12 他校や地域の人々と進める花室川環境8校プロジェクト
--- 花室川の調査を通しての環境共同学習 ---
 
小学校第6学年・総合
つくば市立桜南小学校 根本 智
 

インターネット利用の意図
 花室川はつくば市から土浦市,阿見町を流れ,霞ヶ浦に流れ込む川である。この川は,生活・農業排水との結びつきが強く,下流に行くほど汚れるといった通常の川とは異なり,排水の多いところで汚れがひどく,場所によって変化している。これまで,花室川を題材にした本校のこれまでの環境教育を振り返ってみると,本校に近い中流のほんの狭い範囲の限られた調査結果をもとにして進めていたために,生活に結びつけて考えたり,自然の浄化力に気づいたりすることができず,深まりのある考察をもたらす学習は進めにくいと考えた。そこで,上流から下流までにある8つの小学校でプロジェクトチームを作り,学校の枠を越えて共同で研究することにした。それぞれが調査した結果をインターネットを活用して情報交換をしたり,テレビ会議をして直接意見交換を行ったりすることで,これまでにない広がり,深まりのある,地域で取り組む環境学習ができる。

 
1 人の生活と自然かんきょう
(総合テーマ「花室川の自然を守ろう〜花室川の水質と環境調査を通して〜」)
 
(1) ねらい
  地域を流れる川,花室川を調査し,同じように調査・研究を進めた小学校との意見交換を継続的に行ったり,インターネットを利用したテレビ会議で討論したりすることで,多くの人々と共同で学び合い,学校と地域とが一体となった環境の学習を進めることができる。
 
(2) 指導目標 
  6年生の単元に「人の生活と自然かんきょう」がある。ここでは,水や土といった自然の環境が人の生活とどう関わっているかを考えていく内容である。本校ではこの単元を,総合的な学習として取り扱い,他教科と関連させて時間を確保し学習を進めた。今回は,特に人と自然との関わりが深い川を題材にした。これは単に水質調査に終わらず,周囲の環境が水質とどう関わり合っているのかを考えていくことで,水の浄化作用についても目を向けられるようにしたり,環境を進んで守ろうとか,改善していこうという意識を育てたりすることをねらいとしている。
 
(3) 利用場面 
 ここでは,インターネットと校内ネットワークを生かしたソフトであるスタディノートを使い,学習場面で活用する。スタディノートはコンピュータ上にまとめることができるノート(文字や図,写真等で構成できる)で,電子メール,電子掲示板,データベースの機能を使うことで幅広く活用できる。(図1,図2)この単元では,次のような場面で活用した。
 @調査結果をまとめる場面(その1)
 自分で決めた学習課題に沿って調査活動を行い,その結果をスタディノートにまとめる。このスタディノートの電子掲示板機能を活用すると,誰もが内容を見ることができる。
 A調査結果をまとめる場面(その2)
 調査をして生じた疑問やわからないところはインターネットを活用して検索したり,電子メールを使って質問したりする。
 B調査結果の発表をする場面(校内)
 それぞれの調査内容をスタディノートのデータベースに載せて,お互いに調査内容をみることができる。数多くのグループの内容を短い時間で,しかも自分の興味に応じて見ることができ,読んだ感想や意見,質問を書いて,作成者に送ることもできる。送られた感想等についての返事はデータベースに載せて全体に見てもらうこともできるし,電子メールで質問者だけに返すこともできる。
 C調査結果の発表をする場面(他校との意見交換)
 調査結果のまとめは2つの方法で他校の児童にも読んでもらうことができる。1つは,スタディノートの電子掲示板機能を利用すると並木小学校の児童と自由に意見交換ができる。これは校内とまったく同じように扱える。もう1つは,スタディノートのデータベースの内容を変換し,学校のホームページに載せて発信する方法である。多くの人に読んでもらうことができるが意見交換はメールを活用することになる。
 Dパネルディスカッション
 調査活動を終えて,それぞれが環境について意見交換をする場面では,パネラーとなった児童は自分のまとめたノートを使いながら提案することができる。図や写真等も活用してあるので,聞く側もわかりやすい。また,ディスカッションの場面では,テレビ会議を通して,他校の児童にも参加してもらい意見交換をすることができる。
図1 児童がまとめたノート(1) 図2 児童がまとめたノート(2)
 

(4) 利用機種
機 種 台数 設置場所 利用者  主な利用目的
dos/v機 20台 ネットワークルーム 児童 学習の道具として(イントラネット,インターネット)
  24台 職員室 教員 研究,校内文書作成,インターネット
  9台 4年以上教室 児童 学習の道具として(イントラネット,インターネット)
dos機 41台 CAI室 児童 CAI(一斉授業下での個別学習)
 
2 指導計画
(1) 総括目標
  花室川を取り巻く環境や,それらと自分とのかかわりを調べ,主体的に問題解決していく中で,よりよい環境について考え,積極的に活動することができる。
(2) 学習・評価計画
学 習 過 程 ・ 活 動 支 援・援 助,評 価
@





A
B
環境問題について考えよう
 ・地球規模の環境問題
 ・身近な環境問題
 ・花室川の様子
 ・今度の活動の計画
花室川を散策し,川や周辺の様子を観察しよう
 ・4地点の観察ポイントをスケッチする。
 ・川の様子,周辺の様子を観察する
 ・課題づくりをする。

・環境問題を大きな視点で捉えら れるようにするとともに,身近 な問題から取り組んでいけるよ うに支援する。



身近な自然と自分たちの関わり について目を向け,意欲を持って調べることができる。
(記録・感想/関心・意欲・態度)






自分で作った課題にそって花室川を調べよう
 ・その他の地点の観察
 ・流れの速さ,川幅の違い
 ・動植物の様子
 ・川の地形,周辺の様子
・課題を具体的に立てたり,解決の手だてが見つけられるように随時相談できるようにする。
調査結果から自分なりのまとめをすることができる。
(発表・レポート/技能,思考)
C
D


E
F




G



H
調べたことを発表し,新たな課題を持とう
 ・発表会
 ・課題ごとのグループ分け
花室川を散策し,さらに課題を深めよう
 ・グループで調査方法を工夫し,目的を明確にして調査する。
 ☆インターネット,スタディノートを活用して,課題を追究する。
発表会をして花室川についての意見を交換しよう
 ・グループごとの発表会
 ・意見交換,質問,まとめ
花室川についての学習をまとめよう
☆パネルディスカッション
・発表を聞いても,自分の課題が持てない児童には,いくつかの課題を設定して選択できるようにする。
・調査方法はグループの独自性がでるようにアドバイスする。
☆コンピュータを活用し,他校や専門機関等との交流をしながらまとめていけるようにする。
・誰もが発表に参加できるようにする。また自分が調べたこととの共通点や相違点を見つけられるようにする。
自分なりの考えが持て,自分たちの生活と花室川がどのように関わっているかがわかる。
(発表・様子/表現,思考、関心)
I
人は,自然の環境とどのように関わっているかまとめよう
・花室川調査を通して学んだことを生
 かして考える。
・身近な課題から広い視野に目が向けられるようにする。
人の生活と自然環境との関わりが分かり,自然を守っていこうとすることができる。
(レポート/知・理,関・意・態)
 
3 利用場面
(1) 目標
  花室川について調査した結果をコンピュータを使ってわかりやすく発表した り,テレビ会議を通して発表を聞いたり,意見交換をしたりしながら自分なり の意見を持つことができる。
(2) 学習課程・活動
花室川についての学習をまとめよう

@ 調査結果の発表を聞こう

代表者から花室川を調べてわかったことを発表してもらいましょう

代表児童1
・ぼくは,花室川の回りの動植物について調べた結果から話をします(例)

代表児童2
・わたしは,花室川に流れ込む生活排水から考えてみました。(例)

A いろいろな人の意見を聞こう

花室川について,いろいろな立場から意見を聞いてみましょう

並木小児童
先生から
地域の人から
専門的な人から
・わたしたちの調べた結果を聞いて下さい。
【テレビ会議】
・花室川以外の川の様子と 比較して話をします。 ・身近に流れている花 室川について,普段から感じていることを言います。 ・以前から花室川について調べてきたことから話をします。

B 意見交換をしよう

話を聞いて,質問や意見はあるかな

児童3
児童4
・ぼくが調べた結果で気になることがあるので質問します。(例) ・わたしは,〇〇さんの話について次のように思うんですけど。(例)

C これからの花室川について考えよう

花室川がどんな川になってほしいですか

児童5
児童6
児童7
・もっと魚がたくさんいる川になってほしい ・川で泳げるぐ らいにきれいだ といい。(例) 休日に家族でのんびりできるような環境であってほしい。(例)

D 自分たちでできることを考えよう

花室川をきれいにし環境を守っていくためにはどうすることが大切ですか

児童の意見
パネラーの意見
・少しでもゴミを出さないようにしたり拾ったりしたい。(例) ・川をきれいにしようと心がけるだけでなく・・・(例)
 
4 実践を終えて
(1) スタディノートでは,8校プロジェクトの中の一つである並木小学校との掲示板の共有化を可能にしたために,本校の児童が掲示板に載せたことが,並木小学校からも見ることができるようになった。本校児童が調査結果を載せると,並木小学校の児童が,それに対して感想や質問を書く。これらの掲示板上のやりとりは当事者だけでなく,全員共有のものとなり,他の児童への学習にも役立ってくる。このように日常的や意見のやりとりが続くことにより,お互いの考えや学習内容が深まっていくのが掲示板を通して感じられた。そして,こうしたやりとりが,テレビ会議での直接交流をより意義深いものとした。
  他校とのスタディノートを活用した交流は,校内だけでの学習よりも,内容の幅が広がり,児童の意識の高揚に大変役に立った。今回は2校のみの交流であったが,他校でもインターネットが計画的に導入される予定であるので,当初の計画通り,8校で同じような取り組みが行えるよう現在準備を進めている。
(2) 児童の変容としては,実際に花室川を散策したり,調査したりすることで,自然に触れる機会が多くなり自然に対する見方が変化した。特に,今回調査活動を行った花室川に対する意識の変容は大きく,6年生93名の意識調査の結果を見ても,「花室川から何をイメージするか」という質問に対して,調査前は49名が「きたない」と答えていたものが調査後は12名になった。逆に,「きれい」や「動植物が多い」等の答えが2名から23名に増えた。また「生活排水」や「汚染が進んでいる」といった環境問題に対してはっきりと意識する児童も増えた。さらには,「花室川は自然を支えているもの」や「なくてはならないもの」といった自然への愛着や自然環境を守ろうとする意識を持つようになった。また,調査・研究を繰り返し行うことで,課題を解決するための実験方法を工夫したり,自作器具を使ったりするようになり,さらには結果をまとめる力がつき,表現力も豊かになった。自分で浄化装置を作ったり,花室川の水と水草を採取して植物の水質浄化作用を実験で確かめたりする児童もみられた。
(3) 地域や保護者と共に活動を行ったことで,地域全体の協力体制が整った。また地域の人も交えたパネルディスカッション等でも,児童と同様に意識の変化が見られた。
(4) 11月末にパネルディスカッションを行い,8校プロジェクトの他の学校にも見てもらうことで,今後花室川調査を広域に,継続して行う基盤づくりができた。次年度から,さらに交流を深めていき,総合的な学習の一つとして位置づけ,地域で一体となった環境学習に取り組んでいきたい。
ワンポイント・アドバイス
 インターネットというと,遠距離間の交流をするものと思われがちだが,身近な所で,同じ題材を扱いながら交流を進めるといった使い方も有効だと思う。さらに,校内ネットワークとインターネットを連携して生かせる児童用アプリケーションソフトの活用が重要となってくる。本校では「スタディノート」を使用している。