千葉大学教育学部附属中学校技術科 三宅健次 芳賀高洋
インターネット利用の意図
World Wide Web(WWW)は数億サイトともいわれる巨大な情報メディアとして発展した。学校ではWWWを教材として利用することが多いが,あまりにも情報量が多く,目的とする情報や,質の高い情報を探し出せないといった問題も起きてきている。また,全国学校のインターネット接続計画もまじかに迫り,学校のWWW公開も指数的に増加してきた。目的とする学校のURLを知り,情報を得るには,テクニックが必要となってきている。
そこで,学校教育向けのWWW検索しステムについて研究を開始,実際に運営してサービスを一般に提供し,検討をおこなった。
1 本校におけるWWW活用の現状
本校におけるWWWの利用を見るために、図1に1週間でどの程度インターネットを利用しているかを表すトラフィックデータを、図2には1月にどの程度WWWを利用しているかを表すCacheデータを掲載する。図1は本校での典型的な週間トラフィックデータである。火曜日、水曜日、木曜日、土曜日にトラフィックが集中するのが特徴であるが、ほぼ毎日インターネットの各種サービスやWWWを授業時間中に利用していることがわかる。WWWは、本校の教育の中で欠かすことのできない重要な位置にあり、時間的、物理的な制約がある中でWWWを上手く活用できるかどうかは、本校の教育の方法、展開を左右する非常に重要なポイントとなっている。
図1 1週間のインターネット利用状況(単位kbps)
図2 月ごとのWWW利用状況
2WWW検索システムの現状と学校教育向けサービスの意義
実際にWWWを授業で利用する場合には、企業が提供しているWWW検索システムを利用して情報検索をおこない、目的とする情報を探しだす。一般にWWWの情報検索は,Yahoo! Japanに代表されるURLを収集してリンク集を提供する【ディレクトリサービス】と,goo等WWWの内容を直接検索する【全文検索型サービス】に大別できる。Yahoo等のディレクトリサービスは人の手作業でシステムを構築し,サービスを提供している。人の目視によるチェックがおこなわれる分,提供される情報の質が高い反面,インターネット上に存在するWWWに対して提供できる情報の絶対数が小さい。一方,goo等の全文検索型サービスは,自動的に世界中のWWW情報を取得するため、ありとあらゆる情報を検索でき,常に最新の情報が検索できる反面,自分の目的外の情報が無数に検索されてしまう等,検索できる情報の質が均質でなく,情報検索の絞り込みが難しい等の問題がある。
学校の授業のように制約された時間の中で、また端末数が制限されている中では、ディレクトリサービスにて提供されるサービスの質の高さと,全文検索型サービスに見られる検索の自由度の高さや情報量の豊富さを併せ持つような、情報検索サービスが求められるといえるだろう。また学校教育においては,ポルノサイトや犯罪的サイト等,いわゆる教育的に好ましくないとされる情報が,簡単に検索できてしまうシステムには問題がある。ディレクトリサービスのように提供するサービスの質を,適当にコントロールできる機能も必要となる。
以上のようなことから、我々は、検索できる情報の対象を、質的に不安のない“学校教育WWW”として絞り込み、かつ、全文検索型のサービスとディレクトリサービスを連動させるようなシステムの構築を検討した。
大阪教育大学の越桐氏は1994年から「インターネットと教育」とタイトルした学校教育専門のディレクトリサービスを提供している。学校教育向けのディレクトリサービスとしては国内最大,最高のサービスを提供している。我々は,越桐氏を協力者として迎え,「インターネットと教育」ディレクトリサービスと連動したシステムの開発をおこなった。
3 検索システムの対象である学校教育WWWの全体的傾向
(1)サーチロボットの派遣
システムの構築は,まず検索対象の情報ソースであるHTMLやテキストをサーチロボットにて1カ所に収集してから検索システム専用のデータベースを作成する必要がある。我々は「インターネットと教育」のリンク集をもとに,試験的に100校プロジェクト校,大学附属学校,こねっとプラン対象校のURLを収集し,サーチロボットを派遣した。関係メーリングリストにて,サーチロボット派遣のお知らせをして,許諾を得たが,数百校の対象校のうち許諾が得られなかったのは1校のみであった。
99年1月1日現在では,5322サイトにサーチロボットを派遣し,HTML,テキストの収集をおこなっている。保育園・幼稚園が107サイト,小学校が1592サイト,中学校1305サイト,高校1870サイト,聾・盲・養護学校158サイト,日本人学校83サイト,教育委員会206サイトである。この他付加価値サービスとして,日本政府・省庁サイト(『検索省』と銘々して独立サービスとして提供),学会・教材サイト,学習指導要領,JPNIC予約学校ドメインサイト,JPCERT(ネットワークセキュリティ情報)サイトや技術情報サイトなど,学校教育とインターネットに関連したサイトも加えている。
(2)学校教育WWWの現状
この作業の過程において,日本の学校教育WWWの全体的な傾向や具体的なデータを得ることができた。表1は98年11月10日時点および99年1月1日時点での学校教育WWWの比較データである。学校種別ごとのHTML総数、1サイトあたりのHTML数を示す。表から日本の学校教育WWWサイトの多くは、教育委員会などで代表して公開していることが非常に多いことがわかる。また、国内の学校に対して、海外の日本人学校の情報発信が、非常に多いことなどがわかった。また、WWWサイト数としては中学校よりも小学校が多いが、1サイト(校)あたりのHTML数では、小学校より中学校が、中学校より高校が上回る。教育委員会は、管轄学校のWWWを収容している関係上、サイトあたりのHTML数が多くなっている。
1サイト(校)あたりのHTML数は70程度になる。全体のHTML総数は327406、データ量にして1.25Gbyte程度となる。以上のようなことから、1998年11月10日の時点での我々の検索サービスでは、327500のHTML,テキストの内容を検索するシステムとなっている。
表1 学校教育WWWの動向
サイト種別 | WWWサイト数 | HTML総数 | サイトあたりのHTML数 | |||
98/11/10 | 99/01/01/ | 98/11/10 | 99/01/01 | 98/11/10 | 99/01/01 | |
教育委員会 | 198 | 206 | 74398 | 90078 | 375 | 437 |
保育園・幼稚園 | 107 | 108 | 3735 | 3861 | 35 | 35 |
小学校 | 1402 | 1592 | 80328 | 92629 | 57 | 58 |
中学校 | 1174 | 1305 | 73812 | 81900 | 63 | 63 |
高校 | 1674 | 1870 | 121993 | 146093 | 73 | 78 |
盲・聾・養護学校 | 150 | 158 | 6142 | 6443 | 41 | 41 |
日本人学校 | 72 | 83 | 6423 | 11438 | 89 | 138 |
小計 | 4669 | 5322 | 327406* | 373895* | 70 | 70 |
*HTML総数は教育委員会サイトと学校サイトの重複URLを全て除いた数です。
(3)学校教育WWWのリンク許諾問題
教育委員会サイトで管轄学校のWWWを一括公開し,学校教育WWWが指数的に増加した反面,地方条例等,もしくはインターネットに対する教育委員会による利用制限規則の設置によって,外部からの管轄学校のWWWへのリンク許諾に対して障害が発生することが多くなってきている。ディレクトリサービスでは,基本的にリンク先に許諾を得るのが礼儀であるが,この許可が得られない場合には,実際には学校教育WWWが存在しているのを確認しながらも,その存在をディレクトリサービスとして提供することができなくなってしまう。したがって,「インターネットと教育」と連動する我々のサービスでは,現状で公開している全ての学校教育WWWをカバーできるわけではない。
(4)URLの変更,および消滅について
学校教育WWWに限らず,WWWサイトの所在は常に変化し,消滅する。越桐氏の調査によれば,学校教育WWWの1年間のURLキープ率は約3分の4で,3分の1は消滅または変更するという。半減期は約30ヶ月と試算している。ディレクトリサービスでは手作業にてこれらURL変化に対応するため,このような急激なURLの変動には追いつけないことが多い。したがって,「インターネットと教育」と連動する我々のサーチロボットの派遣でも,必然的に全てのURLのHTMLソースを入手できるわけではない。
4 『学校検索』サービスの公開と運営
(1)公開と運営
構築したシステムは図3のように『学校検索』とタイトルして,千葉大学教育学部附属中学校の公開UNIXサーバにて提供した。試験運用の結果,数十の検索が同時におこなわれてもユーザが負荷を感じることは少なく検索速度もお概ね快適である。専用のバーチャルホストにてURLを http://sagasu.jr.chiba-u.ac.jp/ として一般公開した。
「インターネットと教育」ディレクトリサービスの各ページには越桐氏の協力にて『学校検索』の検索窓が配置され「インターネットと教育」と『学校検索』が連動した形でサービスが提供されている。すなわち「インターネットと教育」でリンクされいている学校教育WWW,その他の情報を,『学校検索』で全て検索でき,2重のサービスが提供されていることになる。利用者数も増加し99年1月現在で約10万回,1日平均約1000回以上利用されている。なお,『学校検索』は一般公開後Yahoo! Japanの注目サイトとしても認定されている。
図3 『学校検索』画面
図4には、キーワードを「学校」とした時の検索結果の画面を示す。実際の検索は,『学校検索』システムに収録した全ての学校教育WWWが検索するクロス検索モードと,学校種別ごとに検索できる個別モードにて検索をおこなう。複数の単語にて検索することによって,and検索(絞り込み検索)やor検索も可能である。
図4 検索結果
小学生低学年等では,学校教育WWWや,検索システムの漢字表記に壁があり,なかなか定着せず,なじみも薄い。試みとして図5のような【みーつけた】とタイトルした、キーボードを操作せずともマウス操作で検索できるようなインターフェイスを考案した。小さな子供にも親しみがもて,十分利用可能である。
また、主に学校の教員向けとして,日本の政府・省庁のWWWを検索できるシステムも『学校検索』の付加価値サービスとして,平行して開発している。図6に【検索省】とタイトルし,独立サービスとして提供しているその画面を示す。なお,この【検索省】は,Yahoo! Japanの'98 Web of the Yearにノミネートされ,一般にも好評を得ている。
図5 【みーつけた】画面 図6 【検索省】画面
(2)検索式(キーワード)の制限実験
学校教育におけるWWWの利用では,ポルノサイトや犯罪的サイト等,教育的に好ましくないサイトの情報の閲覧が問題になっている。そこで試みとして『学校検索』では,検索式(キーワード)を制限するシステムを採用した。具体的には、Squidと呼ばれるproxyサーバプログラムを導入し、HTTPDアクセラレータ機能および、アクセスコントロール機能を応用して、検索時の検索式(キーワード)の制限をおこなっている。あらかじめ我々がいくつかの禁止キーワードを設定し『学校検索』を利用するユーザが、この禁止キーワードを検索すると図7のようなメッセージが表示され検索が制限される。ただし、キーワードの前に「+」記号を挿入して検索をおこなうと、制限が解除される仕組みとなってい る。99年1月現在で,検索制限は約770回あり,一定の効果が認められたが,検索式の規制によるフィルタリングには,様々な課題があり,限界があると認識している。
図7 検索語規制メッセージ
5 まとめと課題
『学校検索』では、現在のところ、小学校、中学校等の学校WWWを検索対象の中心としているが、各教科、教材の検索サービスの要望も高い。総合的学習や、情報教育での利用は定着してきたが、一般教科での利用促進のために、今後は教材検索サービスを充実させていきたい。
なお、平成10年11月15日に,当研究の協力者会議および情報交換をかねて一般向けのシンポジウムを千葉大学ケヤキ会館にて開催した。出席者は,全国から学校教育関係者が約50名,情報関連企業関係者とあわせて約100名であった。内容は,2部構成をとり,第1部では,当自主企画での成果である『学校検索』の報告のみならず,インターネットと学校全般の問題について話し合われた。第2部では専門家を迎えて,情報倫理問題,米国の情報教育,産業界と教育界の連携について各講演があり,意見交換がおこなわれた。詳細は
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/981116/chiba.htm を参照されたい。
ディレクトリサービス,全文検索型サービス,それぞれ一長一短あるが、特に全文検索型サービスの多くは、膨大な情報が検索されてしまう点で使いづらいといえる。
ワンポイント・アドバイス
我々が試作した『学校検索』は,非常に簡素な構成で、子どもにも受け入れられやすく、比較的検索範囲も絞られ,一般教科での利用や他校との交流を計画する上でも効果を発揮するはずである。
また,検索式の制限処置の他,検索対象を学校教育向けとして範囲を限定しているため,ポルノサイトなど教育的に問題となるサイトも検索はできず、学校で利用する上でも、安心して使えるものである。
参考文献
[1] 越桐國雄「WWWによるインターネット教育利用の現状」大阪教育大学紀要第X部門教育科学第46巻第1号,1997
[2] 高橋邦夫「子ども向け検索サービスの意義」インターネットと教育フォーラム原稿,1998
[3] 石原一彦「平野小学校の情報教育」滋賀県大津市立平野小学校,1998
[4] 「何が学校のネットワークに血を通わせるか〜福島県の生徒数108人の小学校の試み」ASAHIパソコン平成10年6月1日号朝日新聞社,1998
[5] 阿部昌人ほか「学校教育におけるコンピュータ・ネットワークの利用技術に関するサポートネットワークの効果」千葉大学教育実践研究第5号,1998
利用したURLなど
『学校検索』 http://sagasu.jr.chiba-u.ac.jp/index.html
【みーつけた】 http://sagasu.jr.chiba-u.ac.jp/mikke/index.html
『検索省』 http://st.jr.chiba-u.ac.jp/mos/index.html
「インターネットと教育」 http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/educ/