23 教えたいこと、知りたいこと
中学校第1学年・学級活動,英語
山口大学教育学部附属光中学校 加藤 浩

1 企画のタイトル 「教えたいこと、知りたいこと」
 このタイトルは、少しスマートさに欠ける。今回のプロジェクトは、英語を母国語としない国同士が英語を解して思いを伝え合うという非常に困難な交流になることが予想された。しかし、いかに言葉の壁があるとはいえ、相手校の生徒とできるだけ深いつきあいを行っていきたい。とりあえず行うことができるのは、お互いが知りたいこと、教えたいことを伝え合うことから始めなければならない。そこで、自分たちが考えている内容に忠実につけたのがこの名前である。
 
 
2 企画の目的・意図
今回、このプロジェクトを行った理由は、以下のようなものである。

 2.1 生徒にメールを使った交流の楽しさ、難しさを実感させる
 中学校段階において、どの程度インターネットを利用できるのが理想であろうか。もちろん全ての生徒にあらゆる機会を見つけて利用させ、できるだけのその深い世界まで誘うことが望ましい。しかし、義務教育下の学校では、まず生徒にインターネットに触れさせ、それがどのようなものであるか、また、それを使うことによってどのようなことが可能になるのか。自分にとっては、どんなことが難しいのかといったことを実感させる必要がある。現時点において、多くの学校でできることといえば、このぐらいかも知れない。
 そのような共通の学習基盤のもと、さらに深めたいと思う生徒には、選択履修の形で教えていく必要があるのではないかと考えている。本実践は、中学1年生を対象とし、まずインターネットに触れさせ、生徒にメールを使った交流の楽しさ、難しさを実感させることを第1の目的とした。そうすることで、生徒は、将来インターネットにより多く接する機会を手にした時、その機会をより的確に生かすことができるようになると考えたからである。

 2.2 授業で学んでいる世界地理の内容を、実際の映像などを使って確認させる
 生徒は、社会科地理的分野の学習で、海外の国の地理について学んでいる。しかし、教科書で学んでいる国に実際に行ったり、その国に暮らしている人々に実際に出会ったりすることはできない。そのような環境にある生徒たちにとって、インターネットを使った学習を行わせることは非常に意味のあることである。教科書では、つかむことができない情報を入手し、それを自分の学習に生かさせたいと考えたからである。

 2.3 海外の人々との交流を通して自らを見直す機会とする
 海外との交流で最も期待するのが、この学習を行わせることによって、生徒が日本を、あるいは自分というものを見直すきっかけとすることができるということである。生徒はふだん何気なく生活しており、日本のことについてあるいは自分たち自身についてあまり深く考えたことはない。
 海外に住む人々に日本のことを紹介する活動の中で、生徒があまりにも自分を知らなさすぎることに気づいていくことを期待した。これは、生徒に自分が学ばなければならないものを明らかにしてくれる。また、交流相手の中に自分と同じものを見つけることによって、自分とは何かについて強く自覚し、今後追求していくべき自分の姿をイメージできるようになる。海外との交流によって生徒には自らの課題を明らかにしていくのである。

 2.4 生徒の英語の力を伸ばす
 今回のプロジェクトでは、相手校からのメールをできるだけ生徒の力で翻訳させるよう心がけた。そうすることによって、生徒の語学力を伸ばすことができると思ったからである。プロジェクトの中で扱われる英文は、教科書に書いてあるものと違って、生徒が伝えたいと思った内容、生徒が知りたいと思っている内容そのものである。このように生徒に最も身近な内容をやりとりさせることによって、生徒の語学力を伸ばすことができると考えたのである。


3 実践の準備
 実際に実践を進めていくにあたって、まず考えたのが日々の授業との関連を図ることと、生徒の組織を明確に構築することである。ネットワークを用いた授業を多くの学校に広めていくためには、課外学習としての利用の可能性を模索することも大切である。しかし多くの教師にとって、日々の授業でどこまでの利用が可能であるのかに関する答えを出さないと、これ以上ネットワークを用いた授業は広まっていかないかも知れない。また、このような実践を行っていくためには、生徒が自分たちで交流を進めていけるようなしっかりした組織を定着させることが重要である。

 3.1 日々の授業との関連
 今回、実践を行うにあたってまず考えたのが、このプロジェクトを日々の授業と遊離させたくないということであった。確かに、日本のカリキュラムは学習指導要領に示されている学習内容を着実に消化していくことが要求されている。ネットワークを使った交流は時間がかかるし、時差の影響も受ける。また、多くの公立校にもネットワークを使った学習の効果を理解していただくためにも、まず日々の授業の土台の上に実践を行っていくことにした。その手順は、下記の通りである。

   3.1.1 ヨーロッパに関する授業を実際に行う
 地理的分野の教科書は、ヨーロッパに関するページは、統合をキーワードにして構成されている。生徒の疑問は当然のことながら、統合の方へ目が向いていく。しかし、生徒の興味は、統合ばかりでなくヨーロッパの人々の生活に関する素朴な疑問をもつ者も多い。そのような疑問を出すような授業を事前に実施する。

   3.1.2 授業を受けて感じた疑問を集める
 実際に相手の国へ投げかける疑問は、様々なものがあってよいが、できるだけ授業を受けての疑問をその中に入れることにした。生徒の疑問は、単元の導入時と終末とでは大きく異なるように時間の経過につれて次第に深化してくるはずである。そのような疑問の進化もしっかり追いかけていきたいと考えた。

   3.1.3 疑問をメールにして発信する
 各クラスで集まった疑問をメールにして相手校へ発信する。この仕事は、次に示す生徒の中の英語翻訳班が担当する。
 上記は、本校から発信する際の流れだが、相手校から送られてきたメールを使いながら、授業を組み立て、それを実行するという流れも可能である。例えば、相手校から送られてきた教科書にない情報をクラスに紹介したり、相手校からのどのような答えを送ったらよいかを生徒全員で考えたりということである。

  3.2 生徒の組織
 実際の交流を進めるのは生徒であるので、主体的な活動を続けることが可能になるよう、生徒の自治的な組織を固めることにした。実際に作った組織は、次の通りである。
・ 企画班
・ 英語翻訳班
・ ホームページ作成班
 企画班は、今回のプロジェクト全体の企画を立てることを任務としている。タイトルにも見られるようにまず、相手に「教えたいことや伝えたいこと」を考案する。
 英語翻訳班は、相手校のホームページやメールを日本語に直したり、相手校へのメールを英語に訳したりする。
 ホームページ作成班は、その名の通り相手校に自校を紹介するためのホームページをつくる。

 3.3 その他の調査活動
 授業に立脚した交流を行わせることを目的とするといっても、それだけでは、生徒が興味・関心をもつような取り組みに発展するとは限らない。生徒が生活を送っていく中で感じた疑問点や相手校の生徒に伝えたいと思ったことをどんどん調べてメールにさせることとした。

  3.3.1 自分たちの学校を調べる
 本校には、自分の学校に対して強い誇りを感じている生徒が多い。特に、生徒自らが自治的な活動を展開していることを誇りに感じている。まず、学校紹介を考えるにあたって、生徒たちは生徒会活動をその筆頭にあげ、それをまとめる作業に入った。

  3.3.2 学校の周囲を調べる
 本校が位置している光市室積には、様々な学習要素がある。例えば、学校自体が陸繋島の上に立てられており、砂嘴には天橋立と見まごうような景観が続いている。また、史跡も多く、特に幕末・維新期に活躍した人々にゆかりの逸話も多く残っている。このような環境をメールにして送ろうという生徒も現れた。


4 実際の交流
 実際の交流は非常にささやかなものであった。
 
 4.1 風景写真の交換
 イタリアの学校からは、その学校が立地しているあたりの写真が送られてきた。本校が位置している山口県光市は、瀬戸内海に面している。地中海に面しているイタリアとは、多くの点で共通したものを感じたようである。本校からも学校周辺の写真を送った。
 
 4.2 本校から紹介した内容
 生徒は、自分たちの学校生活や家庭生活のの四季にともなう移り変わりを発信したいと考えた。日本の一般的な傾向を伝えてもよいが、それでは、自分たちの思いが十分には伝わらないからである。

 1月 正月の行事について(おせち、料理、お年玉)
 2月 節分について(鰯の頭やヒイラギを門に飾ることなど)
 3月 雛祭りについて(雛人形など)
 4月 エイプリルフールや新学期について
 5月 こどもの日やゴールデンウィークについて(かしわ餅や菖蒲湯など)
 6月 梅雨について(梅雨という気候があることについて)
 7月 プール開きや夏休み、七夕について(織り姫やひこぼしについて)
 8月 附中祭の準備について(本校の学園祭である附中祭の準備の様子)
 9月 附中祭やお月見について(十五夜や月のウサギについて)
10月 秋分の日について
11月 冬の始まりについて
12月 クリスマスや大晦日について(イルミネーションや除夜の鐘について)
    これに関しては、残念ながら返事がなかった。

5 実践を終えて
 5.1 実践して明らかになった問題点
  5.1.1 プロジェクトに参加する生徒の規模について
 海外との交流は、生徒にとっては非常に魅力のある活動である。このプロジェクトに参加する生徒の募集を行った時も、一クラス分すなわち約40名もの生徒が応募した。しかし、実際に作業を続けていくうちに、参加する生徒は少なくなっていった。これは、脱落したというよりも、参加する生徒を減らさざるを得なかったという方が正しい。
 交流を進めていくにつれて直接参加する生徒の意欲は持続するが、そうでない生徒は次第に興味・関心を失っていくことが明らかになっていった。参加する生徒が等しく相手校の生徒と接する機会を設けることが必要である。その点においては、今回のプロジェクトは失敗であった。この反省は今後に生かしていかなければならない。

  5.1.2 現行のカリキュラム内で当然発生する軋轢
 インターネットを使った学習の可能性の模索、あるいは海外の学校との交流学習の推進は、今後日本の学校教育が可能性をさぐっていかなければならない緊急課題の一つである。しかし、このような学習を進めていくためには、大きな問題点がある。それは、学校のシステムの問題である。日本の中学校では、学級担任と教科担任と部活動顧問の3者でカリキュラムを輪切りにしてしまうシステムを構築している。具体的にいうと、朝夕の学活は教科担任が受け持つ。教科の担任は、6時間を交代で受け持つが、放課後になるとすぐに生徒は部活動顧問の指導下に入る。このシステムの中には、生徒が有志のグループを結成して自分たちが追究したい課題に取り組み続ける活動を行わせることができないという問題点が生まれてしまう。特に今回のような海外との交流学習を行わせるにあたって、生徒の活動時間を確保することができないという大きな問題といつも背中合わせであった。自分自身も部活動の顧問をしており、海外交流のグループの生徒とソフトテニス部の生徒の両方の指導の必要性に迫られ、非常に苦労した。このようなジレンマを解消するためにも、「総合的な学習の時間」の導入は欠かすことはできない。

 5.2 今後の交流を円滑に進めていくために
 5.2.1 生徒の意欲を維持するために、スタッフ会議を定期的に設ける
 海外との交流は、英文和訳、和文英訳など手間のかかる仕事が多くなる。この英語がらみの作業で最も生徒の学習が停滞してしまう。また、生徒をいくつかの部署に配置し、一人一役体制をつくり上げるとそれぞれの作業の進度に差が生じてしまう。この差が再び生徒の学習意欲をそいでしまうということもよくあることである。今回の実践では、そのような失敗に数限りなく見舞われた。それを防ぐために思いついたのが、スタッフ会議を定期的に開くことである。この会議を開くことによって、生徒同士もお互いに刺激を与え合うことができる。
 
  5.2.2  英語が翻訳できるスタッフの体制をつくる
 今回のプロジェクトでは、生徒の英語の力を伸ばすため、まず生徒に英文和訳、和文英訳をさせてからそれを教師がチェックする体制をつくった。しかし、中学1年生ということもあり、なかなか仕事は進まなかった。また、初めに予定していたALTが次々と帰国したため最終的に英語科の教師一人に頼りきりになってしまうという問題点が起こった。