11 校内LANを活用した共同学習・コミュニケーションづくり
---隣のクラスはジャカルタにもある---
インターネット利用の意図
インターネットの利用形態として,教室からいつでも利用できるということは子ども達にとって大変有効である。それは,子ども達がインターネットと接する時間が多くなり掲示板やメールを利用した双方向のつながり,校内と校外と生み出すからである。
教室を越えたつながりを可能とする所に,インターネットとLANの大きな存在がある。
そのためにも,校内LANを整備した上でインターネットを利用させることは意義のあることだと考える。
また,子ども達の共同学習を組み上げる中で,学校や教室という枠にとらわれがちだった教師自身の意識改革を図るためにも有効であると考える。
1 第5学年社会科日本の農業「米作り」
(1) 単元のねらい
食生活を支えている農業について,具体的事例を通して調べ,生産活動に従事している人々が生産を高める工夫や努力をしていることを捉えさせる。
また,主食である米のルーツをたどったり,他国の米作りの様子を知ったりすることにより,米を題材にして幅広く社会を捉える目を育てる。
このことを達成するために,インターネットを利用した調べ学習,校内LANを活用した意見交換を取り入れ,子ども達にとって意欲的に取り組める学習とした。
また,海外で生活する日本人の子ども達と米作りを通して交流することにより,日本の米作りの良さや問題点に気づき,それぞれの立場から考え合うことが,学習を活性化しねらいに迫ると考えて実施した。
(2) 指導目標
身近な米作りの様子を調べることから,米のルーツに関心を持ったり,外国での米作りにも目を向けたりすることができる。
体験したり,調べたりしたことを基にした情報交換を行うことにより,自分の意見を深めたり,見方を変えた考え方ができるようになったり,さらに深く追求しようという姿勢を生み出したりすることができる。
(3) 利用場面
この単元では,次のような場面でインターネット,校内LANを活用した。
@調べ学習の学習場面
日本国内の米作りについての資料収集場面でインターネットを活用した。
図書資料だけでは,新しい資料とは言えない。子ども向けの新しい資料が掲載されているWebを利用して資料収集を行った。
Aお互いの意見交換と校内共同学習場面
調べて内容を校内電子掲示板に書き込むことによりデータを共有したり,調べてことの発表を学級Webに貼り付けて情報発信をしたりした。外に向けた電子掲示板では,特に海外日本人学校の子ども達との意見交換場として活用が図られた。
B共同学習の学習場面
本単元では,米の総合学習を進めているジャカルタ日本人学校との共同授業の場としてインターネットの活用を図った。
それぞれの学校での学習内容を電子掲示板等で交換し合う中で生じたテーマに基づき,Cu-SeeMeとチャットを併用した共同学習の場を設定した。立場や学習内容の違う子ども達同士が,お互いの疑問点を解決し合ったり,共通の問題点について話し合ったりすることができる学習を展開した。
(4) 利用環境
@使用機種 <中原側>
Cu-SeeMe用 富士通FM-V/Towns(Pentium 120Mhz) 1台
チャット用 富士通FM-Towns(486DX4-66Mhz) 10台
プロキシ・DNSサーバ 富士通 FM-V(486DX4-100Mhz)
カメラ Sony 8mビデオカメラ
<ジャカルタ側>
Cu-SeeMe用 NEC LaVie-NX (内蔵モデム56kbps)モデムで回線接続
チャット用 NEC CanBe-Cx2 10台 校内LANから専用線接続
カメラ ルコラ
A周辺機器 ダイヤルアップルータ パイプライン75
100インチ液晶プロジェクター
B稼働環境 回線はNTT-INS64,128kbps(ルータ圧縮256kbps)でkiuアクセスポイントに接続。Cu-SeeMeの画面は液晶プロジェクターにより,教室どこからでもみることができる。
チャットは60秒で更新されるように設定。チャットサーバは千葉県情報教育センターNEC(Pentium2-300Mhz)を利用。
Cu-SeeMeリフレクターは柏インターネットユニオンNOC内のマシンを利用した。
Cその他のソフト
OS=Windows 95 によりCu-SeeMeマシンを稼働。
OS=Windows3.1 によりチャットマシンを稼働。
ブラウザはNetScape2.0を利用。
Cu-SeeMe V2.0 Live mail V2.0
2 指導計画
(1)柏市立中原小学校の指導計画
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学習過程 学 習 内 容 |
第一次
日本の米作り
グループ学習
第二次
米作り体験
第三次
仲間づくり
第四次
米交流授業
掲示板交流
校内掲示板
での交流。
校外掲示板
での交流
テレビ会議,
チャット交流
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*教科書教材「米作りがさかんな庄内平野」を題材に,日本の米
作りについて学習をする。
*グループごとにテーマを持って調べ学習をする。
テーマ・・農家の人に尋ねて,・・お米やさんで聞いてみよう
・・インターネットや図書で調べてみよう
*古代米である「赤米」と「黒米」の紹介をする。
*赤米の田植えに参加する。(5/10)
湖北座会,我孫子市公民館,新木地区子供会と共同で田植えを
する。
++校内LANの敷設++
教室からインターネットを利用できるようになった。
*米作りを通して,同じような学習をしている友達をインターネ
ット上で探して友達づくりをする。
ジャカルタ日本人学校の総合学習「米作り」を知り,日常交流
を始める。
*電子掲示板での交流。
・それぞれの学校紹介や地域紹介
・米掲示板を通して,米の様子等の紹介
*Cu-SeeMeを利用した交流
・学校や地域の紹介,友達や遊びの紹介
*米作りを話題にした交流授業の準備をする。
*グループごとにテーマを決めて,ジャカルタとの交流授業に向
けての準備をする。
*交流テーマについて調べ学習を深める
米の品種について
チアンジュール米と赤米の歴史や種類について
輸入と自給
安くておいしい外米が入ってきたらどうするか
農家は自給のためにどんな工夫をしているか。
今後どうなればよいか
米の作り方
道具や時期,その他を比べる
農家の様子
身近な農家の人について
工夫や努力
田圃にて
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田植えや稲刈りの作業をして
感じたこと。
*赤米の稲刈り
鎌で稲刈りをする。
昔の脱穀方法で脱穀をする。
(体験収穫した赤米と黒米の調理法を調べ実際に炊いて食べる。)
*ジャカルタ日本人学校との交流授業 |
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3 利用場面
(1) 目標
米について,今までに調べたことや体験したことを踏まえて,質疑応答や意見交換をすることによって,考えを深め合うことができる。
(2) 展開
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過程 |
学 習 活 動 |
教師の支援・備考 |
導入
5分
展開
39分
終末
6分
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1 相手校から送られてきたVideo-mailを見て,問題の焦点化を図る。
プロジェクター画面を全員で見る。
2 Cu-SeeMeを通して挨拶する。
3 班ごとの話し合いをする。
話し合いの順番
@米の品種について
A輸入と自給
B米の作り方
C農家の様子
D田んぼにて
・Cu-SeeMeとチャットを併用して話し合いを進める。
・チャットルームはそれぞれの課題ごとに用意し, 各班ごとに2台のPCからアクセスできるようにする。
4 学習のお礼を兼ねて合唱の交歓をする。
・お互いに挨拶をして終わる。 |
・Cu-SeeMeはあらかじめ双方からダイヤルアップしてリフレクターでの接続を確認しておく。
・Cu-SeeMeでの話し合い時間は各班で6分程度。
Cu-SeeMeを行っていない時は,チャットで話し合いを進める。
・基本的な操作については,子ども達に任せる
・トラブルを防ぐ手だてとして確認したこと。
@音声を確保するために,相手の表情や
資料等が確認できた段階で画像を静止画にする。
A音声が聞き取りにくかったり,相手からの反応が遅れた時には,再度相手に対して質問等をし直すようにする。
・中原側から「だいだらぼっちの春」
・ジャカルタ側から「となりのトトロ」
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4 実践を終えて
この授業を終えて,子ども達は次のような感想を寄せている。
・Cu-SeeMeは顔も声も聞こえていて,飛行機で行ったら何時間もかかるのにすぐに届くなんてすごいなと思いました。日本とジャカルタはあんなに離れているのに,間近で話しているみたいでした。
・Cu-SeeMeで交流聞いたら,ジャカルタでは稲が3ヶ月くらいで取れるようでびっくりしました。日本ではその倍はかかります。ジャカルタで早く取れるのは,一年中夏だからだそうです。あさがおは1週間で咲くそうです。
・Cu-SeeMeでは社会の赤米の事やお米について,ジャカルタの人とお話をしました。Cu-SeeMeで相談したり,勉強をしたり,ジャカルタの人とは友達や相談相手です。
・ぼくたちの班は輸入と自給のことで交流しました。チャットルームではぼくたちは自給の方が良いと言いました。Cu-SeeMeでは,ジャカルタの人たちは輸入と自給に分かれていて,輸入と答えた人の理由は「輸入していないと他の国から文句を言われるかもしれない」ということでした。農薬についてもついている農薬は洗い流せばよいと考えているようでした。もっとやりとりをしてみたいと思います。
インターネットを利用することにより,ジャカルタと日本という距離がなくなり,大変身近に感じながら授業を行うことができた。
教師同士の指導案検討もCu-SeeMeで行うことにより,校内だけでなく様々な方々に参加していただき,広く意見を仰ぐことができたことは大変貴重な経験であった。
しかし,インターネットを十分に活用した共同授業を行うためには,インターネットを利用してお互いの情報を交換しあいたいというレベルまで子ども達の学習を高める必要があることも痛感した。
安易にインターネットや校内LANを利用して共同学習をすることが,子ども達に力をつけることではない。身近にある資料や,実際の体験を積み上げていく中で,「もっと幅広く調べたい」「もっと幅広く意見交換をしたい」という意識が子ども達に中に芽生えてこなければ,インターネットを利用しても効果は得られないであろう。
教室を開こうという意欲が子ども達に芽生えることが大切である。
インターネットの環境が整えば整うほど,インターネットの必然性が子ども達自信に意識できる学習展開が必要である。
今回の実践では,半年以上もの間,それぞれの環境で学習してきたものが土台となって共同学習が行われたことは,大変有意義であった。
日本人学校に通う子ども達は,国内だけで生活している子ども達に比べて国際的感覚がある。同じ事象を見ても,見方考え方に広さを感じる。今回の共同学習のテーマとなった「米の自給と輸入」についても,国内で報道されていることをベースに考えを組み立てた中原の子ども達と,ジャカルタの貧しい部分も見ている子ども達とでは,明らかに問題意識に差があり,お互いに考え合えることができた。
これは,教室や国内の学校同士の共同学習では得ることができない成果である。
45分の標準的な1単位授業時間内での展開であったが,Cu-SeeMeとチャットを併用したために,子ども達の意見交換を十分に行わせることができた。
Cu-SeeMeはパーソナルユーズな性格のソフトであるため,学級全体同士の交流よりも本時のように班単位での交流に利用した方がよかった。
今後,学習範囲を広げて取り組みを続けていきたい。
ワンポイントアドバイス |
Cu-SeeMe等のテレビ会議型ソフトを利用して国内外と共同授業をする場合,通信状況が回線の混み具合に左右される場合が多い。授業と同じ時間帯でテストを繰り返すことにより,良好な回線状況の時間帯を十分に検討することが大切である。
ネットワーク的な距離が遠いか近いかを常に把握しながら通信実験を繰り返すことが大切である。テレビ会議型のソフトを一般公衆回線を利用して授業する場合は,回線状況に応じて動画から静止画に切り替えて利用すると,音声が明瞭に確保できる。
チャットやCe-SeeMeでのやりとりは,ある程度の慣れが必要である。国語科の短作文指導で取り上げたり,実際に校内LANを利用して筆談をチャットで行うような学習を国語科の作文指導として位置づけたりすることにより,取り立てて時間を設定しなくても子ども達が進んで利用できるようになる。 |
利用した主なURL
・http://www.shonaimai.or.jp/kome/kome.html(庄内平野の米作り)
・http://www.cbn.net.id/commerce/jjs/(ジャカルタ日本人学校)
・http://www.maff.go.jp/(農林水産省)
・http://www.ice.or.jp/~nakahara/gakusyu.htm(柏市立中原小学校)