53 情報モラル教材データベースの構築

東金女子高等学校 高橋 邦夫


 

1.企画の目的・意図

本校では、1996年よりインターネットで「ネチケット情報(ネチケットホームページ)」と題するWebページで情報モラルに関連したオンライン教材資料と一部関連資料の所在情報の提供を行っている。(図1)

図1 ネチケット情報(ネチケットホームページ)

http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/ netiquette/index-j.html

 このような教材資料はネットワーク上に分散しており、ネチケットホームページのようなリンク集の形で提供する所在情報のほかに、WWW検索サービスでキーワード検索を行うことにより発掘可能であるが、近年の情報モラルに関する関心の高まりにより単純な問題意識の表明や討論といった教材目的の利用には直接には役立たない情報が増え、網羅的な検索によってでは有用な教材資料のみを抽出することが困難になってきた。また、単純なリンク集では分野や対象年代等の利用目的に対応した資料がどれであるかを判別することは困難で、利用者がひとつひとつ内容を確認する必要が伴い、結果として教材資料として有用な情報が利用者によって見出されず有効に役立てられない状況を生んでいる。
 有用な情報を利用者が使用目的に応じて的確に見出すことができることは、オンライン教材の普及には重要なことであり、例えばネチケットホームページで情報モラルに関して行っているような啓蒙活動の趣旨を推進する上でも本質的に重要である。
 本企画は、このような目的に資するために、オンライン教材情報提供サービスを効果的に行う手法の検討を行うとともに、その具体例として情報モラルに関する教材資料に収録対象を限定したデータベースを構築し、利用目的に応じた資料の検索を容易にするサービスを提供するものである。新時代の情報教育の主眼のひとつである情報モラルに関して,利用可能な教材を体系的に整理し,検索可能なデータベースとして提供することにより,インターネットを利用した情報教育の拡充に資することを具体的なねらいとしている。

 

2.実践の準備

(1)データベース構築技術手段の検討
 汎用性を高めるためにキーワード検索方式による全文検索サービスの提供は最低限必要であると考えた。すでに平成9年度自主企画(「世界史・美術工芸教材データベース」)を通して
UNIXサーバ上でWWWインターフェースを用いた全文検索による教材データベースを構築する手法は学んでおり、この手法の適用を第1段階の前提とした。

(2)利用目的に応じた教材選択支援手法の情報収集と検討
 対象年齢や分野などのさまざまな観点から教材を的確に選択できるようにするために、どのような支援手段があるかを資料を収集しながら検討した。そのために必要な実現性をベースとした開発スキルや技術手段の検討も行った。検討結果はオンライン教材情報提供サービスに求められる仕様として後述する。

(3)情報モラル教材の収集

 データベース収録対象となる情報モラル教材資料を追加収集した。
1998年から活動を始めた情報倫理基盤構築プロジェクト(FINE project)のグループからは、倫理学、法学等の分野からの専門的な情報が得られた。


 
3.企画の実践

3−1 情報モラル教材全文検索サービスの構築
 情報モラル教材データベースのプロトタイプとして、ネチケットホームページ収録掲載情報を対象とした全文検索サービスを構築した。全文検索のエンジンには、原田昌紀によるFreyaFull-text Retrieval Engine for Your Archives)を使用した。構築環境は、UNIXワークステーション(Ultra SPARC 143MHz, Solaris 2.5.1)上でWWWサーバソフトApacheCGI機能として構築した。

−構築手順−
(1)分野別の教材資料URLリストを作成
(2)ロボット型探索エージェント(Wgetを使用)を用いて、分野別URLリストに基づきWWW上のテキスト情報を収集
(3)Freyaの補助ツール(findex)を用いて分野別に索引ファイルを作成
(4)Freyaの補助ツール(fmerge)により分野別索引ファイルをマージして総合索引ファイルを作成
(5)FreyaCGIインターフェースを利用して全文検索指定を行うためのHTMLによるユーザインターフェースを作成し、CGIスクリプトとともにWWWサーバ上にサービスを構築
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/moral/index.html
 
完成した全文検索サービスのイメージを図2、図3に示す。


図2:検索用インターフェース
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/moral/ index.html



図3:検索結果表示画面

 図2は検索用インターフェースの画面で、検索キーワード、検索データベース、結果表示URL数を指定して[Search]ボタンを押すと検索処理が実行される。
 検索キーワードは、複数のキーワードを空白で区切ることでAND検索(すべてのキーワードを含む情報の検索)を行い、キーワードの頭部に+記号を付加するとOR検索(いずれかのキーワードを含む情報の検索)となる。
 検索データベースは、ここでは、情報モラル教材資料の分野(カテゴリ)の選択に用いており、
 全部 全カテゴリの収録情報範囲からの検索
 ネチケットホームページ ネチケットホームページ収録のオリジナル情報からの検索
 ネチケット一般 ネチケットホームページ掲載のネチケット一般分野の資料
 法律 ネチケットホームページ掲載の法律関係分野の資料
 ガイドライン ネチケットホームページ掲載のガイドライン文書分野の資料
 その他 ネチケットホームページ掲載のその他分野の資料(用語集等)
の6つから選択できる。このカテゴリ分けは、ユーザ毎の利用目的に応じた検索範囲の絞り込みの用途のために用意している。
 結果表示数は、結果表示画面(図3)において1画面内に表示する検索結果の数を指定する。画面に表示しきれない検索結果項目は複数画面に分割して閲覧できる。
 図3の検索結果表示画面においては、各検索結果項目に検索条件への適合度を示すスコアをつけてその順に結果が表示される。スコアは、キーワードとの適合度、コンテンツ内のキーワードの出現頻度などの情報から合成された相対的な値で、詳細は検索エンジンfreyaの仕様による。freyaの日本語全文検索解析は、ICOTが開発した形態素辞書をもとにして索引の作成を行うが、完全な形態素分析を行うものではないため、文章のような自然言語形式での条件指定には向かない。そのかわり、単語の一部だけを切り取ったような通常の単語ではないキーワードにも柔軟に対応して、ユーザの意図に沿った検索ができるメリットがある。
 

3−2 教材資料情報提供サービスの仕様設計

(1)求められるサービス・コンポーネント

 利用者の目的に応じて柔軟かつ的確に教材選択が行える支援情報提供サービスの在り方として、前節の全文検索サービスのほかに、分野別の部分分類、教材としての対象年代を付加情報として提供することが必要と思われた。また、一定の基準によって資料情報を格付けし、格付け情報を提供するとともに、利用者の反応などをもとにしながら格付け内容をメンテナンスしていくことも必要となる。そこで、具体的に教材選択支援サービスに求められる機能をサービスコンポーネントとして考えてみた。

−ユーザー側のニーズ充足に必要なサービスコンポーネント−

(1)所在情報の提供〔既存〕

 URLリンク集として、資料情報の所在情報を提供する。

 分野別分類の方式(分類カテゴリの設定)が、使いやすさの鍵となる。

 1個の情報は必ずしも1つだけのカテゴリに属すわけではなく、内容に応じて複数のカテゴリに重複して登録する必要についても検討すべきである。

(2)分野別全文検索サービス〔3−1節の実践〕

 上記所在情報での分類別をもとに、分野別に全文検索可能なデータベースとなる。

 分野は1つだけに限らず、複数の分野にまたがったクロス検索も可能な仕様が望ましい。

(3)付加情報の提供(部分分類、対象年代)

 収録情報件数の多い分類については、さらに部分分類に細分化して情報の絞り込みを可能にすべきである。
  また、教材情報としての性質上、情報利用者の対象年代の付加情報を提供することが望ましい。
 個々の情報コンテンツに対する対象年代(教材としての適合年代)の判定においては、記述に用いられた漢字の難易で判定されがちであるが、それよりもむしろ、発達段階や理解度、レディネスに応じた検討を優先させるべきである。難しい漢字については、漢字かな逆変換によって情報内容の表示を初歩的な漢字+ひらがなの表示に自動変換する技術手段が利用できる現在では、漢字の難易は重要なファクターではない。
(漢字かな自動変換の例:東京工業大学「れじぶる」 http://gakusyu.cradle.titech.ac.jp/

(4)格付け情報の提供

・内容の推奨度(優秀度)を評価して提供する。

 客観的な(再現性のある)一定の評価基準を設けて、評価情報を「五つ星」のような付帯情報として提供することにより、利用者の情報選択のための便宜を図ることが望ましい。

・格付け情報の自動フィルタリング処理対応のための技術仕様

 最近のWWWブラウザにあらかじめ組み込まれている一般的なフィルタリング機能(Microsoft Internet Explorerではコンテンツ・アドバイザ機能、Netscape NavigatorではNet Watch機能)をポジティブな情報選択(データマイニング)のために用いることができるように、W3コンソーシアムで開発された標準的なPICS規格に基づく評価情報(レーティングラベル)の提供が望ましい。

 

−提供情報メンテナンスのために情報提供者側に必要なサービスコンポーネント−

 上記のような充実した情報サービスの提供のためには、情報内容のメンテナンスから提供までを行う管理者の負担をなるべく軽減して情報内容の充実のための余力を持たせる技術的な支援ツールの工夫が要となる。単純なURLリンク集のメンテナンスですら、リンク依頼の手続きなど煩雑な手順があるため、情報提供者にとっての負担は軽いものではない。手軽に良質の情報を提供できる技術手段があれば、インターネット上の教育資料や教材情報提供の一層の充実が見込めるため、情報提供者が容易に提供情報のメンテナンスを行える情報提供者向けのサービスコンポーネントの仕様を検討した。

 

(1)URL集および検索データベースの自動構築ツール

 自ら作成したり他サイトで見つけた教材情報をURLリンク集に収録すること自体は、WWWブラウザのブックマーク機能などを用いることでも手軽にできるが、利用者の利便性を高めるためにクロス検索可能な形で的確に分類しながら情報提供するためには、データベースでの管理が適当である。 一般的なデータベースソフトを用いて、WWWインターフェースでの登録、コメントやカテゴリ分類情報、対象年代、格付け情報などの付加、コンテンツ作者へのリンク依頼メールの発送と経過情報の管理を各項目毎に行い、カテゴリ別リンク集として出力ファイルを生成するシステムの構築は可能であり、有用であると考える。

(2)全文検索システム構築用ツール

 自サーバ内の収録情報とURLリンク集に掲載の情報(他サイト情報)を区別なく検索できる全文検索システム構築用ツールには高価な商用ソフトもあるが、ボランティアで情報提供を行う際にはまず利用されることはないであろう。今回使用したfreyaあるいは定評のあるnamazuなどのフリーウェアの全文検索エンジンの場合は、手作業で逐次構築を行うツール集という形式のため、バッチ処理による半自動化や、コンテンツ収集から索引付け、データベース構築までを一括してスケジューリングする自動化スクリプトが用意できれば、十分に強力なツールとなる。

(3)付加情報、格付け情報管理ツール

 PICS方式でコンテンツ格付け情報を提供するためには、(1)のデータベースと連動して生成されるラベルデータをPICSラベルとして利用者に提供するPICSラベルビューロサーバ機能が便利である。W3コンソーシアムのJIGSAWなどのWebサーバがPICSに対応しており、データベースとの接続インターフェース部分のスクリプトを工夫すれば構築可能と思われる。

(4)ユーザ反応自動収集解析ツール

 上記に加えて、情報提供者側の独断による弊害を避け、的確にユーザニーズを反映した情報提供を行うために、ユーザの反応調査を実施し、その結果を解析して提供情報に反映させる必要がある。通常は掲示板や電子メールでの応答によりユーザの反応が得られるが、この手続きを自動化する手法としては「ユーザによる投票」「ユーザのアクセス頻度による人気度調査」などがある。これらは、Webサーバ側でスクリプト化しておくことで随時利用のあるたびに自動的にユーザ反応を採取しフィードバックを行うことができる。

 

4.実践の評価

 ネチケットホームページ収録掲載情報の全文検索サービスでは、プロトタイプながら、これまでのURLリンク集では対応できなかったユーザニーズへの貢献ができるようになった。単なるサーチエンジンではなく、一覧性のあるURLリンク集との併用を行っているため、相乗効果により従来よりも幅広いニーズに対応できる。ユーザによる感想も好評で、よりカテゴリを細分化することでYahooInfoseekのような使い勝手が得られるとの提案もあった。
 まだ収録情報量は多いとはいえないが、今後は収録情報の増量と分類の細分化によってより利便性を向上させることにより、情報モラルに関するポータルサイトとして利用の幅も広がるものと思われる。
 また、実践報告時点には間に合わなかったが、教材選択支援情報提供サービスは仕様設計を煮詰めており、データベースソフトと連動した情報提供環境構築のためにサーバを構築中である。今後は順次サービス・コンポーネントの開発を行い教材資料情報提供サービスの構築と提供を目指す。
 本企画において調査研究を行った教材選択支援情報提供サービス仕様は汎用性があるため、開発した具体的なツールを公開していくことで、他分野での教材資料情報提供サービスの充実も期待したい。

 

5.実践を終えて

 ネチケットホームページは毎日1000ページビューを超える閲覧がなされている。幸いにも提供情報の特殊性と社会的な意義とから新聞雑誌や書籍等でも紹介される機会もあり、インターネットの初心者が、倫理的な考察や体験の中から何処かでネチケットという言葉に触れ、本サイトを訪れることが多い。数々の方のご努力のおかげによって、ネチケットという用語を知っているか否かでネットワーク上の振舞い方も異なるともいえる状況になりつつある。今後、小・中・高校の全校インターネット接続によりさらに利用が増えるものと考えられ、同時に教材情報検索のニーズも高まることが予想されることから、利用者の利便性向上を考えて今回の企画を発案した。
 折しも、情報処理学会、電子情報通信学会で相次いで倫理綱領が制定され、倫理学の専門化に学際的な研究者を加えたチームで新たに国際的な情報倫理学を構築する活動も開始されている。学校教育の分野でも、情報化社会に参画する態度の育成として情報モラル関連の学習がカリキュラムとして盛りこまれる方向にある。
 ネチケットの資料収集に着手したころは、サーチエンジンで調べても「ネチケット」という用語に該当する情報は見当たらず、教材として利用できるまとまった情報は何処にもない状況であったが、近頃ではネチケットや情報モラルに関するコンテンツを執筆提供してくださっている方々も増え、また自分のページから本ページへのリンクを設けてネチケットの知識の広報に協力していただいている方も数多くおられる。これらネットワークエチケットや情報モラルの啓蒙普及のために貢献努力されている方々への感謝を込めて提供情報の一層の拡充を図ることは「ホームページ」(=関連情報への出発点)を名乗るサイトの責務と心得ている。100校プロジェクト、新100校プロジェクトによって得ることができた貴重な実践の機会と数々の御支援に対しての感謝もいうまでもない。本実践を通じていささかでも御恩返しになればとの思いで今後も継続発展を図る所存である。