病弱養護学校でのインターネットの活用
-病院内から社会参加・自立への取り組み-

沖縄県立森川養護学校
幸地英之

1.はじめに
 森川養護学校は、沖縄県で唯一の病弱児童・生徒を対象とした養護学校で国立沖縄病院に併設された本校と沖縄本島内の9つの病院への訪問学級を設置している。本校に在籍している生徒は筋ジストロフィーなどの病気のため長期の療養が必要な生徒がほとんどである。そのため指導していく内容には、病院という限られた空間での生活であることや、移動手段に障害をもっているために外部との自由な交流がもちにくいことで起こるハンディキャップや、筋力が次第に衰えていくことへの不安など、改善を図っていかなくてはならない課題がある。
 今回、これらを改善してく方法の一つとしてインターネットの利用を考え、残された身体機能でパソコンを十分に操作できるように工夫することや、障害を感じることなく健常者と交流ができるように取り組んできたことを報告する。
2.インターネットへ接続
 本校でインターネットの取り組みを始めるきっかけとなったのは100校プロジェクトが全国的な規模で行われるという情報を知ることができたことである。実際にはこのプロジェクトへ参加することはできなかったが、平成7年10月には沖縄でも一般の人がインターネットへ試験的に参加できるようになり、本校でもいち早く沖縄地域ネットワーク(ISP)へ接続を依頼し試験的な接続が可能となった。
 さらに、学校内で実際に生徒たちが使える時間が限られていることから、病院内の入院患者のパソコンクラブへインターネットへの接続を紹介し、ISPへも学校と同じ扱いで当分の間使用料を免除してもらえるようできたことで、より生活へ密着したかたちでの活用ができるようになった。
 平成8年2月にホームページの素案を保護者に向けて公開し、これまでなかなか外部に紹介のできなかった作文やグラフィック作品、オリジナル曲などこれまで別々に取り組んでいたものを成果として一つにレイアウトして自分の取り組みをみてもらうことが出きるようになった。4月にはある程度の保護者の理解を得て美里高校に続き県内で2番目にインターネットへホームページを公開することができた。そのころは、個人情報の公開について学校内で統一されたものがなかったために担当の教師によっては生徒のプロフールなども公開してしまうこともあった。この時は幸いにも不利益を受けることは無かったが大きな反省点となり、インターネット利用ガイドラインの作成と個人情報を公開する場合の保護者及び本人の許諾を得ることになった。
 ここまでの取り組みについて、外部からは学校独自の取り組みとしてしか認知されておらず平成9年度からはインターネット接続料金の支払い等の予算確保が難航し継続が厳しい状況に陥った。その後、「文部省指定インターネット利用推進校」のへ参加させてもらえることになり、この時点ではじめて十分な通信費を確保した接続ができることになった。
 その他にも、琉球大学総合情報処理センターの援助により琉球大学付属病院訪問学級がインターネットを利用できるようになり、中頭病院も今年度新たに訪問学級での利用が可能となった。
3.生徒が使える環境
 身体的に障害が重度の場合でも、身体の一部が自分の意志で動かせれば補助入力装置やソフトウエアの工夫でパソコンの操作が可能となり、よりはっきりと意志を伝えることが可能になる。
(1)筋ジストロフィー症候群の場合
筋力の衰えのために腕の稼働範囲が狭くなり一般的なキーボードでは入力が困難になることや、座ったままの姿勢を保持することが厳しくなることから、マウスやトラックボール等の入力装置とパソコンの画面に表示されるオンスクリーンキーボードを使うことで、ベットに横になった状態でも十分に操作ができるようになった。(写真1)windows95が出てきたことに伴って機能を改善された日本語入力プログラム(IME)により安価に実現できるようになったことも幸いしている。


(2)頸椎損傷の場合
頸椎の損傷により首から下部の自由が利かない生徒には、ベッドに仰向けに寝た状態で頭上にノート型パソコンを設置し口に咥えた棒を使ってキーボード操作を行えるようにした。さらに、Windows95にはGUIの操作をマウス使わずキーボードだけでも操作ができるマウスキーが標準で入っており、これを使うことで障害を持つ生徒自身で十分パソコンの操作が可能となった。(写真2)
4.情報の受発信と外部との交流
 高等部の情報処理や、中学部の養護訓練の授業のなかではホームページの作成や情報の検索を体験させ、生徒それぞれが、一人でも使えるように取り組んできた。また、平成8・9年度には文部省指定の「病弱教育の理解啓発」というテーマで指定研究を行うこととなりパンフレットなどの作成と並行して「森川だより」をホームページで紹介し、毎月約200カウント程度の閲覧があり定期的に見ていただいているという実感をもつことができた。
 生徒たちは、体力的に長時間のパソコンの使用が難しいため、インターネットで行われるイベントへの参加については無理をさせてしまうのではないかという理由でまだ実施していないが、ホームページを見ていただいた方からメールボランティアになってもらい、週に1〜2回程度e-mailのやり取りをを続けている。
 また、インターネットで学校の紹介を始めたことで障害を持つ生徒を将来的に受け入れたいとする企業からの問い合わせがあり、実際にe-mailでのやり取りをした後に会社訪問が実現した。このことで、病気のために病院を離れることはできなくてもインターネットを使った在宅就労の道が開けてきたことを感じとり、、高等部3年に在学している2名の生徒は本校で初めて「就職」に対する意欲をはっきりと示すことができるようになった。
 その後の取り組み方には予想以上の進歩があり、高等部3年の生徒と卒業生のそれぞれが学校外の活動としても自分のページを公開できるようになった。当面は、公開する内容や技術的な支援を行うが最終的には生徒自身が判断して取り組めるようにしていく予定である。
情報の受信に関しては、身体的な機能の低下により本や雑誌などのページをめくることが一人ではできなくなってくるため、テレビなどの一方的な情報を受けることになりがちで、自ら情報を選んで入手することが困難であった。このような状況から、インターネットを使えるようにすることで、自分の残された身体機能で、好きなように情報にアクセスし入手することが可能になり、誰にも気兼ねなく行動できるという楽しみを持つことができるようになった。
 具体的には、病気の進行により心肺機能が低下し気管切開等の手術を受けた卒業生は、自らの音声で会話をすることが困難になったがe-mailを使い同じ年代の大学生と交流を持つことができた。また、別の卒業生は在学中に行った課題授業の中でオリジナル音楽CDを作成したことを、インターネット上の掲示板に書き込んだところ、多くの支援を頂き300枚の制作を行えるようになった。彼らは、自らの意思でインターネット(ひとつの社会)へ参加し支援を得られたことで、自信をもって行動できるようになったことが表情の変化からも感じられるようになった。
5.まとめ
このように本校でインターネットを活用できるようになるまでには多くの方の支援を頂きながら実現できたことに感謝している。
これまでの取り組みで、障害を持つ生徒たちにとってインターネットは手足の替わりとなり社会参加・自立の手段として使えることが見えてきた。しかし、病気が進行したり身体の機能が低下してから独学でパソコンの操作を習得することは困難であり、ハンディキャップを克服していくことは更に難しくなる。このことから、情報通信の有効性を在学中に経験させていくことは本校だけでなく本県特殊教育諸学校で、これから取り組まなくてはならない新たな課題である。本校は、来年度以降も引き続きインターネット接続の通信費が確保ができるか微妙な問題であるが、生徒たちのよりよい生活を確保していくためにも活動を続けていきたいと考えている。