7 画像データベースの構築と子どもたちの学習活動

小学校・全教科
宮崎大学教育学部附属小学校 奥村 高明
宮崎大学工学部 田伏 正佳


インターネット利用の意図

 本企画は,子どもたちが学習の材料として使いたいときに自由に使える画像の集まりと,それを簡便に検索するシステムを,Web上に構築するものである。本画像データベースの特徴は,一人が一つのサーバに画像を集めるのではなく,相互に集めた画像データを本システムを介して検索するところにある。参加者が増えれば増えるほど,子どもたちの利用できる画像が拡大することになる。また,相互にデータを登録したり,意見を述べたりすることで,データベースの自律的な発展・形成が期待できる。


1 はじめに

 コンピュータやインターネット上の画像データは豊富だが,小学生が学習活動の材料として活用するには不便なことが多い。例えば,種々のデータベースは特定の教科を対象としたものが多く,目的や分野がはっきりしており,幅広く使うには向いていない。また,文字と画像が一緒に並べてある場合は,画像だけを取り出すことに時間がかかったりもする。さらに,ある画像をもとに作品をつくりホームページ等で発表したり,キャラクターをダウンロードしたりすると著作権を侵害する。そこで,子どもたちが安心して,しかも簡単に,使いたいときに使える画像データベースを構築しようと考えた。

 

2 画像データベースの構築

(1) 本データベースの特徴

 本データベースは,小学生の使用を条件にしていること,ハードやソフトの機能などから,キーワードをもとに写真を検索する方法をとった。集めた画像は,本校のサーバを中心に,協力者のサーバ内にも置く。これらを全て検索して表示するという方法をとることにした。画像の提供者が増えれば増えるほど,子どもたちが利用できる画像は拡大する仕組みであり,幅広く画像を集めることが可能になる。一人の人間の恣意に片寄る恐れもなく,インターネットの相互行為の中で発展する性質をもつ。

(2) 発想に役立つ画像データベース

本データベースは,百科事典のように細かい項目を設定して,その内容を充実しようとするものではない。むしろ,子どもたちが何となく見てアイデアを思い付くようなやわらかなデータベースを想定している。そこで,一つのキーワードに様々な画像をつけることにした。例えば「卵」の項に,割れた卵の殻,目玉焼きなどの写真があると,思いがけない画像が楽しめることになる。さらに,キーワード自体も,名前,材質,形,色,様子,印象など幅を持たせることにした。例えば,石の画像が,顔に見えれば「顔」というキーワードもつけられる。これらの手立てでイメージの固定化を避けようと考えた。

(3) 著作権に関する配慮

 本データベースは,貼り絵に使われたり,CGの材料になったりするなど,教育活動の中で幅広く使用される。提供にあたっては,必ず撮影した本人が,教育利用に限り自由に複製できることを認めていることを提供の条件とした。同時にこれらのことを,ページ上に明記し,著作者の氏名,連絡先などを表示することにした。また,商標や肖像権などを侵害しているような画像,著作権の生じている美術作品などは,対象からはずすことにした。さらに,著作権に関するホームページのリンクを設定し,教師が子どもたちに著作権を教えたり,子どもが著作権について調べたりしやすいようにした。

(4) 参加型データベース

 できるだけインターネットの参加型のメディアとしての特質を生かすようにした。まず,子どもたちが自分の撮った写真を登録できるようにした。これは,画像データベースが表現の場にもなるのではないかと期待したからである。次に,利用者の意見を求める場として,意見記入のページを設けた。7月には電子掲示板の開設も行った。さらに,賛同者によるメーリングリストを本校サーバ上に立ち上げた。このような手立てから、データベースの効果を明らかにしたり,内容を修正したりしようと考えた。

(5)その他

 キーワードはひらがなとして,どの学年でも検索できるようにした。キーワードに該当した画像は,10枚ごとに小さな画像で表示され,それをクリックすることで,該当画像を表示する。画像の下には,簡単な説明や,著作者を掲載した。50音別にキーワードを表示するページも設けた。また,全て,一度管理者が内容を確かめてから登録することにした。ページは3つのフレームで構成し,常に画像と検索のページが同一画面で見えるようにした。第1フレームは目次のページ,第2フレームはひらがなを打ち込むページ,第3フレームは画像などを表示するページとした。(図1)

図1

3 運用の概要

(1) 試験運用期間

 1998年の2月15日に試験運用を開始した。合計300枚の画像の内訳は,約100枚が宮崎大学教育学部の小林辰至氏から提供していただいた植物やプランクトンの写真,約200枚が筆者や筆者の学校の子どもたちが撮影した写真である。十数名のモニターに使用してもらって感想をいただいた。「キーワードは,カテゴリー別になるようにレベル分けし,登録時に必須で選んだ方がよい。」「素材の加工法や編集方法,作品例などもほしい。」「子どもから投稿された画像は,使いにくいのではないか。」など検索システムや画像の種類や質に関しての意見などがあった。ただ画像の数が少ない段階で,分野を設定したり,プログラムを書き換えたりすることのデメリットから,細かな設定の変更やエラーの訂正だけにおさえ,鹿児島の写真家石川清人氏から提供していただいた152枚を加えて,約500枚の画像で4月1日から本格的に運用した。

(2) 本格運用

 (1)画像の集まり具合

 筆者の告知は,メーリングリストから他のメーリングリストへと転送されたため,実際にどの程度広がったか把握できない。4月中旬には,そのような告知の一つで本データベースを知った東京都の杉並区立科学教育センター嘱託の河野晃氏が,花やコンピュータの分解,生物の解剖,電気部品など129枚の画像を提供してくださった。
 5月からは,和歌山県美里町立下神野小学校の奥田吉彦氏が,定期的に子どもたちの学校生活の様子を24枚提供してくださった。6月には石川県立小松工業高校の黒島浩司氏がトンボや布,髪の毛などの電子顕微鏡写真を20枚提供してくださった。10月には日向市の木野田毅氏が昆虫写真を30枚提供してくださった。他に本校の子どもたちが撮影した写真なども加わって,11月31日現在約900枚の画像が確保
できた。
 子どもたちが撮影した画像には,自分の宝物,身近な生き物(家でつかまえたオニヤンマ,教室に入ってきたアゲハ蝶,教室で育てている金魚)などがある。学習に関する画像としては,社会科の校外学習で見つけた水道メーター,マンホールなどの写真,創意活動で撮影した水滴や水たまりなどの写真などがある。コンピュータを使って「これが私たちの撮影した写真です。」と友だちに説明した例もあり,子どもたちは,画像データベースを,自分たちの学習の結果が蓄えられる場所,それを使って発表もできるメディアとして捉えているようであった。

 (2)メーリングリスト等の状況

 メーリングリストには,20名の参加があった。主に新しい画像のお知らせやそれについての感想,画像データベースに対する提案などが行なわれた。このメーリングリストを通して,参加者が他のメディアへ本データベースを紹介したこと,参加者の学校の子どもたちが使っている様子,などが分かった。また,参加者の提案から,電子掲示板を設置して,子供たちからの意見を求めやすくすることになった。他に,意見感想のページに保護者から「画像データベースに我が子の撮影した写真がありました。」という声も届いたこともあった。

 

表1

(3)画像データベースの使用状況

表1は,1998年11月30日までの画像データベースのアクセス数の累計である。おおむね一定の割合で使用されているといえる。11月に行ったアンケート調査からは,子どもよりも先生が授業資料として使うこと多いことが分かった。特に小学校全学年が使っている例としては,和歌山県美里町立下神野小学校がある。学習の調べ活動やジグソーパズルづくりなどに使っていた。

 

4 授業実践

  画像データベースがどのように使われるのかを確かめるために検証授業を行った。

(1)「発見!画像データ」(4・5・6年図画工作:2〜4時間)

 子どもたちが画像データベースに初めて出会ったときにどのような感想をもつか,何を始めるか,などを調べるために4・5・6学年の各々1クラスずつで授業を行った。
 どの学年の子どもたちも,まず画像をいろいろと見る。「えんばん」というキーワードで丸いお皿が出てくると笑い出したり,いぶかしげな表情をしたりしながら次々と画像をめくっていく。最初は言葉を打ち込んで検索していたが,しだいに50音別から選び始める。しかし,高学年になるにしたがって,見るだけの活動には早く飽きてくる。30分もしないうちに「他のことをしてもいいですか。」と言い出す子どももいた。そのうちに,多くの子どもたちが,データベースの画像をお絵描きソフトに読み込んで,それにかき加えるという活動に移った。しばらくすると画像の複製は,テレビゲームなどのホームページにも広がった。子どもたちの著作権についての意識が本来薄いことを証明する事例であり,画像データベースがそれを助長しているようにも思われた。
 授業後の感想やアンケートでは,「社会や理科,図工,国語などで使いたい。」「一つのキーワードにいろんな画像があって楽しかった。」「次は自分がつくってみたい。」など好意的にとらえつつも,「数に差があるのでそろえてほしい。」「言葉通りのものをだしてほしい。」などの意見もあった。画像の量に対する不満や学習に使いにくいとする意見は高学年ほど多かった。高学年ほど「何かのために使う」というはっきりした観点から,データベースを評価しているように思われた。

(2)「不思議な国へ旅立とう」(6年生図画工作:4時間)

 画像データベースを経験している学級と,画像データベースについて知らない学級の2つで比較授業を試みた。授業の内容は,カレンダーや雑誌などの写真を主材料としたコラージュとする。ただし,画像データベースについて知らない学級には,画像データベースからプリントアウトした材料が用意される。画像データベースを経験している学級は,画像データベースを使うように提案する。そこで,同じ画像が,与えられ方の違いによってどのように使われるのか,画像データベースは子どもたちの発想にどのような影響を与えるのかを調べることにした。

 (1)画像データベースを知っている学級の様子

 授業は,自分のスナップ写真から自分だけを切り取り,それを自分の分身に見立てて「不思議な世界」を構成していくという活動である。子どもたちは,ほしい画像に関する言葉を打ち込んで探していた。目指す画像があるとプリントアウトして,自分の作品に貼っていた。
 代表的な例が図2である。好きな風景の中に小さな自分を置いている。画像データベースから使われているのは,海やコンピュータの画像などであり、ほぼキーワードの通りの意味で使われている。この学級では,このように,画像は,キーワード通りの意味で使われることが多かった。「ねこ」は「猫」であり,「いちご」は「いちごパフェ」であった。結果的には,1/3の子どもが画像データベースを使用した。使った結果「自分の絵に合うものが見つかった」と満足する子どもたちが7割、「思うような画像が見つからなかった」ために満足できなかった子どもが3割ほどいた。一方「資料が十分あったから使わない」「データが不十分だから使わない」などの理由で画像データベースを使わなかった子どもが2/3ほどいた。画像データベースは,画像を探すためという目的性の強い存在であったことが伺える。

図2  
図3
                              

(2)画像データベースを知らない学級の様子

 授業が始まってすぐに7〜8名が,画像データベースからプリントアウトした150枚の画像を広げて「何かないかな。」という様子で探し始めた。気に入った画像があれば,それを持って帰って製作に生かしていた。
 代表的な例が図3である。この作品は,土の中にぼくの世界=天才の世界があり,その天才がマンホールから,今まさに登場しようとしている場面を表している。足元にあるCPUとマンホールの絵が画像データベースからの画像である。CPUは隠された自分の才能を表していると同時に自分の立脚するステージでもある。マンホールの画像は,地上の世界と自分の世界=地中をつなぐものとして,この子なりの意味付けで使われている。このように,この学級では,画像データベースの画像が,キーワードと違った意味で使われることが多かった。例えば「たんぽぽ」の綿毛が「宇宙」の星になったり,「サッカーボール」が「頭」になったりした。結果的に,データベースからの画像を使った子が8割近くに達した。また,使った結果の満足度も高く,そのほとんどが使って役に立ったと答えていた。

5 考察

(1)画像データベースの画像は,提供者それぞれの視点から増えていった。メーリングリストの意見も本データベースの改良などに役立った。本画像データベースは,わずかではあるが,参加者によって自律的に形づくられつつあると思う。

(2)画像数に対する子どもたちの不足感はとれていない。子どもたちは,はっきりした目的で使っており,キーワードに幅をもたせたことが,使用者を混乱させたり,学習を拡散させてしまうように感じられた。

(3)比較授業を通して,画像データベースに子どもの発想を狭める効果があるのではないか,という危惧が残った。画像データベースを使った子供たちは,ほとんどキーワードの意味を超えていなかったが,同じ画像を,印刷物で提示された子どもたちは,様々な発想で使っていた。この原因は検索システムそのものにあると思われる。検索システムは,設計する段階で,使用者の思考を先取りしてつくられる。子どもたちは,キーワードという道標で,検索システムを遡る。結果的に,子どもたちを「キーワード=画像」という枠に閉じ込めることになったのではないだろうか。

 

6 おわりに

 現在,この考察をもとに,もっと子どもたちが関わることのできるように検索システムを改善している。まず,ランダム検索を組み込み,さらに形や色,様子などの上位項目を設定した。子供が考えた言葉や分野で子ども自身が画像を集めたり,整理したりするなどのプランもある。今後, より子どもたちが学習に使いやすい構造にしたいと考えている。

・「インターネットを活用した画像データベース」については愛知教育大学の藤江充先生の発案である。

・検索システム,メーリングリスト,電子掲示板などUNIXのプログラムの作成及び,技術的問題の解決は全て田伏が行った。

・画像データベースhttp://fes.miyazaki-u.ac.jp/zoukei/zoukei/zairyou.html