21 マルチメディア方言辞典を作ろう
 

小学校第4年・国語を中心に

京都市立朱雀第二小学校 中嶋 弘行

 

インターネット利用の意図
 4年生の国語教材の中に方言があるが,方言について調べるときにいつもわからなくて困るのが,発音の問題である。
「いちゃりばちょーでー」
「おばんです」
これは意味がわからない場合もあるが,どんな発音で語ればいいのかわからない。多くの地域から生の音を集めて,音入りの辞典を作ればいいなとずっと考え続けてきた。
 インターネットを通じて画像ファイルを登録しあい,言葉の意味や使い方・抑揚などについて交流しあいながら学習を進めていけたらと考えている。

 
1 単元・教材名
(1)ねらい
 京都市では,小学校4年の国語学習の中で方言を扱う。
日本という小さな国の中にもさまざまな言葉遣いがいきづいていることを知らせるには,文字を追うだけでなくネイティブの発音を聞きながら学習を進めていくことが重要ではないかと考えている。
 また,京都にいれば,他地域の言葉を文字の上で学習しても,京都流の発音でしか話せない。
 微妙な抑揚やアクセントなどは,直接その地域の人の声で聞きたい。
 そこで,そのために生の音を聞くことができるファイルを作って送ってもらえれば児童にとってもより方言に親しみ理解を深めることができるのではないかと考えた。
 ビデオテープを作って送りあうことも考えられるが,同時に多地点からのファイルをおたがいに参照しあうことができるのはネットワークの利点である。そこでコンピュータを利用し,インターネット経由で送りあうことにした。
 
(2)指導目標
 藤原与一・神部宏泰の「方言研究ハンドブック」によれば,他地域・多地点の方言調査を通じて総合体験を高めることを進めている。そして「西の人は,東を経験するのがよい。南の人は,北を経験するのがよい。中ほどの人は,外回りを経験するのがよい」(同書p11)という。これは,あるていど離れた地域の言葉を経験することが異文化にふれるという点でよりよいということを示しているのだろうと思うが,多くのところから言葉を集めることができれば,いまの学習内容に即した教材をより豊かに提供できることになる。
 身近なコンピュータを使って,インターネットを通じ,多くの人との関わりを生み出しながらひとつのテーマを調べていくことは,コンピュータネットワークというものが単に機械同士のつながりなのではなくて人間同士をより豊かにつなぎあってくれるものであるという認識を深めるよい材料でもあると考えている。
 
(3)利用場面
 この単元では,次のような場面でコンピュータを利用する。
@自分たちの発音を録画し,発信する。
 同じものについて比べてみたいということがらを選び出し,他地域に住む人への問いかけという形で録画しデータ化する。ビデオカメラで撮った映像をaviなどのファイルにし,ftpしてwebで読み出せるようにする。
 
A他地域の発音を読み出し,比較する。
 音声を伴う,生きた「ことば」をwebから引き出し,自分たちの言い方と比較する。
 
B自分たちの日常会話の雰囲気を伝え,おたがいに方言で語り合う。
 短い会話をftpで登録しあい,話し方の違いのおもしろさを知ったり,違いを越えて語り合えるように多くの言葉を知ろうとする態度を育てる。
 
(4)利用環境
@使用機材
参加各校でビデオカメラ( 8ミリ,VHS,デジタル等)を用意する。
コンピュータにビデオキャプチャボードを組み込んだものを使いaviファイル化する。
A稼働環境
 学校によりいろいろ違うが,インターネットに直接接続してファイルの送受信ができることは活動準備のための基本条件として必要である。ビデオキャプチャに関しては,方式がさまざまにある上にキャプチャボードがない場合もあるので,必要に応じてテープを郵送しキャプチャを依頼してもらうという形で参加しやすくした。
 ビデオファイルは一般にかなり大きなサイズになるので,まとまったものはケーブルテレビ会社の行っている接続サービスを利用し,同軸モデムを通じて送信するようにする。
 集まったデータはビデオファイルであるという性格上,ダイアルアップ接続している学校が多い現状ではロードにかなりの時間がかかることが予想される。そのため,データの登録(回収)にはftpを使うが,使いやすいようにデータを整理した上でCD化して配布することにする。
 
BIPA/CECの協力によるメーリングリスト(ML)/ftpサイト開設とwebサービスの提供
 今回のような企画では複数ユーザが共用できるftpディレクトリを用意し,転送しあってデータベースを築くというやりかたをとることになる。本校では京都市情報教育センター内に自校用webページのディレクトリを持っているが,このような企画のために専用のディレクトリとアカウント/パスワードを発行するのは無理なため,CEC/IPAにお願いして専用のディレクトリを作っていただくことにした。(図1)

図1


 このftpでの資料登録に関わって,MLを立ち上げ連絡しあうことにする。やはり本校だけではMLは開設できないので,こちらについてもCEC経由でIPAに開設を依頼することにした。
 こうしてできた連絡用のMLとftpサイトを軸にして,参加各校で取材活動を始めることにする。
 この企画は始まったばかりであり,共同研究に参加する学校が必要になる。そこで aimitenoなどのMLを通じて募り,数校からの参加を得ることができた。
 
2 指導計画


指 導 計 画

留 意 点

@方言について教科書からわかったことをまとめる。
 

・方言の定義について知らせる・方言の優れている点,困る点について考えさせる

A方言と共通語について違いについて調べる。

・方言と共通語の違い,それそぞれの持つよさについて話し合う

B他地域の方言を音読してみる。
 

・発音の仕方や文の中での使い方について考えさせる。

C京都の話し方を知らせよう・・ビデオ撮影
    ★インターネットの利用(FTP)

・自分たちの知らせたい言葉遣いについて考え,記録するようにする 

D他地域の人に方言を教えてもらおう
    ★インターネットの利用(FTP)          

・送られてきたビデオファイルはあらかじめCD化しておく。
 これを視聴しながら,言葉遣いの違いや方言を使った話し方に親しむ
 

 
3 利用場面
(1)目標
 自分たちの知りたい方言についてイメージを持ち,収録して発信する。また,他地域からの資料を得て言葉の違いや暮らし方の違いについて知り,多様な暮らしのあることをより積極的に知っていこうとする態度を育てる。
 
(2)展開


学 習 活 動

活動への働きかけ

備考

1 先に送ったビデオを見てもらえたことを知る

2 亀崎の方言や言い回しについて知る。


3 京都での言い方を考え,録画する


4 亀崎の方言と発音について知る


5 宮崎の方言について知る


6 宮崎への質問を準備する





 

・前時の活動を思い起こし,本時の学習意欲を高める。

・どんな言い方なのだろうか想像させる


・プリントの亀崎の言葉との対比を考えながら録画する


・京都との対比を考えながらプリントを参考に聞く

・宮崎の九九について知る
・宮崎弁の日常会話を聞きその言葉の意味を考える
・不明な言葉や京都と共通する言葉について整理し,地域による言葉の違いに気づか せる。
・質問をまとめ,電子メールで送信する。
 




・亀崎からの資料(プリント)

・録画したものはファイル化して見てもらうこと を知らせる

・亀崎からのビデオデータ (CD化したもの)


・宮崎からの ビデオデータ (CD化したもの)



 

 
4 実践を終えて
 方言の授業の中では,冒頭にも述べたように,文字としての知識だけでなく,その言葉を話す地域の人の発音がわからないという点が悩みの種になる。
 地域独自の単語としての方言と,地域によるイントネーションの違いとが複雑に絡まりあっている「はなしことば」は,なかなか整理するのが難しいとも感じた。
 他地域の人の言葉を聞いていると,ずいぶん違うなあという感じを受けるが,その違いにはやはり言葉そのものの違いとイントネーションの違いという問題がある。ある地域に独特に存在する単語もあるが,「くも」「はし」など,同じ言葉で同じ発音でありながら地域によって意味が変わるというものすらある。そのようなさまざまな言葉をわかりやすく整理して「辞典」の形にまでしていくのには大変な時間と努力が必要だろうと改めて企画の中では「辞典」と銘打ってはいても,企画の参加者の人数や時間的な問題があって,言葉の意味を追求したり比較したりというところまではまだ到達できていない。思った。
 企画の中では「辞典」と銘打ってはいても,企画の参加者の人数や時間的な問題があって,ことばの意味を追求したり比較したりというところまではまだ到達できていない。しかし,一方では,数百MBにも及ぶ大量のビデオファイルでも担当者間で分担して送信しあいながら,ひとつのサイトに集めていくということができたのはそれだけでも大きな価値があることだったと考えている。

図2

 さらに,この企画を通じて児童同士の「そちらで作ったビデオファイル見て興味を持ちました」というような交流が生まれた。今後も継続的にファイルを増やしあっていくことができそうな可能性を感じる。
ftpサイト上ではhtmlによるファイルへのリンクを作っているため,動的に資料の関連づけを変えていくこともできるし,同一のビデオファイルであっても異なった視点からの整理により新たな発見につながっていくこともできるだろう。(図2)
 また,いくつかの小学校にはCu-SeeMeやPhoenixなどの機材が導入されている。インターネットを通じてファイルを送るだけでなく,こういう機材を使って細かな打ち合わせをしながら,より発展した辞典に作り上げていくことができるのではないだろうか。
 通信インフラの整備という観点からいえば,ビデオファイルをISDNの回線に乗せて送信するのには128Kといえどもなかなか大変な面がある。
今回の企画の中ではCDの内容をそのままftpにすべて入れているが,同軸モデムを使ったケーブルテレビ回線経由のインターネット接続(10Mbps)でもすべて送信するには丸一日かかってしまった。
 この点があるからこそ集めた資料をCD化するという方法にしたのだが,近い将来光ファイバが導入されればオンラインでの辞典作りも現実的なものになってくるだろう。
 
 

ワンポイント・アドバイス
 現在の多くの小学校でのインターネット利用は,ISDN回線を利用した64K/128Kダイアルアップ接続サービスを使っているものが多い。京都市の場合は,情報教育センター経由でインターネット接続しているが,やはりダイアルアップルータを使っていて,128Kまでしか速度は出ない。この環境の中で映像データをオンラインで呼び出し利用するにはかなり無理がある。Windows標準のメディアプレーヤで扱える,avi形式のビデオファイルは簡単に1MBを越えるようなデータになってしまうが,1MBのロードにすら64KのISDN回線では数分かかってしまう。
 今回試作したCDのデータサイズは,最初のもので約380MBあり,これらをすべて東京のftpサイトに登録するのに丸一日かかった。ケーブルモデム経由ですらこのような状態だから,1時限(45分)という限られた学習時間の中ではオンライン利用はまずできないだろう。
 インターネットは資料のやりとりのための基礎的ネットワーク,というふうにとらえなおすならば,なにがなんでもオンライン利用でなければという考え方は要らない。必要と実情に応じてメディアを組み合わせ,使い分ければよいと考えている。低価格で大容量かつ個人でも作ることのできるCD-Rは,今回のような内容のデータをつくっていくにはかなり適切なメディアではないだろうか。
 

 
参考文献
方言風土記  すぎもとつとむ  雄山閣
方言研究ハンドブック  藤原与一監修・神部宏泰編 和泉書院
 
利用したメーリングリスト  dialectdic@cec.or.jp