学校教育をより楽しくするインターネットの活用方法

文教大学国際学部
若林 一平
email<ippei@shonan.bunkyo.ac.jp>

 

●まず個人で楽しむ
 インターネットは現在とても身近な存在になってきています。企業では既にパソコンはひとり一台の時代に入り、社内の業務連絡のために電子メールを使うことは、若手社員は言うまでもなく、中堅以上の社員にとっても当たり前の時代になってきました。企業内でのインターネットの仕組みの活用は「イントラネット」などと呼ばれており、企業のホームページの利用も含めて、インターネットの企業社会への普及はめざましいものがあります。
 企業におけるインターネットの普及と比較して、学校や家庭における普及はいまひとつというのが現状ではないでしょうか。特に家庭でのインターネット利用となると、企業内の環境とは相当に落差があると言わざるを得ません。
 こんなことを申し上げるのは、何故かと言いますと、大切な原点は家庭に、そして個人にあると思うからです。まずインターネットを個人で楽しむ。その上で、次に人を楽しませることができるのではないかとわたしは考えるのです。
 情報化社会と言えば、すぐ日本列島に光ファイバー網が敷設されてデジタル信号が飛び交っている絵を思い浮かべるのは間違いだと思うのです。情報化社会の原点は、たまの休みには家族そろって図書館に出かけ、それぞれに調べものをしたり気に入った本やCDを借り出して帰ってくる。こんなことだと思うのです。要はひとりひとりが情報ときちんとつきあうことができる社会が情報化社会なのではないですか。これが基本です。
 インターネットでも基本は同じこと。出発点をまず個人におきたいのです。

●夢世界(ファンタジー)とつきあう
 ところでインターネットについてですが。わたしはこの世界を夢世界(ファンタジー)と定義したいのです。夢世界とは現実とはまるで違う世界という意味です。インターネットはフラットな世界だと言われています。フラットとは平らなとか、よく見えるという意味ですね。www、ワールドワイドウェブの世界は公開された情報がハイパーテキストでリンクしあっている地球規模の平らな世界です。
 ところで、私たちのいるこの世界はどうも平らな世界とは言いにくい。凸凹いやデコボコが多すぎるのです。どうにも動きが悪い。情報とのつきあい方がそうなっているのです。大変残念なことにわたしの職場でもそうなのですが、インターネットが話題になると決まって出てくる議論が、「どんな情報を取れるのですか」と、こうなってしまうのです。「どんな情報を出せるのですか」とは決してならない。
 インターネットの平らな世界は双方向の情報流通の世界になっている。情報を沢山出した者の勝ちみたいなところがある。結局、情報を豊富に出したところに、豊富に情報が集まってくる。
 インターネットの平らな世界はやっぱり夢世界。現実離れのした世界ですね。情報をもらう文化はあっても、情報を与えていく文化はなかなか育っていないのですから。しかし、夢世界だからこそかえって気軽につきあえるのではないですか。

●英語はこわくない
 インターネットは地球規模の平らな世界なのですから、日本語にこだわっていたのでは、自分で自分のまわりに壁を構築するようなものです。しかし、日本語の外に出ていくためには、とりあえず英語の壁を突破しなければならないのです。
 そこで、わたしは肩の力を抜くことを提案したい。わたしの授業で実際にあった話ですが。わたしが黒板に書いた英語のスペルが間違っていた。そこである学生が、「先生でもスペルを間違えることがあるんですね」と関心していました。逆にわたしは驚きました。そんなのってよくあることだからです。海外の名の通った大新聞だって結構とんでもないスペルミスをしていることがある。島崎藤村の原稿を調べた人の話ですが、明らかな誤字が結構あったそうです。
 英語だけではなく、他の教科もそうかもしれませんが、「あら探し教育」が大勢を占めているのです。もっと肩の力を抜いてリラックスして英語とつきあっていいのではないか。そう思うのです。あら探しから入っていったら、とりあえず萎縮してしまう。これでは話が先に進まない。
 大体分かれば、できるだけ辞書は引かない。翻訳を頼まれたわけではないのですから。どうしてもその単語の意味が分からなければ困るときは、辞書を引くしかない。インターネットの英語とつきあうのに、私は電子辞書を利用しています。それも、あまり詳しい意味が出てくるのではなく簡単なのがいいのです。急いで調べるのにはこれが一番ですね。
 英語はこわくない。これは先生がやってみせるのが一番です。

●日本語でやりにくい問題に英語を利用する
 英語というのは大変大きな障壁なのですが、意外な活用方法もあると思います。日本語であつかいにくい問題に英語を活かすのです。日本語で言いにくいことでも、英語ならどんどん言えてしまうことってありますね。
 たとえば性の問題。これは生の問題、人生の問題と言い換えてもいいほどに重要な問題なのですが。しかし、親も先生も何となく避けて通りたくなるテーマではないですか。そこで、海外のホームページを訪ねてみます。
 身体の問題から精神的な問題まで。親身になって相談に乗ってくれるステキな先生が海外にいるんです。これはうれしいです。英語のこわさなんか忘れてしまうことうけあいです。

●メールとのつきあい方
 インターネットの平らな(フラットな)世界の代表格は何と言っても電子郵便(メール)ですね。インターネットメールの登場によって、世界はほんとうに平らになってしまいました。メールを中継するコンピュータが順調に働いてくれていれば、数秒で世界中の誰とでも手紙のやりとりができるのです。もちろんメールのIDを持っている同士という条件はありますが。
 企業の中でも、現場の人間がトップにいきなり連絡をとることができてしまう。これを「階層構造」から「フラットな構造」への変化などとよんでいます。中間で邪魔が入る余地がなくなってしまったのです。組織が平らになる時代は中間にいる管理職受難の時代でもあるわけです。
 学校でも同じことが言えるでしょう。メールで先生と学生との距離が一挙に短縮されました。メールのいいところは、一日24時間、いつでも時間を選ばないことです。これが電話などとの大きな違いです。メールを見るのは相手にまかされているわけですから、どんな時間帯にメールを送ろうと何の遠慮もいらない。
 メールとのつきあい方でひとつ注意が必要なのは、できるだけ気軽なノリで利用すること、そして感情を抑えることです。感情の入った問題にメールが適していないのは世界中の人が認めるところです。メールは相手の反応や表情を確かめることなく言葉だけが飛び交いますので、感情がこもりすぎると「大火事」になりやすい。これは要注意です。もちろん、こじれた問題にメールを利用するのはゼッタイダメ。
 メールは気軽におもしろく利用したいですね。そこから生まれた知恵がスマイリーだったんです ;−)
 メールを賢く使う知恵はメールを使わない知恵でもあるんですね。こじれた問題、感情の入った問題の解決には、最低でも電話、できれば会って顔を合わせて話し合う。
これが基本だと思います。

●言葉あそびのすすめ
 以心伝心、不言実行、など。これまでの伝統的な考え方では、できるだけ言葉を使わないことが美徳とされてきました。また、日本語のあいまいさが良いものとされてきました。言葉の持つ重さ、普遍性が軽視されてきた、と言っては言い過ぎでしょうか。
 インターネットの平らな世界では言葉が大切になってきました。言葉を自由に使えなければ、自分の思っていることがどんどん言葉にならなければ、せっかくの平らな世界は閉じた窮屈な世界になってしまいます。
 サーチエンジン(探索機関)を利用すれば、思いつく言葉の拡がりを直ぐに試してみることができます。国際語になっているのは、"karoshi"や"tobashi"だけではありません。"manga"、"tofu"、"bonsai"なども立派な国際語になっており、世界中にファンがいます。
 こうして、日本語をいろいろ試してみるだけでもかなり楽しむことができます。さらに、興味あるテーマの英単語を試してみるとよいでしょう。遊びながら言葉を(使う能力を)鍛えるのです。

●双方向の文化を教室へ
 インターネットは平らな世界と言ってきました。しかし、この平らな世界は有用な知識と偽の情報が、また個人の可能性の開花と危険な落とし穴とが共存している世界でもあります。インターネットは街そのものでもあるわけです。そこには知的刺激もあれば、悪い誘惑もある。
 そこで、子どもたちに街を賢く歩く方法を教える責任がわたし達にはあるわけです。危険は危険としてきちんと伝えながら、楽しみ方を伝えていく。こうしたやり方、考え方をわたしは「双方向の文化」と呼んでいます。
 自己責任という言葉が最近いろいろな場面で使われるようになってきました。しかし、子どもたちをひたすら危険から隔離して、現実のきれいな面だけを伝えるという「一方向の文化」からは決して自己責任という発想は生まれてこないでしょう。
 双方向の文化の教室への導入は、初めは小さな歩みから始まるのだと思います。そして、未来の市民となるべき子どもたちの中に希望があります。

主な関連情報
○インターネットの楽しみ方(若林一平のホームページ)
URL<http://www.wakabayashi.com/fantasy/>
○キム・マーチンさんに聞く("sexscape.org"より)
URL<http://www.sexscape.org/askkim/>
○インターネットの街の賢い歩き方(ヤフーリガンズ!より)
URL<http://www.yahooligans.com/docs/safety/index.html>
○インターネットの利用者からサイバースペースの市民へ("Educom Review"より、若林一平の論文)
URL<http://www.educom.edu/web/pubs/review/reviewArticles/32446.html>