25 インターネット上のバーチャル教室

--- Virtual class room on the net ---

中学1〜3年生・正課クラブ

              清水国際中学校・清水国際高等学校 井柳 強


インターネット利用の意図

 地球規模のネットワーク・インターネットのおもしろさは,日本と海外の教室をリアルタイムに近い形で結び仮想教室を作り,そこで共同作業ができることである。今日のインターネット技術は,言葉がわからなければ画像を通し,生徒たちの感動を相手に伝えることができるようになった。このおもしろさを生徒に体験させたい。


1 はじめに

 私の担当は数学科であり,英語は苦手である。しかし,外国の人たちとの交流を通して相互理解を図ることは大切であり,生徒にも体験をさせたいと願ってきた。その方法として,正課クラブ活動の中に地球クラブを設け「通信メディアを利用して世界中の人たちと友だちになろう。」をテーマに12年間にわたる活動を展開してきた。通信メディアも国際郵便から始まり,録音テープ・ビデオテープ交換,国際ファックス,パソコン通信,インターネットと大きく広がった。

2 教科,単元,教材との関連

 インターネットを利用して,外国の人たちと楽しく共同作業をし,国際交流を図ることを目的に,週1時間の正課クラブ活動,「地球クラブ」での実践である。

単元 「共同作業で物作りを実施し国際理解をはかる。」 題材 英文俳句

 

3 この自主企画のねらい

 相手の国,言語,年齢などにこだわらないで幅広く交流,英語の使用を押しつけない。助け合いで言葉の壁を超える工夫をする。スキャナで取り込んだ画像,デジタルカメラ静止画・動画を利用する。交流相手と相談して,物作りの共同編集を中心に展開する。お互いに助け合い,励まし合う「Working Together」を交流のテーマとする。

 

4 対象生徒とインターネットの利用環境

 対象となった本校「地球クラブ」の中学生は1年生6名,2年生4名,3年生名である。平成10年6月までは,100校プロジェクト供与の回線器機のみで運用していたが平成10年7月末からOCN回線に移行校内LANを構築,オンラインマシンは校長室1台,事務局1台,パソコン室9台となった。この研究のための供与を受けたノートパソコン・パナソニックCF-M32J8を移動利用している。オフライン作業は,パソコン室のFMV-5133PDS 40台を高校生と共用している。デジタルカメラはこの研究のための供与を受けた,Sony Digital Mavica MVC-FD81をフルに活用している。


5 平成10年度「地球クラブ」一年間の指導計画

 
いろいろなインターネット上のバーチャル教室を楽しく展開する。週1時間の活動では時間が足りず放課後,高校生の国際パソコン通信部の部員が地球クラブの活動を支援している。

1学期  新入生紹介,私の夢,「本年度は外国の人たちとこんなことをしてみたい。」を書く。地球クラブの年間計画を立案する。野鳥の会主催「全国野鳥保護の集い」静岡県浜北市に展示参加,テーマは「私たちのケナフ栽培と紙漉きレポート」のパネル作り。アメリカの小学校と同じ綿の種を同時に蒔き,成長レポートの交換をする共同学習。夏休みは いろいろなバーチャル教室をホームページにまとめる。アメリカの小学校の先生と絵本の国際共同編集をする。デンマーク,アメリカ,本校を結び「アンデルセン物語」プロジェクトを展開。フランスのパリの小学生と,清水市に伝わる羽衣伝説「天女の羽衣」を俳句で綴るビデオテープの共同編集プロジェクトを昨年度に引き続き行う。

2
学期 「天女の羽衣」共同プロジェクトを継続。(この実践をここで報告する。)国際インターネット交流日,Netdayに参加するために記念カード・ホームページの編集。
AT&T98 Virtual Class Room 国際コンテストに参加。

3
学期 上記コンテスト参加を継続。雪だるまの国際比較をするプロジェクトをする予定。       



6 フランス・日本を結んだバーチャル教室の指導計画及び経過

 この交流は,平成99月から始まり平成111月現在まで行われている。17か月にわたる交流である。そのため,この研究支援対象期間とそれ以前の2つに分けて報告する。
 
<平成9年度活動部分>(括弧内にはインターネット利用場面を示した。)

(1) 交流の動機 (インターネットチャットおよびメールの利用 教師の活動)

 ある子どもたちのチャット・チャンネルでフランスの美術学校の小学生が日本との交流を求めていることを知った。学校名は Atelier des Feuillantines,生徒の年齢は8歳から10歳であった。英語は理解できず,担当の先生が翻訳の支援をした。地球クラブの活動で1992年に清水市に伝わる郷土の伝説「天女の羽衣」の英訳をメールで送信した。これは三保の砂浜の美しさに惹かれて天女がここに舞い降りた英文の一部分である。

Early one morning, in the deep fog, a heavenly maiden came down to visit the beautiful seaside. She took off her heavenly dress and hung it on a branch of a pine tree. Then she went for a walk. A fisherman found this beautiful dress on a branch of the pine tree. He took it, thinking he had found a treasure! The heavenly maiden came back and saw that her dress was not on the branch. She became very sad, because she could not get back to heaven without this dress. これを読んだフランスの生徒から,We read your project about the heavenly dress. The legend is beautiful. と返事があり,この交流がはじまった。

(2) 学校紹介(メール,画像送付 生徒の活動)

 地球クラブの活動風景をデジタルカメラで撮影,生徒の自己紹介文を送る。

Here in Paris, we have all ages, from 6 to 70 years old, of course in different classes, including music (theory, composition, instruments), and painting, sculpture, video art...
と相手の先生から学校紹介のメールに画像を添付して送ってきた。

(3) クリスマス共同作業(メール,画像の送信 生徒の活動)

 まず,「友だちになろうね」とペイントでクリスマツリーだけを描きフランスに送信。フランス側の生徒たちがこのツリーの上にクリスマス飾りを描き日本に送り返してきた。

The children and students here are very happy to add decoration on them. Four trees have already been decorated. このような共同作業から交流からスタートした。.

(4) 調査活動(市役所,市立図書館,記念碑建立現地での調査 生徒・教師活動)

 羽衣伝説の伝わる清水市三保の松原に建てられたフランス人,エレ―ヌ・ジュグラリスの記念碑について調査開始。戦後,彼女は日本の能に惹かれ,能を独学で学び,ヨーロッパに紹介した。公演中,最後に天女が舞いながら天上に消えて行く場面で倒れた。「羽衣物語の舞台,三保の松原を私の代わりに訪ねて」と夫に言い残し,帰らぬ人となった。白血病であった。調べた内容を英語にして交流相手に送った。エレ―ヌ・ジュグラリスのフランス語のスペルが最後までわからなかった。フランス語スペルの一部分がメールでいつも文字化けした。

(5)資料映像(デジタルカメラによる撮影・FTPによる画像転送 生徒・教師の活動)

 彼女の夫の好意でエレ―ヌ・ジュグラリスの遺品が清水市に贈られ,市立図書館に展示されていることを知り,撮影し交流先に送信。三保の松原,富士山などの画像もFTPで転送した。市役所広報課からも画像の提供があった。

(6)フランス側での調査(メール 交流相手の活動)

Is her husband still alive ? Do you have an adress or a phone number ? Do the people at the Shimizu library have such informations ?などの質問があり交流が活発化した。 <ここからの活動が,自主企画支援対象の部分である。>

(7) 羽衣物語を俳句で綴る依頼(メール 交流相手の活動 )

We need your help ! More exactly we need 19 haikus. Do you think you could ask some children of your class to write a little haiku (based on 3 verses of 5/7/5 phonemes) related to one of the following words or expression : pine tree, sea shore, sea, Mount Fuji fisherman, feather dress, home of the gods, clouds, Heaven dances ………… これは私にも生徒にもできなかった。英語の俳句の作り方がわからなかったからである。

(8) イメージの書道作品作り(メール,画像送信 生徒・教師の活動)

 送られて来た19のイメージをまず書道作品にした。海,砂浜,松,天女,羽衣,富士山などの漢字を作品にし,これを画像ファイル化,書道授業風景と共に送信する。

(9) イメージの英語化(生徒・教師活動)

 生徒と,19の言葉のイメージを簡単な英文で表現してみた。
  例)I lost my hevenly dress. I can not back to home. I am very sad,

(10) 英文イメージの英文俳句化(メール  生徒・AETの協力活動)

 英文イメージを本校AETに依頼して英文俳句してもらい交流先に送信。
  例) You stripped me naked Stark,alone,lost and afraid Where am I go?

(11) 英文俳句のフランス語化(交流相手の活動)

英文俳句をフランスの生徒たちの手でフランス語俳句に再構成された。
You made a really great gift to all the children here ! The haikus writen in English were redrawn by each french children here, and they will return you the work they are doing with it.

(12) 英語俳句の日本語化(メール 他校教師の協力)

地球クラブの生徒が英文俳句のよさを生かした,日本語俳句を再構成することができずボランティアの協力をお願いした。
 例)  衣なく 行くところなき 寂しさよ 

(13)俳句の音声ファイル化 (音声ファイルの作成とFTP転送 生徒・教師活動)
Your haikus are beautiful! Could you put on your ftp server the sounds in 44.1Khz / 16bits (very important) in wave format ? 交流先からの依頼があり,地球クラブの生徒たちが録音作業をした。このフォーマットでは,一句が1枚のフロッピーにやっと記録できるサイズだった。FTPでフランスに転送された。

(14) ビデオテープの郵送(本校,映像研究部,郷土研究部の協力)

 清水市,御穂神社で秋祭に奉納された,「羽衣の舞」のビデオテープNTSCVHSのコピー・テープを本校の映像研究部,郷土研究部から提供を受け交流先に郵送した。

(15) 郷土芸能「羽衣の舞」取材(取材・FTPによる画像送信 生徒・教師取材活動)

 静岡市平松にある天の羽衣神社で秋祭りに奉納された小学校3年から6年生による「羽衣の舞」を取材,画像を交流先へFTPで転送した。

(16) フランスからのたより(交流相手の活動)

 インターネット仮想空間の,小さなバーチャル教室の活動でしたが,フランスと日本の小さな架け橋となった。この共同作業の成果が,パリの新築日仏文化センターで紹介されるというニュースだった。この知らせを,地球クラブの生徒たちと一緒になってよろこんだ。

Something incredible happened last week :we encountered someone who new the husband of the french dancer. It is a japanese woman who organised a show of hagoromo in france, 12 years ago. She arrived in France a few month ago to work at the "House of Japan Culture", a very big and nice building in the center of Paris. She visited us last week, and she proposed to make a show at the "House of Japan Culture", . This will be a presentation of the work we are both working on.

(17) フランス側の調査活動が実る(交流相手の活動)

 能,羽衣物語の舞台となった三保の松原に,静かに眠るエレ―ヌ・ジュグラリスのことをインターネットを利用して,フランスと日本の生徒が共同調査,フランス側の調査活動も実を結んだ。

We have now all the documentation we wanted : the name of the woman is : Helene Georg (which sounds jorj in French).We know a man who assisted a show she gave in 1949 in Paris, in a famous museum. her husband is Marcel Giuglaris. She died while dancing Hagoromo, while being pregnant. ………….

(18) 作品のビデオ化完成(交流相手の活動) 

We finally did a svideo copy of the work we did, and we send it to you by snail mail tomorow. Please, again, forgive our impolite silence, but you and your school is still our best experience with another country.

(19) MPEGファイルの転送成功(動画ファイル作成と送信 生徒・教師の活動)

 動画ファイルを作り,テスト送信をした。フランス側で再生に成功。いま,共同作業で制作したPal方式のビデオテープの一部分がMPEGファイル化されようとしている。

(20) この交流と100校プロジェクト

 私たちはいま,Pal方式のビデオテープの到着を待ち望んでいる。平成9年9月から,平成11年1月までの14か月にわたる交流であった。インターネット上のバーチャル教室での交流であった。ここで,私たちが送信した500を超えるメール,画像ファイル,音声ファイル,郵送されたビデオテープが利用された。言葉,文化,VTR方式の違いの壁を超えた試みであった。フランス側の生徒作品と私たちの作品がミックスされ一つの作品となった。この活動は100校プロジェクトという支援があったからこそ実現できたと思った。

 

7 実践目標に対する自己評価

 インターネットを利用したバーチャル教室は,パソコン画面上だけの操作になりがちである。生徒たちにとって,いちばん大切な実体験を軽視するという批判がある。この問題は,テーマや題材の選択,工夫によって大きく変わる。この交流のように,フィールドワークや,調査活動などを加え,物作りをする国際共同作業は,英語,フランス語,画像作り,郷土芸能,古典芸能,俳句,音楽,郷土の歴史,外国の歴史などを学ぶ総合学習の場となった。言葉の壁を超えて,日本とフランスの生徒たちの心と心が通った。たしかに言葉の問題が高い壁であったが,私たちは多くの人たちに助けられながら活動を楽しみながら成功させた。Working Togetherの目標をある程度,達成できたと自己評価した。

 

8 実践活動を終えて

(1)インターネットのすばらしさ

 私自身も交流の中で多くのものを学んだ。生徒の一人ひとりの言葉の中に要約されているように感じた。インターネットは距離感をなくし,言語,文化の壁を超え世界中の人たちが力をあわせることのできるツールであることを再確認した。

 「インターネットの上では,遠い国,近い国という感覚がなくなると思った。」
 「インターネットを使って世界中のみんなが協力し合えばすばらしいものができる。」
 「生徒,先生,みなが協力して作ることができてよかった。」
 「一人だけで作ったら,このような作品はとてもきなかったと思う。」
 「みんな,得意なものを出し合って助けあったからよい作品が完成したと思います。」
 「フランス語はわからなかったけど,私たちの心は伝わったと思う。」
 「つぎは,なにをするって,先生がパリの先生と英語で相談していたから英語はやはり大切な国際語だと思いました。英語を一生懸命勉強しようと思いました。」
 「パリの子どもたちが作った羽衣をみてびっくりした。フランスの子どもたちのパワーに驚きました。こんどは,私たちも負けないようになにかを作りたい。」
 「インターネットで相談して物作りをするって,おもしろいと思いました。」

9 最後に

 インターネット上で,良きパートナとの出合いは,すばらしい交流や共同作業を生み出す。しかし,この5年間の100校プロジェクトを振り返ってみて,交流相手を見つけることがたいへんだった。これから多くの学校が,インターネットを利用した国際交流を進めるにあたり,実践研究費・活動費・回線や器機の問題もあるが,それ以上に国際交流相手をどのようにしてみつけるか,これをだれが支援するかが大きな問題だと感じた。

ワンポイント・アドバイス
外国とデジタルカメラ画像を通して容易に情報交換がきるようになった。シャッターを押せばどこの国のパソコン上でも見ることができるJPEG形式の画像ファイルが3.5インチのフロッピディスクに記録される。この種類のカメラの出現は地球クラブの交流を大きく飛躍させた。カメラで撮影した画像をメールソフトの画像添付機能を利用して送るだけで交流ができる。フランスの子どもたちが日本とパリの季節の移り変わりをテーマにしたカレンダーの共同編集を提案してきた。カレンダーの編集なら数字だけ書ければだれにでもできる。曜日は日本語で書いても良い。交流相手はフランス語でも書いてくれる。このような共同作業なら英語ができなくても楽しい国際交流を展開できるのがインターネットのすばらしさである。