61 高校生の国際技術交流 
		
			  
		
			高等学校第3学年・工業 
			石川県立小松工業高等学校電子情報科 平木 外二 
 
		
			
		
		
			インターネット利用の意図 
		
			 めざましい情報技術の進歩に後押しされるようにして,世界各国で情報教育が行われるようになってきた。各国の情報やコンピュータへの取り組み方は様々な視点があるものの,一様に新技術を静観し手探りで学習内容を模索している状態に近い。そこで学問として体系化し難い「情報」を学習する際には,グローバルな視点に立ち各国の生徒の情報活用スタイルや情報技術力などを生徒自身で把握することも有効と考えた。本企画ではコンピュータについて何らかの学習をしている生徒同士が,電子メールをベースにして上述の見地で技術交流することを主な意図とした。 
		
			
		
		
			  
		
			1 ネットワーク技術 
		
			  
		
			(1) ねらい 
		
			 高等学校工業科の科目であるハードウェア技術の単元に「ネットワーク技術」がある。学習指導要領の内容では,コンピュータのネットワーク技術に関する知識と技術を習得させ,実際に活用する能力と態度を育てるとなっている。インターネットにまつわる技術がここ数年で爆発的に普及してきた事実から明らかなように,短期間でコンピュータネットワークのスタイルが変化してきている。このように内容が刻々と変化しているのがこの単元の特徴である。また,黒板のみを用いた授業では漠然とした内容になりやすい。そこで実際にコンピュータに触れながら単元の内容に具体性をもたせ,さらに生徒が自分たちの学んでいる情報技術を国外の生徒と紹介し合うことで学習内容の確認へつながればと考えた。それによって生徒自身が国際的な視野に立ち,自分たちの立場について再認識することをねらいとした。 
		
			  
		
			(2) 指導目標 
		
			 コンピュータネットワークにおけるインターネットの位置付けを行い,ホームページや電子メールなどのサービスについて知識を養う。その後,検索用のホームページを使って交流学校を探し,電子メールを使って交流の打診をする中で,具体的にコンピュータネットワークの機能を確認する。次にコミュニケーションをとる道具として英語を使うことを再確認し,自己紹介やこれまでに学んできた情報技術を紹介する間に目的に応じた表現力を養う。 
		
			  
		
			(3) 利用場面 
		
			 本企画の対象を電子情報科3年(34名)とし,基本的にはハードウェア技術(3単位)の授業の中で実施した。英文メール作成手順の説明や英文作成支援ソフトウェアの使い方などは工業実習(5単位または7単位)の中で行った。具体的には以下の場面でコンピュータを活用した。 
		
			 @交流学校の検索および交流の依頼 
		
			  交流学校を探し出すきっかけとして,ホームページepals Classroom Exchangeを利用した。computer,programmingやtechnologyなどのキーワードで検索し,生徒の年齢と近い学校を候補として選んだ。交流の打診は検索結果から得られた相手校の教員の電子メールアドレスへ本企画の紹介文を送信して行った。関心を示した学校は8校で,カリキュラムの調整や学校行事,学期のすり合わせ等がうまくいき1月の時点で交流関係を持つに 到ったのは以下の学校である。 
		
			   Easton Area High School(USA) : Melissa Hillegass-Goldstein教諭 生徒の平均年齢16 
		
			   Downsview Secondary School(Canada) : Dawn Horstead教諭 生徒の平均年齢16 
		
			   Mt Maunganui College(New Zealand) : Kent Lendrum教諭 生徒の平均年齢16 
		
			   Rocky Mountain High School(USA) : John Fialko教諭 生徒の平均年齢16(前年より継続) 
		
			 A英文作成 
		
			  生徒が英文電子メールを作成する際,原則として以下の三ステップの手順で行った。イとウの作業を繰り返し行うがその時に英文作成支援ソフトを利用した。 
		
			  ア 電子メールの内容を日本語で作成 
		
			  イ 英文用の日本語に修正 
		
			  ウ 英文用の日本語を英語へ翻訳 
		
			 B自己紹介および学習内容の紹介 
		
			  原則として各生徒が電子メールのアドレスを持つ状態で交流し,学校毎に生徒のペアを決めた。また交流用のメーリングリストを開設し,生徒は相手の生徒とメーリングリスト宛にメッセージを送信した。メーリングリスト宛に送信されたメッセージは交流用のホームページへ自動的に追加され,他の生徒たちのやり取りがオープンとなるようにした。また,マップジャパン社からビデオメールソフトの英語版(非売品)を提供していただき,本校で日本語版,交流相手校に英語版をインストールして利用を試みた。 
		
			  
		
			(4) 利用環境 
		
			 @使用機種 NEC PC-9821Xv13(Windows95) 16台 
		
			       NEC EWS4800(UNIX) 21台 
		
			 A周辺機器 17in.ディスプレイ,ページプリンタ,カラープリンタ,デジタルカメラ, 
		
			       パソコン用ビデオカメラ,液晶プロジェクタ 
		
			 B稼動環境 インターネット環境 64k専用線 
		
			       校内LAN敷設,専用ルータによるファイアーウォール 
		
			 Cその他の利用ソフト ブラウザのソフト Netscape Navigator Ver.3.0(Netscape) 
		
			            英文作成支援ソフト J-EBANK Ver6.0(AILogic) 
		
			            ビデオメールソフト Quality Motion Video Mail(Map Japan) 
		
			  
		
			2 指導計画 
		
			
				| 指導計画 | 留 意 点 | 
			
				| @コンピュータネットワークにおけるインターネットの位置付けを把握する。 (ハードウェア技術)
 | ・従来までのLAN,WANとインターネットとの関係を明確にする。 ・校内から利用する時や家庭から利用する時の状況を整理して疑問点をリストアップする。
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				| Aインターネットのサービスであるホームページ,電子メールの仕組みを理解する。 (ハードウェア技術)
 | ・HTTPプロトコルの通信をtelnetを使ってコンピュータで確認しその仕組みに関心をもたせる。 ・SMTP,POPプロトコルの通信を同様にして確認し,メール配送の原理に関心をもたせる。
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				| Bコンピュータに関連したことを学習している海外の教室を検索用ホームページで調べる。 ★インターネットの利用
 (ハードウェア技術)
 | ★ホームページのepals Classroom Exchangeへアクセスして検索している時,どのコンピュータで 何を処理をしているのか関心をもたせる。 ・検索中に得られる外国の学校で学習している情報を整理させる。
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				| C電子メール環境をセットアップし、検索した学校へ交流内容の紹介文を電子メールで送信する。 ★インターネットの利用
 (ハードウェア技術)
 | ・Netscapeメールの環境設定を行う際,A時で体験した事柄と関連させる。 ・交流校の調整があるかもしれないことを明記する。
 ★できるだけ異なる国へ送信する。
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				| D日本語で自己紹介文を作成する。 (ロングホーム)
 
 | ・自分を紹介する時何を書けばよいのか考えさせる。 ・マナーに反しない表現とはどのようなものか考えさせる。
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				| EFG英文用の日本語へ修正した後英語へ翻訳する流れを練習する。 ☆J-EBANKの利用
 (工業実習)
 | ・英語らしい英語をめざさず伝わる英語を書くことを目標とさせ難しくないことを確認する。 ・英文用の日本語へ修正した時の便利さを実例で提示する。
 ・書き出しや締めくくり等の表現集を準備する。
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				| HI自己紹介文を翻訳し,電子メールで送信する。
 ☆J-EBANKの利用
 ★インターネットの利用
 (ハードウエア技術,工業実習)
 | ・J-EBANKが限られた台数のため辞書を準備させるとともに,日本文,英文用日本文のチェックを同時進行で行う。
 ★メーリングリスト宛に送信させ,他の生徒の内容に関心をもたせる。
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				| Jコンピュータに関連したことでこれまでに学んできたことを日本語でまとめる。 (ハードウェア技術)
 
 
 | ・中学校,高等学校で学んできたことをリストアップさせ内容を分類する。 ・いろいろな授業で学んだことが連携し結びつく点がないかどうか考えさせる。
 ・コンピュータやネットワークに関する技術とはどのようなものなのか具体例で考えさせる。
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				| KLM学んできた内容の日本語を英文用の日本語へ修正した後,英語へ翻訳する。 ☆J-EBANKの利用
 (ハードウェア技術,工業実習)
 | ・できるだけコンパクトにまとめさせる。 ・相手の生徒が全く知らないことを前提にして,専門用語などの使用に注意させる。
 ・デジタルカメラを用い,装置などについては静止画像を多用させる。
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				| [随時] 交流校からのメッセージ受信に応じて,自分のメッセージ内容を修正し自己紹介文または学習内容を送信する。 ☆J-EBANKの利用
 ★インターネットの利用
 (ハードウェア技術)
 
 | ・相手のメッセージの内容に触れて,各自のメッセージをつくらせる。 ★過去のメール内容が参照できるホームページへアクセスして他の生徒の内容も含めて,交流している学校で学んでいる事柄を各自で整理させる。そして、今後何を学ぶ必要があるか考える方向へ展開する。
 
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			3 利用場面 [H時からJ時についてのもの] 
		
			  
		
			(1) 目標 
		
			 自分の伝えたい事柄を素早く整理する力をつけ,要点をおさえ手短で誤解を与えない表現の重要さに気付くことを目指す。またこれまで学習してきた内容をまとめる際に,いろいろな科目で学んだ知識の整理につながりそれらが結びつくことを目標とする。 
		
			  
		
			(2) 展開 
		
			
				| 学習活動 | 活動への働きかけ | 備 考 | 
			
				| 1 日本語で書いた自己紹介文をコンピュータへ入力する。 | ・入力時に内容についての確認をさせる。 | ・コンピュータ 
 
 
 
 
 
 ・コンピュータ
 ・文例集
 ・J-EBANKと辞書の併用
 
 
 
 ・デジタルカメラ
 ・コンピュータ
 ・ビデオメール
 
 
 
 
 
 
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				| 自己紹介文を英語にしやすいように加工しよう | 
			
				| 2 コンピュータ上で英文用の日本語文章に修正する。 
 | ・主語を必ず入れよう。 ・述語はコンパクトにしよう。
 ・混乱しやすい格助詞「の,で,に,と」等に注意させる。
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				| 英文へ翻訳し,メッセージとして仕上げよう。 | 
			
				| 3 日本文を臨機応変に修正しながら英文を作成する。 
 | ・2での作業の重要さを確認させる。 
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				| メーリングリストへメッセージを送信しよう。 | 
			
				| 4 メーリングリストの仕組みを把握する。 5 必要に応じて圧縮画像を添付する。
 6 送信してから,他の生徒のメッセージを読む。
 | ・圧縮する理由を説明する。 ・圧縮ファイルについて例示する。
 ・電子メールのマナーについて確認する。
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				| 今までに学んだコンピュータ技術を整理しよう。 | 
			
				| 7 これまでに学んできた中でコンピュータに関連した内容をリストアップし,それらのつながりや関連性を考える。 
 | ・異なる科目で学んでいた内容の関連性を強調する。 
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			4 実践を終えて 
		
			 執筆時点ではJ時が終了したところであり,相手校と歩調を合わせながら進めることの難しさをあらためて認識した。生徒の感想には「下手な英文メールが相手に通じて伝わったことがすごくうれしかった。」「16才の子なのにすごくしっかりしていた。」「今まで習ってきた英語が思ったより自分の力になっていたのでうれしかった。」「最初はあまりやりたくなかったけど,やっているうちにだんだん面白くなってきた。」「中学校の時から英語の授業なんてなんであるんだろうと思っていたが,今回の授業でやはり必要なんだなあと感じた。」「外国とメールのやり取りをできるのは知っていたけど,実際にやってみて自分の書いた文が本当に外国に送れたのですごいと思った。」等があった。J時が終了した時点で生徒へアンケート調査を行った。その結果が図1である。
			
				
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								| 1. 外国の生徒とメールのやり取りをすることに興味をもてましたか?   Yes 22人 No 12人 2. 英語でメールを作成できたことに感動しましたか?          Yes 19人 No 15人
 3. 外国の生徒がどのような授業を受けているか知ることができましたか? Yes 14人 No 20人
 4. 外国の生徒とのやり取りで自分の視野や考え方が変わりましたか?   Yes 13人 No 21人
 5. 今後自分だけで外国の生徒とコミュニケーションをとれますか?    Yes  9人 No 25人
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				図1 アンケート結果
			
		
		
		
			 相手校の生徒から悪質ないたずらメールが届いたり,本校システムのトラブル対策に追われ続けるなど予想外の労力を払っての実践となった。トラブルを防止することより如何に解決するかとの発想で,相手校とともに何とか現状に到っている。三ステップを踏んで英文を作成することで英語への拒絶反応は予想以上に和らいでいた。また十分な活用には到らなかったがビデオメールの効果は大きいと判断している。音声画像とも明瞭に伝達でき従来よりもファイルサイズ(約300kB/min)が小さい。何よりも時間や日程に縛られずビデオ映像で直接相手に連絡内容を伝達できることは魅力であった。 
		
			
				| ワンポイント・アドバイス  電子メールではスピーディに情報の伝達が行われる。ともするとやり取りをしている人間自体もそれにつられてせっかちになりやすい。受け取ったメールのリプライはできるだけ迅速に行うのは言うまでもないが,相手のリプライはじっくりと待つ”ゆとり”が大切である。見えない所の状況はなかなか把握できないものである。
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			参考文献 
		
			 科学英語を書く 論文英訳のポイント 山口 著(培風館) 
		
			 パソコンでらくらく英文レター虎の巻 公平 著(SANSHUSHA) 
		
			 英語でメール 文例大辞典 SSC編(SSコミュニケーションズ) 
		
			利用したURLなど 
		
			 epals Classroom Exchange (http://www.epals.com/index.html) 
		
			 メーリングリスト登録(http://www.komatsu-ths.komatsu.ishikawa.jp/o/cgi-bin/techex.cgi) 
		
			 生徒のメール(http://www.komatsu-ths.komatsu.ishikawa.jp/o/v_room/techex/maillist.html)