31 海外校との共同研究によるホームページ制作

 

神奈川大学附属中学校 英語科 菊地  久

技術・家庭科 小林 道夫


 インターネット利用の意図

学校内の学習環境で,パソコンやインターネットが身近な存在となった今,生徒たちは自由にホームページ検索やホームページ制作を行っている。また,WWWとメールを使うことによって,世界の子どもたちと交流し,共同研究できることは,インターネットの持つ大きな魅力である。今回,AT&Tバーチャルクラスルームに参加し,国際理解教育の一環として,どのような教育活動ができるか,課外活動の中で実践した。



1 はじめに

 AT&Tバーチャルクラスルームとは,インターネット上に仮想教室(バーチャルクラスルーム)を作り,世界の小・中・高校生が共同研究を行うというものである。学校単位で参加し,異なった国の3校が1組となってチームを編成し,活動するというものである。

 主な活動計画は以下の通りである。            
9月 AT&Tバーチャルクラスルームのホームページにて参加申し込みを行う(図1)。
(www.vc.attjens.co.jp/j/contest/index.html)
10月 マッチングデータベースにて参加校にメールを送りチームを編成する
3校の教員で話し合いを行い,研究テーマを決定し,計画書を提出する
Web上に3校のWeb会議室が設けられ,Self Introduction Roomにて子どもたちの自己紹介文を送る(図2)。
11月2月 Work Roomで話し合いを行いながら,3校での活動を開始する。
制作したWebページは随時Team Web SiteにFTPする。
2月 Web作品を完成させる。

        

      図1 AT&Tバーチャルクラスルームホームページ   図2 3校のWeb会議室

 

2 企画の実践

(1) 本校の活動

 本校は1996年,1997年とAT&Tバーチャルクラスルームに参加し,今回で3回目の参加となる。昨年に引き続き今年も3校で編成するチームのリーダーとなって活動を行った。本校から参加する生徒は,中学1年,2年,3年生にこの企画の概要を公表し参加希望者を募った。その結果,33名の生徒が集まった。活動は毎週金曜日の放課後午後3時30分5時30分とし,グループ分けを行ったあとは,中学3年生のリーダーが中心となって活動を行った。指導は菊池,小林を中心として,4名の教員が行ったが,活動はすべて生徒が行うとして,教員は他の2校の教員との打ち合わせ,生徒の活動のアドバイス以外は行わないこととした。

(2) 研究テーマの選択

 それぞれの国の学校が共同して研究を行うためにはその対象が明確でなければならない。そのため,本校ではそれぞれの参加生徒から,外国の文化のうち興味があるものをリストアップさせて,それぞれに共通するものからテーマを絞った。
 1996年の参加では異文化体験を主眼に「各国の年中行事(伝統行事)」をテーマとして選び扱った(図3)。異文化を理解するにはまず自国文化を代表するものを日常の生活から見つけなければならない。10月にコンテストの申し込みをしたことから,それぞれの国が特に年末年始(クリスマス,正月)に関係する行事に題材を求めた。そこで,文化理解が机上の学問に終わらないことに注意して,行事に関わる一つ一つの儀礼儀式の意味をインターネットや書物,または家庭や各地方に住む親類縁者から情報を集めながら,その一方で年末年始に向けて実際に自分が体験してみたことを英語を使ってホームページにまとめた。つまり,それぞれの学校が自国文化を紹介して,民族や宗教を超えて人類に共通する人間の生活を考察して発表することを目標にした。

  

図3 1996年作品       図4 1997年作品

1997年の参加では一つの題材からそれぞれの国がどのように発想して生活に生かしているか,という視点に立ち,「月」を題材に取り組んだ(図4)。人類が月とどのように関わってきたかをそれぞれの国で考え,主張し,その利用を考えた。「今日,日本で語った月が,次にイギリスで語られ,そして次にアメリカで語られる。そして,またその月について日本が語る」といった発想で,ネット上での仮想の月を現実に見える月に重ね合わせホームページにまとめた。

 今年度はそれぞれの文化の上に,「地球人」としての立場から,「未来の色世界」をテーマに海外校と協力してこれからの地球の色を創造することになった(図5)。生活の道具として記号論的に用いられた色,伝統的な色,自然に見られる色と人類との関わりの中から,それぞれの国が主張する色を発表し,また共通する色を考察することから,それぞれの国の生徒たちが他国の生活や考え方を吸収し尊重することが目標である。

図5 今年の作品

(3) チームメートの決定

 数多く応募された海外校からネット上(Junior High Forum Messages)でチームメートを探すこととテーマを選択することは同時に行われた。事実,応募したときには多くの学校はテーマが明確ではなかった。そこで,ネット上に示されたテーマのアウトラインを参考にしながら,教員同士がメールでやり取りし,テーマについて調整を行い,最終的にチームが編成された。本校はギリシャのPlaton SchoolとオーストリアPolytechnische Schuleの2校とチームを組み,本校がチームリーダとなってVC-48として活動を始めることになった。
 チーム編成はどの国の学校と組むことにより際だってテーマが浮き彫りにされるかを第一義として検討を行った。他に,ネット上で英語を使用する以上,相手校が英語を第一言語として使用しているのか,第二言語としているのかも考慮した。
 相手校が母語や公用語として英語を使用している場合,海外経験のない中学生には送られてくる英語がそのまま「生きた英語」として受けとめられ,自分から発信した英語に対する返答が返ってくると,それは大変な驚きであり喜びでもある。また,第二言語として英語を使用する学校との英語のやり取りでは,英語圏以外の生活文化をどのような英語で表現するべきかといった同じ立場からお互いに英語を検証するため,それが大きな興味につながる。また,相手校のホームページを見ることで英語以外の言語にも触れ,言語全体を大きく捉えながら共通語としての英語を再認識する機会になった。

 

(4)自己紹介文の作成

 チーム編成が終わってから,参加生徒たちによって自己紹介が行われた。バーチャルクラスルームには三つの会議室(Self Introduction Room, Work Room, Weekly Report Room)が予め用意されており,そのうちの自己紹介ルーム(Introduction Room)に,生徒各自が紹介文を学校に用意されたコンピュータから,また家庭のコンピュータからアップロードした。(図6)

図6 Self Introduction Room

 自己紹介文の主な内容は,生徒各自のスナップ画像を添付して,氏名,年齢,性別,趣味や特技のほか,最近の関心事やバーチャルクラスルームへの参加の理由などが記される。ここが生徒と教員の初めての交流場所であり,最も身近にチームメートを感じる空間でもある。
1996年度の参加では,本校から中学1年生だけが参加したため高度な英文が作れず自己紹介にとどまったが,3回目の今年度では相手生徒へ積極的に自分をアピールし呼びかける内容にまで上達した。(図7)
 また,上級生が下級生の英文をスペルチェックし添削して協力的に作業にあたれるようになったことはこの企画へ参加した収穫の一つであった。

    

図7 生徒がアップした自己紹介文

 

(5)週間レポートの作成

 週末毎に,チームリーダの元にそれぞれの学校の活動内容が届けられ,リーダーはそれをまとめて週間レポートを行う。それは最終的にワークルーム(Weekly Report Room)でまとめられるが,その一方で本校では生徒の積極的な活動への参加と意欲の継続を図って,校内ネットワーク上にその週の活動内容を記した「掲示板」がホームページの形で生徒自身の発案によって載せられることになった。(図8)その掲示板によって,誰もが現在の進行状況を把握でき,翌週の課題を設定することができた。

図8 生徒発案の掲示板

                   

(6)情報収集と英文の作成
 バーチャルクラスルームの活動の中心は,共同研究の成果をホームページにまとめることにある。各学校が統一されたページを作成して,全体として特色あるホームページを完成させるには,進行状況を常に確認し合い,情報収集の方法を模索し,方向性を調整することが大切である。そこで,ワークルーム(Work Room)を利用して,どのように研究がなされ,どのようにホームページが仕上げられるのか幾度となく意見を交換した。この部屋には教師はもちろんのこと,活動の方向性に疑問がある生徒も参加できた。ホームページ完成が海外校との交流の結果を示すものであれば,まさにその部屋は交流の現場であり,バーチャルクラスルームに参加した意義において最も大切なプロセスなのである。
 それぞれ与えられた小テーマで各校が研究を進める際に,特に資料収集の面で大いに活用されたのはインターネットである。無限の広がりを持つインターネットは情報の宝庫であるといっても過言ではない。しかも,そこで得られる英文は限りなく個人的な言い回しもあれば,公的な機関が発信するようなフォーマルなものまである。また,地域性をたぶんに含んだ文化的背景を持ち合わせた表現や考え方が無尽蔵にある。それはそのまま英語のテキストになりうるもので,生徒たちが英文を速読しながら的確に読み,テーマに合う要点だけを選び出し取捨選択する点ではメディア・リテラシーの力を養う絶好の機会になった。
 インターネットなどから情報収集が十分になされると,英文を作る作業に移る。その作業では,低学年の生徒ではいったん日本語を作っておき,英文へ翻訳していく工程が見られたが,その際にはあえて翻訳ソフトを使わずに,辞書を頼りに行った。辞書は「初級クラウン英和・和英辞典」(三省堂)を主に利用した。また,研究社のホームページ(http://www.aix.or.jp/kenkyusha/index.html)から「リーダーズ英和辞典」と「新英和・和英辞典」の辞書検索サービスを利用したり,同社のCD-ROM辞典を活用した。高学年では翻訳作業というよりも直接英文で小テーマに沿って内容を書き始めた。毎年,バーチャルクラスルームに参加する生徒は過去の経験によって英文作成のノウハウを掴んでいたようだった。英語を書くことや外国に発信する恐怖感がなくなっているので,ある程度の英語なら日本語を用意せずに書けるようになった。和文英訳ではなく,英文エッセイを書くような態度が見受けられたことも英語学習の点では大きな収穫であった。

 

(7)チャットの利用
 1997年度の活動ではネット上に開設したチャットルームでテーマの絞り込みを行った。もちろん,使用言語はネット上の共通語である英語を使用した。アメリカとイギリス,それに日本にはかなりのタイムラグがあり,生徒の参加は残念ながら見送られた。しかし,今後のインターネットを利用した海外校との交流を考えるとき,リアルタイムで行う生徒参加のチャットはいろいろな点での効果が期待できる。
 まず,リアルタイムで行うため,遠くのチームメートと時間を共有している実感が持てる点である。通常のメールでのやり取りとは違って,ときには話が脱線することもあり,その中でお互いの興味や関心,物事の考え方の一断片を知ることができる。そのような話の積み重ねの結果,テーマに関する資料収集の方法に広がりが出て,テーマへのアプローチを軌道修正することができる。
 第二に,誤解なく英語を理解できる点である。外国での英語経験のない生徒にとって,ネイティブの発話を聞き取ることは困難である。その点,チャットでは発話内容が文字としてモニター上に現れるため読みとれ,聞き逃すことはない。なお,意味不明な表現であっても,その場で辞書を頼りに意味を理解することができたり,終了後に記録を見て再度メールなどで内容を確認することもできる。
 チャットはコミュニケーションの道具であり,教具として教科学習の枠の中で,また枠の外で活用できる手段である。英語を使うチャットであれば,生きた英語を知るのに良い機会であり,「英語を読む,書く,話す,聞く」各技能の習得の一過程として有効な手段になるはずである。また,正しくお互いの気持ちや考えを伝えるためにネチケット(ネット上での話のエチケット)を学ぶ機会でもある。それにはチャットの進行役(モデレータ)を予め選出し,話の方向性を定めておき,問題解決に向かって協力することが必要である。

 

3 実践の評価

 今回で3回目になるAT&Tバーチャルクラスルームへの参加は,本校の生徒たちにとって,大きな自信につながっている。最も顕著にあらわれていることは,英語に対する取り組みとグループ活動を行うときの自主性という点である。1回目に参加した生徒たちが今回参加したことによって,グループのリーダーとなってメンバーに英文を配ったり,翻訳を手伝うなどしながら,活動が滞らないよう注意をはらって活動を進めることができた。また,オーストリア,ギリシャの生徒たちともメールをやり取りしながら活動の輪を広げることができたことは,大きな成果であった。今回の活動は2月22日が作品の最終提出となっている。それまでは,各学校で制作したページをサーバーにFTPし,各学校の生徒たちが他の2校の作品を見ることができるようにして活動を進めている。
 この企画を実現するために実に多くの人が運営に関わり,各学校にコーディネーターが配属されるなど共同研究の実践においても様々な形でのサポート体制がとられているということは重要なポイントである。海外校との交流や共同研究を進めようと,学校単位,教員単位で活動したとして,到底このような仕掛け,サポート体制を組むことはできない。
 本校では来年もこの企画に参加することを予定しているとともに,年間を通した学校交流の実現に向けて準備を進めている。