中学校におけるインターネットの活用
 
福岡教育大学教育学部附属福岡中学校
 花田 武美
 
T 新たなる学習の道具としてのインターネット
 
  1 本校における100校プロジェクトの取り組み
 
 
本校は福岡県で選ばれた2校のうちの1校である。平成7年度から2年間の実施期間を終えて,現在は新100校プロジェクトへ参加し,より活用の実際を広げる取り組みが行われている。平成7年度からのあゆみを学校としての取り組みを中心にまとめてみる。
(1) 平成7年度の取り組み(ハード:サーバー1台,クライアント1台)
<学校としての取り組み>
 ○情報教育部会の設置
  100校プロジェクトの推進のために情報教育部会を設置した。構成は各学年2名の教師で,月1回以上の会合をもった。
 ○情報教育講習会
  教師のコンピュータ技能の向上を図るために,全教師参加の情報教育講習会を定例的に行った。
 ○学校のホームページ作成
  情報教育部会を中心に,8月に本校のホームページを作成した。そのホームページでは本校の紹介とともに,5月末に行ったネットニュースを利用した授業の結果も発信した。
この年はインターネットとは何か,できることは何かを探る年であった。また,生徒が利用できるコンピュータ(クライアント)が1台であり,教師が中心になって実践した年であった。
(2) 平成8年度の取り組み(ハード:サーバー1台,クライアント1→5台[職員室1])
<学校としての取り組み>
 ○情報教育講習会
  1学期から夏季休業までの間の講習会の取り組みで,赴任した教師の情報教育技術も向上し,ホームページを作成することができるようになった。「生き方学習」の平成8年度のホームページや4組(障害児教育)のページなどを,教師自身で作成した。
 ○生徒のID発行
  生徒一人一人が電子メールが使えるようにIDを発行した。
 ○カリキュラムの見直し(技術・家庭科)
  生徒の情報処理技術の向上のために,従来は第3学年で実施していた技術・家庭科の「情報基礎」を第1学年の1学期に行うようにした。
 ○情報教育のテキスト作成
  生徒が,パソコンやインターネットを操作・活用できるように独自のテキスト作成を計画した。生徒や教師がインターネットを活用していくうえで,よき「手引」となっている。
 クライアントも5台に増え,しかも1台は職員室につなぐことができ,教師の技能向上や理解が進んだ。また,生徒用のクライアントも増え,授業での活用も広がりが出てきた。インターネットの活用の方向性が見えた年であった。
(3) 平成9年度の取り組み(ハード:サーバー1台,クライアント10台[職員室1])
 新100校プロジェクトへ参加も決定し,パソコン教室に班に一台の利用が可能になった。これまでの実践を生かし,実際の授業の中からインターネットの可能性と問題点を生徒の活動や授業分析から探っていく。そのために,次のような点を中心に本年度は取り組んでいる。
 
    
 
○インターネットを使った授業の実践
○インターネットを中心とした環境の整備(パソコン教室,校内)
○実技講習会(教師)の充実
○情報教育テキスト(生徒向け)の制作
 
 
  インターネットの活用の場とコンピュータ・リテラシーの育成
 
  (1) インターネットの活用の場
 
 インターネットを活用する場としては,教科や総合学習が考えられる。また,生徒だけでなく教師が活用する場も考えられる。
 教師が活用する場としては,教師が教材研究の一つとして最新の情報にアクセスし,多様な情報の中から生徒が興味・関心をもつ情報や学習のねらいを,より達成できる情報を選び授業への活用を図ることが考えられる。
 インターネットを活用してもしなくても学習の本質は変わらないが,インターネットの教科への導入により,学習の中で取り扱う 情報の量や質(新しさ,速さ,内容)が向上すると考えられる。そして,学習方法や学習内容が広がりのあるものになる。活用において留意することは,生徒がインターネットを主体的に活用できるようにコンピュータ・リテラシーを育てるという意識が必要である。また,インターネットを通じて,ハードウェアや情報を共有するという考え方が重要であり,開かれた学校(合校)をめざした授業づくりの視点が必要になってくる。実際の授業におけるインターネットの活用の方向としては,「インターネットのよさ」を効果的に利用することが必要となると考える。そのよさはネットワークでつながったことによる双方向性と多くの量や最新の情報が存在することであり,それらのよさを生かすことで,情報活用能力やコミュニケーション能力の育成が可能になると考える。
 総合学習における効果的なインターネット活用のあり方としては,「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議第一次報告」で,「情報基礎」の必修化と「情報応用」を選択として新設することと合わせて,教科や「総合的な学習の時間」で情報手段を活用した主体的な課題解決的学習を行うことが述べられている。
 インターネット自体が情報化社会を代表するものであり,現在の社会を変革する大きな原動力であるため,現行のカリキュラムではどうしても生かしきれない部分も大きい。本校の総合学習(「生き方学習」,「WORLD TIME」,「卒業研究」)では,これからの変化の激しい時代をたくましく生きる力として,情報活用能力やコミュニケーション能力の育成も合せて考えている。この総合学習の中で,インターネットは生徒の主体的な情報収集や創造・発信の道具として十分に機能し,活用されている。
 生徒がインターネットを活用する場としては,生徒がインターネットを使い必要な情報を収集し,課題の解決に役立てたり,学習の成果を外に広く発信したりすることが考えられる。教科においては,どの授業のどの単元でインターネットを使うかが問題となる。現行のカリキュラムはインターネットのない時につくられており,他の手段でもねらいが達成できることを想定してつくられているだけにインターネットを使う必然性が問題となってくる。インターネットも一つの手段として考え目的にあわせて活用するような柔軟な対応が必要である。
 
(2) コンピュータ・リテラシーの育成
 前述の本校のあゆみにも述べたように情報活用能力の育成については,まず技術・家庭科の中の情報基礎を第1学年で行っている(技術・家庭科の情報基礎の中で履修させている学校は94%であり,うち83%が第3学年での実施である。)。また,情報基礎のみでなく学活や他の教科での実施も含めて考えている。
 生徒に情報活用能力として習得して欲しいものを明らかにするために,生徒のコンピュータに関する実態を分析し,段階表を作成した。
 各教科や学活においての学習の際に,これを基準に行っている。ワープロは国語科,グラフィックは美術科表計算は数学科,パソコン教室の使い方や情報化社会での倫理は学活を中心に行っているが,段階表にあげている時期までに学習することが大切であるが,状況に応じてはこれよりも早い時期に,他の教科や学活で行うことも想定している。固定的なカリキュラムより柔軟に対応ができるようにした方が生徒の実態に合わせやすく,運用もスムーズに行えると考える。また,この学習がどの教師でも指導できるように生徒向けの独自のテキストを作成しており,それを活用しながら教科や教科外の学習にコンピュータを活用している。
 
 
      【生徒のコンピュータ・リテラシーの段階表】      
 
習得技能 段階(※文末に「ことができる」を付加)習得時期
パソコン教室の使い方 教室での約束を理解する     1年前期
パソコンの使い方 電源を入れプログラムを実行する     1年前期  
ワープロソフトの使い方 ボードで文書を打ち保存する 罫線や倍画などを使う 編集機能を使う 1年後期まで
グラフィックスソフトの使い方 マウスを使い絵を描く 絵を加工する   2年前期まで
表計算ソフトの使い方 データを入力しグラフにする     2年後期まで
データベースソフトの使い方 データベースの理解をする データベースを活用する 必要なデータベースを構築する 3年前期まで
WINDOWS95の使い方 95の立ち上げと終了をする ソフトウェアの立ち上げと終了をする   1年後期まで
インターネットの理解と利用 インターネットとは何かを知る インターネットでできることを理解する インターネットを自由に使いこなす 2年前期まで
電子メールの使い方 メールを読む メールを書く 自由に使いこなす 2年前期 まで
ホーム・ページ ブラウザの使い方を理解する サーチエンジンを使う ホームページをつくる 3年後期まで
ニュースグループの使い方 記事を読む 必要な記事をグループから探す 記事を書く 3年前期まで
情報化社会の倫理 パスワード管理について理解する 作権の重要性について理解する ネチケットについて理解する 3年前期 まで
 
 
 インターネット活用の課題
 インターネットの活用の実践を行っていくことで実際に活用する際の課題も明らかになってきた。まず,学校の運用・管理上の課題としては次のようなことがあげられる。
(1) 教師の研修体制づくり,指導できる教師(管理者)の育成
 生徒に活用させるには教師が使い慣れておく必要がある。現在,コンピュータに関して指導できる教師は約2割であり,その教師を指導できる教師の育成と,サーバーを持っている学校では,システムを管理する教師の育成が必要になってくる。
(2) ハードウェア,情報通信ネットワーク,ソフトウェアの整備の問題
 接続台数や回線速度によっては活動が制約を受ける。また,サーバーのメンテナンスはまだ教師では難しく,専門家の支援が必要である。さらに,生徒が使いやすいソフトウェアの開発も必要である。
(3) モラル(ネチケット),パスワードの管理,情報の制限(生徒)
 生徒が教育上好ましくない情報に接続したり,望ましくない情報を発信したりする。また,外部からの侵入による被害が起こる可能性がある。生徒へ情報化社会の影の部分や倫理についての学習と学校における情報の管理を行う必要がある。
次に,実際に授業で活用する際の課題としては,次のようなことがあげられる。
 
                                 
 
 

・ 学習内容に適しており,生徒に提示可能な情報収集
・ 双方向性を生かすための相手先の選定,連携方法
・ 生徒の操作技能の向上や情報倫理に関する学習方法や資料の開発
 
 
 
 授業で実際に使え,生徒の問題解決に本当に適した情報がどこにあるのかを教師があらかじめ知る必要があると考えるが,インターネットの情報の大海から探し出すことが難しい。また,インターネットのよさは双方向性であるが,特に電子メールの活用などで1対1の交流を行う場合,相手を探すことや,Cu See MeなどでTV会議を行う時に2校で同時に授業を行うための連携方法などが難しい。さらに,道具としてインターネットを生徒が自由に活用するためには操作技能のより一層の向上が望まれること,情報倫理について生徒の理解が深まる学習方法や資料の開発などがこれからの課題である。
 
U インターネットの活用の実際(別紙)
 
 1 「教科」での実践例
  (1) 技術・家庭科「木材加工の導入段階におけるインターネットの活用」
  (2) 美術科「視覚伝達デザイン」
 
 2 「総合学習」での実践例
  (1) 「WORLD TIME」
  (2) 「生き方学習」
  (3) 「卒業研究」