56 自発的学習環境の構築

---「四択問題作成ツール」の開発とその応用---

茨城県立岩井高等学校 入江  利明
石塚  照美
白仁田 満美


インターネット利用の意図

 本校にインターネットが導入されて,3年以上が経過し,インターネットがいつでも使えるという感覚が生徒や教員に浸透してきた。このような環境の中で,生徒がブラウザを通じてネットサーフィンをするような感覚でCAI教材も準備できれば,生徒たちが自主的にゲーム感覚で学習できるのではないかと考え今回の企画を思いついた。ブラウザ上で動くインタラクティブなCAI教材を作るには,ある程度のプログラミングの知識が必要になる。そこで,問題のデータのみ用意すれば,誰でも簡単にHTMLに変換できる支援ツールを開発し,これを先生方に活用していただき自発的な学習環境の構築を目指す。


1 実践の準備

(1) 動作環境

 本校のサーバはAT互換機上でFreeBSD を走らせ,WWW サーバとしてはApacheを用いている。クライアントはCAI教室に46台,他に職員室,図書室,各準備室など合わせて70台を超えるWindows マシンがネットワークに接続しており,ブラウザは Netscape Navigator Gold 3.04 を主に用いている。

 

(2) 使用言語の選択

 今回はCAI教材として四択問題を作成することにした。FORMに入力されたデータの処理は,サーバに負担をかけず,クライアントサイドで処理するJavaScriptを使用することにした。JavaScriptならプログラムもHTML内に記述するため,利用者がプログラムを書き換えることも可能である。ソースを見れば答が分かってしまうとか,ブラウザによってはJavaScriptが動作しないという欠点もあるが,開発・メンテナンスの手軽さを考えてJavaScriptで記述することにした。

 

(3) 四択問題のページデザイン

まずJavaScriptで実際に四択問題を作成してみた。問題と選択肢のレイアウト,採点結果表示用ウィンドウなど基本的なページのデザインを決定した。(図1)

図1 四択問題のページデザイン

(4) 支援ツールの作成

  1. 四択問題作成ツール

 四択問題のようなWEB ページを作るには,多少のプログラミングの知識が必要となる。また,多少経験があっても,何ページも作成するのは,なかなか時間と労力がかかるものである。そこで,問題のデータさえ用意すれば誰でも簡単に教材が作れるように,支援ツール「四択問題作成ツール」を用意した。プログラムは,PerlスクリプトによるCGI で,ブラウザ上でデータを入力すれば,JavaScriptを含むHTMLを出力するようにした。ユーザーは表示された四択問題のページを手元のディスクに保存するだけでよい。

 

  • 入力フォームデザイン
  •  ブラウザから問題と選択肢のデータを入力する方法としては,図2のような大きめのテキストボックスを1つ用意し,そこに問題と選択肢を羅列したテキストデータを貼り付ければ済むようにした。このようなデータ形式なら,オフラインで自分のパソコンでゆっくりデータを用意することができるし,問題や選択肢の修正も容易になる。
     また,選択肢はページがロードされるたびにランダムに順番が入れ替わるようにプログラムしてあるため,問題作成者は選択肢の順番を考える必要もなく,純粋に問題作成に没頭できる。
     このように誰でも簡単に問題が作成できる反面,誰が作っても見栄えが同じものになってしまうと個性が出ない。そこで,ページの背景や,テキストの色,選択肢の配列の仕方などはユーザーサイドで設定できるように工夫した。もちろん,支援ツールによって出力されるページは普通のHTML形式なので,いろいろと自分なりに手を加えることが可能である。

    図2 四択問題作成ツールのデータ入力欄

    (5) 内部公開とフィードバックによる機能の充実

     こうして作成した支援ツールを自分なりに何度もテストを重ねた上で,まず校内からのみアクセスできるようサーバに置いて何人かの先生方に使っていただいた。しばらくすると,「ここはこうして欲しい」とか「こんな機能があるといいな」とか要望が出てきた。こうした要望などを参考に,さらに解説文をつける機能(図3)や,1問ごとに正誤の判定ができる機能(図4)などを追加した。

    図3 解説表示機能

    図4 正誤表示機能

    (6) 一般公開と実用化

     一定の期間を経て,バグ出しと機能の追加が一段落した時点で,支援ツールをWWW上で公開し,複数のメーリングリストでアナウンスした。また,校内においても多くの先生方に使っていただけるよう,校内研修会の際に紹介し,ようやく実用化にこぎつけた。(図5)

    図5 四択問題作成ツール

     四択問題作成ツールは以下のURLから参照できるので,ぜひ使ってみていただきたい。

    http://www.iwai-hs.iwai.ibaraki.jp/~irie/javascript/4taku/

     

    2 企画の実践

    (1)実践事例1 国語科 石塚 照美

    1. 単元名 国語T「和歌」の学習における「四択ドリル」の活用

    ア ねらい
      国語の学習において,自学自習ができ,興味を持って取り組み,学習意欲を喚起できるものがないだろうかと考えた。そこで,ゲーム感覚で学習ができる,コンピュータを使った,国語の自学自習用「四択ドリル」を作成し,授業及び放課後の学習活動に活用することとした。

    イ 指導目標  
    国語の自学自習用「四択ドリル」として,試験的に「漢字の学習」「四字熟語の学習」「類義語・対義語の学習」「文学史の学習」を作成した。今回,「四択ドリル」を授業に生かし,また,生徒の自学自習,授業の復習に結びつけるために,「和歌の学習ドリル」を作成した。学習意欲を持たせることをねらいとして,授業において取り組ませた。
     高等学校国語Tの教材に「和歌の流れ」という単元がある。今回,「万葉集」「古今和歌集」「新古今和歌集」の和歌集から,2首ずつ計6首を授業で扱った。それらの,授業での理解を図るため,また,コンピュータを利用することによって,目新しさ,ゲーム感覚での学習・復習に取り組ませ,興味をより一層喚起することを目標にする。

    1. 指導計画

    ア 目標
     6首の「和歌」を教室で学習する。全授業終了後,CAI教室において,コンピュータを活用した,復習のためのドリル学習を行う。

    イ 準備
     6首の和歌,それぞれ1首に対して,10問の選択問題,加えて,それぞれの和歌集関連の文学史の選択問題を15問,計7ページ75問の問題をホームページ上に作成掲載する。(図6)チャレンジ回数,その度ごとの点数及び感想を記載する用紙を用意する。

    図6 和歌の四択問題

    1. 学習の展開

     「和歌」の授業でどの程度理解できたか,自分の理解度を振り返らせる。今回は,ドリルを用い,理解度を試す授業をすることを説明する。ホームページ上からのドリルのページの呼び出し方等簡単に説明し,ドリルのやり方,同じページの問題は繰り返すたび順序が変わることなど説明する。各自取り組ませる。この際,80点以上を合格とし,目標点数に到達した場合のみ次のページに進むようにすることを条件にした。80点を取るまでは,次のページに進めないというシステムにはなっていないため,また,点数の保存ができないため,1回ごとに点数を用紙に書き込ませた。

     

  • 実践の評価
  •  問7まで用意したため,50分を有効に使うことができた。中には最後の問題まで行けない者もいたが,大半の者が,楽しみながら学習できたようである。生徒の感想を見る限りでは,ねらい通りになったように思われる。

    〈生徒の感想〉

     ・今日みたいにコンピュータを使いながら授業をするのは楽しいから,もっと授業に取り入れて,授業を楽しくしてほしいなと思いました。またやりたいです。

     ・自分のペースでできたし,何回もやり直したから,よく分かった。

     ・80点と言わず100点になるまで粘りました。

     ・和歌は,最初は簡単だと思ったけれど,実際やってみるとかなり間違えてしまったりした。もっと沢山できるように勉強したい。

     ・ノートに書いて覚えるより,こういう四択とか使ってやった方が,より楽しく何回もできるからいいと思った。少しは覚えた。おもしろく勉強できた。

    (2) 実践事例2 英語科 白仁田 満美

    1. 単元 英語I 「受動態」

    ア 指導目標

    様々な応用問題を解くことにより,受動態の定着をはかる。また,四択問題,E-mailを通してインターネットの活用範囲を広げる。

    イ 資料・準備

     ツールを使い四択問題を作成(図7)

    図7 英文法の四択問題

    1. 指導計画

    第1時 Grammarの教科書にそって学習を進める。

    第2時 コンピュータ,四択問題の利用方法を学習する。

    第3時 インターネットを利用してGrammarの四択問題を解く

     

  • 学習の展開
  • 指導内容
    学習活動及び留意点
    本時の学習内容を明確に伝え,確認させる。
    ホームページの開き方,インターネットでの四択問題の解き方の再確認をする。

     *方法を正しく理解しているか確認。

    四択問題を解かせる

    (25分)

    画面にしたがって,各自解き進み,採点。正答を各自のノートに書き写す。

     * 正答をノートに手書きで写し,誤答箇所のみをメールで送信することにより,受動態を確実に学習していることを確認。

    E-MAILを使用させる。

    (10分)

    各自得点,誤答箇所の正答をメールに打ち込み,授業担当者に宛て送信する。

     *各活動時間の指示を明確にする。

    本時のまとめと次時の予告。
    本時,次時の学習内容を確認する。

    * メールを間違いなく送信できたかどうか確認。

     

  • 実践の評価
  •  文法の習得は,構文等を暗記した上で,いかに多くの問題をこなすかにかかっていると思う。そういった意味でこの四択問題を使った授業は,非常に多くの問題を短時間の間にこなすことができる理想的な学習形態である。また,個々の生徒が各自のペースで学習を進めることができるという点,各自解いた問題に対して即座に解答,解説が得られる点においても,通常教室で行われる授業よりはるかに有益であることはまちがいない。
     ともすれば単調になりやすい文法という科目に悩まされていたが,ツールに従って容易に作成できるこの四択問題が1つの大きな解決法を与えてくれ,入江先生には大変感謝している。生徒の評判もとてもよく,「いつもこんな授業がいい」「Grammarがものすごくおもしろく感じられた」との意見が,授業最後に送らせたメールの中のコメントに多数聞かれた。これからもいろいろな形で四択問題を授業に取り入れていくつもりだ。

     

    3 実践の評価

     四択問題作成ツールを用いて2人の先生方に教材を作ってもらい,それぞれホームページ上で公開したり,実際に授業で使っていただいた。問題作成のトラブルもなく,授業などでの生徒の反応も好評であり,今回の目的はある程度達成することができた。

     

    4 実践を終えて

     授業で四択問題を活用された先生方からの要望として,得点を何らかの形で記録したり,結果をメールなどで通知できる機能,目標点に達しなければ先に進めない機能などがあげられた。こういった機能にも早急に対応するつもりでいる。さらに,このプログラムの応用として,記述式の問題作成の支援ツールも提供する予定でいる。

     また,インターネットを介して,共通のテーマで他校の先生方や生徒たちと共同で問題を作成するようなプロジェクトを是非立ち上げてみたい。

     

    利用したURL

     四択問題作成ツール(http://www.iwai-hs.iwai.ibaraki.jp/~irie/javascript/4taku/)

     Tell Me, Terumi! 四択問題の部屋

        (http://www.iwai-hs.iwai.ibaraki.jp/~teru/yonntaku/yontaku.html)

    BIENVENIDOS 英語のページ

          (http://www.iwai-hs.iwai.ibaraki.jp/~mami/english/)