47 レオニズ:獅子座流星群の観察
京都府立工業高等学校 田中邦明

インターネット利用の意図
 33年ぶりの活動期の獅子座流星群の観察を計画しインターネットで観測方法を調査し観察結果を発表することにより,生徒たちの自然と科学への興味関心の動機付けとする。

1 単元,教材名
 課外活動「獅子座流星群の観察」
(1) ねらい
 近年,児童や生徒,学生の科学離れが問題視されている。いくつかの要因が指摘されているが,高等学校の教育現場では自然や科学のあらゆる場面を捉え生徒に感動を与えることが自然や科学離れを防ぐ有効な手段であると考え,この観察に取り組むこととした。
 工業高校における授業は座学と実習・実験に大きく分かれ,普通科と比較すると実習や実験に割り当てられている授業時数は多いが,自然を対象とした観測などの実験・実習は決して多くはない。そこで33年ぶりに活発な活動を見せると予想される獅子座流星群の観測を機会として,自然現象の大きさや美しさを生徒に見せ,体験させることにより感動を与えることを最も重視した。具体的にはインターネットを活用し獅子座流星群の特徴を捉え,流星現象や観測方法の理解,国内外の観測者との連携を行い,観測結果を本校のWeb上で公開する技術も身につけさせようと考えた。
(2) 指導目標
 インターネットの情報検索システムを活用して流星の発光現象と観測方法を理解する。
また,その利用したサイトで有効なページ関しては本校の獅子座流星群観測ページからリンクすることにより,その情報を校内外の利用者に提供する。
さらに書籍やテレビ番組も同時に活用することによりメディアミックスによる教育効果も期待し,その情報も本校の獅子座流星群観測ページで紹介することにより,その情報を校内外の利用者に提供する。
 特に今回は天文現象であるが故に写真や眼視観測の場合天候などの気象状況が障害にもなり得るため,工業高校の技術的な特長を生かし,流星の電波観測も試みる。
 また,観測経験の豊富な観測者にメーリングリストやE-mail等を利用して,可能であれば観測上のポイントなどの指導を受ける。
 観測の結果については本校の獅子座流星群観測ページ上で公開する。そのための技術を習得することも今回の目標とする。
(3) 利用環境
 @インターネット利用環境
  使用機種 PC9821+Windows95,Performer6480+MacOS7.5 ほか
  接続線 256Kbps専用線(民間プロバイダ系)
64Kbps専用線(SINET系)
 A画像入力システム関係
  使用システム イメージスキャナ
PC9821+Windows95+PhotoShop4.0J
PC9821+Windows95+AdobePremier4.0J
 B観測機器
  ア 写真観測
   撮影装置等 CANON FTb+FDレンズ50mmF1.4
CANON FTb+FDレンズ24mmF2.4
カラーフィルム 35mm ISO1600
  イ 電波観測
受信装置等 ALINCO広帯域受信機DJ-X10(50MHzUSB受信用)
50MHz用2素子アンテナ
  ウ ビデオ観測
撮影装置等 ロシア製イメージ増幅管+Nikkor50mmF1.4+
SONY8mmビデオカメラCCD-TR270PK
 
2.指導計画
指導計画留意点
5月   インターネットの利用について
入門インターネット
インターネットの仕組みと利用
検索サイトの利用
インターネット利用のためのマナーや技術などを教育
特にメールのマナー,WWWの仕組みなど
6月   流星観測の調査
眼視観測についての調査
写真観測についての調査
電波観測についての調査
VTR観測についての調査
獅子座流星群の特徴調査
いくつかの観測方法を観測希望者ごとに調査させ,観測方法の決定とその準備に入る
利用はWWW,書籍,TV放送などを広く活用する
 
7月   共同観測の呼びかけ
高校生同時観測会への参加
他の観測者たちとの連係
高校生に限定せず広く共同観測を呼びかける
 
8月   本校のサーバでホームページを立ち上げる調査結果等を公開する
ペルセウス座流星群観察により流星観察予行1蚊,雷雨に注意
10月 ジャコビニ流星群観察により流星観察予行2寒さに注意
11月 獅子座流星群の観察寒さ,授業への影響
12月 観測結果をWeb上で公開画像データの扱いに注意

 

3.利用場面
 (1) 今回の獅子座流星群の観測は本校では眼視観測,写真観測,電波観測,VTR観測
  の4観測を行い,VTR観測は地元福知山市出身で現在文部省高エネルギー加速器研
  究機構素粒子原子核研究所教官の上原貞治に協力を得た。
 (2) 展開
学習活動活動への働きかけ備考
WWWの利用    個々のインターネットの利用状況に応じてWWW利用のための基礎知識と基礎技術を学習するための講習を行う
 マナーについては全員必履修
個別指導


全体指導
E-mailの利用    メーラの使用についての講習を行う
 メール利用のマナーについては全員必履修
個別指導
全体指導  
サーチエンジンの利用    "goo","yahoo","infoseek"などのサーチエンジンについて特徴と利用方法を学習し,観測方法の調査への準備とする全体指導
 
眼視観測調査(図1)
写真観測調査
電波観測調査(図2,図3)
VTR観測調査(図4)  
 各観測方法について生徒が検索した中から理解しやすく自分たちの知識や理解力に適切であると判断したページを互いに発表し相互評価を行った。さらに書籍やテレビ番組等を活用して各観測についての調査を行った。  
獅子座流星群の特徴調査
(図5)
 同様の方法で獅子座流星群の特徴調査も行った。  
HTML(図6)    自らホームページを作るためHTMLの講習を行った。  
ペルセウス座流星群観察    8月11日〜12日の予想ピーク時に観察予行を行った。 雨天  
ジャコビニ流星群観察 10月19日〜夜半に観察予行を行った。曇天
獅子座流星群の観察 11月17日〜18日早朝に観察を行った。 
観察結果をWeb上で公開
          (図7)  
 写真観測班がとらえた流星のカラー画像をデジタル画像へ変換しWeb上で公開するための利用講習会を行った。 班別指導  

 

図1 流星観測簡易マニュアルのHP
図2 福井高専HROのHP
図3 京大超高層電波研究センターのHP
図4 国際的な流星観測組織のHP
図5 国立天文台のHP
図6 本校の獅子座流星群のHP
           
 
図7 観測中に捕らえた典型的な獅子座群流星(HPで公開中)

 

4 実践を終えて
 今回の獅子座流星群は期待されたほど活発な出現は見せなかった。しかし,インターネットはもちろんテレビや雑誌でも大きく取り上げられ,関連書籍も多く出版された。これらの多くのメディアを通して生徒たちは天文現象に興味を示し,観測方法を学び,あるものはプロの観測者からアドバイスをいただいた。また,ある者は全国一斉に高校生たちが
北は北海道から南は沖縄までの各観測地で観測したことに感動した。(獅子座流星群・全国高校生同時観測計画 図8)彼らは機会ある度に寒い夜間雲を避けて観測地を移動しながら観測に臨んだことを思い出すであろう。
本校が存在する丹波地方には,明るくなったとはいえ,まだ5等星までは容易に見つけるにどのように取り組むのかどうかの問い合わせメールが届いている。
図8 全国高校生同時観測計画のHP
 
ワンポイント・アドバイス
 今回本校では流星の反射する電波を捕らえてその数を確認するという観測に初挑戦した。教師も含めて全くの初体験であり無謀な計画であったともいえる。
 しかし,今回インターネットを活用することにより書籍だけでは得られない貴重なアドバイスや,観測ノウハウを教えていただき無事観測することができたのである。
 また,予想された流星出現ピークの前日11月17日午前中より電波観測者のメーリングリストでは,ほぼリアルタイムで,予想を超える出現観測情報が流れ,休み時間の度に状況を見に来る生徒たちに当夜の大出現の期待を抱かせた。(実はこの時が出現のピークであったのであるが...)
 今後インターネットの活用を工夫すれば今回のように地球規模の観測が可能な現象をさらに興味深く教材として活用できるのではないかと,直感的ではあるが,私だけではなく多くの観測者たちが感じたに違いない。
 インターネットは双方向コミュニケーションツールである。使い方次第では,有益になり有害にもなる両刃の剣である。教育利用という観点で私たちはさらに利用の工夫を積み重ね,機会ある毎に公開し,改善していく必要があると考えるのである。  

 

利用したURLなど

国立天文台 http://www.nao.ac.jp/index_J.html
獅子座流星群・全国高校生同時観測計画 http://www.leonids.net/
北海道天文研究集会 http://www.tky.3web.ne.jp/~ishiyama/waah/waah.htm
東京近郊地区流星観測者会 http://www.plaza.across.or.jp/~suzukima/index.html
東京流星観測網 http://village.infoweb.ne.jp/~fwie9702/indexj.htm
兵庫県立西はりま天文台 http://www.nhao.go.jp/leoevent.html
IMO:国際的な流星観測組織(英文) http://www.imo.net/
国立福井高専前川公男先生 http://w3.fukui-nct.ac.jp/~kmaegawa/hro/hronote.html
京大超高層電波研究センターMUレーダ http://www.kurasc.kyoto-u.ac.jp/radar-group/mu/index.html
NASAの獅子座流星群(英文) http://www-space.arc.nasa.gov/~leonid/
 
謝辞
 今回の獅子座流星群の観察については財団法人コンピュータ教育開発センター,獅子座流星群全国高校生同時観測計画の埼玉県立三郷工業高校の鈴木先生, 流星電波観測メーリングリスト(MUROネット)の皆様,文部省高エネルギー研究機構上原教官,福井高専のアマチュア無線クラブ,ほか多数皆様にご指導,ご協力を頂きました。
厚くお礼申し上げます。