インターネットを通じて育てる生徒の創造性
〜 コンテンツ作成における生徒の自由な活動の中から 〜
 
沖縄県立八重山養護学校 宮里 修
(前任校 読谷村立読谷中学校) 
 
1.はじめに
 
 読谷中学校は、沖縄本島のちょうど中央に位置する読谷村にあり、生徒数800名を越える中規模校である。ここで紹介する読谷中学校のコンピュータの活用事例は、パソコンクラブという少人数の活動で行われてきたものである。
 1996年11月本校はこねっとプランの支援を受けて、インターネットへの接続を行って以来、様々な取り組みをしてきた。
 その活動の多くは、休憩時間や放課後の活動の中で、取り組まれたものである。生徒の自由な取り組みの中から、どのようなものが生み出されるのかという視点で、生徒の活動を見つめ続けた4年間であった。
 まだ、どの取り組みも完結したものではなく、これからさらに、継続していくものばかりであるが、この機会に、これまでに行われた取り組みを総括し、教育活動においてどのようにインターネットを利用できるのかを考えていきたい。
さらに、これらの活動を継続的に支援するために、今年の4月から遠隔地にいる生徒たちに対してのインターネットを使った指導を行ってきたが、その経過も合わせて報告する。
 
2.様々なコンテンツを作成する意義
 
 インターネットを通じて資料検索をするというのが、インターネットの基本的な利用方法であるが、読谷中学校の生徒たちは、様々なコンテンツを作成するための道具として、インターネットを利用した場面が、数多くがあった。
 コンテンツ作りためには、様々な情報が必要になる。その多くをインターネットを通じて得ることになった。作成されたコンテンツは、インターネットで公開したり、CD-R・MOといった記録媒体へ保存していった。
 インターネットの中から得られる膨大なデータソースの中で、これから教育現場ではどのようなことを子供たちに利用させていくことができるのかが、大きな課題となってくるはずである。
 インターネットの情報網は非常に広大なので、必要な情報にたどり着くまでに時間がかかってしまったり、とかくネットワークの周辺を見物させるような状況に終始してしまいがちである。
 そのような状況から早く脱して、より創造的な活動のツールとして、利用していく方法を確立するのが、これからのインターネット利用の第一歩なのではないだろうか。
「インターネットを創造的活動の情報を得るためのツールとして扱う」この視点をもとに、読谷中学校のパソコンクラブの生徒たちは、電子メールやチャットなどを使って、国内外の技術者と情報交換をしたり、メーリングリストを使って、必要な情報を手に入れるというようなコンピュータの利用のアイディアを、自然に身につけていった。
 コンテンツの作成は一つの到達点である。
 ゴールを設定してやると生徒たちは様々な解決方法を自分たちで見つけることができる。課題解決学習的な要素がここであらわれてくるわけである。できあがった作品を見た生徒たちはそれを公開し、意見をもとめ、さらに、新しい創作活動へと展開していくことができるようになった。
 コンテンツの作成という視点で、インターネットを利用することは、授業にも応用することもできる。
 生徒たちが、授業の中で調べた内容わかったことなどを、コンピュータを使って加工しまとめ、一つのコンテンツとして作成させる。その情報はインターネットで公開することもできるし、印刷して配布することもできるのである。
 
3.生徒の創造的な活動として
 
 コンピュータの活用に関してまず授業の中でどのように使おうかという視点から、コンピュータを研究している先生方が多い中で、本校の視点は少し変わっていた。本校を支援したこねっとプランは、研究を強制しないものであった。そこで、できるだけ自由な環境を生徒に与えてやろうという考えの下で、生徒たちにインターネットを自由に使わせることが出来たし、生徒の自由な発想を尊重することができた。
 何かを作り出すという活動を生徒たちにさせるというのは、ある意味非常に難しいものである。本校でも、生徒たちの活動を創造的な方向に展開させていくために、様々な資料を提示しなければならなかった。
 このようにして、インターネット利用の初期の段階では、創造的方向への意識付けのために、本校では長い時間が割かれた。
 インターネットを導入した直後、生徒の興味は、ゲームソフトに集中してしまったのだ。
ゲームソフトは、一般の書店で販売していたり、インターネット上で配布されるものも多くあるために、2カ月はゲームのダウンロードに多くの時間が費やされていた。
しかし、この作業の中からも、生徒たちは、ソフトウェアのデザインやコンセプトさらに、圧縮・解凍の技術を学んでいたようである。
 これは後に、自らコンテンツの作成に入った時に、とても役に立つことになった。
「コンピュータは何かを作り出すための道具である。」そんな意識が芽生えた頃からコンピュータゲームをする生徒は少なくなった。
 そして、自分たちで様々なソフトを使って創作活動を行っていくことになる。
 グラフィックス処理のソフトや、画像形式の変換、ホームページへの張り付けなどの方法は、自ら学んでいった。
 音声に関しても最初は、インターネットからのWAVEデータの取り込みから、MIDIファイル、そして現在ではMP3という具合に非常に高いレベルの作業を行っている。
 現在では、これらの技術を総合した3Dアニメーションやデータベース、ゲームソフトなど作品を作る段階にまで進んでいる。
 このように、自由な創作活動を始めてから、4年あまりが経過したわけだが、生徒の活動の中から多くのものが生み出されてくるようになった。
 
4.事例紹介
 
(1)生徒たちの活動の中から
 
  @ データベースの作成
 
    A. 校内の植物図鑑
 生徒のデータベース作成の取り組みということで、校内の植物をデジタルカメラで撮影し、その分類などをまとめました。この一連の作業の中から、HTMLによるプログラムをつかってデータベースを作成することがとても良い方法であることを知った。HTMLで作成したデータはコンピュータの機種やソフトを選ばず、インターネットのブラウザであればどこででもみることができるし、インターネットで公開することもできる。
 
    B. 沖縄民謡のデータベース
 midiデータで自由に曲を制作することができるようになった、生徒たちに音楽のデータベースの作成を持ちかけたところ、沖縄の民謡のデータベースを作成してくれた。民謡を一曲ずつmidiデータ化することで、HTMLによるプログラムを作成することができる。そのデータをインターネット上に公開することができるようになる。
データベースの作成の作業は、共同作業として展開されるので、インターネットを通じた情報交換をすることで、生徒の作業をアドバイスすることができた。
 
  A midiデータの利用
 
    A. 音楽データの作成と利用方法
 インターネットでも、MIDIデータを配布しているサイトが数多くあるが、そのデータを利用して、様々な取り組みがおこなわれた。MIDI形式のデータは、フロッピーディスク1枚に20曲程度保存することができる。生徒は、インターネットでMIDIデータをダウンロードして、聞いたりしていたが、MIDIでオリジナルの曲を作成するようになった。音符を一つずつ書き込むことで、音楽的な知識の全くない生徒でも、曲を作ることができた。また、MIDIデータはシンセサイザーのシーケンサーとデータのやりとりをすることができる。校内で、休憩時間を使って、簡単な演奏会を数度実施したりした。
また、作曲を続けていた生徒たちの中から、数名が音楽ソフトウェアコンテストに応募し、上位に入賞することができた。    
 
  B 3Dアニメーションの作成
 
    A.  総合的な情報活用能力
 総合的なコンピュータの活用能力を要求されるアニメーションなどの作成には、モデリングやレンダリングなどの処理やポリゴンやテクスチャーマッピングなどの基礎的な知識が必要になる。これらの技術に関して専門的な指導者のいない学校現場では、指導が難しそうだが、それを解決したのはインターネットであった。
 コンピュータの活用についての知識はインターネットからという発想のもとでメーリングリストやチャットの活用が行われた。学外・県外の3Dアニメーションの専門家に直接問い合わせたり、情報の提供を呼びかけたりした。
 創作活動にネットワークは不可欠である。インターネットの情報網を利用する事で学校の中だけでは解決できない問題を、自分で解決していくことができた。
 現在、基礎的な技術を身につけた生徒たちによって様々な作品が試作されている。
 
(2)授業での活用事例
 
  @ 交流の事例
 
   A. 東京都八王子市長房中学校とのメールによる会議
 電子メールをつかって、いじめをテーマにした討論をしようという申し入れがあった。あらかじめ、いじめの事例を両校の生徒にそれぞれ説明し、両校とも2つのグループに分かれ互いに交互にメールを送信して、討論をつづけた。ホームページ上に討論のための情報と資料を掲載して会議が円滑に進むように配慮した。
 
   B. 広島県立上下中学校とのテレビ会議
 広島県の中学校から修学旅行の事前学習に、平和学習をテーマにした交流がしたいという申し入れがあった。
  A 授業での活用事例
 
   A. 資料検索
 なるべく多くの生徒に授業の中で、インターネットにふれてもらおうということで、社会科の公民の授業の中で時間を設定し、インターネットのブラウザの操作の仕方を学習させ自由に検索をしてもらった。ある程度慣れてきた段階で、適当な課題を設定して様々なデータを収集してもらった。生徒の中には、海外のページにまで、検索の範囲を広げる生徒が増えた。
 
   B. ホームページの作成
 インターネットで、様々なページをみた生徒たちに、自分のページを、制作する作業を進めさせた。簡単な自己紹介のページを、つくってもらうことから始めた。Netscape社のNetscape Communicaterはフリーソフトながら、ワープロ感覚でページを作成することができる。多くの生徒がこのソフトを使って自分のページを作成した。
 そしてさらに、テーマに基づいたページを作成してもらった。この活動を通して、多くの生徒が、簡単なページを作成することが、できるようになった。
 
5. ネットワークを使った遠距離間の指導
 
 インターネットを使って行えることの一つに、生徒への指導を遠隔地から行えるということがある。読谷中学校の生徒と私の勤務する八重山養護学校の間には600キロ近い距離がある。
 今回、遠隔地にいる生徒への指導を行う際には、インターネットをとても便利な道具として、使うことができた。
 容量の小さなmidiやHTMLファイルは、電子メールで送受信することができます。また、チャットを使い、リアルタイムで、ソフトウェアの操作方法からメンテナンスの指示を、行うことができました。現在、CU-seeMeで画像を送受信して、生徒への指導の効率化をはかるためのテストしている段階である。
 コンピュータの技術は、学校につくのではなく人につくものである。学校でのコンピュータ利用では、生徒の卒業や教員の異動で、扱える人材を失ってしまうのが現状である。それを防ぐために、この遠隔地への指導が、重要になってくるのである。卒業した生徒たちが、ネットワークを使って、地域の人材としてボランティア参加してくれるようになり、継続的に支援していく体制が整いつつある。
                  
6.まとめ
 
 読谷村立読谷中学校の事例では、村教育委員会の配慮やたくさんの外部ボランティアの支援が、その活動を支えてきた。
 コンピュータに関して、特別な研究指定等を受けていない学校の中で、生徒たちの自由な発想を大切にし、その活動を保証してやろうという視点が、根底には絶えずあった。
 そして、コンテンツ作成という生徒の自由な創作活動の中から、様々なコンピュータの利用方法を見いだすことができた。
 これは授業の中でコンピュータを使うための方法を、生徒の視点から見つけだしてくれることになった。
 遠隔地からの生徒の指導にインターネットを使った方法が有効であることも、本校の実践の中から再確認することができた。
 課題として浮かび上がってきたのは、以下のようなものである。
 教員・生徒の中でコンピュータやインターネットについての理解が生まれないと、コンピュータをうまく活用することができないようである。
 生徒の自由な活動を保証するためにも、校内での予算面や運営面での大きな配慮が、必要になる。
 そして、指導する教員に要求されるのは、生徒が収集してくる情報についても、十分に把握できる程度の知識と、有害情報や著作権法上の問題を、うまく処理できる能力ということになる。また、遠隔地からの指導する場合、チャットやメールだけでは、生徒の細かい活動を把握することができないという弱点がある。
 各学校間での協力体制や外部のボランティアを、早急に整え、生徒がいつでも、必要な情報が得られるようにする必要がある。
 このようにして、築き上げられた活動の中から、生徒の自由な活動を阻害せずに、インターネットをよりよく利用するためのガイドラインが明確化されてくるものと考えている。