小学校6年生・総合学習
滋賀県 大津市立平野小学校 石原 一彦
インターネット利用の意図
県下の小学校はほぼ琵琶湖を取り囲むように立地している。また,滋賀県は北部と南部では気候や文化などが異なり,地理的文化的特徴を持つ地域も豊富である。
インターネットを通して,県下の学校には琵琶湖に関する情報提供をしばしば求められる。このようなことから,県下の学校が共同で琵琶湖に関する情報発信をインターネット上におこない,県外からの要望に応えると共に,琵琶湖に関する情報発信を通して,よりよく琵琶湖に関する理解を深め,さらには情報教育としての取り組みも進めたいと考えている。
1 「びわ湖共同学習」
(1) ねらい
しかしこねっとプランやその他の取り組みによりインターネットに接続する学校が年を追って増え,また昨年度より,滋賀県教育委員会が中心となって「県ネットワーク利用推進協議会」が設置され,県下のインターネット接続校同士の交流が積極的にはかられるようになってきた。今年度には,県立琵琶湖フローティングスクールもWEBページを立ち上げ,県下の小学校と共に手を携えて共同学習に取り組める下地が整ってきたといえる。
(2) 参加校
(1)湖北町立朝日小学校
朝日小学校は琵琶湖の北部に位置し,気候も冬季には積雪が多く,北陸地方と同じような日本海型の気候である。学校のWEBページは96年に開設され,朝日小学校は環境教育の一環として「愛鳥教育」に取り組んでいるため,水鳥関係の発信が豊富である。また,情報機器の環境として,校内LANが敷設され,各学年ごとにインターネットの端末が利用できるようになっている。(図1)http://www.biwa.or.jp/~asa/
図1
(2)近江八幡市立沖島小学校
沖島小学校は世界的にも珍しい淡水湖に浮かぶ島にある小学校である。沖島は琵琶湖の中の中央部に位置する最大の島で,約150世帯500人あまりが主に漁業を営んで暮らしている。行政区分としては琵琶湖東岸の近江八幡市に属し,島の小学校を卒業すると対岸の中学校に進学することになる。島にはスクールボートがあり,中学生や島外からの教員はこの船を毎日利用して通っている。
沖島小学校は2年前に校舎が改築され,その際コンピュータ室も新たに作られた。コンピュータが5台程度設置され,またこねっとへのプラン参加によってインターネットへの接続も可能になった。沖島小学校のWEBページは96年に開設され,学校の地理的,文化的特徴を大いに発信している。(図2)http://www.biwa.or.jp/~okishima/
図2
(3)大津市立平野小学校
平野小学校は琵琶湖の南部に位置し,大津市の商業的な中心地である膳所駅前にある。100校プロジェクトへの参加を機に,早い時期からインターネットへの接続をおこない,WEBページも95年の6月に開設している。校内LANの敷設や,普通教室からのインターネット利用などを95年からおこない,校内研究として情報教育に取り組んでいる。
琵琶湖に関する情報としては,琵琶湖に生息する魚やプランクトン,水鳥などをWEBページから発信している。また,96年からは6年生の児童が一人一人WEBを作成し,個人研究のまとめを発信する「課題研究」という総合学習に取り組んでいる。(図3)http://www.hirano-es.otsu.shiga.jp/index.html
図3
(4)滋賀県立琵琶湖フローティングスクール
琵琶湖フローティングスクールは琵琶湖に浮かぶ滋賀県の学習船「湖の子」の活動を支援する滋賀県の教育組織である。1983年から始められ,毎年県下の小学5年生が全員,他校の子ども達とこの船に乗って「琵琶湖学習」を体験している。この学習船には宿泊室や食堂,学習室などが完備していて,5年生の子ども達は1泊2日の行程で体験学習の旅に出る。体験学習の内容としては,この船に備わっているカッターボートを使ってカッター訓練を行ったり,寄港地での活動を行ったりしている。また船内の学習では琵琶湖のプランクトンを採集し,顕微鏡で調べたり,北部の水と南部の水の汚れ具合を比較して記録するなどのような学習を行っている。98年度から滋賀県のサーバの中に琵琶湖フローティングスクールのWEBページが開設され,年間乗船計画や学習活動などを紹介している。(図4)http://www.pref.shiga.jp/kemmin/floating-school/flo3.html
図4
(3)WEBページへの発信
(1)発信方法
平野小学校のサーバーに共有スペースを確保し,共通のIDとパスワードを設定した。参加校はここにFTPソフトでアクセスして,それぞれの学校で調べた琵琶湖に関する情報を発信する。また,琵琶湖に関するリンク集を併せて作成し,琵琶湖に関する情報を集約するページとして継続的に運営したいと考えている。将来的にはこのページの全文が検索できるサーチエンジンのシステム(琵琶湖インデック)を作成し,利用の便を図りたいと計画している。(図5)
図5
(2)発信内容
「びわ湖共同学習」で発信される内容は,児童の調べる琵琶湖に関する情報を「全体像」「自然」「環境」「歴史」に分類し,それぞれ項目ごとにWEBページを作成する。また,児童の作成するWEBページだけでなく,びわ湖に関するWEBページのリンク集や,参加各校の教師が作成したページなども発信することにする。例えば,平野小学校では,「びわ湖の風景」と題して,クイックタイムVRで作成した琵琶湖南部のパノラマを発信している。これは風景の画像をつなぎ合わせて360度のシームレスなパノラマになっているもので,マウスでドラッグすると,見たい方向の画像が回転しながら見ることができるようになっている。この技術を利用すると,びわ湖のある地点に立って,擬似的に全方向の風景を眺めることができるのである。
今後はびわ湖各地の風景を同じようにクイックタイムVRで作成し,WEBページから琵琶湖の風景が望めるようなコンテンツを提供したいと考えている。(図6)
図6
2 授業での活用事例
(1)単元名 6年総合学習「課題研究」
(2)単元のねらい
・児童が自分の課題を見つけ,課題解決に向けて追求する活動を通して,課題解決能力を身につけさせる。
・自分で調べたことがらをファイルにまとめ,自分のWEBページから発信することで,情報活用の実践力や発信の責任について学ぶ。
・テキストエディタでHTMLファイルを作成したり,スキャナで画像処理をおこなうことを通してメディアリテラシを養う。
(3)単元計画
時数
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学習内容
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メディアリテラシ
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1〜 5
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HTMLの基礎
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・テキストエディタによる文字入力 ・フロッピーディスクへの保存
・HTMLファイルの作成 ・基本的なタグの理解 ・FTPの使い方 ・スキャナを利用した画像入力 ・フォトレタッチソフトによる画像処理 ・タグによるページの装飾 ・デジタルカメラの使い方 ・CGの作成 ・リンク集の作成 |
6〜12
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「平和への提言」作成
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13〜16
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課題研究のまとめ
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17〜19
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発信内容の検討
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20〜24
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HTMLファイルの作成
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25〜35
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交流,反省
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(4)利用環境
インターネット専用線(64k)に接続されたWEBサーバとメディアセンターに設置された20台程度の端末を使ってHTMLファイルを児童が作成し,FTPでアップロードする。利用ソフトは,ネットスケープやインターネットエクスプローラなどのブラウザ,テキストエディタ,及びFTPソフトである。
(5)具体的な授業の流れ
この授業はTT指導教員と学級担任とのティーム・ティーチングの形態で取り組むことにした。大まかな役割分担として,課題の設定や作業の進め方など,個々の児童に関する指導は学級担任がおこない,環境の整備や教材の作成,実際のファイル作成などの指導は私が指導することにした。実際,個々の児童が様々な課題に取り組み,作業も個別におこなわなければならないこのような学習では,TTでの指導が大変有効であると考えられる。
1学期には児童一人一人のホームページを立ち上げ,簡単な自己紹介を作成した。ここでテキストエディタを使った文字入力やフロッピーディスクへの保存,簡単なHTML文の構造や「タグ」の役割などを学ぶことになる。
また,5月に修学旅行に行くのにあわせてインターネットを用いた平和学習を企画した。まず,事前に平和教材を発信しているWEBサイトにアクセスし,原爆の惨状や被爆者のメッセージなどを学習した。修学旅行先では,被爆者の方から直接お話を聞くことができ,原爆の痛ましさと平和の尊さを実感として受け止めることができた。そして,修学旅行後,平和学習のまとめとして「平和への提言」を各自が文章にまとめ,それを自分のホームページから発信することにした。作業としては,自分のHTMLファイルにテキストエディターを用いて「平和への提言」を書き込み,FTPでサーバに転送して自分のホームページから発信することになる。
夏休み前にいよいよ一人一人の課題を設定し,子どもたちは課題研究に取り組み始めた。課題の設定に関して,教師より様々な事例等を紹介したが,最終的には児童が自分の興味感心に基づいたテーマを自由に選ばせることにした。児童は1冊のノートを持ち,そのノートに自分の研究をまとめてゆくことになる。
2学期になってインターネットのリンク集やサーチエンジンを使ってさらに詳しく調べたり,撮影した写真を整理したり,キッドピクスで絵を描くなど,それぞれの児童が思い思いの作業に取りかかり,課題研究をまとめていった。
次に,1冊のノートにまとめられた児童の課題研究から,自分のホームページに発信すべき内容を精選する作業をおこなうことになる。研究のまとめを自分のホームページから発信する方法として,次の3つの中から選ぶことになる。まず,自分のノートをそのままスキャナで画像にして発信する方法。次に自分の研究のまとめをもう一度,A4の紙にまとめ直してその紙をスキャナで画像にして発信する方法。そして最後に研究のまとめをテキストエディタで入力し,HTMLファイルに作成してゆく方法である。
2学期いっぱいをかけて全員の研究のまとめをインターネットに発信していった。ただし,保護者の方に発信の趣旨やその内容に対して理解が得られるよう,発信する前に事前に了解を得て発信するよう心がけた。
3学期はまず,児童の様々な研究が発信されているホームページを学級ごとに見合いながら,研究のテーマごとでグループに分かれる。そしてグループごとに発表会の準備や練習をおこなった。発表会は自分のホームページを紹介するだけでなく,プレゼンテーションの技法を用いて,OHPシートや実物投影機,レジメ等を準備して効果的な発表ができるように工夫させるようにした。
最後に,各学級担任やTT担当教員からそれぞれの課題研究に対する評価,つまりその子なりのがんばりやその子らしさを肯定的に見つけるための評価を書き込んだり,コメントしたりしてこの授業の取り組みを終了することになる。(図7)
図7
3 実践を終えて
このプロジェクトに参加した子ども達はそれぞれ自分の興味の赴くままに情報を集め,発信していった。児童のモチベーションを駆動力にして主体的な学びが実現できたように思う。今後は,発信内容をさらに豊かに,そして価値のあるものに高める努力が必要であるだろう。
ワンポイント・アドバイス
共同学習を実施するに当たっては,見通しを持つことが何より大切である。共同学習には短期で一気に実施するものと,継続的にゆっくりと進めるものとがあるが,どちらにも利点や欠点がある。しかし,いずれの共同学習でも,目的を明確にし,参加各校のコンセンサスを基盤にして,相互に助け合いながら進めることが大切である。共同学習はデジタルのあやういつながりを現実の連帯感に高めてくれる発射台なのだから。 |
利用したURLなど
朝日小学校(http://www.biwa.or.jp/~asa/)
沖島小学校(http://www.biwa.or.jp/~okishima/)
平野小学校(http://www.hirano-es.otsu.shiga.jp/)
琵琶湖フローティングスクール(http://www.pref.shiga.jp/kemmin/floating-chool/flo3.html)
びわ湖共同学習(http://www.hirano-es.otsu.shiga.jp/biwako/biwako.html)