60 地域におけるネットワークの有効な活用方法の研究

高等学校 保護者との連携,他校と協力した教材研究

岡山県立岡山芳泉高等学校 谷本 泰正


 インターネット利用の意図

すべての学校にインターネットを利用する環境が整えられる日が間近に迫っている。本校のある岡山県においては,平成1010月に「岡山情報ハイウェイ構想」によりすべての県立学校がインターネットに接続された。この構想によれば,今後種々の方法で県内の各家庭が容易にインターネットに接続できる環境が整えられていくことになっている。このような中にあって地域のネットワークを教育に有効に活用することが重要になる。本企画では「学校と家庭の間における連絡手段としてのインターネットの活用」,「地域における協調した教育研究の手段としてのインターネットの活用」の2つの観点から研究を進めた。



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 学校と家庭の間における連絡手段としてのインターネットの活用
(1) ねらい

現在,学校と保護者の間の連絡は,郵送,電話,面談などで行っている。今後,各家庭から保護者,生徒が容易にインターネットを利用できる状態になることが見込まれる中で,インターネットの特性を生かして情報交換,連絡の手段として活用することが可能になるものと予想される。
 今回はWebを用いて学校から家庭への情報提供を行うことと,電子メール(メーリングリスト)Web上の掲示板を使うことで,時間にとらわれず,多対多の情報交換が可能になる点をどこまで活用できるかについて検討した。
 広く一般を対象とした,閲覧者を制限しないWebページについてはすでに公開している。一方で,学校から公開する内容として,関係者に限るのが望ましいもの,あるいは関係者以外には意味のないもの等種々のレベルがある。家庭へ向けての情報のうち,一般には公開の必要がないもので,限られたユーザだけに閲覧を制限したページを公開することを試みることにした。

(2) 準備


図 1
家庭でのインターネットの利用状況を把握することとインターネット利用についての理解を深めるために,アンケートによる利用状況調査と保護者向けのインターネット講座を実施した。

@保護者を対象としたインターネット講座の実施

保護者を対象に,コンピュータやネットワークの利用についての理解を深めること,学校と家庭の間でのネットワーク利用についての意見を聞くことを目的として,1030()の午後,コンピュータ教室に設置されたノートパソコン22台を用いて約2時間の講習会を開催した(1)。外部講師を依頼し,定員22名に対し,20名の参加があった。本校教員も受講者あるいは指導者として参加した。次の内容をとりあげた。
・インターネットとは
インターネットの概要を知る
・ホームページを見る
ブラウザの起動,ホームページを表示させる,検索,進路情報へのアクセス
・電子メールとは
電子メールの概要,メールが届く仕組み

終了後に行ったアンケートの結果によれば,参加者の8割はパソコンを保有し,利用していた。利用は保護者と生徒の両方が行っている。また,インターネットの利用経験も8割あるが,家庭でのインターネット利用環境が整っているのは約3分の1であった。現在利用できる家庭と,今後接続予定の家庭をあわせると,将来は85 %の家庭で利用が見込まれる結果となった。学校からの情報としてWebに発信してほしい内容としては,学年毎の状況,大学等の進路に関する情報,学校行事や部活動に関する情報があった。また,電子メールによる連絡は現状では少数しか利用できないものの,将来的には利用可能になるだろうとの意見があった。講座そのものについては,各自のコンピュータに対する慣れの差から理解度に関する評価は分かれたが,おおむね好評で,今後は基礎講座やホームページ作成,電子メール講座など多様な講座を期待する意見があった。
A家庭におけるコンピュータおよびインターネット利用状況に関する調査
本校の12年生(あわせて約800)の生徒を対象に家庭におけるコンピュータおよびインターネットの利用状況をアンケートにより調査した(平成1011月実施)。図2は家庭でのコンピュータ保有率である。保有している家庭について,インターネットへの接続の有無を実数で表すと図3のようになった。なお,保有している家庭では約70%で保護者と子供の両方がコンピュータを利用している。


図2



図3

約半数の生徒の家庭にパーソナルコンピュータがあり,そのうちの約3分の1(全体の約15%)でインターネットの利用が可能であることがわかった。

(3) 実施

保護者を対象としたメーリングリストおよびWeb「ホームページ 芳泉ファミリー」の運用を平成101219日から開始した。「芳泉ファミリー」は,従来から本校で生徒あるいは卒業生と教職員との親密な結びつきを表すことばとして用いられてきたもので,これに「芳泉高校生の保護者(家族)」を重ねて名付けたものである。

 @メーリングリストの設置と運用

メーリングリストは,FreeBSD上でメーリングリストサーバソフトfmlを使用して作成した。このメーリングリストでは,保護者向けのWebページの運用に関する内容,学校から保護者向けの連絡,保護者と教員の間の意見交換を行うことを目指した。メンバーは保護者および本校教職員のみに限るものとして次のような方法で参加希望者を募集した。
ア 保護者あてに「ホームページ 芳泉ファミリー」およびメーリングリスト運用の実験を開始することを伝える文書を配布した。この文書には,趣旨説明とともに,メーリングリスト参加申込書が含まれている。また,参加申込書は,Webからも入手できるように用意した。
イ メーリングリストに参加を希望する保護者は,メールアドレスなど必要事項を記入した「参加申込書」を生徒から担任を通して提出する。
ウ 提出された申込書に基づき,メーリングリストにアドレスを追加し,電子メールで登録完了を連絡する。

Webや電子メールを利用して,オンラインでの参加申し込みを受け付けることも可能であるが,保護者であることの認証を確実に行うために,保護者→生徒→担任という流れで登録を受け付けることとした。

 A「ホームページ 芳泉ファミリー」の公開と運用

@アの文書で,保護者向けホームページ公開の連絡を行い,公開をはじめた。WindowsNT Server上でInternet Information Serverを利用している。
一般に公開している「岡山芳泉高等学校ホームページ」から「芳泉ファミリー」へのリンクをたどると,概要を説明したページに入る。ここから,「芳泉ファミリー」本体へのアクセスには,保護者あてに連絡したユーザ名とパスワードを入力するか,芳泉高校内に設置されたコンピュータに正しくログオンしてアクセスすることが必要になる。保護者用のユーザ名と,パスワードは,成績通知票を郵送するときに同封する書類に記載して保護者に通知することとした。このように保護者に一括して共通のユーザ名とパスワードを発行すると,外部に漏れることを完全に防ぐことはできないと予想される。一方で,保護者一人ひとりにアクセス用のユーザ名とパスワードを個別に設定するのは,作業量が多くなり,困難であることから,「成績通知票を発送するたびにパスワードを変更する」,「無関係の者が見る可能性をある程度想定した掲載内容とする」ことで対応することとした。
現在のところ,詳細な行事予定,各種届け出用紙,事務的な連絡を公開している。また「芳泉ファミリー」のページに掲載を希望する内容についての意見募集のページも作成している。今後,各学年や分掌から保護者あて連絡文書の掲載を計画している。

(4) 実施の評価

 @メーリングリストの設置と運用

メーリングリストには14名の保護者が参加している(120日現在)。アンケートの結果から見ると,インターネットが利用できる家庭の1割が参加したことに相当する。
開始当初は,「芳泉ファミリー」へのアクセス制限に問題があったため,これを正常化するためのメール交換が行われた。これにより,問題点を絞りこみ改善を図ることができた。その後,「新入生向けQ&A」の内容についての意見を求めたところ,保護者の立場からの疑問点などを知らせてもらうことができた。これまで,教員だけで,保護者の疑問などを想像しながら作成していた新入生向け資料に適切な情報を掲載する助けとなった。
今後,多くの家庭で電子メールを使うことができるようになると有効な情報交流手段となることが期待できる。

A「ホームページ 芳泉ファミリー」の公開と運用

当初,学校内に設置したコンピュータや教員が家庭で利用しているコンピュータなどで,ユーザ認証の状況を確認して保護者向けの公開を行ったが,認証できない例がかなり発生した。ブラウザの種類やコンピュータの設定に依存するのであるが,本校の教員が利用しているコンピュータはいずれもほぼ共通した設定を行っていたために,保護者向けの公開前には問題点を発見できなかった。
アクセスするために必要なコンピュータの設定方法などについて,一般公開のページにも掲載したが,まだまだかなり詳しい方でないと確実なアクセスができにくいのが難点である。
今後,各学年からの情報,進路に関する情報など保護者から希望のあった内容を充実させていく必要がある。
運用開始からの時間が短く,十分なアクセス状況の分析はできていないため,「保護者限定ページ」の必要性の有無についての結論は現時点では出しにくい。今後しばらくはメーリングリスト等を使って掲載内容も含め検討を続け,他の保護者の意見も取り入れながら検討する必要がある。
 

2  地域における協調した教育研究の手段としてのインターネットの活用
理科(化学)で利用する教材を岡山県内の複数の学校に所属する教員が協調して作成する作業にインターネットを活用することを試みた。化学実験を安全かつ効果的に実施するための指導用の画像資料集の作成を進めている化学教育研究グループDIGESTのメンバーの協力を得て行った。

(1) ねらい

教材を作成する作業では,内容の検討などのために,何度も会議を開かなければいけない。複数の学校に所属する教員が共同して作業する場合には,日程の調整が大きな問題となる。ここでは,メーリングリストで情報交換をしながら,協調してWeb上で教材集を編集する作業が行えるようにすることで,一カ所に集まっての会議の回数を削減し,効率的な教材作成を進めることをねらいとした。

(2) 準備

メーリングリストを通した情報交換およびWebを用いて協調した教材作成を行うため に,次のような環境を整えた。

@メーリングリストの設置

研究グループのメンバーを参加者とするメーリングリストを設置した。メーリングリストは,本校で運用しているサーバ(FreeBSD)上で動作するメーリングリストサーバソフトfmlを用いて作成した。

A関係者が利用可能なWebを作成する。

研究グループのメンバーが各自のアカウントで編集できるWebを作成した。このWeb作成には,岡山理科大学総合情報学部数理情報学科大西荘一教授の協力を得て,岡山県高度情報化モデル実験 NetVワーキンググループで設置した岡山情報ハイウェイに接続されているサーバ(OS Windows NT)を利用することができた。

(3) 実施
@概要

7月 メーリングリストの運用を開始した。
8月〜11月 毎月1回のオフラインミーティングおよびメーリングリストで議論しながら,収集する画像データの内容,担当者を決定した。
12月 サーバにWebを作成し,画像の登録作業を開始した。(3月末完成予定)

AWebの作成と運用

Webサーバソフトとしては,Internet Information Serverを用い,これにFrontPage Server Extensionsを導入した。各々のメンバーはFrontPage98を用いて各自のアカウントでWebの編集を行って画像を登録することとした。複数のメンバーが異なる場所からアクセスして安全に編集作業を行うために,次のような方法をとった。
・サーバに研究グループのメンバーのアカウントとワークグループを作成する。
・サーバにこの企画用のWebを作成し,その編集権限を研究グループのメンバーに与える。
・研究グループのメンバーは各自が取り込んだ画像やその解説を各自の都合の良いときにWebに書き込み,編集する。
・完成後はCD-ROM化して配布するとともに,Webの閲覧の権限を解放して一般に公開する。

(4) 実施の評価
メンバーからの意見には次のようなものがあった。
@メーリングリストに関する有効な点,問題点

「同じ意志を持ったメンバーが通信しあうには便利な手段である。電話は相手が不在のときや都合が悪い場合などがあり気を使うが,電子メールは見たいときに見ることができ,そして瞬時に届く郵便のような感じで扱える。また,メーリングリストであれば岡目八目の感じで横から割り込んだり,進行状況などがよくわかるのが郵便ではできない利点である。」
「問題はいかに気軽にメールを送信したり応答してりしていくかです。互いに短いやりとりが活性化につながると思います。当たり前ですが,パソコンの前に座ることができなければ郵便に劣ります。いつでも電子メールが使える環境が大切です。」

AWebを使った編集に関する有効な点,問題点
「自分のやりたいときに編集できる点が最大の利点と考えます。集会を持てるのならば原稿とパソコンを持ち寄れば同様に集中して可能だと思います。」
(会議がないため)期限があいまいになるので,他の仕事よりも優先度が下がり,はじめの計画よりも遅れがちになる。」
この原稿を執筆している時点では,まだ作業は進行途上であるが,グループのメンバーが日常的に電子メールを利用でき,作業のスケジュール管理をきちんと行うことができればさらに効率的に共同作業ができるものと考えられる。

ワンポイント・アドバイス
 情報の交流を行う場合,誰でも書き込みができる点では「掲示板」が有利である。しかし,匿名性が大きく,外部の者からの無責任な書き込みを排除することができない。一方,メーリングリストは参加者の間での情報交流に限られるが,基本的に発言者がメールアドレスから特定でき,部外者が無責任な情報を書き込むおそれがない点で好都合である。メーリングリスト管理ソフトの設定を工夫すれば,記録をWebに公開し,途中からの参加者でも過去の記事を閲覧することが可能になる。このような使い方をすれば,「掲示板」に近い記録性と,参加者を限定する安全性の両方を実現できる。

関連するURL
岡山芳泉高等学校ホームページ http://www.hosen.ed.pref.okayama.jp/
"fml" Mailing List Server の設計と実装
               http://www.sapporo.iij.ad.jp/staff/fukachan/href/fml/
岡山県高度情報化実験推進協議会 http://www.okix.or.jp/