 みんなと共に」を創設した。
(2) 指導目標
 ・障害者の方・外国の仲間など様々な人と,インターネットなどを通して交流したり,自分のくらしと政治・行政の結びつきについて考えたりしながら,「人との共生」を図るために必要なことを考え,実行することができる。
(3) 利用場面
  インターネットを利用する場面として,以下のような場で活用できるようにした。

 (1)より多くの人々に,「3R」(Recycle,Reuse,Reduce)に協力してもらうための広報活動 やポスター,チラシなどと同様に,インターネット上の人々を対象にホームページを作成する。

 (2)さまざまな立場の人たちに,「3R」に協力してもらえない原因を聞いたり,どうしたら協力してもらえるようになるのか,電子会議室や電子メール,メーリング リストを利用して,意見を聞く。

 ・インターネット経由でniftyserve上の電子会議室を利用し,行政関係者,企業の環境 問題担当者,一般消費者,高齢者,障害者などに質問したり,協力を呼びかけたりする。

 ・インターネットで,「3R」関連のホームページを検索し,その作者に電子メールを送り協力を呼びかけたり,意見を寄せてもらったりする。

 ・環境教育に関する国際メーリングリスト(日本,アメリカ,フランス,ミクロネ シアの教師などが参加)を使って,意見交換をする。

 (3)障害者の方や,海外の学校の子どもたちが,自分たち中心に考えられた活動計画 そのままでは,参加や協力が難しいことを,電子メールを通したやりとりの中から学ぶ。

 (4)どうしたら「3R」に協力してもらえるかを話し合う,「ゼロ・エミッション・サミット」にインターネット経由で,よりさまざまな立場の人や海外の先生や仲間たちに参加してもらう。

 (5)サミットでの話し合い結果を受けて,どのように活動していくか,メーリングリストなどを使って,相談し,一緒に活動していく。

 (6)チャットを使って,国内・海外の仲間と話し合う。

 (7)国連主催の「第2回国際子ども環境会議」(ケニア・ナイロビで開催)で,日本代表としてどのような内容を提案するか,メーリングリストや電子メールを使って,相談 する。

 (8)楽しく「3R」へ取り組むために子どもたちが考えた「ごみ・アート・フェスティバル」「ごみ・サウンド・コンサート」を,世界各国の仲間から作品を電子メールに添付 して送ってもらい,本校のホームページ上で展開する。  

(4) 利用環境

 (1)使用機器 NEC Canbe(ポータブルタイプ)3台
 (2)周辺機器 デジタルカメラ(電子メールに添付する写真の撮影)
        スキャナー(ホームページ作成用)
        IBM ViaVoice98用ヘッドセット(チャットの際の音声入力等に使用)
 (3)稼働環境 インターネット専用線64kbpsとテレビのアンテナ線を用いた校内LANを用いて,インターネットを学習情報センターとして利用している図書館や各教室から利用。
 (4)その他の利用ソフト  チャットや電子メールの入力用に,音声入力ソフトとして,IBMのViaVoice98を利用した。その他,インターネットの利用に当たってはNetscape Comunicatorを,インターネット経由のNiftyserve活用にはNiftyManagerを利用した。

 

   写真1 各教室に設置し利用したテレビのアンテナ線を使った校内LANのハブ

 

2 指導計画

指導計画(35時間) 留意点
(1)〜(3)より多くの人々に「3R」へ協力してもらうための作戦を立てる。






・少しでも多くの人々に,「3R」に協力してもらうために,ポスターやチラシ,手紙,インターネットが有効なことに気づくようにする。
・相手によって,上記のメディアのうちどれが最適であるかも考えた上で利用するように助言する。
・「3R」を広げるための作戦として,「広報活動」,「サミットの開催」が出てきたとき,市役所,道庁などの行政関係,マスコミ関係との調整を事前に教師が図っておく。
(4)〜(9)考えた作戦を実行する。

<広報活動>


<サミットへの招待>


<隊員募集>
・以下の大きく3つの活動を行う。どのような順序で行うかは,児童に委ねる。
・ポスター,チラシ,電子メール,ホームページなどから相手によって最適な方法を選択するように助言する。
・電子メールの利用やホームページの作成に当たっては,技術的な側面から支援する。
・実際に来校してもらう行政関係者,高齢者, 高等盲学校生,スーパー関係者,消費者協会 の方には紙を使った招待状を作り,インター ネット経由で参加してもらう人たちには,電子メールを書くようにする。
・多学年教諭や他校教諭に協力を要請しておく。
(10)(11)作戦の問題点を見直す



 
・障害者の方に来られない理由を明記してもらう。
・海外の学校については,電子メールで相手校の担任と打ち合わせを行っておき,学期の区切りの違いや生活の違いなどによって計画に 変更が必要であることが必要であることが伝 わるようにする。
(12)(13)障害者のために自分ができることをする。 ・点字や手話で案内できるように,それらを紹介したホームページで学習する。
(14)〜(18)障害者のために,行政の仕組みを調べ,車椅子でも来校で きるような環境整備を依頼する。 ・障害者に来校してもらうための問題点を解決するために自分たちの力ではできないことを, 行政に依頼するようにする。
(5)〜(24)海外の実状を調べたり,実際に来ることができない人たちにもインターネット経由でのサミット参加を呼び かけたりする。
 
・学期の区切りや社会の仕組み,インターネットへの接続状況など海外の実状を調べた上で, 作戦を考えるようにする。
・Niftyserveの電子掲示板や環境教育のメーリン グリスト,電子メールを利用する。
(25)〜(26)「ゼロ・エミッション・サミット」の開催


 
・行政関係者,スーパー関係者,一般消費者,消費者協会,高齢者,高等盲学校生は来校し てもらい,どうしたら「3R」に協力しても らえるか話し合う。
・インターネット上から国内外のさまざまな立 場の人に,電子メールでメッセージを送って もらい話し合いに反映させる。
(27)〜(28) サミットの提言を受けて作戦を実行する。 ・相手に応じた協力要請,障害者の介護を行い ながらの活動を行う。
(29)〜(30) サミットなどの成果をどのように国連主催「第2回国際子ども環境会議」で提案するか話し合う。 ・サミットやその他の活動の成果だけでなく,国内外の仲間たちの意見も採り入れて,会議 で発表できるように,電子メールで意見交換 する。(会議への代表参加は時間外で)
(31)〜(35) 海外の仲間たちとの話し合いを受けて,「楽しく3Rを広 げる」活動を行う。  ・海外の仲間たちからも作品を募集し,ホーム ページ上で「ごみ・アート・フェスティバル」や「ごみ・サウンド・コンサート」その他の 「3R」を広げる活動を行う。

 
3 利用場面
(1) 目標
  インターネットを利用し,「3R」に協力してもらうにはどうしたらよいのかという 意見を「ゼロ・エミッション・サミット」に寄せてもらい,それを実際に参加している 人たちと同じように,発言者の「思い」を込めて反映させていことができるようにする。
(2) 展開

学 習 活 動 活動への働きかけ 備 考
1 ポスターセッション形式で,自分たちが選択した対象と意見交換をする。

2 全体交流に移行し,本字の学習問題(議題)を確認する。
・インターネット上の人々との 交流を選択した児童に寄せられた意見の背景にある「思い」も読みとることができるよう に支援する。


・サミット会場内にインターネットの端末を設置する。

 

 

・Niftyserveの電子掲示板の内容は,電子メールで転送しておく。
・海外との交流には翻訳ボランティアの協力を得る。

どうしたら,より多くの人が「3R」に協力してくれるか。 
3 インターネットを通して,寄 せられた意見を聞き,その意見の背景や発言者の「思い」間でも考えて,話し合いに取り入れていく。

4 本時で話し合われた内容を,インターネット上の参加者に伝えるかまとめる。
・発言者の職業や立場,年齢等について,事前に了解を得た内容を教師が補足説明する。



・参加のお礼と内容のまとめを電子メールで送る。

 
4 実践を終えて
 実際に来校した人たちだけでなく,インターネット上のさまざまな職業・立場の方たちに参加してもらうことで,より多様で迫力のある意見を聞くことができた。特に,インターネット経由で寄せられた「マスコミや市役所などの広報に協力してもらうとよい」という意見や「昔は,日本でもものを大切に使っていた。自分たち年寄りの意見もよく聞いて」という意見や,「自分の国では楽しく活動できるように工夫している」などの海外から寄せられた意見に,子どもたちは感銘していた。インターネット経由のバーチャルな参加ではあるが,「発言者の思い」まで考えることで,心のつながりをもった実際の参加と同じように感じながら話し合いに生かしていくことができた。

 ワンポイント・アドバイス

 インターネット経由で広く意見を求めていくには,関連ホームページの作者に電子メールを送るだけでなく,関連する内容のメーリングリストやNiftyserveの電子会議室を利用すると,より多くの人々の意見を聞くことができる。
 また,海外との交流には,翻訳ボランティアの協力が不可欠だが,一緒にメーリングリストに参加していただくと翻訳作業が効率的に行える。