高度化教育企画「特殊教育について」

神奈川県立第二教育センター 田村 順一

 

    1.特殊教育とは

    (1)我が国における「特殊教育」
     「特殊教育」はアメリカ等で言うところのスペシャルエデュケーションを直訳したものである。本来は、一般的な教育課程に当てはまらない特別な教育的ニーズを持つ子どもたちに対する支援サービスのことをいい、そのニーズも障害による学習の困難であったり、あるいは学年相当より進みすぎたりしている場合など、様々なケースが含まれている。ところが、我が国において特殊教育とは、心身に障害のある児童生徒のための専門的な教育の場のことを指すと考えられており、通常は専門教育機関としての盲・ろう・養護学校、あるいは小・中学校に設置されている特殊学級における教育のことと理解されている。
     しかしそこで学ぶ児童生徒は学ぶ場こそ別れていても、学ぶべき内容も、育つべき方向も全く同一である。よって特殊教育とは、育ちを支援するにあたって、特別な配慮や技術の応用が必要となる点が特殊なのであって、教育の目的や、子ども自身が「特殊」なのではない。これまでは往々にして「特殊教育」は一般の学校教育とは別の、閉ざされた分野として受け取られることが多かったが、学校教育全体で、より個に応じた質の高い教育が求められる中で、特殊教育のもつ専門性や個別対応性の高さがあらためて注目されつつある。
     特殊教育において実践されてきた多様な教育的配慮は、そのままあらゆる教室において個に応じた教育を展開するにあたって大切な示唆を含んでいるのである。

    (2)障害児とネットワーク
     障害のある児童生徒(以下、障害児)にとって、その障害による学習上あるいは生活上の不利を補うために、様々な機器を利用することも多く、こうした機器を有効に活用する方法を学習に取り入れる必要がある。こうした機器を総称してアクセシビリティ機器と呼ぶが、これらはコンピュータの登場によって飛躍的な進歩を遂げた。
     しかし、個々の障害の状態が大きく異なる障害児には、用いる機器も個別の対応や継続的な調整が必要となるため普及は十分でなく、まだ多くの研究と実践の積み重ねが必要な段階である。
     一方、どうしても移動の困難等により社会的な関わりの薄くなりがちな障害児にとって、居ながらにして交流の機会を増やしたり、積極的に社会に関わっていく接点として、ネットワークの普及は、大きな教育的意義があることがわかってきた。
     とりわけ、これまでは何かと「してもらう」受動的な生き方になりがちだった障害児が、積極的に社会観を広げ、自ら発信していくことができる広域ネットワークは、障害児の新たな社会参加の一形態とも考えられ、障害児の生き方や生きる意欲そのものに大きな影響を与えた。

    2.高度化教育企画における取り組み
    (1)ネットワークへのアクセシビリティの改善
     障害種別によっては、ブラウザ等のソフトウェアを操作するために、適切なアクセシビリティ機器を付加する必要がある。前述の通り、アクセシビリティ機器についてはようやく研究が始まったばかりであり、これから多くの研究と実践を積み重ねる必要がある。
     中でも視覚に障害がある児童生徒が、WEB画面をどう読みとるかという課題、運動機能に障害のある肢体不自由児が、どうポインティングデバイスやキーボードを操作するか、また知的障害のある精神薄弱児にもわかりやすい入力の工夫はどうするかといった、入出力に関する環境の改善が当面の大きな課題となっている。
     そこで、福島県立盲学校では、Lynx gatewayというシステムを用い、WEB画面をテキストのみに変換し、それを音声合成装置にかけることで画面情報を音声で聞き 取る試みを行っているが、今年度はそれを利用して他の盲学校やいわゆる健常児とのメール交換やディベート等を試みることとしている。
     東京都立光明養護学校では、重度な肢体不自由児のアクセシビリティ機器の利用や情報発信の実践を進めてきたが、その一環として在宅児とのCu-SeeMeを用いた情報交換を試みることとした。
     また、福井大学附属養護学校および大津市立平野小学校特殊学級では、知的障害児が直感的に操作できるよう画面に張り付ける透過型のタッチパネルを導入し、ネットワーク活用を進めようとしている。
     100校プロジェクトの実践でこれらの各学校はインターネットをはじめとする広域ネットワークの利用で、これまで大きな成果をあげてきた。今後はさらにこれらの実践を深めることで、多くの学校現場で応用できる可能性を追求することとしている。

    (2)重複障害児のインターネット環境の研究

     障害児の中には異なる種別の障害を併せ持つ、重複障害と呼ばれる子どもたちがいる。こうした重複障害児には、それぞれの障害に応じたより深い配慮が必要になるが、その第一歩として知的障害と肢体不自由を併せ持つ重複障害児に対するアクセシビリティのあり方について、調査と研究を進める予定である。

    3.障害児の社会参加とインターネット
 学校教育の歴史の中で、障害児に対する教育はあたかも例外措置であるかのように考えられていた時代もあった。しかし、人権意識の変化や少子化・高齢化社会に向けての社会構造の変化等により、障害も高齢などと同様、その個人の社会的な支援ニーズの一つと考えられるようになってきた。こうした世界的な意識の変化の中で、従来は保護される生き方が多かった障害児にも、積極的に社会に参加していく姿勢が求められてきている。
 しかしそのためには、障害による不利を補うための様々な工夫と指導の積み重ねが必要であるとともに、障害の有無や人種などの壁を超えた新しい概念の世界観が必要である。
 インターネットは、その構成者が、情報の受信者であり、同時に発信者であるというきわめて能動的なメディアである。そこにありのままの自分を発信していくことによって、障害児が自ら「生きる力と意欲」を学び取っていく重要な学習領域と考えている。