13 みんなでこれからの神奈川県を考えよう
--- 地域ネットワークを利用した共同学習の試み ---
 
小学校第4学年・社会科 総合学習
相模湖町立千木良小学校 元山 雅治

インターネット利用の意図 
 社会科の学習における県内各地域の調べ学習を共同で行い,電子メール等で意見交換をしながら,成果をホームページ上で発信していくことを計画した。更に,この交流の範囲を広げて,神奈川県内の交流網の組織化を図りながら,第4 学年社会科学習の新たな方向性を探ってきた。

 
1 「わたしたちの住む神奈川県」における共同学習のねらい
 第4 学年社会科学習「わたしたちの住む神奈川県」において,地域の調べ活動を行う。その際,県内数校で共同ホームページを作ることを目的として取材・創作活動を展開し,児童の目的意識を高め,主体的な学習を構成するとともに,県内各地の情報交換を行うことを考えた。
 
2 共同学習実践に向けての準備
(1) 利用環境
@使用機種 デスクトップパソコン児童用10台,教師用2 台をLAN接続。
A周辺機器 ダイヤルアップルータ,29インチ大型ディスプレイ,16ポートHUB,テレビ会議システム,CCDカメラディスプレイ切り替え器
B稼働環境ISDN回線とダイヤルアップルータを使用し,PCルーム内のすべてのコンピュータからインターネットに直接接続できる。テレビ会議システム(NTTフェニックス)とは切り替えて接続。
Cその他の利用ソフト
 この実践では,児童が調べたものをまとめ,ホームページ上に公開するために児童用プレゼンテーションソフト「楽習くん」(藤沢市立浜見小学校 荒義明先生作成のフリーソフト)を使用した。
 
(2) 共同学習の展開までの経過
 県内の調べ学習を共同で行うに当たって,子どもたちにいかに目的意識を持たせるかが課題となった。そこで,1 学期から「ケナフの観察」を通して,交流を続けてきた横浜市立本町小学校からの「県内のダムのことについて調べているので教えてほしい」という依頼を契機に活動を開始することにした。子どもたちは,地元相模湖の相模ダムについて調べ,テレビ会議で本町小に伝えた。実施した結果,テレビ会議の画面では相手の資料が見にくいことなどから,せっかくまとめたことが十分に伝わらないことがわかった。子どもたちと話し合い,「まとめた資料をホームページ上に公開し,相手校にその資料を見てもらうことで解決できるのではないか」ということになり,さっそく学校のホームページに「相模ダムについて」を作成した。子どもたちは,自分たちのまとめた資料がホームページで公開されたことに満足すると同時に,「他の人に見せるための資料づくり」というものが意識の中に芽生えてきたようである。(「相模ダムについて」図1 )

図1 「相模ダムについて」

 
3 「県内の調べ学習」共同学習と学校間交流の実践
(1) 県の調べ学習の展開へ
 秋の遠足で訪れた横浜『みなとみらい 21地区』の開発について,本町小学校の児童とテレビ会議による意見交換を行った。双方の学校で「開発全面賛成」・「開発には賛成埋め立てには反対」・「開発に反対」のそれぞれ3 グループに分かれ,お互いのグループが意見を発表し合う形を取った。山に囲まれて生活している本校児童に,若干開発推進派が多かった。反対に,都市の中心で生活する本町小の児童は自然保護に対する意識が高いように思われた。最初は,それぞれの考えを主張し合うだけであったが,時間をおいて二度行った意見交換の中で,次第にお互いの住んでいる地域の違いに気がつき,そのことを考えに入れた発言が見られるようになった。(子どもたちの意見を発表 図2 )
 このことをきっかけにして,神奈川県の調べ学習において,それぞれの地域のことを調べ,互いに教え合い,一緒にまとめを進めることを提案した。

図2 「MM21の開発について」

 
(2) 共同学習によるホームページ作成
 11月4 日のテレビ会議から 「県内の調べ学習」共同学習の話が生まれたのであるが,具体的な活動が始まったのは次の週からであった。子どもたちは自分たちの住んでいる『津久井』について調べることにし,どのような内容でまとめるかを話し合った。
 11月14日,千木良小学校のホームページ上に「調べ学習の部屋」を開き,他地区の子どもたちへの呼びかけを行った。同時に横浜の本町小学校・川崎の桜本小学校にもメールで連絡。さらに16日にメーリングリストを利用して他の学校へも協力依頼を行った。
 子どもたちは自分のテーマに基づきグループを作り,資料を集めるための呼びかけを公開すると同時に,児童用プレゼンテーション用ソフト「楽習くん」を利用してまとめを始めた。11月末ホームページ上に一部公開を開始した。(図3 図4 )

図3 調べ学習の部屋メインページ

図4 子供たちからの呼びかけ

(調べ学習の部屋)http://www4.justnet.ne.jp/~tigira2/newpage121.htm
 それまでに交流のあった一部の学校から,すぐに取り組んでみるとの返事をいただいたのだが,そのほかの地域からなかなか反応が無く,個人的なつてを頼って再度メールで依頼した。その結果,県内4 地域から子どもたちの資料が届き、それを元にホームぺージを作成中である。(児童の作成した県内の調べ学習のページ 図5 ・図6 )

図5 津久井郡の地形図

図6 藤沢地域の様子

(3) テレビ会議システムを利用した交流
 1 学期より「ケナフの栽培」を通し,横浜市立本町小学校との間でテレビ会議交流を行ってきた。これは『全国発芽マップ'98 』に一緒に参加し,互いの学校のケナフが成長する様子を情報交換しあうといったものである。
 それまで本校のテレビ会議システムはあまり活用されていなかったので,4 年生の子どもたちが実際に体験するのは初めてであった。しかし,「ケナフ」という共通の話題があったこともあり,意識を持って定期的に交流を行うことができた。また、当番制で担当を決め、毎日生長の様子を観察し,記録を続けられたのも,伝えようとする相手を意識していたからといえよう。
 さらに10月からは川崎市立桜本小学校も交流に加わるなど交流に広がりも見られ始めた。県の調べ学習における成果の交換や他教科に広がりを見せだした共同学習に有効に活用されることを期待している。(テレビ会議で意見交換 図7 )

図7 テレビ会議の様子

 
(4) オフラインによるふれあい
 秋の遠足は横浜方面を計画した。この機会を利用し,本町小学校とのオフラインミーティングを計画した。帰りの時間の都合もあり,ほんのわずかの間ではあったが一緒に昼食をとりながらの交流を持った。最初は少々ぎこちなかったが,テレビ会議を通して話をしたという気安さからか,すぐうちとけて楽しそうに会話していた。(遠足で横浜市立本町小学校を訪問 図8 )
 また,川崎市立桜本小学校とは「かながわ・ゆめ大会」に合わせて,オフラインによるふれあい集会を企画した。11月7 日横浜で行われた「全国身体障害者スポーツ大会」開会式の場で顔合わせをし,自己紹介を行った。どちらの交流も子どもたちにとって良い刺激となると共に,交流を積極的に進めていこうという意欲付けにつながった。 3 月には本町小の子どもたちが相模湖訪問を計画している。

図8 オフラインでの交流会

4 実践による子どもたちの変化(実践の評価)
 
(1) 交流を通して子どもたちの世界が広がりを見せ始めた
 特に,単学級で1 年生からずっと一緒(中には幼稚園から)の子どもたちにとって,全く環境の違う地域に住んでいる本町小学校の子どもたちと知り合ったこと。さらに,一緒に学習を進めたり,近況報告をしあったりすることがとてもよい刺激になったようである。
 テレビ会議で初めて交流をしたとき,つながるまで緊張していた子どもたちの顔が,相手が見えたとたん安心した顔になり,何年もつきあっている友達のように会話を始めた。さらにケナフの情報交換を中心に,何度か交流を続けていく中でおたがいに親密感を深めていった。秋に行われた横浜への遠足で初めて会ったのだが,そのときにはもう『何日か振りに会った友達』のような雰囲気であった。一緒に昼食を食べて,相模湖までの帰り道「本町小の人ってとても優しいね」と話し合っていた。何日かたって,「これからがんばりたいことは」と聞くと「本町の人たちみたいに言葉遣いに気をつけることと,友達に優しくすること」と答えた子が何人もいた。これも本町小の友達からの影響が大きいのではないだろうか。逆に本町小の先生からは「お別れの時に歌った千木良の子の歌声が,とても刺激になった」というメールをいただいた。お互いの子どもたちにとってこうした交流経験がプラスの影響を与えあっている。
 
(2) 情報を伝える相手が見えること,情報の双方向性のもたらすもの
 子どもたち自身が,伝えたい相手を意識することで,調べ学習に積極的に取り組む姿が見られるようになった。
自分たちのテーマを追求していくうちに
@どのような情報を伝えたら良いか考えるようになり
A本当に必要な(役に立つ)資料が少ないことに気づき
Bどうしたら必要な情報が手にはいるか考え
C自分たちで計画して行動する姿が見られるようになった。
 あるグループの子どもたちが,相模湖町役場に行く計画を立てているのを知り,前もって電話で一言お願いしておいた。授業が5 時間で終わる水曜日,バスの時間を待ち合わせ男女5 人で行って来た。( 半分ちょっとした冒険旅行気分のように見えたが) 翌朝,「 とても詳しく説明してくださり,よい資料をいただいた。」 と子どもたちが目を輝かせて語ってくれた姿が印象に残った。
 次に変化したのは,「自分たちの発信する情報に対しての責任感」であろう。他の学校の友達と分担しながら調べ,一緒にインターネット上のホームページに公開するという目的を持つことで,あやふやなものではなく「正確で・より新しい情報」を入手し,発信していこうと意識する子どもが増えてきたように思われる。
5 実践を終えて
 今回のプロジェクトには県内から合計6 つの小学校に参加していただいた。2 学期後半から3 学期にかけて交換した情報をまとめ,ホームページ上に公開してきた。
 以下は参加校の一覧である。
・神奈川県横浜市立本町小学校
・  同 川崎市立桜本小学校
・  同 相模原市立東林小学校 
・  同 小田原市立富水小学校
・  同 厚木市立清水小学校
・  同 相模湖町立千木良小学校
 この中の数校とは,すでに社会科から発展して,国語の読書教材においても感想や意見交換をしていこうという計画が進み出している。
 この実践では,当初の目的にあった「インターネットを活用して神奈川県内の交流網の組織化を図る」という点では,まだ十分ではないものの,同じ県内ながら環境の違う地域同士の児童が意見交流を進めることができたという点では,一定の成果を見たように思われる。また,実際に会って交流をしたことも,子どもたちの意欲付けには大変効果的であった。テレビ会議システムやインターネットを利用することで,子どもたちの学習の中に一方的ではない双方向性が見られるようになってきた。こういった面で遠隔地はもちろんのこと,実際に交流可能な地域間における学校同士においてもこうしたメディアの有用性が認められる。
 本実践が県内各地の子どもたちの結び付きを深め,共に学ぶための交流網構築の足掛かりしたいと考えている。
 
ワンポイント・アドバイス
 本校においては,それまで「テレビ会議システム」利用の場面は,主にこねっと・セミナーの時に使用していたぐらいであった。利用しなかった理由は主に「電話料金がかかるから・・・」という程度だったのではあるが。実際に始めてみると,子どもたちがこのような反応をし,また,このように変化するとは予想の範囲を超えていた。まず,取り組んでみることの大切さを身をもって体験させられた。
 共同学習に取り組んでいく上で,交流がうまく進んだ学校と,今ひとつだった学校との違いは,子どもたちが相手をどの程度知っているかにあったように思われる。メールやテレビ会議システム,時には実際に会ったりして伝えたい相手を意識させることが有効である。  
使用したURLなど
 千木良小学校ホームページ(http://www4.justnet.ne.jp/~tigira2/newpage121.htm)