35 進路の悩み相談会議
TV会議システムを用いた学校間交流

中学校3 学年・学級活動
葛尾村立葛尾中学校 早川 良一・柳沼 敏文


インターネット利用の意図
 本校では,平成6 年度以降,通産省及び文部省の支援を受けた「100 校プロジェクト」「新100 校プロジェクト」に参加することによって,インターネットと接続する機器と回線の提供を受け,積極的に授業に導入し,学校教育全体でネットワーク環境がもたらす学習効果の可能性についての追求と検証に努めてきた。
 これまでの研究の成果と課題から,生徒の自己成長を遂げさせるためには,表現力の育成が必要であることが挙げられ,他校との「交流」を授業に取り入れることよって表現する場と機会を設け,複数年かけてさらに研究を進めることにした。

1 進路に対するあせりや不安
(1) ねらい
  山間部に位置する僻地小規模校である本校は,素直で勤労精神に富む生徒が多い反面,学習や生活面においては教師の指示を待つ受動的な生徒も見られる。この実態の要因として,小学校入学時から転出入やクラス替えもほとんどない単一学級であること,山間 部という地域性による村外との交流の機会の少なさが考えられる。この結果,人間関係 が固定化してしまい,良い意味での競争心や向上心が育ちにくい。また,交流の機会の 少なさは,自分たちの学習成果や活動の賞賛の場が限られてしまい,成就感を十分に味わえず,主体的な活動への意欲や創造性,表現力が育ちにくいと思われる。
  そこで,本校に今年度導入されたTV会議システムと共にインターネットを活用し,「交流」を授業の中に取り入れることによって,表現する場と機会を設け,これまでの研究から課題となっていた表現力の育成を図りたい。
 
(2) 指導目標
  受験が近づく時期,3 年生であれば誰もが「あせりや不安」を持つものである。地域性からも,普段ではなかなか会う機会のない共通の進路先を持つ他地区の生徒との交流 を通して,生きた情報を収集し,相互に発表し合うことで,自分の進路選択に対しての「あせりや不安」を少しでも和らげ,正しい進路選択ができる心がまえを持たせたい。また,この時期「あせりや不安」は誰にでもあることに気づかせ,自分だけでくよくよ考えず,いつでも友だちや先生に相談できるような雰囲気づくりに努めたい。
(3) 利用場面
 @ 交流授業までの事前交流
   交流授業の当日だけでは,年代的にもお互いに恥ずかしがってしまい,進路についての相談会議が進まないと思われる。そこで,事前に自己紹介を兼ねて電子メールによる簡単な意見交換や,TV会議システムを利用して交流授業の打ち合わせ等を行い,授業当日の感覚を味わわせ慣れさせる。
 A 交流授業での意見交換
   TV会議システムを活用し,他校の生徒と交流することで,普段の話し合いでは味わえない多様な意見に触れる刺激や新鮮さを体験させる。また,自分の意見を自信を持って発表させる。
 
(4) 利用環境
 @ 使用機種
   NTT Phoenix Mini(TV会議システム)1 台(図1),Apple Performa5430(10Base-TによるLAN 接続)5 台,FUJITSU FMV-BIBLO NUV16(10Base-TによるLAN 接続)1 台
 A 周辺機器
   中継用ビデオカメラ(図2),集音マイク,プロジェクタ,スクリーン
 
 
  
   図1 Phoenix Mini      図2 中継用ビデオカメラ       図3 接続の様子
  (TV会議システム)
 
 B 稼働環境
   Phoenix Miniによる相手校の映像と授業に使用するホームページを提示する教師用のノートパソコン(BIBLO) の画面をプロジェクタでスクリーンに投影する。Performa 5 台は生徒が使用する。中継カメラによって相手校へ送る映像を撮影する。(図3)
 C その他の利用ソフト
   この単元の学習で使用したソフトは,事前交流においてEudora Proというメールソフトと,お互いの学校のホームページを見るためのNetscape Navigatorの2つである。
2 指導計画
 
指導計画(6/6) 留 意 点
@自分の進路に対しての「あせりや不安」についてまとめる。  ・ごく自然にいだいている「あせりや不安」を数多く出し合い,お互いがかかえている共通点をまとめさせる。
A電子メールによって,相手校と自己紹介を兼ねた簡単な意見交換をする。
 ★電子メールの利用
★初めて相手校の生徒と接するため,お互いの共通の話題等を出し合いながら親睦を深めさせ,考えや話題を交流授業のねらいに近づける。
・交流したメールを印刷して掲示したり,簡単にホームページにまとめることで,事前交流を振り返りやすくする。
BCTV会議システムを利用して簡単な自己紹介をする。
 ☆TV会議システムを利用
☆相手を見ながらのリアルタイムな交流のため,態度やマナー等に注意させ,自分の意見を発表する際の自信を持たせる。
D進路相談会議で話し合う議題について審議する。
・これまでの共通の話題から進路相談会議の議題を絞り込み,話し合いの方向づけをする。
・会議の進め方について,両校で共通理解を図る。
E「あせりや不安」を解決するための進路相談会議をする。
 ☆TV会議システムを利用
 ★ホームページを利用 
☆話し合いを通して,進路についての「あせりや不安」が解消でき,それらを克服して自ら進路を切り開こうとする意欲を高めさせる。
★事前交流の経過のホームページを参照させ,話し合いの深化を図る。
 
3 利用場面
(1) 目標
  進路先を同じくする他地区の生徒と,TV会議システムや電子メールを利用した交流を通して,お互いの「あせりや不安」を和らげ,それらを克服して進路を切り開こうとする態度を育てる。
(2) 展開
学習活動と予想される生徒の反応 教師のかかわり
1 TV会議システムを用いて,両校の簡単な
  紹介・あいさつを交わす。(図4)

2 本時の学習課題と活動計画を確認する。

 他校と交流することにより,進路についての「あせりや不安」を解決しよう。

・両校の代表者にあいさつを交わさせることで,話し合いがしやすい雰囲気づくりをさせる。

・司会者に学習課題を提示させ,これからのお互いの活動内容を把握させる。
3 相手校と話し合う内容について確認する
 ・希望校に合格できるか。
 ・志望校が決まらない。
 ・学習の仕方が分からない。
 ・他地域に出る不安。
 ・部活動について。

4 お互いに発表し,進路決定におけるあせりや不安について考え深め合う。(図5)
(1) あせりや不安を発表し合う。
 ・学習について。
 ・志望校の決定について。
 ・通学方法や部活について。


(2) お互いの発表に対してどうしたら解決できるか意見交換し,深め合う。
 ・資料集めや高校説明会を活用する。
 ・先輩の意見を参考にする。
 ・自校のホームページを紹介する。
 ・今後,メールを利用して解決する。

5 お互いの発表を聞き,どうしたら自分のあせりや不安を解決できるか,分かったことを発表し合う。(図6)
・受験に対して,あせりや不安に思っていることを書き出させる。
・発表者まかせにすることなく,協力して話し合うよう指示する。



・発表しやすくするため,キーワードを書いたフラッシュカードを活用させる
・相手の発表をよく聞き自分の考えと対比させ,よりよい方策を持たせる。
・指名発表により中・下位の生徒にも意見を聞き,できるだけ多くの生徒に発表させる。

・生徒の質問を取り上げ,両校で話し合いを深める中で,問題解決に近づくよう配慮する。




・できるだけ多くの生徒に発表させ,話し合いに参加したことの成就感を味わわせる。
6 今回の話し合いで分かったことや感想をお互いに発表し,まとめとする。
 ・〜に共感した。
 ・安心した。
 ・頑張ろうと思った。

7 さらに聞きたいことを電子メールで送る。  また,お礼のメールを出す。
・進路についてのあせりや不安が解消でき,それらを克服して進路を切り開こうとする意欲が増したか,ノートや発表のようすを観察する。



・さらに聞きたいことやお礼をメールで送るよう指示する。
※葛尾中学校学級活動の部屋
 (http://www.katsurao-jhs.katsurao.fukushima.jp/SCR/Gakkyu/97/sinro/)
 
   
  図4 相手校とあいさつ      図5 意見発表のようす      図6 班で意見の交換
 
4 実践を終えて
(1) 生徒の感想
 ・今回の授業を通して,受験に対する「あせりや不安」は,自分だけでなく誰でも持っているということがわかり,少し安心した。また,すべての悩みが消えたわけではないが,解決のきっかけになったので,交流授業をして良かったと思う。
 ・TV会議システムを使うと,相手が見える緊張さもあるが,より真剣に授業することができた。
 ・友だちみたいにいろんな話ができたので楽しかったところもあったが,マナーが少し悪くなったときがあり,気をつけなければいけないと思った。
(2) 成果
 ・普段の授業では得られない多様な意見に触れることができ,生徒たちには良い刺激になった。また,環境的に恵まれた相手校にとっても,良い体験となった。
 ・他校の生徒に発表する機会を設けることで,自分の意見をしっかりまとめようとする表現意欲が高まった。また,発表時にも物おじすることなく,自信を持って活動している姿が見られた。
 
(3) 課題
 ・交流相手校との計画や時間調整等,準備にかなりの時間を必要とする。
 ・CU-SeeMeの利用も試みたが,回線の性能や機器操作に不慣れであることなど,機器の整備や技術面での課題が残った。
 
 ワンポイント・アドバイス
 課題でも挙げたが,映像と音声という膨大なデータの双方向通信となるTV会議は,回線や機種の性能に大きく依存するが,得られる学習成果も大きい。ここでは,本校がTV会議システムを利用した遠隔授業を含めた交流授業を簡単に紹介する。
   
図7 他地域との実験結果の情報交換(3年理科)  図8 外国人講師による英会話の遠隔授業(3年英語)
参考文献
 葛尾村立葛尾中学校「インターネット活用研究発表会」集録(自作)
利用したURL など
 福島県郡山市立御舘中学校(http://www.net6.or.jp/~jhmitate/)※交流協力校
 福島県葛尾村立葛尾中学校(http://www.katsurao-jhs.katsurao.fukushima.jp/)
  ※葛尾中学校学級活動の部屋
   (http://www.katsurao-jhs.katsurao.fukushima.jp/SCR/Gakkyu/97/sinro/)
  ※葛尾中学校機器活用研究部
   (http://www.katsurao-jhs.katsurao.fukushima.jp/REPORT/H10/kiki/)