新たな「学びの場」を構成するコンピュータネットワーク

具志川市立天願小学校教諭 安和守光

1.はじめに

 「学校」という言葉から何を連想するだろうか。行儀良く並んだ机、教室の前面に設置された大きな黒板、そして40人近くの子どもたちと1人の教師。この風景は、明治時代から今日まで大きく変わることなく引き継がれてきた学校そのものの姿なのかもしれない。しかし、町の風景は大きく変わり、何よりも子どもたちを取り巻く環境も大きく変化してきた。それは建物とか道路といったものだけではなく、子どもたちにとって最も大切な「学習環境」「学びの場」「学び方」そのものが問われているのである。1世紀も前にデューイ(Dewey.J.)が指摘した「学校と社会の二重生活」がこのような形で問題になることを誰が予想しえたであろう。

 つまり、これまでの教育の主要な役割は、文化遺産の伝達とそれをもとにした文化の再創造にあり、学校も文化遺産を教材という形で提供することによって、子どもたちの潜在的な可能性を発達させることに寄与してきた。しかし今、これまでの学校教育が文化の再創造にいかに寄与してきたかが問われており、その場合、学校の認識する文化と社会の認識する文化との間に大きな溝ができてきたのが現在の状況といえるのではないだろうか。

 そもそも、ある時代に、ある場所に生を受けるということそのものが偶然であり、その偶然次第によっては、教育という面である種の「不平等」さえもたらすことがある。例えば、数十年前に学校教育を受けた人は、情報の提供者は教師や身近な人や環境であったであろうし、生活環境の全く異なる人との接触は、そう日常的なことではなく、また、その必要性についても限られた人を除いて感じなかったであろう。また、学校で教わったことが、社会に出てもある程度通用できたであろうし、学校教育以外の場でさらなる教育を受ける機会も、そう頻繁になかったであろう。その時代の学校の果たす役割はそれでよかったかもしれない。

 だが、世界中の出来事が瞬時に伝わり、もはやひとつの国だけでは存在することが困難になった現代、学校教育も社会との深いかかわりの中で存在している以上、学ぶ機会や場の拡がりを重要な視点として捉えなければならない。いわゆる「不平等」の解消に努めなければならないわけである。と同時に、今後一層、国際化が進む中、自分の生まれた国や地域の文化や伝統について学び、誇りを持ってそれらを受け継がなければ、真に国際社会で認められるとは思えない。

 いわゆる学校教育は、「時代を超えて変わらないもの」の習得と「社会の変化に柔軟に対応する」人間の育成という2つの側面を、いかに調和を図りながら具現化するかという大きな課題を担ってきたといわなければならない。そしていよいよ避けて通れない状態となったのが現在といえよう。子どもたちも自分の地域をとびだし、生活環境の異なる子どもと一緒になって学ぶ機会や場が必要であり、同時に、自分の住んでいる地域の文化についても学びを深めなければならない。その手助けをするのがコンピュータというわけである。

 本校のコンピュータ活用の基本的な考え方として、「知的道具(ツール)としての活用……表現力の育成」、「完全習得を支援する活用……学習指導の個別化・個性化」、「遠隔協同学習の実現を目指す活用……学びの場の拡がりを目指す」という3つの視点をもって研究を進めている。その視点に基づいてインターネットをはじめテレビ会議を活用し、さまざまなスタイルで学習が展開されている。自分の住んでいる地域の産業や伝統・文化について調べ、ホームページに掲載したり、電子メールを活用して自分の創った詩や短歌、絵などを他の学校の子どもたちに鑑賞してもらうといったこれらの学習には、同年齢の子どもたちだけでなく、大人も自由に参加してきており、まさに、空間と年齢という世代を超えた学びの場が展開されている。以下、本稿では、インターネットやテレビ会議といった、コンピュータネットワークの活用をどのように捉えているかについて簡単に述べ、具体的な実践例のひとつとして「世界環境調査」への参画を取り上げ、その成果と課題について紹介したい。

2.学びの環境としてのコンピュータネットワーク

 最近、「状況に埋め込まれた学習」(Brown,Collins,& Duguid,1989;Lave & Wenger,1992 など)という言葉をよく耳にする。ここで詳細について論じることは避けるが、その中では「学ぶ」ということを、必然的に、あるコミュニティに参加することであり、コミュニティに参加している人と同じ言葉を使い、同じ様な考え方をし、判断の基準を共有することであると考えられている。そのような意味から、人が学ぶに足ると感じられるコミュニティを創り、そこで有為な活動を続けることが必要であるとしている。確かに、従来のような教室という空間における教育の形態も必要であるが、学習の目的に合わせたコミュニティの形成をいかに図るかということも大きな課題である。

 さらに、従来の一斉指導などにおける情報は、伝達を意図したものであり、伝達する側があらかじめ情報を整理して学習者に与えるということがほとんどで、学習者の再吟味をあまり意図していないものであるのに対し、コンピュータネットワークを活用した学習においては、情報そのものが未整理のまま与えられ、正誤の判断さえついていない生の情報を扱うことが多い。したがって、学校教育の中にコンピュータネットワークを活用した学びの場を設定するということは、伝達を意図し、整理され、再吟味を要しない情報の与え方から、学ぶ者の問題解決能力を養成し、内省を促進する方向に情報を捉え直すことが必要である。

 そのためには、できるだけ身近な情報を学習課題とし、必要なことがすぐに調べられ、正誤の判断はもちろんのこと、学習意欲の喚起につながるようにしなければならない。また、コミュニティに参加している人と同じ言葉を使い、同じ様な考え方をし、判断の基準を共有することができるようにするためにも、同じテーマを設定し、自分自身のものの見方を再検討するための情報が得られるように工夫することが必要である。

 本校では、そのような視点でコンピュータネットワークを活用することにより、学習者にとって日常的な情報を時間的・空間的な制約を超えて、一対一だけの関係ではなく、一対多という情報の発信を経験させることにより、異なった視点での情報を得ることが可能となると捉えている。さらには、自分の考え方を文章化したり、他人の意見を文章で受けることにより、知識を変形、編集、見比べながら内省を行うことができると考えられる。それが、広い範囲でのコミュニティの形成と活動の継続へつながるものと考え、本校の実践は展開されている。

 

3.コンピュータネットワークを活用した本校の実践経緯

 本校は「こねっとプラン」の参加校で、平成8年の10月よりテレビ会議システムを活用した授業実践に取り組んでいる。毎年、全国各地からテレビ会議を活用した遠隔協同学習の申し込みがあり、昨年は、北海道から九州まで10校余の学校と実践が展開された。相手校のほとんどが、都道府県や市町村の研究指定を受けた情報教育研究校であり、それに対し、本校では、一つの学級がひとつの学校の相手をするといった現状で、そこで取り扱われる学習課題についても、相手校の要望を優先させることが多い。

 そのため、最初の頃は、たくさんの質問や意見についても、こちらの学習が深まりのないままに寄せられることが多く、地元沖縄県のことについてでさえ、相手校の方が詳しく、かえって本校の子どもたちが教えられたという例もある。また、質問や意見も電子メールなどであらかじめ伝えておき、テレビ会議当日は、準備されたものを読み上げ、それに答えていくという形態が多く、活発な意見交換の場面や自由なディスカッションという場面を、なかなか作り出せないでいた。時には、テレビ会議による学校紹介などにおいて、郷土の伝統芸能を実演したりといったことも取り入れたが、それ以上の深まりは見られなかった。

 その後、学習の場の設定を工夫したり、画一的になりがちなテレビ会議の方法を改めるなどに取り組む中で、様々な形態の学習が展開されるようになってきた。例えば、平和学習では戦争を体験した方を招き、その話を相手校とともに聞き、質問や意見を交換し合ったり、以前、いじめにあった養護学校の高等部を卒業した方との交流を通して、自分たちのこれまでの生活を振り返ったり、ある学年の行事として、親子が一緒になってテレビ会議を企画したりと、様々な人が実践に加わってくるようになった。

 インターネットの活用においても、他のホームページから情報を収集するだけでなく、地域の伝統や文化について自分たちで調べ、ホームページにいろいろな情報を掲載し、発信するようになってきた。同様に電子メールの活用も多くなり、自由な時間に、自分たちで相手を見つけ、電子メールを交換する場面が見られるようになった。教師の方も、テレビ会議や電子メールといったコンピュータネットワークを活用しながら、相手校の教師と教材研究を深める場面が多く見られるようになった。

 そのような中、昨年の7月から10月まで実践されたのが、「世界環境調査」への参画である。これは、「こねっとプラン」の一環として行われたもので、日本全国で1200校、海外日本人学校で75校、その他現地校など10校が参加して展開されたものである。

4.世界環境調査への参画

 学校教育においても環境教育については、「環境教育指導資料」(文部省)という環境教育の手引き書が作成され、小・中・高等学校に積極的な環境教育の取り組みを呼びかけている。特に小学校段階においては、まず身のまわりの社会や自然の事象などに目を向け、自ら考えるようにすることが大切であり、児童が身近な環境に意欲的にかかわり、問題を見いだし、考え、判断し、よりよい環境づくりや環境の保全に配慮した望ましい行動がとれる態度を育てることを目指す必要があるとしている。

 つまり、「Think Globally Act Locally」といわれるように、環境教育は地域の実態に対応した課題から取り組んでいくことが重要であり、自分自身が環境についての理解と愛情を育て、主体的・積極的に環境に対応していくことと、そのことが究極的には地球規模の問題と深い関係をもっていることを認識させ、地球環境を配慮した問題解決の意欲、態度、行動力を育てていくことが重要である。

 以上のような認識に立って、本校が「世界環境調査」に参加したのは、それまでのコンピュータネットワークを活用した授業実践の在り方を、さらにもう一歩深めたいという願いと、先に掲げた、「できるだけ身近な情報を学習課題とし、必要なことがすぐに調べられ、正誤の判断はもちろんのこと、学習意欲の喚起につながるようにしなければならない。また、コミュニティに参加している人と同じ言葉を使い、同じ様な考え方をし、判断の基準を共有することができるようにするためにも、同じテーマを設定し、自分自身のものの見方を再検討するための情報が得られるように工夫することが必要である」との本校のコンピュータネットワーク活用の研究課題を追究するのに、最適な活動であると考えたからである。

 また、学校教育の場での環境教育の問題点として指摘されている、各教科・科目の中に、ばらばらに断片的に存在している状況が多く見られる環境教育に関する内容の総合化についても検討する必要があると考えたからである。

 子どもたちに「環境問題について知っていること」を質問すると、殆どの子が海洋汚染や熱帯林減少、地球温暖化などをあげ、概要について説明することができる。しかし、右のグラフのように「身近な環境を良くしようと意識していますか」と問いかけると、「いつも意識している」と回答した子はわずか5パーセント程度で、「ときどき意識している」と回答した子がほとんどである。本校では、児童会が中心になって「アルミ缶回収運動」や「クリーン作戦」など様々な取り組みを展開してきた。しかし、アルミ缶回収容器に平気でスチール缶やポリ容器を入れたり、その活動の目的について聞いても答えられないなど、身近な環境に関心を持ち、問題意識を持って活動することができたとは言えない状況にあった。そのような実態の中で「世界環境調査」へ参加していったわけだが、その取り組み段階を下図に示す。

 以下は、実際に学習の中で交換した電子メールの一部で、そのままを掲載する。


 初めまして。 僕は沖縄県の具志川市学校の天願小学校の6年1組です。僕達の学校では、花さかじいさん運動といって、1年に1回全校生徒で、花や木をうえる企画があるので校庭には、花や木がいっぱいあります。ほかに、たなばたの日には、おりひめとひこぼしの劇とかをします。今、僕達の学校は地球環境のために、学校でアルミ缶運動をしています。そして、僕達の6年1組でも、環境のことについて、みんなで調べ学習をしています。下神野小学校では、どんな環境運動を、していますか。教えてください。おねがいします。

 メールありがとうございました。下神野小学校の6年の理科、3,4,5年の社会、1、2年のコンピュータを担当しています。私は、この小学校で4年目ですが、毎年、クリーンキャンペーンといって、ごみを拾いをしています。<2>美里町は「星ふる町、美里町」というキャッチフレーズ、きれいな星が見えます。そこで、星の観察会を開催しました。<3>保健委員会では、廃油を使って石鹸づくりをしました。<4>身の回りにある草木で、草木染めをしました。セイタカアワダチソウから、きれいな色が・・・・今、思い出すのは、このくらいです。

 質問1、きれいな星が見えると書いてありましたが、どのくらいの星座と星が見えますか? 僕達の所では、星はあんまり見えません。質問2、身の回りにある草木で、草木染めをしてセイタカアワダチソウからどんな色が、でたんですか?教えて下さい。さいごに書かれていた海の写真は今先生が探し中です。ちょっと待って下さい。でも、ちょっとだけおしえます。海は、ちょっとにごっているかなと言うところもありますが透きとおるところもあります。

 質問1については、またメールで送ります。(きちんと観察してから)質問2については、セイタカアワダチソウは黄色になります。関連写真を送ります。


 上記の例は、他校の教師と本校の子どもたちとの交流の様子で、この後も継続された。その他にも、同学年の子どもだけでなく他学年の子どもたちからもたくさんのメールや資料、写真などが寄せられ、活発に意見交換が展開されていったが紙面の都合で割愛する。

5.まとめ

 本実践の成果として次のようなことがあげられる。

 まず、コンピュータネットワークを活用することにより、学習者にとって日常的な情報を時間的・空間的な制約を超えて、一対一だけの関係ではなく、一対多という情報の発信を経験させることにより、異なった視点での情報を得ることができた。さらには、十分とは言えないまでも、自分の考え方を文章化したり、他人の意見を文章で受けることにより、知識を変形、編集、見比べながら内省を行うことができたと考える。そして、広い範囲でのコミュニティの形成と活動の継続へとつながっていった。

 また、環境教育に関する内容の総合化という観点から、教科の枠の中に閉じこもらない学習計画が立てられ、コンピュータネットワークを活用したり、地域の活動を見直す実践が展開されたことにより、「総合的な学習の時間」へのひとつの方向性として「故郷学習」を考える機会となった。

 課題として次のようなことがあげられる。

 現在、社会科の学習などで様々なホームページを開いてみるのだが、専門的な用語や児童には難解な表現が多く、また、漢字等の問題もあり、あまり活用されない状況にある。確かに専門機関の情報も大切だが、内容的にはそれほど質が高くなくても、子どもの視点で、子どもの言葉で表現された情報には、子どもたちも強い関心や興味を抱くことが多々ある。そこから交流が始まり、より学習を深めたいとの姿勢が見られるようになる。したがって、専門家専門機関のみに頼るのではなく、各学校がホームページを作成し、地域のことについて身近なことから紹介していくことが必要である。これは、情報を単に受け取る側にとどまるのではなく、積極的に情報を活用し、発信する側へと育成することにもつながる。また、自分の足や目を使って調べるという直接体験にもとづく情報の発信は、自分の住んでいる地域を見直し、地域を愛する心を育てることにもつながると思われる。そのためにも、HTMLのような難しい言語を知らなくても、簡単に楽しみながら子どもでもホームページが作成できるソフト開発が待たれる。

 さらに、電子メール等で交流する相手は不特定多数であり、人格はもちろん、地域性や文化についてもあまり意識されないまま交流が始まることが多い。だからこそ、発信する情報には優しさや暖かみが必要である。

 本稿に掲載した内容は、まだ検討の余地があり、これからさらに充実させていかなければならないものである。その意を込めてさらに研究を深めることを申し添えるとともに、諸先生方のご意見ご指導を切にお願いする。