東海スクールネット研究会の紹介
――東海で何が起きているのか――

東海スクールネット研究会 古井 雅子
(愛知県立中村高等学校教諭)
mfurui@tcp-ip.or.jp/ mfurui@schoolnet.or.jp

1 はじめに

  東海スクールネット研究会はインターネットの学校教育での利用についての研究を目的とする民間教育団体です。地域を越えたコミュニケーションを可能にするインターネットの特性を利用して、東海地方を中心とし、さらに日本の北から南まで、また外国の会員も含め、地域、年齢、学校種別などの壁を超えた活動を展開してきました。

2 研究会誕生

 東海スクールネット研究会は 1994年12月に発足しました。インターネットの商用プロバイダーが誕生して間もないこの頃、東海インターネットワーク協議会の協力を得て、南山大学経営学部情報管理学科後藤邦夫教授が代表となり、発足の会が行われました。当時100校プロジェクトのアナウンスや募集がされていましたが、東海地域でインターネットを学校教育に取り入れようという元気な人達が集い、ネットワークの専門家である大学の先生も、後発の小中高をサポートしようと参加され、この研究会が始まりました。
 この会には、ネットワーク面から見るとインターネットの健全な発達を、教育面では教育をよりよいものへ、という純粋な精神が根底にあるように感じられます。

3 活動内容

 日常的なメイリングリストでの情報交換と、隔月のオフラインの研究会を実施してきました。メイリングリストでは、インターネットの利用についての技術的な質問、授業や学校での利用の報告、例会の案内や催し物の紹介、ビデオ会議などのツールの利用方法の交流などがよく出されています。
 隔月の例会は、20回を越え、講師を招いた学習会や、会員の実践報告、夏休みには合宿による研修会なども実施してきました。また、各学校のサーバー構築や接続を、会員の中で相互に協力したり、レスキュー隊として出かけて行って作業をしたり、夜を徹してのFreeBSD のインストール講習会、国際規格に則ったLANケーブルの講習会などを随時、例会以外に行ったりしています。1997年に、会員の中で接続先が単独では確保できない学校6校の会員が共同で、プロバイダーにサーバーを設置させてもらい、各学校のISDN による広域のLAN型接続を実現し、schoolnet.or.jp という独自ドメイン名を取得し、1年間実験的運用を行いました。またその後、そのサーバーを研究会のサーバーとして、メイリングリストの運用、プロジェクトに参加する生徒のアドレス発行、プロジェクトのホームページのサーバーとして利用しています。
3.1 生徒の活動:
 会員の教員が学校の生徒を指導して、インターネット利用に関して高校生を中心とした、次のような企画及びプロジェクトを行ってきました。
1996年 参加校の生徒間の電子メールを利用した「生徒会交流」及び
    「ネパールプロジェクト」
1997年 高校生インターネット交流プロジェクト
1998年 自律型広域学習環境

○1996年「生徒会交流」「ネパールプロジェクト」: 生徒会交流は東海地域9校の参加により、1学期に生徒会活動の交流のための生徒用メイリングリストをスタートさせ、オフラインのミーティングでの電子メールの使い方講習やビデオ会議の体験などを行いました。メイリングリストは生徒が司会進行を行い、生徒主体で運営したので、生徒が電子メールでどのくらいコミュニケーションが円滑にできるか、検証する機会となりました。この生徒のコミュニティが、秋に東海スクールネット研究会が他の地域との協同で招待したネパールのホーリーガーデンハイスクール一行の歓迎シンポジウムと懇親会の企画運営を行いました。この結果は「ここまでやるか!国際交流--インターネットが世界をつなぐ 先生たちの手作りネットワーク」日本・ネパール国際交流実行委員会編(教育家庭新聞社刊)に記されています。
○1997年「アジア高校生インターネット交流プロジェクト」:前年の生徒会交流に於ける、各学校での生徒の電子メール利用環境を整えることが、交流を進めるには必須という反省が、schoolnet.or.jpという独自ドメイン取得、サーバー管理、LAN型接続の実現によって、生徒がインターネットを直接活用できる環境を整えることにつながりました。そのうえで、「高校生インターネット交流プロジェクト」を実施しました。この企画は、前年のネパールの一行との交流を発展させたもので、7月にネパール、韓国の高校生と、日本留学中のタイの学生とを招待し、名古屋、広島、京田辺市の各地で交流を行いました。
事前に 日本の生徒同士の準備用メイリングリストを作り、名古屋でのシンポジウムの準備を行い、並行して招待する海外の高校生との英語のメイリングリストで、シンポジウムやホームステイの準備を行いました。生徒はシンポジウムのテーマに環境問題を取り上げ、自国の状況を発表し、意見の交換を英語で行いました。韓国からの帰国生が韓国語の通訳にあたったり、生徒がおみやげのオリジナルバッジを作成したり、電子メールと事前の準備会を通じて、生徒は、他の学校との協同作業で、シンポジウムと懇親会を実現しました。なお、この企画はCEC(Center for EducationalComputing) の後援をいただきました。

○1998年「自律型広域学習環境」:前年までの経験をもとに、インターネットを利用した自律型広域学習環境創造の企画をスタートさせています。これは、東海地域、北海道、沖縄などの各地の学校が参加し、テーマ別に生徒が学校を超えて交流、協同活動、学習ができる環境を創造し、さらにその各地域での内容を交流して行こうとするものであり、分散統合型、生徒主体の活動です。現在、各地で生徒の活動がスタートしていますが、東海地域では生徒全体のメイリングリスト、生徒会交流、留学生との交流、コンピューターやネットワークの技術的な面をテーマにしたメイリングリスト、さらにホームページを利用した新聞作りのためのメイリングリストがスタートしています。11月21日〜23日には、各地の高校生が集まって今後の企画の検討をする高校生の集いを実施する予定で、各地域の核となる生徒による集いの準備用メイリングリストが開始されています。

3.2 その他の活動

○「先生と生徒のための合宿」
                                    第22回東海スクールネット研究会特別例会として、1998年8月25日−27日に先生と生徒のための合宿を京田辺市野外活動センターで実施しました。これには80名の高校生と大人が参加し、インターネットの基礎から最先端及び次世代のインターネットを考える内容まで含めた合宿を実施しました。
 各地から集まった6校の生徒は電子メールの基礎、ネットワークエチケット、ホームページ作成講座、JAVA 基礎講座、ケーブル作成講、効果的な文章の書き方などの講義と実習を受け、インターネットの基本から学びました。生徒のバンガローまで臨時に光ファイバーのケーブルをのばし、ギガスイッチを借用して実験的なネットワークを構成し、夜も好きなだけネットワークを利用できる環境を用意しました。そのネットワークを利用して、電子メールの講座の課題は合宿用メイリングリストに回答を返信するようにし、グループと各人のホームページを作成しました。

また、大人の講座はNTサーバー,UNIX(SUN, Solaris)サーバーの起ち上げ、IPV6等の最新技術の講座等があり、生徒で上級者の中にはそちらに参加した生徒もいました。

 また、自律型広域学習環境の活動の一つ、留学生とのメイリングリストに参加している留学生の中でバングラデシュ、台湾、タイ出身の3名がこの合宿に参加し、交流会をおこない、各国の事情や言語、スポーツ、ビザ取得の苦労などについて話を聞いたり、一緒にインターネットに関する講座を受講したりしました。


(写真:交流会で高校生に話すバングラデシュのウディンさん)
○「 Schoolnet Conference '98 in Nagoya」1998年7月4日には 台湾、ハワイ、ドイツからゲストを招いて行う Schoolnet Conference '98 in Nagoya という国際会議を実施し、世界各地での動向を知るとともに、今後の教育でのインターネット利用についての意見の交換を行いました。
各プロジェクト、企画とも「走りながら考える」と言われる行動力と、電子メールと、オフラインの研究会や世話人会の会議との2本建ての企画運営によって実現していると言えます。再現不可能な企画だとも言われながら、年を重ねるとともに、進展を見せています。この研究会の活動には、何とか学校でのインターネットの利用を推進しようという熱意ある現場の教員と、それを技術面、マンパワーの面でサポートする大学の研究者やネットワークの学校での健全な発展を支援する人々の存在が、推進力となっています。

4 東海スクールネット研究会 活動報告

 東海スクールネット研究会の活動内容は 「東海スクールネット研究会活動報告集Vol.1」(1996年7月発行)「東海スクールネット研究会活動報告集Vol.2」(1997年4月発行)に記されています。これらは、会のホームページ http://www.schoolnet.or.jp/ からオンラインでも参照できます。オフラインの研究会では懇親会(飲み会)が終了後にセットされ、恒例の全員の自己紹介なども行い、本音で話せる雰囲気を作っています。こちらが本当の原動力かもしれません。
 会の運営の工夫: schoolnet-ML ととともに世話人(今年度18名)のメイリングリストschoolnet-wg-ML の二つを平行して運営し、原案作成やスタッフ側の打ち合わせ、問い合わせ窓口として利用しています。また名古屋近辺の人が主に世話人になっているので、不定期で、顔を合わせて行う世話人会も行い、込み入った話や電子メールだけでは意思疎通が難しい議論などの場としています。
 例会の行い方: 原則として会場校を募り、持ち回りで、隔月に例会を行います。懇親会の準備や参加申し込みは会場校の人が主として行っています。講師の依頼や当日の運営は会場校の人と、ワーキンググループで共同で行っています。

5 まとめ

 東海スクールネット研究会はインターネットの初等中等教育での利用の進展とともに推移し、技術的な面の力量のアップ、教育実践の交流、国際交流の機会の提供などを行ってきました。日常的にメイリングリストで情報交換ができるインターネット自体が会の運営の基本であるとともに、顔を合わせて行う例会を定期的に行ってきたことが、会員相互の縁を深めたとともに、例会以外にも後発の学校のサポートや悩みの相談、サーバー構築の支援などメイリングリスト以外にも地道な活動も行ってきました。また98年は積極的に仲間を増やそうと、会の説明パンフレットを印刷作成したり、例会案内を郵送して会員以外、電子メールを利用していない人へも届ける努力をしています。
 各学校でインターネット導入に尽力をしてきた人の中には、最初に校内でインターネット導入の声を上げ、中には孤軍奮闘して同僚の理解者を増やし、中にはサーバーの管理者となり、学校のホームページのメンテナンスなど一手に引き受け自分や家族の時間も削って、導入に尽力してきた人も多くみられます。東海スクールネット研究会にはそのような人たちが本音で悩みや苦労を語り合う仲間がいたと言えるでしょう。また、自分が教えてもらったことを、また何かの形で次の人たちへ還元しようという姿勢が見られます。
 今後は新しくインターネットを利用したり、学校でネットワークを管理していく人たちを巻き込んで教員の力量向上、よりよいネットワークの構築の学習、共同の実践、海外との交流のコンタクト先との窓口となるといった点のニーズも高まっています。

補足: 入会の方法
 http://www.schoolnet.or.jp/ から参加についての案内を参照できます。1998年度より、正会員(活動に参加、報告集Vol.3 の配布、会費2000円)準会員(メイリングリストのみの参加 会費なし)協賛会員(会の趣旨に賛同、協力していただける企業等個人会員以外)の募集を行っています。現在会員合わせて130名ほどの参加があります。インターネットの教育利用に関心がおありの方は、どなたでもご参加いただけますので、参加をお待ちしています。
東海スクールネット研究会問い合わせ電子メールアドレス:schoolnet-wg@schoolnet.or.jp
連絡先:江南市大字東野字神上47-1 滝高等学校内 栗本直人(東海スクールネット研究会世話人)
      0587-56-2127