33 新100校プロジェクト" 平成10年度自主企画

先進的定点観測システム環境開発プロジェクト


福島県教育庁 渡部 昌邦・葛尾村立葛尾中学校 早川 良一

 
1. 先進的定点観測システム環境開発プロジェクト
http://www.webcam.abu.ne.jp/


 

2. 企画の目的・意図

 インターネットは巨大な情報の海とも呼ばれ、世界中の情報が瞬時にして入手する ことが可能になった。しかし、学校でWWWを教材として利用する場合、必要とする情 報や質の高い情報の入手は容易ではない。特に、教育利用を意識した教材開発や、情報発信が必要といえよう。また、ネット ワークは地域と地域をフラットに結ぶインフラでもあることから、地域の気象や映像 などの情報をリアルタイムに近い形で提供することによって、より対象を意識できる 学習活動を行うことが可能となる。そこで、学校で簡易に構築できる定点観測システムについての研究と、実際の運用 を通して教材化を行うとともに、中学校での授業等での活用を模索した。


 
3. 実践の準備
(1) システムの開発
 各地域の映像・気象などをリアルタイムに提供するシステムに必要な要件は以下である。
(a) 簡易かつ安定したシステムであること
(b) 標準的なWebブラウザを使ってリアルタイムに参照可能であること
(c) 定点観測データ(気象ログや定点画像等)が蓄積されること
(d) 標準的なWebブラウザで、過去の定点観測データが参照できること
(2) 授業での活用
構築された定点観測システムを授業で活用して、評価とフィードバックを行う。
対象(学年、教科等):全学年・理科、社会科
活用場面:理科の各地の気候・日照の変化・社会科の地域調べなど
4. 企画の実践
(1) 気象観測機器の設置
 学校内で使われていない機材や地域ネットワークからの提供資材を組み合わせて、安価な定点観測システムを構築した。また、機材の設置にあたっては、ボランティアの協力が得られた。
http://www.abu.ne.jp/970419/
(2) システム構築
 気象観測システム・ライブビデオシステムの構築


(A)Macintosh定点カメラでビデオ撮影した画像を静止画として3分・1時間おきにキャプチャし、(C)halonelに保存。(3:00-21:00まで稼働)
(B)halstar気象センサーで10分おきに記録されたデータを蓄積(24時間稼働)
(C)halonel(A)Macintoshで保存された静止画ファイルに、日時のファイル名をつけてサーバ内に蓄積。
 
(3) 運用について
 安定して稼働しているシステムではあるが、不意の停電等によって動作が停止する ことが見られたため、動作状況を管理者にレポートするメール監視システムを構築した。
 
 
 
5. 実践の評価
(1) システムの評価
(a)簡易かつ安定したシステムが構築できたか
 学校内で使われていない機材を組み合わせて、安価な定点観測システムを構築した。
(b)標準的なWebブラウザを使ってリアルタイムに参照可能であるか
 javascriptやperlを用いて、同一画面で随時、気温、気圧、湿度、 画像が表示可能なシステムを構築した。
(c)定点観測データ(気象ログや定点画像等)が蓄積できたか
 Macintoshでの静止画の生成、FreeBSDでの気象データの蓄積等と、UNIXの ファイル・Webサーバを連動することによって、安定したシステムが構築できた。
 
 
 

 
  
(d)標準的なWebブラウザで、過去の定点観測データが参照であるか
 地域ネットワーク関係者の協力をいただき、統一されたインターフェースで、 気温、気圧、湿度、画像の一日の変化が表示可能なシステムを構築した。開発言語は、UNIX上のperlプログラムを使用した。
 
(2) 授業での活用
 定点観測システムの授業での活用は、年間指導計画による単元構成の関係で、実証授業を行う機会は得られなかった。次年度以降に期待するものである。定点観測システムを活用した授業としては、以下の内容例が予想される。
 
(a) 理科において

○3年「大地の変動」の単元において
・観測カメラを設置しすることにより地形の比較ができ、自分の地域にはない 地形の成り立ちについて考えることができ、さらに、自分の地域の地形への 関心や思考力が深められる。
・桜島ライブカメラのように周期的に活動する火山の様子などを観察できる 場所に設置し、リアルな資料として活用できる。
○2年「気象」の単元において
・1日の気温や湿度の変化や年間の平均気温
・台風や低気圧の通過前後の気圧の変化
・サクラや紅葉などの移動前線
・東西(同緯度上)に位置する地点の同時刻の比較により、気圧や雲量など天気の移り変わりを理解することができる。 (今強く吹いている風は、西の方ではどうなのだろうか)
○1年「天体」の単元において
・年間の昼と夜の長さの比較。 (生徒は日の出や日の入りの時間や季節による変化などの概念を持っていない)


 
(b) 社会科(地理)において
 熱帯地方や豪雪地帯など、その気候と、気候に適応した生活の工夫(集落や家屋の形などの特徴)を見いだす。
 
 このような観測記録システムが全国に広がることにより、地域比較が可能になり、さらに効果的な活用がはかられると思われる。
 
6. 実践を終えて
 今回開発した定点観測システムは、教科の教材としてだけではなく、地域間の交流を支援する道具立てとしても位置づけられる可能性を示した。交流相手に地域環境や現在の様子が伝わるだけで、より身近に感じることができ交流が活気づくのである。成果と課題を述べる。
 
(1) 定点観測システムについて
 従来、高価なシステムでしか実現できなかった定点観測が、ジャンク品を活用して極めて安価かつ堅牢にシステムを構築することができた。デジタルカメラやWindows機等を使って同様のシステムが構築することも可能であろう。学校の創意工夫が、社会的なリソースとして共有され、価値を生み出すことを示すことができた。


(2) 利用について
 葛尾中学校の職員の多くは比較的遠方から通勤しており、高地であることから 積雪・凍結等の冬季間の気象については気がかりである。定点観測システムにより、通勤前に「葛尾村定点観測システム」のWebページで気象状態を確認するなど 職員の活用が見られる。
(3) マニュアル化
 安定して稼働しているシステムではあるが、不意の停電等によって設定が変わってしまったり、不要なファイル等が障害になって停止することがある。マニュアル 等を整備する必要がある。
(4) 地域との連携
 学びの場としての学校を改善しようと思っても、学校内の人的リソースだけで解決するのは困難である。今回のプロジェクトにおいては、地域ネットワークや地域のボランティアの支援・協力が得られることによって、システム開発・設置等が実現できたと言えよう。学校が開かれ、地域と連携することによって、魅力的な学びの場を創りあげることができることを今回のプロジェクトは示していると言えよう。

(5) 課題
・葛尾中学校の位置(観測点)は海抜400m程度あるため、気圧の補正が必要。
・月・年単位などが選択できるシステムに発展させる。
・授業での検証を行い、児童生徒が使いやすいインターフェースに改善する。