インターネットの利用と教育の課題

加藤 直樹

1. インターネットと学校

 情報通信ネットワーク技術等の進展による情報化社会の到来がこれまでに指摘されてきたが,近年のインターネット普及は,この情報化社会(コンピュータ利用の側面からは情報ネットワーク社会)を現実のものとして我々に感じさせている。すでにテレビや新聞,雑誌等のメディアに「インターネット」「ホームページ」「コンピュータ・ネットワーク」などの話題が取り上げられない日が無いような状況になっており,社会全体が情報ネットワーク社会に向けて急速に関心を高め,その整備を急いでいるようである。しかも,その変化は急激である。

 インターネットが国内で話題に上るようになったのはずいぶん昔ような感覚にとらわれるが,確か平成六年頃からではなかっただろうか。数年の間に急速に普及し,市民権を得てしまったようである。図は,インターネット上のホストコンピュータ数の推移である。急速に増加している傾向が一目瞭然でわかる。このような変化の傾向は,国内だけに限っても同様であり,最近のインターネット利用環境を整備している学校数の変化も同様となるものと思われる。

 学校教育にインターネットを普及する契機となったのは,国内でのインターネットに対する関心の高まりに期を同じくして開始された「ネットワーク環境提供事業」いわゆる100校プロジェクトであっただろう。また,平成八年からは約千校が参加するこねっとプランが開始された。現在では,このようなプロジェクトに頼らなくとも県や市区町村の自治体毎にインターネット接続環境の整備が始められるようになっており,全国の学校で電話やファックスのようにインターネットが利用できる日は間近に迫っているものと予測できる。

 教師にとっては,このように急速に学校への整備が進み,かつ自身も急激に変化しているインターネットを利用した教育のあり方が問われることになる。それは,インターネットの利用技術を教師が身につけて指導できるようにするという次元での問題ではなく,子どもにとっての学習を見直して,授業に対する教師の姿勢に変革を求めるものであるかもしれない。というのも,インターネットが,教育にとっと重要なコミュニケーションを支援する道具として振る舞うからである。

2. マルチメディアとインターネット

 教育におけるコンピュータの活用は,教師の授業改善の道具としてのCMI,指導の道具としてのCAIに代表されたものから,学習者の道具として主体的な学習を支援するものへと実践のテーマが移り変わってきた。学習者の道具としてのコンピュータ利用も,文字・数値・図形等の処理機能を活用したものから,より具体的な情報として映像・音声が活用できるようになり表現の手段としての活用へと大きく教育実践の傾向が変化してきている。

 文字・図形・映像・音声情報を駆使できるマルチメディアは,小学校低学年の児童にも容易な表現手段を提供する道具となり,身近な自然・社会事象を取材,整理して発表するなど多様な学習活動が展開されるようになってきた。ビデオカメラやディジタルカメラを手にしながら学校や地域を調べて歩く子どもたちの姿が見られるようになってきている。文字や図形だけを処理していたコンピュータを利用していた当時からは想像しがたい学習活動である。そして,収集された情報は,子どもたちの手によって整理・加工され,まとめられていく。まとめられた学習成果は,学級での発表資料となり,学習成果の交流へと活動が展開されるようになってきている。

 コンピュータ技術はもともと人間が進歩させているものであり,ディジタルの情報をいかに人にわかりやすく表現し,処理するかという方向での変化を遂げてきている。一方,学習活動の多くは自然・社会等の具体的な事象を調べ,考察を経て一般化,法則化への過程をたどるものである。この点からもコンピュータでマルチメディアを利用可能となったことは,一連の学習過程で途切れなく情報を処理可能な手段を得たことになる。

 ところで,最近のコンピュータ通信は,新たな手段を学校教育にも提供している。すでに,マルチメディアの意味には通信機能を含むものと解釈されるようになってきているが,ここでは分けて検討する。

 通信は,情報の容易な流通を可能とし,人のコミュニケーションを支援する環境として機能している。インターネットにおける情報流通の代表的な手段は,WWWの利用であり,コミュニケーションを支援する手段としては電子メールやテレビ会議が代表的なものとして活用されている。前者は不特定な人へ,そして後者は特定の相手への情報伝達手段として主に活用されている。そして伝達される情報は,文字だけでなく,図形や静止画像を,そして動画像をも可能にしている。

 このような情報伝達手段を学校が手にすることは,先のマルチメディア教育利用の延長線上にある学習活動を想定しやすくしているといえる。すなわち調査学習の成果を発信する手段を得ることになり,この調査結果をもとにした学校間の交流を容易に支援してくれる手段となる。このことは,逆に学習者らに自分たちの学校や地域を見直して,調査する契機を提供してくれるものでもある。

 通信ネットワークは,遠隔への情報の容易なアクセス手段を提供してくれるが,それにより子どもたちに地域に目を向ける必然性を与えてくれ,マルチメディアの延長線上に位置する手段として有用となることも見逃してはならない。

3. WWWの教育利用

 インターネットの教育利用で最も関心の高いものにWWWの利用がある。WWWを利用した教育活動には,学習関係の資料を検索して入手したり,学校のホームページを作成して教育活動を紹介するものなど様々となっている。このような教育活動での利用は,利用者を「教師」と児童・生徒等の「学習者」に分けられ,情報の処理活動を主に「収集」と「伝達」に分類できる。

 そこで,WWWの教育利用を利用者と目的から図に示す5つの活動に分類して検討する。

1 活動紹介(教師・伝達)

 学校等の組織がホームページを開設するとき,最初に掲載されるのが学校紹介にみられるような紹介情報の作成であろう。学校要覧に掲載されるような情報の発信に教師等が取り組み始める。これらの活動紹介では,主に以下のような内容が掲載される。

  ・学校紹介

  ・教育実践紹介

  ・組織紹介

  ・教員紹介

  ・児童会・生徒会活動紹介

  ・PTA活動紹介

 ホームページの作成練習等の場では,よく自己紹介が作成されるが,学校にとっても,担当する教師にとっても情報発信の契機となるのがこうした紹介情報の作成である。

教材研究(教師・収集)

 教材開発や学習指導の情報を教師が入手するためにWWWを活用するものである。いわば,教材研究の資料をインターネットから入手していることになる。これまでに教育センター等で積極的に進められてきた教育情報データベースの開発と提供の延長線上に位置すものである。さらに,インターネットでは,教育関係者だけでなく,様々な業種の関係者からも情報が提供されており,最新情報の入手も可能であるため充実した教材研究が可能となる。

 教師の教材研究等の情報には以下のようなものがある。

  ・マルチメディア素材

  ・教育実践事例

  ・教育文献

  ・指導資料

  ・教材

  ・統計資料,時事情報等

学習成果(学習者・伝達)

 記録蓄積される主な内容は,学習成果であり,学校間での児童・生徒の作品交流等の契機となるだけでなく,蓄積によって次年度以降の学習資料とすることもある。学習者による情報発信では,発信されている内容にこのような学習成果が多く見られる。

 学習成果の公開と蓄積は,以下のような効果が期待される。

  ・各教科学習における成果を蓄積

  ・次年度以降の自校での学習資料

  ・成果発表による学校間交流の機会

  ・サイバー作品展

  ・評価を受ける機会の拡大

  ・選択教科・課題学習の交流

  ・異校種間の学習交流

資料探索(学習者・収集)

 学習者がインターネット上の学習資料を探索し、調査・探索等の学習に利用するという利用方法に相当するものである。残念ながら現在のインターネットにはこうした学習資料が充分に提供されているわけではないが,各地の教育センターや教育研究所などにインターネット利用環境が整備され,情報発信が可能となることで,各種の学習資料が流通することが期待される。また,教師等が開発した教材などもWWW用に提供されるようになってきており,教材流通の環境としてインターネットを利用できるようになってきている。

  ・マルチメディア図鑑

  ・各地域の産業・文化・生活等

  ・課題学習等の資料

  ・統計資料等の調査

  ・社会教育施設の情報

  ・美術館・博物館・資料館等

共同調査(学習者・伝達と収集)

 インターネットを用いて各地の調査活動の結果を整理・加工して蓄積するとともに,資料として学習活動に生かすことを目的とした利用方法である。主に学習者が調査結果を発信し,整理された結果を収集して学習活動に活用することになる。

 このようなタイプのWWW利用は,今後,各種の調査が可能となるように整備されていくと考えられる。

  ・環境調査

  ・伝統工芸・工業調査

  ・野菜・くだもの調査

  ・酸性雨調査

4. 教育利用の課題

 インターネットで提供される多様な機能の中で,最も多く利用されているのが電子メールとWWWであろう。これらの機能を利用するためのアプリケーションソフトウェアも充実しており,最近では小学生でも利用可能なように,ユーザーインターフェイスに配慮した教育用のインターネット対応ソフトウェアも提供されるようになってきている。

 小学生でもインターネットを利用可能な道具は整備されたことになる。しかし,肝心の内容の整備が追いついていない。インターネットの教育利用における魅力の一つには蓄積された豊富な資料の活用がある。先に述べたWWWの教育利用の分類における「資料収集」である。教師の「教材研究」に利用可能な資料は自治体や教育関連企業,新聞社,大学等から提供されはじめているが,学習者向けの情報,とくに,小・中学生向けに提供される情報は少なく授業での活用も限られている。また,学習者が自由にインターネットを利用できる環境も充分に整備されていないため情報収集を中核にした授業展開は設計しにくいようである。そこで,情報伝達や交流を基盤にした授業の展開が課題となっている。

 この状況は,学校にコンピュータが導入されはじめた頃,ハードウェアは整備されたがソフトウェアが不足していたり,教材開発用のソフトウェアは整備されたが教材の開発は教師の手に委ねられていた頃を思い出させる。

 さらに,教員研修においても新たな課題が生じてきている。現状の学校へのインターネット導入は,急速であると同時に広範囲への一斉導入となる傾向がある。市町村や都道府県の全学校に同時に利用端末が設置されるようになってきている。このような状況は従来の教員研修方法での対応を難しくする。

 このように学校をとりまくインターネットの環境は大きく変化しつつあり新たな課題が生れてきている。

身近な事象を題材に

 インターネットを利用すれば国内外の学校との交流が可能となることは周知のとおりであるが,交流を進めるに伴って行われる活動が身近な地域を調べるという学習であることが多い。遠隔の学校と交流をしていて,足元の地域を調べるというのは不思議な感じもするが,その学校から発信される情報を考えるとき自分たちの地域の生活や自然,社会に関する情報となるのである。

 先に述べたWWWの教育利用分類の「学習成果」も発信された情報をたよりに,学校間の交流活動へと結びつくものであることは容易に想像できる。「共同調査」ではまさに地域を調べる活動を起点にしている。

 情報処理教育研修助成財団が主催する「マイ・タウン・マッフコンクール」で欧州連合賞を受賞した「水道の蛇口調べ(岡山県久米郡柵原西小学校・同郡誕生寺小学校・久米南町立弓削小学校3校合作)」ではミクロネシアの学校と水道の蛇口調べを相互に実施し,比較により水の大切さや河川の浄化に対する考えを深めている。岐阜県大藪小学校では,地域の特色の一つとして「輪中」を子どもたちが調査した結果を公開するとともに,他校からの質問を受け付けている。質問を受けることで大藪小学校の子どもたちは「輪中」についての調査を見直し,認識を深めていくのである。

 さらに,「ネットワーク教育利用促進研究協議会」(会長:坂元昂 文部省メディア教育開発センター所長)では,「こねっと」と協力して「太陽の動きの共同観測」「やさい・くだものデータベース」「いっしょに調べよう」「遠隔共同学習(酸性雨共同観測)」「地域交流学習」「こども自然発見!」等のプロジェクトを進めており身近な事象を題材にして遠隔での共同調査による学習活動を支援している。

 このような調査結果の多くは,データベース等に記録して交流しており,蓄積されることで次年度以降の学習においては資料としての活用が可能となる。すなわち,長期的にはインターネットで提供される学習資料の蓄積にもつながる活動としても期待される。

問われる教師の力量

 インターネットを利用した遠隔での共同調査による学習活動においては,定型的な学習活動が決められているわけでもなく,教科書にインターネットの利用方法が指示されているわけでもない。当然,学習の目標はあるわけで目標達成に向けて,学習活動をどのようにデザインし,活動の様子から目標に導くための学習支援の力量が教師には求められることになる。「水道の蛇口調べ」のような学習活動の発想が教師に求められている。

 また,交流方法だけを取り上げても,図のように多様な手段が用意されており,目的に合わせた手段を選択し,組み合わせて活用することが必要となる。大藪小学校では「輪中」の調査結果は,WWWに公開されており,質問は電子メールで受け付けている。交流を深め促進するためにはテレビ会議を利用することも考えられる。

 このように教師自身がインターネットを利用した学習活動に関して,発想を豊かにして授業をデザインし,学習支援のできることが重要となってきている。

教員の研修

 岐阜県では,平成九年から県内の小・中・高等学校にインターネットを利用できる環境を整備し,活用を開始している。六百以上の学校が短期間にインターネットに接続したのである。このため教員研修が大きな課題となった。毎年百人の教員が研修しても全学校で利用できるようになるためには六年を要することになる。そこで,岐阜県教育センターでは,この課題に対して電子メールを利用した「通信講座」を実施している。通信講座のテキスト開発は,教員ボランティアを募集し,開発テキストを毎日電子メールで全学校に配信するようになっている。

 この方法では,人は移動せず学校に居ながら長期間にわたり継続した研修を可能としている。さらに,学校によっては複数の教員が受信したテキストを印刷して研修しているところもある。

 また,研修テキストは,教育センターの所員だけで開発するのではなく,学校にいる教員ボランティアによって開発されている。開発の打合せには電子メールが用いられていることはいうまでもない。

5. おわりに

 インターネットによりコンピュータは,情報を処理するための道具に加えて情報を流通する道具へと変容させる。その教育利用は,教師に発想の豊かさや学習活動の支援者としての力量を問い始めている。また,教育センターにも従来の研修方法やセンターの役割を問い掛け始めているのかもしれない。情報流通の視点から,目的に応じて活動を組織できる力量が必要とされ始めている。

〔参考文献〕

永野和男(1995)「これからの情報教育」高陵社

後藤忠彦(1995)「グングン伸びる情報活用能力」東京出帆

情報処理振興事業協会・コンピュータ教育開発センター(1997)ネットワーク利用環境提供事業(100校プロジェクト)成果報告書

ター(1997)ネットワーク利用環境提供事業